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二刀を巡る黙示録  作者: はむはむ
第六章 ローズ編
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ローズ編 第十二話 兄妹

≪ロザンナ視点≫

「あははははっ! まさか貴方達二人と当たることになるとは思わなかったのね!」

「るせー!」


 目の前の女に対して、オレは苛立ちを覚えていた。このキンキンした声自体イライラするし、ペストマスクの下でニヤニヤ笑っているのがよくわかる。


 コイツ以外の二人はカルマ兄ちゃんとおっさん(確か、グレイと言ったか)が相手してくれているから、取り敢えずオレ達二人は目の前の女に集中して良さそうだった。

 オレはスザンナに言う。


「……援護頼む」

「わかった」


 オレは右手を宙に突き出し抜刀した。ここで注意してほしいのは『抜杖』ではなく、『抜刀』であるという事。

 オレは右手に、燃え盛る炎でできた剣を生成したのである。


 オレは両手に手裏剣を一本ずつ構えている女に向かって、炎の剣を振りかざした。

 女は手に持った手裏剣を投げつつ剣の射程から遠のき、オレは手裏剣をしゃがんで躱して逃げた女に近づく。女はまた、それを滑らかな動きで避ける。


 まるでムーンウォークの様だと、オレは勝手に感心した。オレ自身は踊りが苦手だから、とても憧れる。だがまぁ、今は戦いの時間だ。

 相手に対する関心なんて、戦いじゃ無駄だもんな。何度も母ちゃんから言われた。


「スザンナ!」


 オレが叫び声と共に炎の剣を振り下ろした瞬間、どこからともなく風の吹く音が聞こえた。かと思うと、オレの剣が二倍ほどの大きさに巨大化し、この部屋をより明るく照らし出す。

 炎の剣はその圧倒的射程で女にぶつかり、彼女の右腕に激しい焼き印を付けた。


「な、なんなのね⁈」


 彼女は突然の出来事に焦ったのか周りも見ぬまま背後に跳躍し、壁に音を立ててぶつかった。そのまま恨めしそうな視線を送ってくる。その視線に驚きと恐怖の色が混じっていて、ちょっとおもしろかった。


 ニヤリと笑ってそれを見つめ、オレは炎の剣を納刀した。それから大声で言う。


「ヘッ、どんなもんだ!」


 オレは『炎』の魔法が得意で、妹であるスザンナは『風』の魔法が得意である。ならば、オレが生成した『炎』にスザンナの力で『風』を送ったらどうなるか?

 それは当然、炎は比べ物にならない程に膨れ上がる。

 これは長い間共に過ごした、オレとスザンナのペアだからこそできる事だ。


「なっ、そうだろスザンナ」

「そ、そうだね……」


 ほら、今だって言葉も交わさずに意思が通じた。とはいっても、遠慮がちなスザンナだから適当に首を縦に振っただけかもしれないけれど。


「ぐぬぬ……!」


 オレに対して直接やり合うのは無謀だと判断したのか、彼女はスザンナに向かって手裏剣を投げつけた。しかし、風魔法の使い手であるスザンナに対して飛び道具を使うなど、自殺行為も甚だしい。


 どこからともなく風が吹いたかと思うと、投げられた手裏剣は途中で進行方向を変えて女に向かって逆走した。彼女はそれを顔面直撃ギリギリの所で指の間でキャッチし、顔を青くする。


「……やっぱり、噂には聞いていたけれど強いのね……」

「当り前だろ、オレとスザンナのペアなんだから」


 オレはフンと鼻を鳴らした。『某国兵士はメチャクチャ強い』と耳が痛くなるほど聞いてきたから、ちょっと期待していたのだが。

 兄ちゃんから言われていたほど、強くは無かった。

 まぁ、この女が極端に弱いだけかもしれないけど。


 オレは今度こそ『抜杖』し、ため息交じりに言った。


「【ファイアバスター】」


 直後、オレの周囲で炎の球が生成された。それらはニ、三度その場で上下したかと思うと、女に向かって飛んでいく。いや、言い直そう。

 飛んでいったのはオレの炎の球じゃなくて、正確には『オレとスザンナの』炎の玉だ。妹の力で、火力は数倍に跳ね上がっている。


「ぐぬぬ……これはできればやりたくなかったけれど、仕方ないのね!」


 女が炎に包まれて見えなくなる寸前に、女は手に何かの……ボタン?のような物を持ち、それを『カチッ』と押した。耳が割れるような、ベルにも似た音が響き渡り、オレは思わず耳を塞ぐ。


