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二刀を巡る黙示録  作者: はむはむ
第二章 リュミエール編
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リュミエール編 第二話 実践

≪リョウ視点≫

「オラオラオラオラァっ!」


 俺はまた、実践練習をしていた。実践まで残りあと一週間、心なしか実践練習の頻度が多くなってきている気がする。ラメラのスパルタ指導にも磨きがかかっていた。


「このままじゃ俺の体がもたない」


 と思った俺はラメラの家に来てから一度もカレーを出されていない恨み(カレー文化自体はあるが、ラメラの好みでない)を込めて練習していた。『大事なのは気持ちの持ちようだから、活力源があるのは良い事だよ』と、———が言ってくれた。


 それの恩恵もあってか無くてか、一撃一撃の威力が上がったように感じる。


「はあ……はあ……カレー……の……恨み……うおおおおおおォォォ!」

「どういう意味よ、ソレ!」


 アドレナリンだけで動いているようだった。俺の馬鹿声は兄弟(まだ喋れない赤子だが、俺のロザンナとスザンナは俺の兄弟みたいなものだ)の居る家の中を震わせていた。


「ああもう、うるさいわねッ! いったん落ち着きなさ……」


 何も聞かずにただただ肩のあたりを狙う。本来ならば首筋を狙って然るべきものなのだが、大けがになりかねないので避けていた。


 右、左、左、右、左……次々に繰り出される攻撃をラメラは全て避けている。


「聞く気が無いようね……! 面白いわ」

「そういうことは終わってから言うんだよ、ラメラ!」


 絶え間なく繰り出される攻撃に、ラメラは一瞬体勢を崩した。その隙を狙って刀の軌道を変え、腕部分を斬り付けた。


 その時、始めた俺の刀が赤く染まった。ラメラの腕に傷を付けられたのだ。


「よっしゃぁ!」

『良かったね、リョウ!』


 ———も褒めてくれている。傷を負ったラメラその人も、俺に向かって言った。


「……流石よ。このまま実践にもっていきましょ!」


 ラメラはとんでもない実力者なので、やはり褒められると嬉しかった。その口調には、焦りがにじんでいるようだった。


「あと一週間は技に磨きをかける。俺は体力が少ないから、一撃一撃を全力で行う……でしょ?」

「その通りよ。わかってるじゃない」


 俺の頭を撫でようと屈む。俺はおずおずと微笑み、それを受け入れた。


 少したってから俺はラメラの手を解き、数歩彼女から離れた。刀をもって睨み合う。平原に再び、軽快な金属音が響き渡った。



 そして待ちに待った一週間後。俺は実践でリュミエールの王都エペに来ていた。一年に一度行われるこの実践もとい試験は、王が直接立ち会うが故に、国民がわざわざエペまで来る必要があった。


(え、なになに? そこまでして行う実践の何が良いって?)

『誰に話してるの……』


 そりゃ勿論これで記録を出せれば俺の評価は格段に良くなるという事だ。才能を買われて職(兵士)に就ける可能性だってあるし、景品として装備品(どちらかというと生活用品)が手に入ることもある。対象年齢は20歳未満という事で、五歳児の俺はかなり不利だが———が言うに


『為せば成るっていうか、ラメラにしごかれたんだから問題ないよ』


 という事だった。普段適当な事を言いまくっているような奴なので信頼は出来ないのだが、大なり小なり自信は湧いた気がする。まあ最悪生き残ればそれでいい方だろう。


 ルールは単純。ラメラの一件以来戦いの場となった謁見の間(玉座は修理されていた)でひたすら殺しあう。残り数が五十人を切ったところで終了。こっちの世界の住人はみんな丈夫なので、簡単に死ぬことは無いはずだ。が、それでも死ぬときは死ぬ(———談)らしい。初めの頃の俺は、


(そんなことで人が死んでたまるか)


 という意見だったのだがこっちで生活しているうちに「文化」として馴染んできた。一回で誰かしらが死ぬ確率は約10%といった所だろうか。その程度のリスクなら請け負える。


(にしてもうるせえな、ココ)


 国中のありとあらゆる十五歳児(『何歳以上』などという年齢指定は無いのだが、十五歳位が多かった)が集まった様に思える空間。人口密度が異様に高く、とにかく息苦しかった。


『仕方ないよ~。みんなチャンスをつかみたいんだからね』

(チャンスって……ココの住人は中々に活発だな)


 ラメラがあまり街に連れて行かなかったので、俺のこの世界に対する知識は生まれた時と変わっていなかった。ある意味箱入り娘……じゃなくて息子状態。

 

『そんなものでしょ? あ、ほらほら王が来たよ』


 見ると、玉座に向かって王が歩いて来ていた。あの煩かった会場が嘘のように静まり返る。


「皆の者、今日はよく来てくれた! まず君たちの勇気に礼賛を……」

「御託は良いから早く始めましょう!」


 ラ、ラメラぁ……。


 いつの間にか王の後ろにラメラが立っていた。多分能力を使ったのだろう。俺や王本人はたいして驚かなかったが、会場にいる人々は少なからず動揺していた。


「嘘だろ……いつの間に……」

「馬鹿な……誰も気付かなかっただと!?」


 ただし、一人として王の身を案じている者はいない。流石は平和大国リュミエール。王だけじゃなく国民まで平和ボケしてやがる。


「ははは、それもそうだな。では、初め!」


 いや雑ッ! 急に雑ッ!

