第27話〜オウルワール
「オウル様、ユウキが目覚めたので連れて参りました」
オクタが声をかけると、丸まっていたスノウフェンリルのユキがパチリと瞼を開きオウルの頬をちろりと舐める。
オウルは初めから目を覚ましていたようだ。
ユキの鼻先を撫でると立ち上がり、燐光の舞う泉を歩いて渡ってきた。
その後ろにユキも続く。
「お休みのところをお邪魔してしまい申し訳ありません」
オクタとバーシャンが頭を下げる。
ユウキも慌てて頭を下げようとすると、構わない、そう言うようにオウルが手で制した。
オウルの格好は旅をしていた時とは異なり、白と黒を基調とした仕立てのいい服を着ていて、顔の上半分を隠していた布も無くなっていた。
もっとも首には物々しい首輪がついたままで、それだけが異彩を放っている。
それにしてもオウルの素顔を佑樹は初めて見たが、目は閉じられたままとは言えその顔は整っており、とても若く見えた。
雰囲気からして壮年だとばかり思っていたので、オクタたちの言葉と首輪がなければ本人だとは気づかなかっただろう。
そして不思議なことに、目の前にオウルが立っているというのに気配がほとんど感じられない。
まるで視覚以外の五感に情報が入って来ないようだ。
『貴方がユウキですね』
「っえ?」
涼やかな女性の声がユウキに届いて驚いた。
この場にいるオクタとバーシャンの声ではない。
『初めまして、異世界の子よ。私はユキ。トモの契約者です』
「とも?」
「ユウキ、オウル様の本名はトモ=T=オウルワールよ」
『私にとってはただのトモですけれどね。一緒に旅をして回った頃に色々あって、長くなったけど。本当にたくさんのことがあったわ』
そういえばオウルのことをユウキはほとんど何も知らない。
そういえば意識を失う前にも何かあったような…?
立ち尽くすユウキにユキが顔を近づけてきた。
『……なるほど、やはり貴方が』
「?」
ユキはユウキの匂いを嗅ぐと何か納得したようだった。
『これから厳しい未来が待ち受けていますが、諦めず勇気を持って進んでいきなさい。そうすればいずれ…』
半ば独白のような唐突なユキの言葉に疑問しかない。
しかしその疑問に答えを問う前に、
「わふぅ……?」
腕の中でチョコが身動ぎした。
どうやら目を覚ましたようだ。
「わふー⁉︎」
そしてチョコは悲鳴をあげて気絶した。
よくよく考えれば、目を覚ました直後に目の前に巨大な狼の顔があればそれはもう驚くことだろう。
ユウキには恐怖よりもまず神聖さと綺麗だという思いがあったが、小さなチョコからしたら畏怖する対象だろう。
そしてゴタゴタしているうちにユキは再び社へと戻っていってしまった。
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