前編第5章 「千客万来!武装メイド百花繚乱!」
かくして第25回つつじ祭の開会時間となり、我が「メイドカフェ ビクトリア」にも少しずつお客さんがやってきたの。
「お帰りなさいませ、御主人様!」
「こちらにお掛け下さいませ!」
やっぱりこの場合は、「御主人様」と呼んだ方がいいのかな?
なかなかどうして、メイドさんが様になっているよね。
特命遊撃士も、特命機動隊曹士の子達も。
笑顔も実に晴れやかだし。
ところが、どんなケースにも例外は必ず存在するみたいで…
「御主人様…何をお召し上がりになりますか…?」
「え…?君、まさか怒ってないよね?」
かおるちゃんは、どうも表情に乏しいんだよね。
お陰で、県立大の男子学生と思しきお客さんも微妙に引いているよ。
もっとも、かおるちゃんの事はあまり大きな声では言えないんだよね、私って。
「そうね…では、このスコーンセットをお願い出来るかしら?飲み物はアッサムのストレートで。」
「はっ!承知致しました!復唱します!スコーンセット並びに、アッサムティーのストレートでありますね!」
メイド服姿で踵を鳴らして敬礼する私を見た、民間人の女子大生と思わしきお客さんは、唖然とした顔をしていたね。
ねっ、こんな有り様なんだから…
私のいる友達グループは、私以外は全員少佐で、私だけが1階級下の准佐なの。
普段はタメ口でいいんだけど、作戦行動中は指揮系統の関係上、他の友達の部下として扱われるんだよね。
英里奈ちゃんとかは、作戦行動中でも普段と変わらない口調だけど、さっき名前を挙げた和歌浦マリナちゃんとかは、序列をはっきりさせてくるんだ。
その方がキビキビと動けるから、私としても助かるんだけどね。
そうして他の友達の部下として返答する事に慣れているから、畏まった局面ではついつい軍人口調になっちゃうんだよね。
それも、下士官仕様の口調にだよ。
「あっ…!こちらでございます、御主人様。」
かおるちゃんや私に比べると、英里奈ちゃんはなかなか様になっているね。
名家の御嬢様なので礼儀作法はバッチリだし、白庭登美江さんという本物のメイドさんを見慣れているから、メイドとしての立ち振舞いも違和感なし。
何より、内気で気弱な素振りが、こちらの保護欲を刺激しちゃうんだよね。
「吹田さん、お客さんは上官ではありませんよ。」
「うん…でも、かおるちゃんも少し表情が固いような気がするんだよね…」
やんわりとお互いにダメ出しするけれど、ばつが悪いよね。
染み付いた習性や性格を、今すぐに変えるのは難しいし…
「この際だから、そういうキャラで売り出してみたらいいんじゃないかな?かおるちゃんは無口なツンデレメイド、千里ちゃんはミリタリーメイドという具合に。いっその事、開き直っちゃって。」
馴染みの深い明朗快活で元気な声が、すぐ後ろから聞こえてくるね。
「あっ、京花ちゃん!」
振り返った先では、青い左サイドテールと明朗快活な表情が特徴的な遊撃服姿の少女が、屈託のない笑顔を浮かべていた。
この、いかにも主人公気質な子は枚方京花ちゃん。
私と同じ堺県第2支局配属の特命遊撃士で、階級は少佐。
レーザーブレードの使い手で、かおるちゃんと同じく御子柴1B三剣聖に数え上げられているんだ。
そして、私と英里奈ちゃんの共通の親友の1人でもあるの。
「私もいるよ、ちさ。」
英里奈ちゃんにエスカレートされてやってきたのは、黒髪を右サイドテールにして、少し長めの前髪で右目を隠したクールな立ち振舞いの少女だった。
京花ちゃんと同じく、少佐の階級章を左肩に付けた遊撃服に身を包んでいるね。
この子は和歌浦マリナちゃん。
御子柴高等学校の1年B組に在籍しているから、かおるちゃんや京花ちゃんのクラスメイトでもあるんだ。
B組での出席番号は最後尾だから、出席番号1番の淡路かおるちゃんとは、「B組のファースト&ファイナルコンビ」と呼ばれているよ。
「御2人は休憩時間も兼ねて、こちらにいらしたのですよ、千里さん。」
こう言いながらB組のサイドテールコンビの間からヌッと顔を出したのは、メイド服姿の英里奈ちゃんだ。
さっき「あっ…!」と妙な声を上げていたのは、京花ちゃんとマリナちゃんが来店したのを見て驚いたからなんだね。