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二刀を巡る黙示録  作者: はむはむ
第二章 リュミエール編
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リュミエール編 第三話 結末

≪リョウ視点≫

「死にたい奴からかかってこい!」

『いや殺しちゃダメでしょ』


 俺は一声叫ぶと、群がっている人々に特攻した。自分の身を守るとか、そんな余計な事は考えない。ただただ「戦う」。それしか頭になかった。


「見ろ! アイツ血迷ったぜ!」


 俺より身長も、刀身も長い奴が俺をゆび指した。敵である周りの奴らに言いふらしている。俺は「コイツは馬鹿だ」と確信し、狙いを定めた。


 特攻スピードを速めて、奴の間合いに踊り込む。相手の反応を見るよりも早く袈裟斬りにする。大丈夫、治療兵の回復力からすればこの程度の傷は普通に治るはず。


 ……俺はその治療兵を見たことが無いけどね!


「ぐはぁ」


 だらしない声を上げ、コイツは地面にへたり込んだ。王はこれを見逃さずにしっかりと転送した。


 と、俺が安心した隙に別の敵が俺の首を狙って斬りつけた。刀身が青白く光っているのは、能力の所為だろうか。刀で防ぐのでは間に合わないことを悟り、素手で受け止めた。燃えるような痛みが受け止めた左手を襲う。俺は小さく呻いたが、気にせずそのまま刀ごと敵の居る方角にぶん投げた。


「がはっ」


 丁度そこに居合わせた不幸な人に五十キロ弱が襲い掛かった。「ゴキッ」とい音からして多分骨折してるだろう。


 そのまま俺は何人も斬り捨てた。周りが動揺してくれているお陰で割と簡単にこなせている。


「このままいけば……」なんて俺が思った矢先、俺の体が見えない糸で束縛されたように動けなくなった。


「捕まえた」


 声のする方を見るとそこには一人、ガタイの良い大男がこちらを睨んでいた。刀を両手で構えて今にも切りかからんばかりの勢いである。


「クッソ……お前の能力か、コレ!?」

「ああそうだ……お前の年で、よくやったと思うよ。だが世の中には「引き時」ってモンがあるんだ。それが今なんだよッ!」


 言っている間にも彼は俺の近くににじり寄っていた。「確実に俺の方が強い」なんて高慢な思考を持たずに念入りに倒そうという魂胆らしい。


 油断してくれれば、隙を見て逃げ出せたかもしれないのに。


 これが他人事ならばその念入りさに舌を巻いていたが、残念なことにこれは他人事ではない。


「束縛……全く、嫌らしい真似するじゃんか」

『そーだそーだぁ!』

(どうせ声でねえんだから黙ってろ! そして俺に集中させろ!)

『はーい』


 まあその理論を相手が引用したら「どうせ抵抗できないんだからやられろ!」という我田引水な暴論になるのだが。


「動けないだろ? お前はここからじゃどうやっても勝てないんだ、理解した……グフッ……」


 大男がそう言おうとしたまさにその瞬間、彼の腹から刃物が貫通した。傍観者が今がチャンスとばかりに思いっきり突き刺したらしい。


 元・傍観者が刀を抜くと同時に大男は倒れ、俺の動きを制限していた束縛が消えた。


「ラッキィッ!」


 俺は再び能力を使われないうちに刀を振り回した。何の意図もない、対象すら定まっていない支離滅裂な攻撃。しかし時として、このような行動がけがの功名となる場合がある。

 

 それが今回だった。


「ぐわぁぁぁ」


 俺の間合いの中にいる人物は全員が強者だ。でも、予想外の暴挙に対してはほんの一瞬、対処に迷ってしまう物なのだ。


 俺はその隙を狙った。


(へっへっへ、どんなもんだい!)

