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二刀を巡る黙示録  作者: はむはむ
第六章 ローズ編
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ローズ編 第五話 灰色

≪グレイ視点≫

 ……何故、自分がこんなことをしているのか。正直、私自身説明できなかった。


 もう、アスペンは死んだのだ。これ以上私が生きている理由など無いはずである。にもかかわらず、私はこのギルドに紛れて彼の故郷にまで足を運んでしまった。

 あたかも、そこにアスペンがいるとでもいうかのように。


 そして結果、私は槍を構えている。私は元々、この金髪の子供を見殺しにするつもりだった。いや、それどころかこのギルド全員を見殺しにするつもりだった。

 なのに、勝手に体が動いた。


 私は全身の感覚を研ぎ澄ませ、目の前の敵を探った。


 計三名で、一人は女。手に持った手裏剣からは強烈な毒の匂いがする。動きを気にしていれば問題はない。

 残り二人は男で、片方は殆ど筋肉が無い。脅威には値しないだろう。

 もう一人の方は筋骨隆々、実力も相当に見える。


 私は重心を低く構えた。なら狙うは最後の男のみ、一気に穿つ。


「【快槍乱麻(カイソウランマ)・改】」


 私は槍を突き刺した。

 キィンと鋭い音がしたかと思うと、その男はいつの間にか大剣を構えて私の攻撃を防いでいた。


 ……美しい剣だ、と私は思った。竜の彫り物がなされた、黒い剣。生まれつき持って生まれた剣に、後から彫り物をしたのだろう。


「……」


 彼は喋らず、訥々と私の斬撃を防ぎ続ける。私の目に狂いは無かったようで、やはりこの男は強かった。だが……


 ……私とて、まだ本気を出したわけではない。


「【冥々乱舞(メイメイランブ)・改】」

「‼」


 私は一気に攻撃のスピードを上げた。

 これは天界の太陽時代、私とアスペンの二人で培ってきた技だ。


 私の脳裏に、今は亡き友の姿が映る。いや、私は目が見えない。彼の詳細な姿など、私は知りもしない。だが不思議と、『映る』のだ。


 色んなものを失いすぎた。私は槍で突く。突き続ける。

 防戦一方の男は、苦しそうな声を発した。その吐息さえ、私にとっては鬱陶しい。


「【斂葬繚佳(レンソウリョウカ)】」


 早く、死んでくれ。


 私は心の底から祈り、連撃を繰り出した。相手はそれらを上手く防ぎ、ある程度無効化している。


 私の皮膚に、大量の血が付着していた。痛みを無くした私にとって、それが誰のものであるかは分からない。

 私が確実に言えるのは一つ、この勝負がもうじき終わるという事だけだった。


***

≪ロザンナ視点≫

 オレは心の底から驚いていた。突然現れたこのオッサンは、一体何なんだ。


 明らかに、強さの桁が違う。オレの知っているどんな奴よりも早く、そして一撃一撃が鋭い。槍の先が目で追えない。兄ちゃんや母ちゃんでさえ、もっとゆっくりとした斬撃だった。


 それがどうだ。このスピード。その場に立っているだけで圧巻されてしまう、圧倒的力量差は何なんだ。


 だが、いつまでも呆けている訳にはいかない。兎角某国兵士のうちの一人はあの人が片付けてくれるだろう。なら今のオレがやるべきは、他二人の殲滅だ。


 幸い二人は、あのオッサン達の戦いに魅入っている。今がチャンスだ、と思った。

 オレは杖を拾い上げ、誰にも聞こえないよう静かに唱えた。


「【ファイアブレード】」


 オレの杖が炎に包まれた。煙も殆どない、『静かな』炎だ。それらは段々と形を変え……

 

 ……やがて、『剣』の形になった。オレは誰にでもなく頷き、駆け出した。


 痛みはもう、無くなっていた。上手く力が入らなかった腕も、即席の回復呪文でなんとか元の感覚にまで回復できた。


「……くたばりやがれェェェェッ!」


 オレは女の方に剣を振り下ろした。ヤツは不意を突かれて一瞬反応が遅れたが、しっかりとオレの剣をガードしてくる。


「危ないのねー……。そんな物騒なモノ、しまっちゃって欲しいのね!」


 そこまで物騒な物でもないと、オレは思った。少なくとも、さっきの炎(前回参照)を躱しきった奴にとっては。

 それに本命は……


「物騒なモノばっかに気ィとられてると、こっち見落とすぜ!」


 左手に生成した火の玉だ。剣の何十倍もの密度の炎を圧縮させた、オレにできる最強の一撃。


「喰らいやがれ……っ!」


 オレはそれを、ヤツの顔にブチ当てた。ジュワッと音がしたかと思うと、ヤツに火が付く。

 

