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五色の書  作者: 鳥辺野ひとり
サングマ辺境伯領
14/104

騎士と街並 その4

シ⚪タフェ⚪でばたばたしてたら遅くなりました。



(2019/04/11 文字化けしていたのを直しました。)

(2019/06/09 分割しました。)




「みりくとん、ぼーぷ、さんぐま、です! みりくってよんでください! ふつつつ……? ふつつかものですが、よろしくおねがいします!」


 タルザムの傍らでぺこーと頭を下げるミリク。


「あぁ、サングマ分家当主シンブーリ・ティッピー・ボープ・サングマの名の下に、君を新しい家族として快く歓迎しよう」

「あら~、ミリクちゃんすごい礼儀正しい子ですわね~。うちの息子にも見習って欲しいわ。よろしくね」

「母上……改めてよろしくなミリク」

「だーあ、いーぅ」

「タルザム、貴方、子育てできるほどの甲斐性、あるかしら? 何かあればお婆ちゃんに相談してねえ、ミリクちゃん」

「そうじゃぞタルザム。母親も無しに子供だけ家族にするなど子育てを甘く見とるのかお前。今からでも見合い受けてこい。お爺ちゃんに何でも言ってくれなぁ~ミリク~」


 対するはサングマ分家長男伯爵一家。



 先代当主夫婦、タイガーヒル・ボープ・サングマ59歳と、ソナーダ・ボープ・サングマ。家督は息子へ既に譲っているが、むしろその分より気ままになっている節がある。淑女の年齢は知るべきではない。


 現当主夫婦、シンブーリ・ティッピー・ボープ・サングマ34歳と、マーガレット・ボープ・サングマ。マーガレットはサングマ辺境伯領内の一地方の内政を取り仕切る子爵家の長女だ。珍しく恋愛結婚で、今でも熱々。女性の年齢は知るべきではない。


 それに現当主夫妻の二人の息子、長男バラスン・ボープ・サングマ10歳、三男シントン・ボープ・サングマ1歳2か月。長男には(タルザムの反省を活かし)縁談が既にいくつか見繕われているし、舞踏会の顔出しもそれなりに行わせている。


 他に政略結婚した側妻二人──第二夫人アクイア、第三夫人ナーレ──と、それぞれ授かった7歳の次男オークスと4歳の長女ティアが別邸で暮らしている。

 彼女達は基本的には表に出てこない。貴族の子供は10歳のときに顔見せの披露パーティがあるので、それまでは箱入りなのだ。

 勿論、別邸にも後ほど挨拶に向かう予定でいる。




 さて、タルザム・ボープ・サングマ32歳。恋愛経験ゼロである彼は、まあ、確かに今回ばかりは父親の言葉を受け入れざるを得なかった。


 兄のあれこれを待ちつつ騎士道一直線(ただし脇道で子供を拾い上げる)の結果、この世界では少々厳しい年齢になってしまった独身男性。

 長男一家がもう安心できる状態であることから、実際のところこのまま独身を貫いても問題はない。


 別に女性とまったく縁がないわけではない。何せ近衛騎士だ。それなりにモテる。


 ただ近衛といっても辺境伯の身辺警護ではなく、辺境伯領内、特に領都近辺におけるトラブルに対し辺境伯の権限で最も素早く動かすことが可能な精鋭部隊だ。ミリクを保護したときもそうである。


 同じ騎士でも国内側に比べると、どうしても死地に向かう機会が多い。ゆえに家庭を築くことに抵抗が多少あった。何せいつ家族を遺して死んでしまっても、文句は言えないし聞いてやれない。



 シスター・リザヒルはどうか。

 十年ほど前の変異種の氾濫(スタンピード)の頃にやって来た彼女とは、それなりの長い付き合いになる。

 なんせタルザムが孤児を保護する度に、彼女がその対応をするくらいだ。拾うばかりで世話を任せっきりにしてしまっている彼女へ、タルザムは頭が上がらない。

 孤児院の設立時も色々世話になっている。


 たがそんな彼女が自身の家名を口にしたことはなかった。

 少なくともタルザムは聞いたことがない。


 この国の宗教では、家庭を築き子を授かることは善行とされており、従って聖職者が結婚することに問題はない。


 しかし、タルザムは貴族だ。平民では家格が合わない。妾としてならともかく、正妻として迎えるのは難しいだろう。当主の正妻よりも下であるべきなので子爵家の次女以下、男爵家の娘以上が望ましい。



 タルザムの知己の女性のほとんどが平民だ。

 薬屋の肝っ玉店主、団長行きつけの酒場の看板娘。兵の備蓄食料の買付先の大棚の敏腕売り子。それに戦いで夫を失った未亡人達。パン屋や靴屋などで働く彼女達と世間話をすることもある。


 あとは、護衛任務のようなものも、まぁあるにはある。だが、そもそもそんな女性は目的地に目当ての男性がいることがほとんどだ。少なくとも「あなた様にお会いたくて、いつもご依頼していますの」と宣う女性を、タルザムは見たことがない。




 舞踏より武闘に身を置くタルザムは、高貴な女性と縁を持つ機会がなかった。



「……父上、流石に今回は私も思うところがあります。後ほど縁談の資料を拝見させてください」


 タルザムは、しかし渋々といった表情でその言葉を口にした。


「おお! そうか、そうか! ようやく決心してくれたか! この堅物め、一体誰に似おったのか」


 あなたですよとは誰も口に出さない。優しさであり、そのあと発生する口論のめんどくささを思っての無言である。


「うふふ、今日はお祝いしなくてはいけませんね、貴方、お義母様」

「そうねえ、マーガレットさん。大変素晴らしいわね」

「ああ、今日の晩餐は豪勢にしよう。パーティも早めに開くべきだな。ディララム、手配を頼む」

「承知いたしました、旦那様。僭越ながら、パーティは領内の貴族方向けにお開きになるのがよろしいでしょう。御本家以外への招待状を略式にし通信魔法を用いれば、五日程度で間に合うかと存じます」

「そうしてくれ。今回は早さが肝要だ」


 ディララムはタイガーヒルの代から重用されている執事であり、今では家令を務めている。そして彼は当主の意志を十分に汲み取っていた。


(本家に対してできる抵抗はこの程度だな)


「では、私はディララムと早速招待状を用意する。父上には悪いのだが、別宅の妻達にもミリクを紹介させて欲しい」

「構わんとも。ミリクや~またあとでおはなししようなあ~」

「はい! おじいちゃん! おばあちゃん!」

「ほっほぉ~! いいのお! やはり孫の声は寿命が延びるわ!!」


 タルザムは、父親のテンションの高さに若干引いていた。




 シンブーリとディララムが席を立ち執務室に向かうのを見送ったあと、タルザムとミリクはメイドに案内され、別邸へと移動した。




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