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五色の書  作者: 鳥辺野ひとり
王都 ティンダーリア魔法学園
40/104

試験と入学 その1

(2019/06/09 分割しました。)




 夏の暑さが落ち着き始め、麦の収穫が終わる頃。



 王都は収穫祭に向け賑わいを見せている。


 国内各地の領で収穫され税として納められる分の新麦と小麦粉が十日ほどかけて王都に集まる。新麦は熟成も兼ねて王都の貯蔵塔(サイロ)で保管され、必要に応じ消費したり各地へ再分配したりするが、小麦粉については収穫祭で使ってしまう割合が多い。


 生産された領によって麦の性質が微妙に違うため、向いている料理も違う。


 例えばサングマ領の麦で作られた小麦粉は蛋白質が多く、特にパスタに向いている。王都から遠く内陸側の領では食料の保存性が求められるため、パスタや乾パン、生ハムやベーコンといった肉加工品(シャルキュトリー)、酒類が発達している。

 一方海側は、新鮮な魚介類よるフリッターのような揚げ物がメジャーだ。小麦粉も粘り気が少ないもので、いわゆる粉もの向けである。

 王都近辺は貴族が集中しているため贅沢品も多く、小麦粉の用途もケーキのような菓子類に使われる割合が多い。


 そして各地の名産品が集まる収穫祭では、各地でトップクラスの料理人も合わせて招聘(しょうへい)される。

 国内各地の郷土料理が王都で一堂に会しているのだから、自然とコンテストのような形になり、今年も鎬を削っている。


 ちなみにミリクのパーティで目をつけられたのか、“豪炎食堂(トラットリア・バーン)”のバンノック・バーンがサングマ辺境伯家から推薦されて、今は王都で豪炎火柱ラザニアを量産しているらしい。



 そんな盛り上がりを見せている王都だが、例外もある。

 一部の子供たちだ。


 彼らは緊張を隠せず、家に籠る者も多い。



 キャッスルトン王国の学校は秋始まりである。

 エリート校なら入学試験が存在し、それは学校開始の手前二週間ほどに行われる。




 それはキャッスルトン王国において魔法学の最高学府と言われる私立ティンダーリア魔法学園も例外ではない。




 私立ティンダーリア魔法学園。


 現代の属性魔法と錬金魔法の基礎理論を確立したティンダーリア侯爵家が出資、運営している総合魔法研究教育機関だ。

 既定の年数として初等部(プリマ)三年、中等部(リュケ)三年、高等部(ギムナ)三年、研究室(ゼミ)生三年の全十二年。六歳で入れば、飛び級なしの高等部卒業でちょうど十五歳で成人となる。

 また、年齢制限がないため各学年で年齢はバラバラである。


 扱っている内容は多岐に渡っており、ティンダーリア家の得意とする錬金魔法は勿論のこと、属性魔法、遺物の調査、一般公開されている神聖魔法の理論的解析や他の魔法との組み合わせによる応用研究、さらに純粋な研究開発以外にも軍事分野応用ということで魔法戦闘を主とした研究室という名の戦闘集団も存在している。


 とかく魔法学の分野では他の追随を許さない。


 基礎学力支援から最先端の研究まで行う教育機関……というよりも研究人材育成込み込みの巨大研究施設と言える。


 人材育成に対する支援はとにかく能力あるものに対しては徹底されている。

 運営の御眼鏡にかなえば初等部(プリマ)の学費は無償。

 中等部(リュケ)以降についても、研究室(ゼミ)への配属を希望しそれに見合った成績を出していると学費が無償になる。研究室生に至っては給与が支払われる。


 その代わり、飛び級も兼ねているものだが昇級試験がある。

 合格しなければ初等部(プリマ)から中等部(リュケ)中等部(リュケ)から高等部(ギムナ)、そして高等部(ギムナ)から研究室(ゼミ)生へと昇級することはできない。既定の年数以上の在籍で二度不合格となれば退学(強制卒業)となる厳しいものだ。


 そのレベルの高さはある種のブランドとなっており、中等部や高等部をきりよく卒業するだけで、魔法使いとしての就職先は引く手数多。

 ティンダーリア魔法学園の卒業認定がそのまま国家資格として認められるほどである。



 そして入学試験には、入学の可否判定に加えてその昇級試験が含まれている。レベルに合った最適な学年に配属するためだ。



 とはいえミリクは五歳。

 当然周囲は初等部(プリマ)志望なのだと考える。

 実際タルザムは入学してしまえばエデンベールの方から勝手にやって来るだろうし、それで問題ないだろうと考えていた。むしろ父親としては、初等部の方がミリクと歳が近い子が多いので望ましいくらいだ。

 そんな初等部の試験は、才能ある子供のためにと設けられたものなので、基礎学力を確認するような読み書き計算が中心となるのだが──


「できましたー」


 戦略兵器が計算間違いをするわけもなく、暗号複合化アルゴリズムと自然言語解析を用いて現代の文字文法も解析済みのミリクには、貴重な紙の無駄遣いにしかならない。

 そしてそれは入学希望学年(問題の難易度)がいくら上がったところで変わらない。


「できましたー」


 ミリクからすれば、二桁と足し算も小数の割り算も二次関数も微分方程式も代数幾何学の証明もそれほど差がない。計算量の違いだけだ。


「できましたー」


 国内外の歴史や現在普及している魔法の様式と理論について、流石にミリクは知らなかった。

 先代所持者(マスター)と別れて機能制限状態となってから、山賊に捕まってタルザムに保護されるまで、ミリクはまともな文明に触れる機会がなかったからだ。


 その辺りは王都に転居したら勉強させようかとタルザムは考えていた。

 しかし、いざ勉強を始めさせようとしたら、「国内書籍の解析が保留中です。実施しますか?」とギャバリーが言い出したのに対して、「え、あぁそうだな、一般公開してるやつはこれからやってもらう」と返してしまい、国内の全ての一般書籍の内容がインプットされてしまった。

 タルザムは己の軽率な発言を呪った。だが一般公開に限った点については自分を誉めた。


「できましたー」


 だがそれでも、各分野各難易度の筆記試験開始後五分足らずで答案を提出し教室から出てくるミリクに、タルザムは顔色をどんどん悪くする。



 最先端の魔法学園なので、魔力の測定と実技試験がある。


 測定も実技もろくなことにならないことぐらいは予見できていたタルザムは、偽装可能なら人並みに偽装して実技もその偽装した魔力量しかない前提ですることと指示はしていた。



「それじゃあこのガラスに手をあててね」

「はい!」


 試験官の指示に従い、ミリクは台座に固定されたガラスの円柱に小さな手でぺたりと触れる。

 無色のガラスの円柱は、内部に細い金属のワイヤーと色ガラスで構成された魔法陣が幾層にも重なり、円柱を支える鉛の様な質感の台座には細長い穴。

 試験官は、そこに金属の札を差し込んだ。


 《クラスⅡの不正アクセスを感知。事前指示に従い、欺瞞法による偽装情報との置換を実施します》


 ギャバリーからの通信と同時に、試験官がガラス柱から何かを読み解いているのか、まじまじと見つめている。


「じゃあ、君はこの札を持って、第二実技試験会場に向かってください」


 試験官が紙に何かを記して(恐らく魔力量だろう)ミリクに台座から抜いた札を手渡した。




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