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五色の書  作者: 鳥辺野ひとり
王都 ティンダーリア魔法学園
43/104

試験と入学 その4

(2019/06/09 分割しました。)




 新品の上質な白い生地の半袖シャツに臙脂(えんじ)色の半ズボン。胸ポケットや袖には、深いワインレッド地に金糸の刺繍が施されたワッペン。


 五本の杖を象ったそれは、私立ティンダーリア魔法学園の校章だ。


「よく似合ってるぞミリク」

「えへへ~」


 梔子(くちなし)色の短めのタイを締め、魔物の革でできた必要以上に丈夫な鞄を抱える。



 今日は学校の始業日。入学式も兼ねている。



 行き交う馬車には親子連れも多く、子供の新たな人生の一歩に誰もが気もそぞろな様子である。


 タルザム達もそんな親子の一組だった。

 と言ってもミリクは平常運転だが。



 校門を抜け、馬車から降りると、講堂前にクラス分けが貼り出されているのか人だかりができていた。

 一方事務員が新入生とその保護者達を講堂内へと誘導している。こちらは入学式だろう。


 式といっても大仰な式典ではなく、ナラナート理事長が新入生・編入生向けに魔法を一発披露するというイベントである。



 毎年違った魔法を放っているようだが、今年は光輪が幾つもの光球に分かれ尾を引きながら頭上を縦横無尽に駆け巡り、開け放たれた天窓を抜けていくというものだった。


 光の残像の軌跡が織りなすレース模様は、その破壊力を知らない者からすれば非常に美しい。


 天井を見上げ目を輝かせる少年少女達。同席した保護者の面々も理事長の圧巻の魔法に感嘆している。



 しかし、クラスが宛がわれているわけでもないミリクと共に講堂で入学式に参加していたタルザムは、そのやけに見覚えのある魔法に微妙な顔をせざるを得なかった。



「この学び舎で君たちが、今の魔法を超える成長、創造、発見をしてくれることを私は期待している」


 そうナラナートが締めくくると、講堂は拍手に包まれた。


 タルザムも流石に空気を読んで拍手する。ミリクもぱちぱちと手を叩いた。




 入学式が終わると、レクリエーションなどもあるが残りは通常の授業。

 保護者はここで退場となる。


 タルザムも心底不安だが残っていては却って目立つので渋々職場──今は王都の衛兵達の臨時顧問をやっている──に向かう。



「ミリク、何かあったらすぐに連絡するんだぞ」

「はい、ちちうえ!」


 あちこちで同様に親子の別れの光景が繰り広げられている。


 ちょうど一限目の休み時間であり、新入生を一目見たいような高等部(ギムナ)までの在校生もちらほらと見えた。





 ミリクはタルザムと別れると、とてとてと教室とは違う方向に歩き始める。

 在校生の一人がおや、と思ったのかミリクに近づき話しかける。


「新入生君、そっちは教室じゃないよ」

「? はい。そうですね」

「ん? んん?!」


 彼は振り返ったミリクを、正確にはその制服にあしらわれたワッペンを見て、目を剥いた。



 校章のデザインのワッペン。

 このワッペンはティンダーリア魔法学園に在籍していることを示すと同時に、所属している学級も表している。


 初等部(プリマ)なら赤、中等部(リュケ)なら青、高等部(ギムナ)なら白、研究室(ゼミ)生なら銀という具合だ。



 しかし、子供サイズのシャツに縫い付けられたミリクのワッペンには()()が用いられている。



 それは生徒ではなく、()()()の色だ。



 年齢がバラバラなこの学校では、ワッペンの示す階級が第一である。

 それでもミリクの五歳児な見た目とワッペンの階級とのあまりのギャップに、話しかけていた男子生徒は目を白黒させて固まってしまった。



「ミリクトン殿、丁度良かった。先ほどの魔法はいかがだったかな。私なりにアレンジしたのだが」


 そこに割って入ってきたのはナラナート。つまり理事長だ。


 ミリクは少し考える素振りをして、答えを返した。


「もくてきがちがったので、ひかりのそうさだけでもよかったとおもいました。こうげきにつかうのでしたら、もっとふきそくなうごきのほうがこーかてきです」

「おっと、中々手厳しい。だが正論だな。ついつい新しい魔法に夢中になってしまった」



 理事長と平然と会話する子供という奇妙な光景は、一周回って親子なのではと感じるほどだ。



「午後の授業の後、教授会で君から自己紹介してもらおうと思うのだが、それまで時間がある。私が教授棟を案内しようか」

「おいそがしいとおもうのですが、だいじょうぶなのですか? じむいんさんでもいいんですよ?」

「実のところ少しでも早く君と話をしたくてね、年甲斐もなくうずうずしてるんだよ」

「そうなんですか」



 二人きりの空間といった感じで教授棟へ向かう彼らに気付いていたのは、まだほんの一部の在校生だけでだった。






「ほぅ……つまり『五つの恩寵』のうち『黄』だけは他の四つとは根本的に異なると──おっと、もう着いてしまったか」


 会話(というよりもナラナートの一方的な質問攻め)が中断となり残念そうなナラナートの視線の先には、ウォルナット製の扉。


 そこには、銀色に輝くできたてのネームプレートが掛けられていた。



“ミリクトン・ボープ・サングマ教授”



 ミリクが自分の目の上ほどの高さの真鍮のドアノブに手をかけて、その扉を開ける。




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