『いいよ、リョウ!』


 先程とは打って変わって、他愛のない会話が出来るほどの余裕があった。

 気が付くと俺は最後の二人まで残っていた。


「お前が最後か」

「ああ、そうらしいな」

『……?』


 最後の一人はを狐のお面を付けた男性(声で分かった)だった。身長は俺より数十センチ高く、肌はかなり黒い。そしてその肌とは対照的に髪は白っぽかった。俺が能力による妨害を受けなかったのは、この人が片っ端から敵を倒していたからという事だろう。


 それも、器用に俺だけを避けて。


「何者だ、アンタ。リュミエールじゃ黒人はそうそう見ない。っていうかここにいて大丈夫なのか?」

「そうやって人を差別するのか?」


 俺は言葉に詰まった。そうだ、俺は初めこの国の「差別」を酷く嫌っていたはずだ。なのにこんな確認をするなんて……我ながら、堕ちたものだ。


「……この国の文化なんだよ。それにこれはまだ「差別」じゃない。「区別」だ」


 心にもない事を言ってしまった。しかし、リュミエール人だとしたら差別することに何の抵抗もないはず。それはつまり……?


「お前、異国人か」


 数秒の空白が開いた。


『リョウ!』

「なあお前、やっぱりそうなんだろ?」

『ねえリョウ、リョウってば!』

(なんだよ、煩いな)


 俺が———の次の発言を仰いだ直後、二人の声が重なった。


「そうかもなッ」

『逃げて、リョウ! この人は危険だ!』


 ———の心底恐怖したような悲鳴を、俺は初めて聞いた。あたかもそれが開始の合図であったかのように、男が俺に向かって斬りつけてきた。ただならぬ殺気を感じる。慌てて刀で応戦すると、そこに手がしびれるほどの衝撃が走った。「ギィィン」と嫌な金属音が響く。


 俺が大勢を立て直すよりも先にコイツは、再び斬撃を繰り出した。かろうじて体を守っていた刀が遠くへはじけ飛ぶ。三発目の斬撃で刀は、ガラ空きになった俺の胴に吸い込まれた。

 

「……なかなかの腕前だったぞ、リョウ」

「どうして俺の名前を……それにアンタは一体」


 朦朧とした意識の中、俺が気力を振り絞って聞き返したが。


 既に、男はこちらを見ていなかった。


≪ラメラ視点≫

「リョウ!?」


 私は急いでリョウに駆け寄った。能力を使う事すら忘れて、ただ一心に。見るとリョウは、一切血を流していなかった。


「安心しろ、みねうちだ」


 彼はしゃがみ込んだ私の頭に声をかけた。とてもじゃないが年上に対する口のきき方だとは思えない。


「あなた……一体何者なの? ここで戦ってた強者があなたに、いともたやすく倒されていった。とても人間のなせる所業じゃない」

「だから、どうする? 俺と戦うのか?」

「いいえ。私はただ、貴方にご引き取り願いたいだけ。ねえ、ナハト人さん」


 そう、私はこの男の事を知っていた。昔ナハトに潜入してた時にしょっちゅう名を聞いた。噂ではかなり高い立場に君臨していて、軽率な行動は慎んでいるとのことだったが。


 残念なことに、その情報はアテにならなそうだった。


「知ってるのか。わかった、身を引こう」


 言下に男の姿が消えた。私が目で追えない程のスピードで、風切り音すらならない程。目を瞑っていたら多分、私はこの男が消えたことにすら気づけなかっただろう。


 そう、彼はスピードで他でもない私に勝っていた。


「あ……あれ、どこに行ったの!? 出てきなさい!」


 人が殆どいない空虚な空間に声がこだまするs。とそこへ我らが王が寄ってきた。


「……今の人は?」

「……多分ナハトの人。スパイ活動か何かでここに来ていたんだと思うわ」

「リョウは?」

「大丈夫、全く怪我してない。しかしまあ……」


 私は話題に迷った。彼が今どこに行ったのかはなんとなく予想できるし、教えてあげることも出来る。でも……


 ……面倒くさいしね! 


「リョウってなかなか健闘したと思わない!? 能力無しでよくもまああそこまで……」

「本当にそうだ。それに相手は年上だぞ。冗談ごとではなく、国中で健闘を祝福して良いかもしれん」

「それは大袈裟よ……」

≪登場人物紹介≫

 お面をつけた青年……『実践』に現れた黒い肌と白っぽい髪を持つ青年。お面を付けているので顔は確認できないが、リョウよりも年齢は上。———が彼を恐怖しているのを見る限り、只者ではない。

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