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後編第15章 「私は前座?射撃訓練結果発表!」

 マリナちゃんの誘導が効を奏して、大型モニターの前に並べられたパイプ椅子に、民間人の子達は素直に着席してくれたんだよね。

 そして、特命機動隊の曹士の子達は、コンピューター端末の操作を担当する北加賀屋住江(きたかがやすみえ)一曹を除いた全員が、アサルトライフルを用いた担い銃の姿勢で、美しく整列していた。

 私もレーザーライフルを用いて、ビシッと同じ姿勢を決めているよ。

 使い慣れた個人兵装は、やっぱり落ち着くよね。

 スティックモードにしたレーザーランスを構えて整列している英里奈ちゃんも、幾分か自信と落ち着きを取り戻したような顔をしているもん。

 まあ、私と英里奈ちゃんの間で敬礼の姿勢を取るマリナちゃんに関しては、いつも通りのクールに澄ました表情だけどね。

 私と英里奈ちゃんがマリナちゃんを挟むような形で並んでいるのにも、ちゃんと意味があるんだよ。

 さっきの民間人少女達の熱狂的な様子を見たよね?

 興奮したあの子達が、万一にも間違いを起こさないようにという、威圧と牽制のためなの。

 要するに私と英里奈ちゃんは、マリナちゃんというVIPを守るためのボディーガードやSPの役割なんだ。

 もっとも、嵩張る個人兵装を構えた私と英里奈ちゃんが、身軽なマリナちゃんを挟んでいる構図は、厳罰を犯して審議会に出頭する人の両脇を固めているみたいで、何だか複雑な気分だけど。

「それでは公開射撃演習の結果を発表します。ここからの進行は、端末操作担当の北加賀屋住江(きたかがやすみえ)一曹にバトンタッチと致しましょう。北加賀屋住江(きたかがやすみえ)一曹!」

 江坂分隊の副長の声に、御年15歳の少女曹士が立ち上がった。

 ツーサイドアップに結い上げた鶯色の長い髪を、身体の動きに合わせてユラユラと軽く揺らしながら。

「はっ!承知しました、天王寺ハルカ上級曹長!不肖、北加賀屋住江(きたかがやすみえ)一曹、進行役を務めさせて頂きます!」

 民間人の子達ったら、ビックリした顔をしていたね。

 今までずっと座って端末を操作していた北加賀屋住江(きたかがやすみえ)一曹が、サッと立ち上がるや、よく通る明るい声はそのままに、美しく整った敬礼を決めたんだから。

「それでは来場者の皆様、正面のモニターを御覧下さいませ。」

 大型の液晶画面に表示された3枚の画像は、先刻の射撃演習で私達が撃ち抜いていた標的だった。

 5発の銃弾は全て命中していたが、黒い人影を模した的を穿つ弾痕は、眉間や目元を初めとする顔の上半分に散らばっていた。

 面白い事に弾痕の散らばり具合は、3枚とも同じような傾向を見せている。

 どうやら、誰か1人の射撃結果をまとめて表示しているみたいだね。

 そうでなければ、ここまで結果が似通わないよ。

「以上3枚の画像は、吹田千里准佐の射撃結果でございます。」

 女子アナウンサーや声優を彷彿とさせる、北加賀屋(きたかがや)一曹の明るく滑らかなソプラノボイスを契機に、4枚目の画像が表示される。

 大型モニターの液晶画面に大写しになった新しい画像は、遊撃士手帳の身分証明欄にも添付されている、私の証明写真だった。

 ああ、私だったんだ。この射撃結果は。

「多少のばらつきはあるものの、吹田千里准佐は、標的の頭部をほぼ的確に撃ち抜いています。レーザーライフルを個人兵装に選択されているだけあって、照準合わせの妙技はさすがですね。」

 北加賀屋住江(きたかがやすみえ)一曹のナレーションに合わせて、モニターには私の射撃演習の映像が、リプレイ動画として流れていた。

 カメラに背を向けてはいたものの、黒髪のツインテールと頭身の低い幼児体型は、一目で私と知れた。

 ズームインした定点カメラは、私の右肩越しに標的を視認出来るアングルを確保したんだ。

 標的の黒い人影の頭部に5発の銃弾が次々と命中し、先程モニターに表示されていた画像のうち1枚と全く同じ弾痕を穿った事が示された時、見学者の席から「オオッ!」と歓声が上がった。

「へえ…あの黒いツインテの子、思っていたよりやるじゃない。」

 ちょっと、「思っていたより」は余計だよ!

 さっきの「絶対、マリ様がトップ」の発言は何とかスルー出来たけど、今回の君の一言は覚えたからね。

 って、いけない…

 民間人相手にムキにならないって、さっき誓ったばかりなのに。

「総合評価は、88点の『優』評価です!」

 北加賀屋住江(きたかがやすみえ)一曹の朗々と告げる成績発表が地下射撃場に響いた時、私の右肩に重みが加わったの。

 だが、重みだけではなく、手のひらの柔らかさと温もりもまた、私の右肩に時を同じくして伝わってきたんだ。

「マリナちゃん…」

 私の右肩に手を置いて微笑んでいたのは、黒い右サイドテールをトレードマークにした、我が親友の1人にして公開射撃演習のVIPだった。

 見る者に鋭く冷たい印象を与えがちな真紅の釣り目は、限り無く温和で慈愛に満ちた光を帯びていた。

「良かったね、ちさ。」

「おめでとうございます、千里さん…」

 マリナちゃんの奥から身を乗り出した英里奈ちゃんも、あたかも我が事のような喜びに満ちた表情を浮かべている。

 人類防衛機構に入って、本当にいい友達を持てたよね、私って。

「ありがとう…マリナちゃん、英里奈ちゃん…でも、きっと2人の方が成績は上だと思うよ。」

 今の発言は謙遜が3割で、後の7割は自覚かな。

 何しろ、マリナちゃんは個人兵装を大型拳銃にする程のガンファイターだし、養成コース時代の成績は英里奈ちゃんの方が私より上だったからね。

「ええ…?でっ…でも、(わたくし)…ちっ、千里さん…」

「そいつは、これからのお楽しみだよ、英里!」

 余った右手で軽く頭を撫でる事で、オロオロしていた英里奈ちゃんを鎮静化させると、マリナちゃんは再び正面のモニターに視線を戻すのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 民間人よ。 どれだけ凄い事をしたのか分からず上から目線とかッ。 これだからミーハーはッ。
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