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二刀を巡る黙示録  作者: はむはむ
第二章 リュミエール編
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リュミエール編 第九話 勝手

≪カルマ視点≫

「今です」


 グレイがそう答えた時、僕はアスペンの全身から殺気が迸るのを確認した。横を見ると、リョウが廊下へと飛び出したのが確認できた。僕はリョウの邪魔をしないよう部屋に残り、アスペンと対峙した。


「ハァーッハァ☆ イイネイイネ、最高だよっ☆ 一瞬で状況を判断し、邪魔にならないようリョウを外に出した……うんうん、君にはかなりの力量があるネ」

 

 彼は笑って抜刀し、僕に斬りかかった。それに伴って僕自身も抜刀し、間一髪の所で彼の攻撃を防ぐ。全身がじんと痺れる感覚がしたかと思えば、アスペンは立て続けに斬撃を繰り出した。それも防いだと思えば、また次の攻撃が来る。足技やフェイントなどを織り交ぜてくるため、全てを防ぐのは至難の業だった。


 (カロ)うじて致命傷は負っていないが、それも時間の問題だろう。


「でも……ッ」


 彼は声を上げた。


「この僕とは、天と地ほどの差があるけどね☆ ハァーッハァッ!」


 直後、彼が放った強力な斬撃によって僕の刀が遠くに飛ばされた。アスペンの挙動を観察しながら、僕は刀を拾うために椅子を蹴飛ばしながら駆け出す。彼はその背中を狙うような真似はせず、僕の事を『待った』。僕が刀を拾ったのを確認してもなお、彼は攻撃してこなかった。僕が不思議に思って彼を見つめていると、彼は首をゴキゴキ鳴らして手招きをした。


 かかってこい。


 そう、言いたいのだろう。これは模試(テスト)。攻防の実力の両方を見なければ、意味を為さないのだ。僕は遠慮せず刀を握って体勢を立て直した。彼へと突進する。


「はぁぁぁぁぁぁっ!」


 僕は叫び、刀を振り下ろした。彼は机を蹴飛ばして右に移動、見事に攻撃を回避する。僕は彼を追って、たて続けに切りつけた。彼は「ハァーッハァ☆」とウインクしながら、余裕の表情で僕の攻撃を回避した。


「……どうしたんだい? 随分と疲弊しちゃってるようじゃないカ☆ まだまだ……」


 彼は恐らく「まだまだ実力が足りていない」と言おうとしたのだろう。それは僕にも分った。だが、はいはいと認めるわけにはいかない。僕は叫んだ。


「ええ、まだまだ行きますよ!」


 僕は刀を振った。アスペンが笑って攻撃を躱しているのが見える。


「ハァーッハァ、中々いいじゃないカ☆」

「貴方に言われるまでもありません!」


 僕はまるで、自分の勝利を確信しているかのような口調で言った。無論、絶対に勝てる自信などどこにもない。だがこういう時、「負けるかも……」という弱みを見せる事こそが最も危険なのだ。


——ネガティブな発言ばかりしていると、本当に嫌な事が起こっちまうぞ——


 在りし日の父が、そう言っていた。僕は父がそう言って以来、絶対にネガティブな発言はしないと心に決めている。例え心の中でそう思ってしまっても、絶対に外には出さないと。


 手が痛い。頭が痛い。腕も、足も痛い。だが、攻撃を辞めるわけにはいかない。このまま終わるなど

絶対に———


「……うんうん、その精神!」

「負けませんから!」


 刀を振った。僕は最早、何も考えていなかった。フェイントだとか、戦法だとか。全部全部かなぐり捨てて、刀を振った。


 彼に勝利するには、それしかなかったのだ。もしもこのまま勝てたら……という、淡い理想を抱いて刀を振る。その刀身がアスペンに当たることは無く、「ヒュンッ」と空間を()ぐだけだった。


「ハァーッハァ☆ でも、それだけじゃ僕には——」


 現実は、特に無情に牙を剥く。


「到底、敵わない」


 そういうと彼は笑みを消して、刀を逆手に持った。その柄頭(ツカガシラ)で、僕の意識を奪おうというのか。僕はまだ、戦えるというのに——


 その時だった。


「……‼」


 僕の体が、白い光で包まれたのは。アスペンも僕も、呆然と口を開けてその光を見つめている。アスペンの瞳に映っているのは、驚愕の色に他ならなかった。


 そして僕は、あることに気が付いた。光に包まれてからというもの、僕の体力が回復しているのだ。息が切れていたはずなのに、今となってはもう何も苦しくない。


 僕は、笑うのを辞めたアスペンに代わって笑った。誰だか知らないが、僕に回復魔法(ヒール)をかけてくれた人物がいる。それも、かなり強力な魔力を行使して、だ。僕は万が一にでもアスペンを殺さぬよう刀を左右逆に持ち、(ミネ)で彼を倒そうとした。僕と彼の距離は、一瞬で縮まる。だが……


「キィィン」


 すんでの所で、意味不明の事態に呆けていた彼が僕の行動に気付いてしまった。素早く僕の攻撃を防いで見せる。大丈夫、体力は回復してるんだ。倒しきれるはず……


「……え!?」


 気づくと僕は、仰向けに倒されていた。何が起きたのか、僕の頭の理解が追い付いていない。倒れ込んだ僕のすぐ横で、アスペンが顎に手を当てて考え込んでいた。それを見た瞬間、僕の腹部がきりきり傷んだ。それで、僕は理解する。


 この人は、一瞬のうちに僕の腹に柄頭(ツカガシラ)を押し付けて意識を奪おうとしたのだと。かろうじて今は意識をとりとめているが、それも時間の問題。


 元々この人と僕の間には、圧倒的な実力者があったのだ。『互角に戦えている』などというのは、彼が加減をしていたが故。その気になれば、僕の意識を奪うなど赤子の手を捻るも同然なのだと………


 段々と、僕の意識が闇に吸い込まれていた。ああ、負けたのか。


 僕はまた、負けたのか。



≪三人称≫

「ハァーッハァ☆ どういうことか、説明してもらおうカ☆」


 倒れ込んで意識を失ったカルマのすぐ近くで、アスペンが大声を上げた。声は空虚に響いて、やがては消える。彼は再び声を上げた。


「いるんだろう? 隠れても無駄サ☆ 出てくるがいい!」

「はいはい……俺をお呼びかね」


 そう言って『彼』は、アスペンの前に姿を現した。アスペンは彼に向かって口を開く。口調は普段のそれだったが、顔が笑っていなかった。


「ハァーッハァ☆ 本当に、意味が分からないネ☆ どうしてキミが、僕たちの邪魔をする? カルマ君を助ける理由なんて、無いだろう?」


 すると『彼』はおもむろに口を開いた。


「……さぁ、なんでだろうな。勝手に、手が動いてしまったんだ」


 彼はヘラヘラとした態度で抜かした。アスペンは溜息をついて言った。


「全く、君って人は。もっと()()()()()()()()()()()()()の自覚を持ってほしいよ」

「……悪かった」

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