「にゃー!? あ、あついあつい!」


 炎が一瞬で服全体に広がっていくサマが、とても克明に見えた。とりあえずコイツは()っただろう。遅かれ早かれ灰になるのは間違いない。

 後は──


「……なにやってるの」


 悲鳴を上げる女の隣で、冷静に佇む男。さっきオレは、コイツに命令させられたんだ。なんで従っちまったかはよくわからねぇけど……


 それでも、早々に殺した方が良いのは確かだった。オレはもう一度さっきの球を生成しようと、左手に力を籠める。


 そんなオレに向かって、ヤツは軽く手を振った。


「……うぐっ……!」


 途端に、喉元が圧迫されたような痛みをオレは感じる。魔法に精通しているオレだから分かるが、コイツが扱う攻撃手段は間違いなく魔法のソレでは無かった。

 オレの顔から血の気が引いて行く。しくじった、とオレは思った。


 しかし、そう判断するのはまだ早かったらしい。どこからともなく、『風の音』が聞こえてきた。


「……!?」

「兄ちゃん!」

「スザンナ!」


 風の音と共に聞こえてきたのはオレの妹の声だった。オレがバッと振り返るとそこには、片手に杖を持った金髪の少女が立っていた。

 杖先の緑色の宝石が、灰色の煙の中で分かる程に明るく輝いている。


「全く、起きるのが遅いぜ……! 待たせやがって!」

「ご、ごめん!」

「お前が謝ることじゃねぇよ」


 よく見ると、次々と裁ち切る鎖のメンバーが起き上がっていた。おそらく、みんなにかけられた呪い的な何かが解除されたのだろう。


「……成程、敵か」

「殲滅だな」

「殺せ殺せー!」

「……ちょ、ちょっと不味いかもしれないのね!?」


 某国兵士のうち、さっきオレが燃やした奴が甲高い声で叫んだ。いまだ火は燃え続けているが、段々鎮火に向かっているようである。

 燃え尽きることは想定外だったが、それならそれでいい。もう一度燃やすまでの事。


「ふわぁ……そうだねぇ。逃げようか」

「!? 逃がすわけねぇだろってんの!」


 オレは素早く攻撃魔法の準備をし、大量の火花を放とうとした。しかし、ヤツらの方が行動するのが早かった。

 某国兵士はマントの中から何か──それは缶のようなものだった──を取り出し、オレ達に向かって投げた。オレはそれを躊躇せずにかち割る。


 するとその瞬間、部屋が目もくらむような閃光に包まれた。


「……!? な、眩し──」

「それじゃ、バイバイなのね!」

「待て、コノヤロ!」


 だが、この視界の悪さでオレにできることは殆どなかった。乱雑に炎を放つが、何一つとして命中しない。


 オレは闇雲に走って追いかけようとした。だが、スザンナがそれを止める。


「今の戦いで『マナ』を消費しちゃったから……追ったら危ないと思う」

「……チッ」


 オレは舌打ちをした。そこに、某国兵士の一人とタイマンしていたオッサンがやってくる。


「……仕留めそこなった」


 彼はまるでなんとも思っていないかのように、淡々と言った。


 咎められなかった。もしこの人が居なかったら、オレは今頃死んでいたかもしれないから。


 オレは舌を舐め、言葉を選んで呟いた。


「ありがとな……助けてくれて。お前、名前は何ていうんだ?」

「グレイです。以後──いや、以後も何もないかもしれませんが──お見知りおきを」


 聞いたことの無い名前だった。昔母ちゃんが、どっかギルドの最上位クラスとして名前を挙げていたような気もしないようなことも無いが、明確には分からない。


 でも恐らく、この裁ち切る鎖には所属しているのだろう。オレは純粋な好奇心から、彼に尋ねた。


「ギルドのランクは?」

「──元最上位です。そして今後、最上位になることは無いでしょう」


 オレには彼が、『元』を強調しているように聞こえた。

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