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前編第4章 「衣は変われど心は変わらず、それが剣士の心意気!」

 かおるちゃんの複雑な心境も、分かる気がするな。

 とは言うものの、このままだと埒が空かないよね。

 英里奈ちゃんだって困惑しているし。

「気持ちは分かるよ、かおるちゃん。だけど今更になって、メイド服のデザインを変えるのも、他の催しのグループに入れて貰うのも無理な相談事だよ。」

「あの…流石にそれでは実も蓋もありませんよ、千里さん…」

 英里奈ちゃんに言われなくても、それ位は百も承知なんだよね。

 そもそも言い出したのは私なんだから、かおるちゃんには何らかの解決法を示唆してあげないと、この吹田千里准佐の面目は丸潰れだからね。


 そもそも、かおるちゃんがメイド服を着馴れていない事が問題な訳だから…

「そりゃ確かに、着馴れていないメイド服は落ち着かないかも知れないよね。私だって、遊撃服じゃない服を着て支局にいる事が、全く気にならない訳じゃないよ。でも、服装が違っていても、変わらない物があると思うんだよね?それって何だと思う?」

「心…でしょうか?千里さん…」

 よし!空気を読んだ答えをしてくれてありがとう、英里奈ちゃん!

「うん!心、或いは魂だね。かおるちゃんは、御子柴1B三剣聖に数えられる程の剣士だけど、剣士の魂とも言える物は何かな?」

 ここまで答えの分かりきった、人を虚仮(こけ)にした質問も、そうそうないよね。

 案の定、かおるちゃんも憮然とした表情を浮かべているな。


 でも、すぐに腰の辺りに手をやったから、私の筋書き通りに事が進んでいるのだけは確かだね。

「知れた事。それは、我が愛刀の『千鳥神籬(ちどりひもろぎ)』ですよ。」

 鍔鳴りの音をガチャリと立てて腰から外した愛刀を、目の高さまで掲げて私に示す、淡路かおる少佐。

 漆塗りの黒鞘は美しい光沢を帯びていて、私の顔を綺麗に写していたね。

 日々の丹念な手入れの賜物だよ。

「ねっ!剣士としての、そして特命遊撃士としての魂である刀は、かおるちゃんの腰に今でも差されているんだよ。私だってレーザーライフルを背中に担いでいるし、英里奈ちゃんだってレーザーランスを携行しているよ。」

 ここで言葉を切った私は、背中の個人兵装に手を伸ばしたの。

 そうしてレーザーライフルを身体の前面に引き寄せると、自ずと捧げ銃の体勢を取るのだった。

 何しろ、養成コース編入になった小6の頃から練習しているんだもの。

 すっかり身体に染み付いちゃっているよね。

「こうしていると、レーザーライフルの伝えてくる普段通りの重量感が、私を安心させてくれるんだよね。特命遊撃士としての私達の魂と誇りは、いついかなる時でも変わらない。例え今は、メイド服を着てはいてもね。」

 私の話に、かおるちゃんも英里奈ちゃんも、口を挟まずに聞き入っている。

「だからさ…!かおるちゃんも、メイド服に違和感を覚えたら、腰に帯刀している千鳥神籬(ちどりひもろぎ)に触れてみるといいよ。そうすれば千鳥神籬(ちどりひもろぎ)は、かおるちゃんに必ず応えてくれるよ!」

 私の意見を、かおるちゃんは最後まで一言も口を挟まなかったの。


 やがて腰に差した愛刀へと、何も言わずにソッと手を伸ばしたんだ。

 鍔鳴りの音を伴って漆塗りの黒鞘から迸る、千鳥神籬(ちどりひもろぎ)の光芒。

 スラッと抜刀した千鳥神籬(ちどりひもろぎ)を青眼に構えると、かおるちゃんは満足そうに微笑を浮かべる。

 そうして小さく鍔鳴りの音を響かせ、千鳥神籬(ちどりひもろぎ)を腰の鞘に納刀した時には、かおるちゃんは吹っ切れたような顔をしていた。

「ありがとうございます。吹田さん、生駒さん。お陰様で、気持ちの整理がつきました。もしかしたら私は、誰かに活を入れて貰いたかったのかも知れませんね。再び迷いが生じた時には、また千鳥神籬(ちどりひもろぎ)に問い掛けてみましょうか。」

 一礼した後に私達へと笑いかける淡路かおる少佐は、憑き物が落ちたかのような、実に爽やかな顔をしていたね。

「それがよろしいかと存じます、かおるさん…しかし、一般の御客様が驚かれるので、無闇な抜刀は御控えになった方が…」

 何とも水を差すような発言だけれど、そう言う英里奈ちゃんの気持ちも、私にはよく分かるんだよね。

 雅やかな美貌に爽やかな微笑を浮かべながらも、かおるちゃんったら、すぐにでもまた抜刀しちゃいそうだもん。

「まあ、いいじゃないの!かおるちゃんの迷いも吹っ切れた訳だからさ!そろそろ戻らないと、来場者の人達が来ちゃうよ!」

 こう言って、淡路かおる少佐と生駒英里奈少佐の肩を軽く叩いた私は、2人を研修用教室へと促したんだ。


 こういう役回りは普段だと、私と英里奈ちゃんの共通の親友である和歌浦マリナちゃんの担当なんだよね。

 ところがマリナちゃんは、今回のつつじ祭では公開射撃演習を受け持っているから、今頃は地下射撃場でスタンバイしているんだ。

 いつもの訓練のようにしていればいいんだから、「楽かな。」とも思ったんだけど、一般人の子達がギャラリーとして取り巻いているだろうから、やりにくいのかも知れないね。

 まあ、その辺りの事は、自由時間に合流したタイミングで聞いてみようかな。

 とにかく今は、自分の成すべき事を全うするだけだよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] これは……ドジっ子が落としかけた食器を愛刀でキャッチする演出があると見た!!(ォィ
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