「な、なんだ!?」

「うわっ、うるさい!? ねぇカルマ、これ何の音?」

「……何をしたのですか、そこの兵士」


 オレ達はそれぞれに不安を口走る。しかし、対する某国兵は冷静な面構えだった。


「……ねぇ、苦戦してるの?」


 カルマ兄ちゃん達と戦っていた、どでかい大剣を構えたヤツが不満げに言った。このどさくさに紛れてオレの炎を回避した女が、オレに近づきつつ言う。


「ちちち、違うのね! 別に苦戦なんてしてるわけじゃ──」


 彼女は、オレの首元に向かって手裏剣を突き付けた。オレはそれをしゃがんで躱し、杖で彼女の腹部を強打する。


「ぐうぇっ!?」


 そして彼女が態勢を取り戻す間もなく、スザンナの鋭い風がペストマスクに向かって吹き付けた。彼女はそのまま壁まで吹き飛ばされ、前かがみで血を吐く。


「……はぁ、はぁ……」

「やっぱり押されてるんじゃん」

「べっ、別にそんな事は無いのね!」

「いや、オレの方が優勢だろ……」


 オレは杖を振りかざして言った。さっき音の所為で仕留めそこなったが、今度はそんな深くはとらない。

 どんな爆音を鳴らされようが、確実に殺る。


 その時、オレの頭の片隅を『結局さっきの音は何だったんだ?』という疑問が過った。その答えは、求めるまでもなく二秒後に明かされることとなる。


「というか、笑ってられるのも今の内なのね!」


 女がユラユラと態勢を取り戻したかと思うと、彼女は甲高い声で何かを言った。


「‼‼‼?‽¿??‼」


 ……否、これは女の声ではない。


 オレは危険を感じて、オレの後ろに立っていたスザンナの方を振り返った。


「しゃがめ、スザンナ──!」


 しかしその声が届くより先に、爆音と共にスザンナの背後の壁がブッ壊れた。土煙も消えないまま、スザンナは壁から出てきたペストマスク達に囲まれる。

 その数、およそ十人程度。


「大丈夫か!?」


 オレは反射的に杖を振りかぶる仕草をした。しかし、それを見たスザンナが『あっ』と口を開いて何か言いたげにしている。某国兵士共の声に重なって上手く聞き取れないが……


 ──う・し・ろ?


 オレは背後から殺意を感じ、反復横跳びのように素早く右に移動した。が、少し遅い。


「ぐあっ!」


 オレの左手を、女の手裏剣が掠っていた。小指と薬指の間から血がダラダラと零れ、少し掠っただけにも関わらずとても痛々しく見える。


「当たったのね!」


 オレが睨むと、そこには手裏剣を投擲する姿勢のままこちらを見る女の姿があった。


「形勢逆転ってヤツなの!」


 彼女はそのまま、一本二本とこちらに向かって手裏剣を投げてくる。それをオレは縫うように躱そうとしたが……


 どういうワケか、全身にうまく力が入らなかった。鉛のように体が重いとはよく言ったもので、オレの体はまさしく金属のように重く感じる。

 オレは世辞にも得意とは言えない風魔法を使って、何とか防ぐことに成功した。


「クソッ……テメェ、何しやがった!」


 オレは風魔法を展開しながら、舌打ちと共に女に尋ねる。彼女はニヤニヤ笑いながら言った。


「私の『毒』なのねー! 神経を麻痺させる毒を、ちょっとだけ手裏剣に塗っておいたの!」

「……道理で体がダルいわけだ……!」


 オレは全身から冷たい汗を流して、息も絶え絶えに呟いた。ただでさえ使い慣れない風魔法で体力を消耗するのに加えて、毒。

 疲労はかなり溜まっていた。しかも……


「スザンナ!」


 オレはほんの一瞬風魔法を中断し、敵たちに囲まれオドオドしているスザンナに炎を送った。オレの炎は敵達をスザンナから遠ざけ、何とか妹の安全を確保する。

 その代わり、オレの体にいくつか手裏剣が刺さった。


「クソが!」


 風魔法を再度使って、急いで手裏剣を防いだ。心なしか、風の威力がさっきよりも落ちているように思える。

 毒に蝕まれた体で、自分の安全から妹の援護までこなさなければならない。今はギリギリそれが出来ているが……


 ……バテるのは時間の問題だろう。それまでの間に、仲間がどうにかしてくれることを祈るしかない。


「頼むぜ、みんな……!」

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