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二刀を巡る黙示録  作者: はむはむ
第六章 ローズ編
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ローズ編 第四話 襲撃

時は少し遡って、一方そのころ──

≪ロザンナ視点≫

「あーあ、行っちゃったね……」


 オレの隣でスザンナが、寂しそうに声を出した。その視線の先には、ただ扉があるだけである。


「大丈夫かなぁ」

「大丈夫だろ、カルマとエルセアルならさ。逆にあいつらで駄目だったら、もうどうしようもねぇや」


 オレは妹を元気づけるために言った。事実オレは、二人の実力を心の底から信頼している。確かにクラスはオレの方が上だが、オレ自身はオレよりアイツらの方が強いと心の底から思っている。


 だって、オレが強い理由が見当たらないのだ。特別キツい訓練をしてきたわけでもないし、体力もそこまで多い訳じゃない。いやむしろ、少ないとさえいえる。


「それに、オレ達の仕事は『最上位』として二人が帰ってくるまで見張ってることだ」

「ううっ……見張りかぁ……私、ちゃんとできるかな……」


 彼女の顔は青ざめていて、とても不安そうに見えた。俺は仕方ねぇなと思い、腰を上げる。


「最初の見張りはオレがやってやるから、その間は寝てろ」


 妹はビックリして目を見開いた。だが、まだ不安の色は消えない。

 彼女はごもごもと言う。


「……でも、もし敵が来たら……」

「そん時は起こすから、安心しろ」


 彼女はまだ、不安そうだった。最上位クラスとは思えない程の不安症だが、それだけこの役職に責任を感じているという事だろう。兄として、少し誇らしいような気がした。

 そして、その責任はオレ自身も重々感じている。


「分かった、にいちゃん」


 彼女はそう言って、静かに布団の中に入った。目を瞑り、しばらくは不安定な呼吸が続く。

 呼吸が安定して、眠ったなと判断できたのは横になって十分程度経過してからだった。


 オレは「頑張るか」と自分に言い、扉の前まで移動した。敵が襲ってくるならば恐らく、窓か扉からだろう。壁をブチ壊してくることも考えられなくはないが、それでも一番可能性が高いのはここだ。


 オレはうーんと伸びをし、あたりを見渡した。ギルドのみんなはもう、寝静まっている。

 この中で意識があるのは、オレ一人なんだ。みんな、オレに命を預けている。


 オレはため息をついた。どうして、こんなことになったかなぁ。兄ちゃんが言ってた、『某国』がオレ達の故郷を襲った所為なのかな。

 本当に、それだけなのかなぁ。


 心臓の鼓動が、やけに大きく聞こえた。服がこすれる音も同様に。


 オレが扉の前に立ってから五分も経過していないとき、トントンと扉をノックする音が聞こえた。オレの心臓は跳ねあがり、さっきにもまして一層大きくなりだした。


 しかし、一秒程度でオレは冷静さを取り戻した。そうだ、敵がご親切に扉を叩いて入ってくるわけが無い。壁破壊できるような連中なんだから、そうする必要がねぇもんな。


 きっと、兄ちゃん達が帰って来たんだろう。やけに早かったなぁと思いながら、オレはドアノブをひいた。


「ふあぁ……おはよう」


 扉を開けた瞬間に聞いたのは、抑揚のない死んだ人間のような声だった。間違いなく、兄ちゃんの声じゃない。かといってエルセアルの声でも、無い。


 オレの心臓が、まるで警鐘のようになり始めた。嫌な予感がする。


 オレはおそるおそる、目線を上にあげた。


「あっこれは──久しぶりなのねー!」


 そこには、ペストマスクを被った人物が三人、立っていた。オレの全身の皮膚が逆立ち、鳥肌をたてる。



 ──これが、某国兵士か。


 オレは即座に右手に力を籠め、杖を握った。


「【エンドレスファイア】!」


 渾身の力を籠め、オレは杖を振る。杖の軌道に沿って炎が生成され、それらは勢いよく兵士に向かって飛んでいった。

 ヤツらの黒いローブが見えなくなるほどに、炎はその勢いを増した。モクモクと煙が上がる中、オレは叫ぶ。


「起きろっ、スザンナ! 某国だ!」


 そして次の瞬間、煙の中から『何か』が飛んできた。オレは反射的にそれを躱し、全身の本能に従ってスザンナのいる所まで後退する。

 

