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五色の書  作者: 鳥辺野ひとり
サングマ辺境伯領
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騎士と街並 その2





「それでタルザム、ミリクを養子にするとして、孤児院のガキたちはどうするつもりなんだ?」

「それは……おいおい説明するつもりです」

「良い方便を思い付いてないんだな?」


 タルザムとラングリオットは、ミリクについて話し合いをしていた。そこで、孤児院の話題が上がる。孤児院の子供たちはタルザムに対して当然好意的ではあるが、自分達を差し置いて養子になれるミリクに対してはそうは行かないだろう。

 貴族の血筋などという理由を彼らは理解できないし、そもそも嘘である。


「シンプルな方法がある。お前は嫌がるだろうがな。そうだな、詫びとしてうちの若手も揉んでやろう。本物の強者、魔法使いと手合わせできる貴重な機会だ」

「団長まさか……」

「模擬戦で、格の違いを見せ付けてやれ。できるだろ?」


 サングマ辺境伯領は、当たり前だがキャッスルトン王国の国境に存在し、最も外威と接触する場所の一つだ。人だけでなく魔物にも対抗するため、独自に運用できる武力を持つことが許されている。

 そんな場所であるために、この領では戦力としての価値、武勇が個人の評価に繋がりやすい。


(ミリク、ギャバリーに替わってくれ)

「わかった──マスター、いかがいたしましたか」

「お前、賊に捕まっていたが……体術とか武術はどうなんだ?」


 タルザムは心配していた。何せミリクの見た目は6歳程度で、その身体はとても成熟しているとは言いがたい。その上最近まで山賊に良いようにされていたのだ。

 確かに魔法は強烈だが、人外の力をしょっちゅう(おおやけ)に振るうわけにはいかない。ミリクのもつ魔法という最大の強みに縛りをつけて、本当に大丈夫なのかと懸念していた。


「マスターが存在していない状態の『賢者の本棚(我々)』は、単独でのあらゆる魔法、武術、破壊行為について、アクセス違反を除き基本的に禁則が掛けられています。現在は解除されておりますので、命じていただければ近接対人・対軍戦闘も可能です」

「そうか……極力怪我人は出さないようにしてくれ」

「承知しました」




「というわけで、彼がタルザム副団長殿の養子になるミリク殿だ」

「みなさん! おれは、ミリクです! よろしくおねがいします!」

「彼は、貴族としての縁でタルザム殿の養子になるわけだが、単にそれだけではない。魔法使いとしての技量、武術、戦力としての高い価値から認められたものだ」

「みとめられました!」


 元気に返事するミリクと、笑顔のラングリオット。

 傍らには顔色の悪いタルザム。

 目の前には若手の騎士達と、タルザム(院長)から大切な話があると、何故か騎士達の訓練場まで連れてこられた孤児院の子供達。彼らは怪訝な顔をしていた。


 内容もそうだが、ラングリオットの、団長の笑顔が、あまりにも作為的というか悪巧みしているというか、はっきり言って嫌な予感しかしない。

 勿論、ミリクに対して嫉妬の感情を覚えたものも少なからずいる。

 たが、特に孤児として生き抜いてきた子供達は、“命の危機” というものに敏感だった。下手すれば、訓練をしているだけでまだ死地を経験していないような若手騎士よりも、確かな勘が働いていた。


「そこで、大変良い機会なので、ミリク殿と個人と集団で模擬戦を行う。孤児院の子達の中には騎士志望の者も居ると聞く。個人の模擬戦であれば特別に参加を許そう」

「がんばります!」


 孤児達は顔を見合わせ、深刻な面持ちで思案しあった後、一人だけ名乗り出た。

 体格の良い少年は、しかしその表情はミリクへ不満があるという風ではなく、()()を決めた顔をしていた。


「ダージー、14歳です。来年、成人したら入団試験を受ける予定です。ミリク様、よろしくお願いします」

「おねがいします!」


 ダージーは、孤児院の代表として、そして万に一つくらいの確率で自身の腕を団長に見てもらえれば、と己を奮い起たせ、なんとか死のイメージに抗い前に出た。無論、払拭できてはいない。

 いつも鍛練に使っていた、何千回と振ってきた、殴れば人一人ぐらい昏倒させられる木剣が、今はあまりに心細いと彼は感じていた。


 多くの若手騎士達には、その危機感が理解できない。

 しかし団長はそんなダージーを既に高く評価していた。


(タルザムのやつ、中々いい人材を育てているじゃないか。相手の見た目に惑わされず、自身との力量差を感じ取っている。その差を承知で挑むその胆力も素晴らしい。まったく、若手共にも見習わせたいな)


「いきなりまほうでばんばんするのはよくないっていわれたので、まずは、きょうかだけでがんばります!」


 そう言ってミリクもダージーと同じ大きさの、成人が使う大きさの木剣を()()()構える。柔らかそうな細腕で、ミリクのその身体と大差無い大きさの両手剣を、まるで小枝のように軽々と持つ。

 その姿を見てようやく一部の騎士が、こいつヤバイんじゃないかと感じ始めた。


「では、早速個人戦から始めよう。ダージーと言ったな。君のその勇気を認め、初戦を譲ろう。どうもうちの若手には実感が足りていないようだからな」

「! ありがとうございますラングリオット団長!」

「ダージー、無茶するんじゃないぞ」

「……分かってます。命あっての物種ですから」


 ミリクが暇そうに木剣を地面へサクサクと抜き差ししている。

 勘のいい騎士が地面をつま先で叩く。固い。



「それでは両者並んだな」



 ミリクとダージーが訓練上の中央に大きく間を開けて並ぶ。ダージーの目測で20歩分、ミリクならもっとだろう。

 強化の魔法以外使わないという破格の条件なので、いきなり火で焼かれるようなことはないが、それでもダージーは生きた心地がしていない。



「始め!」



 そして団長の掛け声と同時に、爆音が響く。


 ミリクの足元が爆発した。


 土煙が舞い視界を奪う。そしてさらに目を疑う。

 四角く切り取られた土の塊が飛んできた。ダージーは辛うじてそれを避けるが、その時になって気づく。



(いない!)



 そしてもう手遅れだった。



 ダージーが背中から衝撃を受けたかと思った瞬間には、土煙を抜け、空に打ち上げられていた。





(──空、綺麗だなぁ)





 浮遊感の後、当然その身体は地面に近づいていく。


「あ゛ああああああああ!!!」


 土煙に再び突っ込む。

 ダージーは木剣を抱き締め身体を硬直させていると、ぽすり、と身体を抱き止められた。



 ミリクのお姫様抱っこである。



「あ」



 そのままそっと地面に下ろされ、首元に木剣の切っ先を寸止めされた。




「そこまで! 勝者ミリク!」




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