 

 俺を含む参加者全員が唖然として王を見つめていたが、すぐに一人が叫んだ。


「よっしゃ! 手柄を上げてやるッ!」


 それを境に、あたりは血で血を洗う大混乱に陥った。人口密度が高いのもあって、一人一人の攻撃による被害が大きい。ぼーっとしてる余裕はなかった。まずは周りの攻撃を避けることに集中する。


 ——周りの戦いを観察して。どこが激しい? 出来るだけ距離を置くのよ——


 ラメラから言われた通りに観察した。右側で大量の叫び声が上がっているようだ。攻撃に警戒しながら左側へ移動する。一度刀が右手を掠ったが、支障になる程のものではなかった。そしてある程度落ち着いたら……


「行動だッ」


 刀を左手に出現させて、集団から少し離れて孤立している人々に攻撃を仕掛けた。激戦区から離れている理由は主に、『戦略的な理由』と『自分が弱いと自負しているから』の二つだ。無論、後者相手ならば俺も十二分に戦える。前者の場合でも、何十人もの人々を同時に相手するよりはまだマシという物だ。

 

 戦闘不能になった人々は王の能力によって安全地帯へ移動させられた。人口密度が減る一方、どんどん動きやすくなっていく。初めこそ攻撃されずに済んでいたが、今は部屋が伽藍洞になっていくせいで標的にされやすくなっている。


「頑張れー。どっちも頑張れー」


 ラメラ、心のこもってない応援は要らないからッ!

 

 俺はラメラへの怒りをも糧にして戦った。全員が自分より年上だったが、意外とみんな強くない。どんどん場を混乱に陥れていく。

 

 しかし、こんな順風満帆な戦いがいつまでも続くわけが無い。開始から約二分ほど経過したとき、俺が最も危惧していた事態が発生した。

 

「勝負は後半戦に移る! ここからは能力の使用を許可するッ!」


 国王の大声が聞こえたとたん、俺はすぐに激戦地から下がった。前に———が言っていた通り、刀は一本一本に能力が付いている。ただし、|能力が使えるようになる《能力開花》時期は個人差が大きく、平均して十歳のころに開花するのだ。ちなみに俺の能力は開花しているのだが……


 ラメラが能力の訓練を行っていないので、うまく使いこなせないのだ。無理矢理使えばむしろ、戦況が不利になるだろう。つまり俺は実質、能力無しで戦わなければならないのである。ちなみに激戦区から下がるという判断は、事前にラメラと相談して決定して置いた事だった。

 

『リョウ、分が悪いよ! 避けるのに専念して!』


 その発言が言い終わるか言い終わらないかのまさにその時、さっきまでいた場所から火柱が上がった。


(もしかして、炎を操る能力か?) 

『かもね。だとしたらかなり優秀な人材だ……幻影能力とかじゃなければ』


 煙幕や炎、さらにはそよ風が吹くなんとも奇妙な戦場。やはり、能力が使えない俺は分が悪い。


 だから俺は、戦い方を変更した。即座に考えた即席のプランBは、戦いをひたすら傍観するという内容だ。能力が許可された場合、出来る限り逃げることに専念しろとラメラにきつく言われていたし、この対応は間違っていないだろう。


 しかし、そのプランは上手くいかなかった。俺のプランの『想定外』。


 それは、俺に追従してきた奴がいたことだった。


「君、何歳?」


 戦場にそぐわないような、思わず聞き入りそうになる美しい声色に振り返ると、そこには一人の少年が立っていた。


 堂々としたたたずまい、ちょっと白っぽくて美しい肌。優しい笑みを刻んだその顔はまるで女のそれで、俺は思わず彼の事に魅入ってしまった。一言で形容するならば、どこかの『王子様』のように見える。ただし服だけは質素で、良くも悪くも貧乏人の体裁に見えてしまった。


