某国編 第十七話 再会
《グレイ視点》
私は見えないと理解した上で、瞼を開いた。
そこには、ペストマスクを被った彼がいるだけだ。
「アスペン」
彼は、自分の声を呼ばれたというのに一切反応を見せなかった。かわりにその刀を振りまわし私に傷を負わそうとする。
私はその攻撃に合わせ槍で突くが彼は私の攻撃を理解しているため、易々と防がれた。エルセアルが呆然と目を見開いた。
「アスペンって……君の同僚じゃないか」
「そうですが、何か?」
「……いや、なんでもない」
彼は私の表情に何を見たのか、黙ってしまった。何かいいたいことがあるのは呼吸音でわかっていた。
エルセアルの大剣が、鈍く緑色に光る。かと思えば彼の周りに大量の尖った植物の葉が茂っていた。その植物の名前を私は知っていた。
「……イラクサですか」
「よく知ってるね」
アスペンが昔話していたから、よく知っていた。
彼曰く、「触るとトンデモない痛みを伴う、でも美しい草さ☆ 間違っても触らないでくれよ」とのことである。痛覚を失った私からしたら完全に無害なのだが。
それ以外にこんなことも言っていた。
「花言葉は『悪意』」
皮肉な話だと思った。
エルセアルが頷くと、イラクサの葉が【NO.5】とアスペンに向かって行った。本来雑草と同じような貧弱な植生の草だが、エルセアルが操ると縄に化ける。
葉が絡まって出来上がった縄が、敵二人の腕に巻きついた。
でも、まるで二人が痛みを感じている様子はない。
目の前の二人は『某国兵士』なのだから、当然だ。
彼はイラクサまみれの手で刀を振った。
「百爛」
その軌道上に熱源が発生した。美しい、しかし私の心には響かない花火である。色がわからない花火なんてただの炎だと、以前アスペンに言ったことがあった。
花火は私とエルセアルに向かって突撃してくる。私は呟いた。
「……繚佳」
姿勢を低くして高速移動の態勢に入り、向かってくる花火を槍で突いた。
熱源は一つ残らず弾き飛ばされ、床に当たっては消える。自動追尾式だったはずなのだが、この花火は。
私は首を鳴らして、深いため息をついた。
***
《エルセアル視点》
……アスペンと君が同僚なら、なんで君は、その同僚と戦っているんだい?
そう尋ねたかったが、どうしてもできなかった。
私は高速で移動しぼやけるグレイの、後ろ姿を見ている。アスペンが死亡していないということは、前もって聞いていた。
グレイの精神状況を保つために、シンが意図的に伝えなかったという。その際、ドロシーの力も借りて幻覚まがいのものを見せたとも。そして、この某国襲来強行の際、アスペンと戦闘に陥るかもしれないとも。
でも、よりによってグレイ君が戦う必要なんてないじゃないか。
グレイ君とアスペンの戦闘を横目に、【NO.5】がこちらへ寄ってきた。奴の大剣には奴自身の血が付いている。私も私自身の大剣を構えた。奴の腕にはイラクサがついているが、全く痛そうには見えない。
むしろその痛みを恍惚としているようにさえ見えた。
そう言えば、建物内にいる敵たちの把握は、グレイが行ったんだっけ。
私は気付いて、首を振った。
大剣に猛毒の樹液を塗ると同時に、【NO.5】が動いた。
「……っ」
男と私の剣がぶつかり合い火花が散る。
手の骨が折れそうな衝撃で私は怯む。奴は顔色一つ変えずに次、次、次の一撃を繰り出した。私は二発分をうけとめ、三発目は背後に下がって躱した。躱したのちに攻勢に転じ剣を振りかざす。
猛毒を持った剣は、奴の頭蓋をかち割った。脳みそが赤色の液体とともに漏れ一際強い異臭を発する。
でも、これだけではグレイ君と同じだ。私の能力の真価は、傷を作り出した後にある。
「……」
彼はさっきまでの動きが嘘のように動かなくなった。
あたりだ、と私は笑う。
傷は回復できても、毒の回復には慣れていないらしい。しばらく彼が動くことはできないだろう。イラクサの葉とバオバブで作った縄を彼の全身に絡みつけた。どうせ毒が消え次第すぐに切られるだろう。
私はグレイ君とアスペンが殺し合いをしている横、【NO.5】の前で指を鳴らした。
「悪いけど、私は君を殺せない。つまり、待つしかない訳なんだ。だから、ちょっと落ち着いて……」
奴は最後まで言わせてもくれなかった。もう毒の効果が切れたのか縄を引きちぎり抜刀した。舌打ちが漏れる。
毒から解放された奴は素早く私に斬りかかってきた。彼の姿はこの世の者ではない地獄の悪魔のようだった。これまで以上に速い。
「……っ!」
私は後退して躱すが完全には躱せず、大剣は私の服を掠った。負けじと私が剣を振ると、奴もまた引き下がる。奴の攻撃が掠った部分を見ると、服はたったひとかすりでボロボロになっていた。それが【NO. 】の荒々しさを物語っているようである。
「ま、重かったしね、これ……」
私は上の赤い服を脱いだ。すると、中に着ていた黒色の服が露になる。
──でも、貴方には黒色が似合います。
その時、誰かの声が聞こえた気がした。
懐かしい声に私は、微笑みを漏らす。まわりのことに精一杯で、この声を聞くのは久しぶりだった。忙しさというものは、いつも大切なものを見落とさせる。
「そろそろ、私も本気を出させてもらうよ……」
そう言えば、黒色が好きだったあの子はどうなったんだろうか。
一人で忌み事を呟いていた彼は、どこにいったんだっけ?
ねぇ、センサキ?
「【赤薔薇ノ刀・純情】」
私の刀に、熱が宿った。
どうせ、美化し取り繕った人生だ。
とっとと終わりにしよう。
私は刹那、目を瞑った。