 その『何か』は、やはり一撃だけでは終わらなかった。オレは躱しつつ自分の周りにシールドを展開させ、簡易的な安全地帯を作り出した。


 オレは横になったままのスザンナに近づく。


「おいスザンナ、目を開けろ! 某国だ!」


 しかし、どれだけオレがスザンナをゆすろうとも、彼女は目を開かなかった。少なくとも、通常の眠りの深さではない。

 これだけの熱が発せられて、オレが叫んだにもかかわらず、ここにいる人々は誰一人として目を覚ましていなかった。


 パリン、とシールドが割れた。オレは舌打ちをしてスザンナから離れ、煙の中を凝視する。


「おいテメェら、こいつらに何しやがった!」

「……別に、何もしてないよ……」


 返事と共い、煙の中から三人の某国兵士が現れた。誰一人として、炎に焼かれたような痕跡は見受けられない。

 

 三人のうち、緑色の目をしたオレと同じくらいの身長の奴が言った。


「ただ、『眠って』もらっただけさ……ふわぁー、僕まで眠たくなってきちゃったよ」


 彼はわざとらしく口元に手を運び、欠伸をする。オレは杖を振った。


「【バーニングレイン】ッッ!」


 オレの周りに小さな炎が幾つも生成され、勢いよくヤツらに向かって飛んでいく。


 この組織に入ってから、オレが秘密裏に磨いていた必殺技だ。これでくたばるハズ……


 しかし欠伸をした奴は、面白くなさそうに手を振るだけだった。それだけで、炎の雨は一つ残らず空中に静止し、消え去った。

 オレは自分の技が通用せず、戦慄する。


「嘘だろ……!?」

「あははっ、弱いのねー! 最上位とはいえ、子供であることには変わりないの!」


 甲高い声で、オレの攻撃を無効化した奴の隣の女が笑う。

 かと思えば、彼女は素早く『何か』を投げつけてきた。


「……‼」


 オレは突発的なその攻撃に避けられず、左腕に受けてしまった。重い衝撃と共に、ソコが異様に熱くなる。

 やっとオレは、飛んできていた物が小さな手裏剣であることに気が付いた。いや、手裏剣と言うよりかはクナイと表現した方が正しいか。


 オレはそれを引き抜こうと、杖を置いて右手でそれを掴んだ。だが……


 何故か、うまく力が入らなかった。一向に手裏剣は、抜ける気配を見せない。ドクドク流れる血を見つめ続けたオレは、そのグロテスクさと痛みに呻く。


 そんなオレに、一人の某国兵士が近づいてきた。


「……顔を上げて」


 それは、眠そうなヤツの声だった。オレは構わず手裏剣を抜こうとするが……


 念じてもいないのに、オレの顔が勝手に上に向いてしまった。緑色の目と、オレの黒い目の視線が合わさる。


 背中に冷たい物が走った。体が言う事を聞かない。必死に顔を下げようとするが、ペストマスクから視線を外せない。

 炎の熱気が、段々とこちらにまで伝わって来た。


「君は……ふわぁ……もう、動けない」


 言われた途端、オレの体が完全に動かなくなった。手裏剣を抜こうとしていた手は手裏剣を握ったまま動くのをやめ、左手はだらんと地面につく。

 まるで両手が、自分の物じゃないみたいだった。鉛のように重くて、それでいて冷たい。


 オレの頭の中を、圧倒的な恐怖が覆っていた。段々と視線が暗くなっていく。全身が冷たい。意識が朦朧とする。


 その朦朧とした意識の中で、ヤツが抜刀するのが見えた。


 真っ黒な大剣がその手に握られる。

 オレを真っ二つにするための大剣だ、そうオレは思った。


 その動作はかなりゆっくりだったが抗えなかった。刀身がオレに迫る。オレは目を瞑ろうとするが、瞑れない。


「ガァァァァン!」


 諦めかけたその時、激しい金属音が聞こえた。


 ああ、死んだのかなとオレは思った。オレの頭蓋と鉄が奏で音なのかなと、最初は思っていた。


「お前は……何故、ここにいる!」


 しかし、どうやらそれは違うようだった。周章狼狽した某国兵士の声が聞こえるとともに、オレの手の感覚が戻っていく。

 オレは渾身の力を振り絞って、目を開いた。



 そこに立っていたのは、一人の大男だった。

 オレを守るようにして、槍を構えている。筋骨隆々のその姿に、オレは見覚えがあった。


 だが、どうしても名前が思い出せない。あるいは、知らないのかもしれなかった。


 震えるオレの前で、彼は重々しく口を開いた。


「不快、極まりない」

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