 彼は俺が唇を噛んでいるのを見て、申し訳なさそうに頭を下げた。


「あー、ごめん。僕が先に言うべきだったね。僕は十三歳だよ」


 俺より年齢上(見りゃわかるけど)なのが苛つく。俺は小声で「だから行きたくなかったんだ、こんな場所」と愚痴ると、噛みつくようにして答えた。


「……五歳児だよ、なんか文句あるか!」

「いや、文句はないけど。それよりさぁ、僕と戦おうよっ! きっと楽しいよ。僕も能力は使わずに、あくまで平等に戦うようにするからさ」


 言下に彼は俺に刀を突き付けた。相手が能力を使えないのを見抜き(いや、使えない訳でもないが)、それに合わせて自分も能力を使わない。その『フェアプレー精神』に、俺は敵ながら感心した。


 俺は顔に笑顔を張り付けて刀を構えた。


「かかってこいやッ!」

『ちょっと、リョウ!?』

「そう来なくっちゃ」


 彼の口元に傲岸不遜な笑みを浮かび、目には紛れもない殺意が湧いてきた。グダグダ喋った割には、本気ガチで戦うつもりらしい。


 彼は忽然として俺に襲い掛かった。一手目は大ぶりななで切り。俺は大きく跳躍することでそれをかわし、追加の二発は身をよじって逃げた。そこで一瞬、俺が隙を見せたのを彼は見逃さない。


「うおっと」


 迫りくる刀を、咄嗟に刀で弾いて防いだ。一発、二発、三発……彼は全く攻撃を止めるそぶりを見せない。年齢差と体格差がありすぎるのだ。これは、沢山の実戦を積んでいる『戦士』だからこそ出来る芸当である。彼の姿と、いつも俺に訓練を付けてくれたラメラの姿が重なった。

 

 ……このままでは、()()()()()()()()()ジリ貧で終わるだろう。ラメラ(歴戦の戦士)と戦ってきた俺だから、体感的に分かってしまうのだ。


 だから俺は博打に持っていくことにした。このままやっていても、何も始まらない。俺は全身の筋肉をフル活用して刀を振った。モロに食らったら即ノックアウトの必殺の一撃。こっちにとっても隙はでかいが、これに賭けるほかなかった。


「!」


 しかし、彼は俺の一撃を受け止めて見せた。俺の全身全霊が、呆気なく砕かれたのである。それから、彼は不敵に笑った。大部屋に金属が奏でる不協和音が満ちる。彼はガラ空きになった俺の首元を掴み、そのまま天井に向かって放り投げた。五メートル以上の高さがあったはずの天井が、ずんずん迫ってきていた。あと、一メートル……


「クッソ!」


 抗う術はなく、俺の体は天井にぶち当たった。体中が痛みに悲鳴を上げている。その時彼は、落下時に出来る大きな隙を狙って俺を滅多切りにしようとしていた。


「トドメ……」


 一見、俺が負けているように見えるだろう。しかし俺は、勝利を確信して笑っていた。


『リョウ……』

(ああ)


 渾身の一撃を、落下直後の俺は小さく屈んで避けた。いつもすばしっこいラメラと戦ってきたせいで、コイツの動きは止まって見える。ラメラと彼とでは、まさに雲泥の差があったって訳だ。

 

 行き場を失った力に押されて、彼は俺の体にぶつかってバランスを失った。俺は無防備なその体を掴み……


「さっきのおかえしじゃぁぁぁぁぁぁ!」


 ……地面に叩きつけた。それで、勝負が決まった。

 

「カハッ……」


 彼は気を失ったようだった。「ボキッ」て音が聞こえた気がしたけど気にしない。そしてその数秒ののちに彼は、俺の目の前から消えた。無事に王から転移させられたのだろう。骨の二、三本じゃあ死なないだろうし、問題ないっと。


「よっしゃ!」

『倒せて良かったね。彼の敗因でもあるんだけど、彼は最後まで能力を使わず、フェアに戦おうとしてたよ。まさに戦士の鑑だ』

(……まるで俺が『ハンデありで負けた』みたいな物言いじゃねぇか。俺だって能力使ってねぇから、それはそれでフェアだろ)


 しかし俺もゆっくりしていられなかった。


 ここにいる人々の、全ての視線が俺に集まったような気がした。全て、殺意が伴っている。まあ、これは年齢差を覆しての勝利、つまり『大金星』モノだもんな、当然だろう。


「……やるぞ」


 俺は逃げ出そうかとも思ったが、もう負けは確定しているようなものだ。彼らと、最後まで戦ってやろう。これで平等フェアだ。


 敵と向き合った俺を見て心配したのか、———が声をかけてきた。


『リョウ、大丈夫? 流石に勝てないよ?』

(能力使用許可が下りた時点で、俺に勝ち目なんてないさ。だから別にいいだろ?)

『ま、それもそうだね。最後にもう一度、場を荒らしてやろう』


 なんか、楽しんでないかコイツ。別にいいんだけどちょっとイライラする。


 俺は彼らに向かって一声叫び、走り出した。


「死にたい奴からかかってこい!」

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