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五色の書  作者: 鳥辺野ひとり
サングマ辺境伯領
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騎士と街並 その9




 次に一行は赤鉄(あかがね)通りにある、タルザム行きつけの武具店、“万鎚堂 サングマ中央本店” へと向かった。


 流石に貴族の息子としても近衛騎士の息子としても、子供とはいえ一流の武具一式を揃えてやらなければならない。今までミリクはほぼ着の身着のままだったし、先日の模擬戦も訓練場の道具を借りただけだった。

 まして今度行うのは領の各地の貴族を集めたパーティーでのお披露目。

 礼服だけでは、相手に口撃で何を言われるか分かったものではない。


 ちなみに礼服の調達は兄たちに任せている。伯爵家には専属の衣装師がいるため、彼らを使うという。昨日ミリクは採寸師にあちこちを測られていた。

 衣食住の面がかなり改善したもののミリクの身体はまだ小さく細い。傷こそもう無いが、その痩せた体を沈痛な面持ちでタイガーヒルらは見ていた。孫バカが悪化するわけである。



 辺境伯領であるサングマでは、多くの武具屋が(しのぎ)を削っている。


 万鎚堂は、そんな数多くの武具店の中でもハイエンドな武具を中心に取り揃えており、王家の近衛騎士団に剣を卸したこともある高級店だ。


 職人が直接接客までこなし、客に合った武具をオーダーメイドで用意してくれる。

 故に不相応な者は客として相手にすらしてもらえない。



 そんな店でも子供向け商品が揃っている。


 武力が人の評価に繋がりやすい辺境伯領では、戦士として幼少期から身体を鍛える者も多く、貴族や上位の騎士が才能を見出した子供・見習いに買い与えようと、しばしばやってくるからだ。

 勿論実力が見合わない者であれば、決して売ってもらえない。だからこそ万鎚堂の武具は、持っているだけでステータスたりえるのだ。



「予約のタルザムだ。早速だが店主、俺の息子の武具を見繕ってやってほしい」

「みりく、ぼーぷ、さんぐま、です! よろしくおねがいします!」


 律儀に頭を下げるミリク。


「ははは! よろしくな坊主! 貴族様の子供(ガキ)にはイキった奴が多いが、ずいぶん躾が行き届いてんな副団長様」

「ええ、まあ……」

「サイズは伯爵様から聞いている。奥の部屋にいくつか一式を用意した。あとは副団長様のお眼鏡に適うものを選んでくれ。それをベースに調整する。こっちだ」


 そうして奥の部屋に案内される。客から要望や戦闘スタイルを確認しつつ、使い勝手を確認することもできる部屋だ。

 そこにはタルザムから見ればこじんまりとした、しかし実戦を意識した作りの鎧。そして役割(ロール)に応じて素材や付随する装備が変わっている。


 後衛の魔法使い仕様は、物理と魔法への耐性と適度な機動性を実現するローブ。そこに、魔法を事前展開・増幅・制御する魔石を収めた杖や、即時展開(ショートハンド)用のスクロールが付属している。実際にサングマ辺境伯領の広域殲滅部隊で標準運用されているものとサイズ違いなだけで、同一性能のものだ。

 中衛の魔法剣士仕様は、攻撃特化・防御特化・機動特化・隠密特化と4パターン用意してある。中でもかつて豪炎のバンノックが好んでいたのがこの攻撃特化で、前衛もこなせる幅広いレンジと派手さが人気だ。無論中衛自体立ち回りも難しく、下手に初心者が使えばどっちつかずになってしまう。

 前衛の魔法拳士仕様は機動特化のみ。リーチが短く一般には見たことがないと言われ不人気だが、機動特化は並の攻撃はかすりもしないほど回避性能が群を抜いている。そのピーキーな性能は、一部の玄人が付き人にまぎれて護衛を行う際に好んで用いられるプロ仕様である。


 タルザムは、以前の模擬戦や今までのミリクの魔法と近接も含む戦闘能力を鑑み、やや極端な戦闘スタイルの武具を準備してもらった。


「鑑定ができないとめんどうだろう。すまないな」

「何、それだけ掘り出しモンの秘蔵っ子ってことだろ? 構わんさ。まあ、その歳でこの極端で一線級のヤツらを一式ってのは、正直な話、正気かと思ったがな。だが、こうして本人を見ると……ただならぬものを感じる。まるで底が視えんな」


 店主は鑑定(カノス)と長い経験によって磨かれた眼により、最適な武具を提案することができる。だが上客の中には、鑑定をしないでほしいという者もいる。ほとんどが機密上の問題である。

 ミリクに関しては、はじかれ擬装される上に最悪死ぬこともあり得るため、シンブーリから指示が出ていた。


 そんなミリクは、並べられた武具達を興味津々で眺めている。


「ちちうえ。おれは、どれでもだいじょうぶだよ。ほんとは……」


 ミリクは申し訳なさそうな顔をする。


(そうだろうな。これらは間違いなく最高級の業物だが……ミリクからすれば、有っても無くても変わらないだろう)


 タルザムは納得していた。


 ミリクは何も持っていなくても、魔法だけでこの国どころか大陸を制圧できてしまう。

 そのうえ戦闘に関する制限が無くなっている今のミリクは、体術も凄まじい。

 身体の小ささと俊敏さで的を絞らせず、重心の移動を見極めて近衛騎士だろうが容易く地に伏せられる。ちなみに転ばされたのはタルザムである。

 そもそも何の策も無しに木の棒を強化して振り抜くだけで、相手を鋼の鎧ごと斬り飛ばしてしまう。


 魔法も機動性も攻撃力も外部から補う必要がない。

 当たらないので防御力も要らない。



「なら、これにしよう」



 それは、中衛である魔法剣士の機動特化。タルザムと同じ方向性のものだ。親子で同じ戦闘スタイルというのは、外から見て最も自然。そしてそれ故に相手に最も情報を与えない。


「ちちうえとおんなじ!」


 ミリクはフンスフンスと興奮している。

 早速試着して、使い心地の確認を行う。ミリクは何度かジャンプすると、一瞬姿がぶれる。そのあとコロンっと転がり受け身を左右前後斜めと八方にとる。


「よろいはだいじょうぶです!」


 今度は剣の柄に手を乗せる。一瞬手元がぶれた後に、ゆっくり剣を抜き、小走りしながら剣を振る。クルクルと身体ごと回りながら勢いを殺さずに、上下左右斜めに突きと舞うように空を斬る。


 タルザムらがその華麗な剣舞に見惚れていると、トテトテとミリクが店主の下に走り寄る。


「もうちょっとながくて、あと、おもいのがてのほうだと、いいです!」

「お、おう、すげぇ坊主だな。その辺の騎士より巧いんじゃないか?」

「えへへ~」


 タルザムは店主へ調整の依頼書を書くと、なんとも言えない渋い顔をしつつ、ミリクと共に家路についた。





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