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後編第11章 「危うし生駒少佐!ぶっつけ本番のミニスピーチ!」

「また、今回は特別ゲストとして、和歌浦マリナ少佐の御友人であらせられる、生駒英里奈少佐と吹田千里准佐にも御越し頂きました。」

 天王寺ハルカ上級曹長の紹介を受け、私と英里奈ちゃんは一歩前に進み出た。

 英里奈ちゃんもようやく腹を括ったのか、少佐に相応しい威厳の伴った、実に堂々とした立ち振舞いだね。

 私も一応、そのつもりで振る舞ってはいるんだけど、民間人の子達の目には、ちゃんと二枚目に見えているのかな?

「生駒英里奈少佐と吹田千里准佐の御2人は和歌浦マリナ少佐と共に、先月の『吸血チュパカブラ駆除作戦』を、1人の犠牲者を出す事なく成功に導かれました。その目覚ましい御活躍は、皆様も御存知の通りと存じます。」

「ああ…そういえば、WEBニュースの画像で見たよ、あの2人。」

「和歌浦の君の両サイドにいた子達ね。名前までは覚えていないけど。」

 天王寺ハルカ上級曹長による紹介で、ようやく民間人の子達も、英里奈ちゃんと私の事を認知してくれたみたいだね。

 それにしても、マリナちゃんのオマケ扱いなのが情けないけれど…

「今回は御2人にも、公開射撃演習において自動拳銃の腕前を披露して頂ける事になりました。そんな御2人に、御言葉を一言頂戴したいと思います。それではまずは、生駒英里奈少佐!何か一言、よろしくお願い致します!」

 ハンドマイクを突きつけられた英里奈ちゃんの全身が、ピクッと揺れた。

「はい…先程、紹介に預かりました、堺県立御子柴高等学校1年A組、人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局所属の生駒英里奈少佐と申します…(わたくし)は個人兵装としてレーザーランスを選択させて頂きましたので、マリナさん程の射撃の腕前は持ち合わせておりません…ほんのお目汚し程度でして…」

 どうやら、英里奈ちゃんの頭の中にある急拵えのスピーチ原稿は、そこから先は白紙みたいだ。

 このままだと、英里奈ちゃんの頭の中も真っ白だろうね…

 それに気付いた私は、天王寺ハルカ上級曹長に歩み寄って右手を取ると、ハンドマイクに噛り付くみたいに顔を近づけたんだ。

「えっ…!吹田准佐?!」

 天王寺ハルカ上級曹長の戸惑いの声を、私は意図的に無視する事にした。

「ねっ!英里奈ちゃんって、とっても奥床しくていい子でしょ?だから、私もマリナちゃんも、英里奈ちゃんの事が大好きなんですよ!そんな私は、堺県立御子柴高等学校1年A組、人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局所属の吹田千里准佐と言います!先月の『吸血チュパカブラ駆除作戦』の際には、大浜大劇場の客席からレーザーライフルで狙撃してました。英里奈ちゃん同様、自動拳銃は、『一応、扱える。』ってレベルなので、温かい目で見て頂けたら幸いです。それでは、巻きが入っているので始めちゃいましょうかね、天王寺ハルカ上級曹長!」

 申し訳ないけれど、力技でまとめさせて貰ったよ、天王寺ハルカ上級曹長。

「はっ!承知致しました、吹田千里准佐!それでは和歌浦マリナ少佐、生駒英里奈少佐、吹田千里准佐。公開射撃演習の御準備の程を、どうぞよろしくお願い致します。演習内容は25mスタンダートピストル競技に基づく物としますが、来場者の皆様の御都合を考慮致しまして、制限時間10秒につき5発射撃。こちらを3セットという形にさせて頂きます。」

 天王寺ハルカ上級曹長の声を合図に、私と英里奈ちゃんは遊撃服の内ポケットに右手を差し込んだんだ。


 そっと内ポケットから取り出した、補助兵装の12連発式自動拳銃。

 そのヒンヤリとした硬質な手触りが、私の脳に心地よい緊張感を伝えてくれる。

「千里さん、先程はありがとうございます…」

 自動拳銃を再び手にした私に向かって、同じく12連発式自動拳銃を右手で保持した英里奈ちゃんが、そっと申し訳なさそうに話し掛けてくる。

 ああ、さっきの事だね。

 ハンドマイクを手にした天王寺ハルカ上級曹長に、即興で気の利いた挨拶を求められて、頭の中がフリーズしちゃった、あの一件。

「水臭い事は言いっこなし。私と英里奈ちゃんの仲じゃない。あんなの何でもない事だよ、英里奈ちゃん。成り行きだよ…」

 英里奈ちゃんの負い目にならないよう、気さくで屈託のない口調にしたつもりだけど、このニュアンスは正しく伝わっているかな?

 公開射撃演習直前という事もあり、トーンを落とした小声で喋っているから、伝法で無愛想な雰囲気になっていないか心配で…

「はい…成程、成り行きですか…」

 心得たとばかりに微笑を浮かべる英里奈ちゃんを見る限り、おかしな伝わり方はしなかったみたいだ。

 とりあえず、安心したよ。

 こうして一言二言のやり取りを終えた私と英里奈ちゃんが、各自のブースに入ろうとした、まさにその時だったよ。

「英里、ちさ、来てくれてありがとう!しかし、2人も公開射撃演習に飛び入り参加するとは思わなかったよ…」

 私と英里奈ちゃんの間に、マリナちゃんが割り込んできたのは。

「うん!まあね、マリナちゃん。私も英里奈ちゃんも、まさかこんな事になるとは思ってもみなかったんだけど…」

「成り行きですよ、マリナさん。」

 こうして今度は、私が英里奈ちゃんに受け売りされちゃうんだから、成り行きって分からない物だよね。

「まあ…何にせよ、英里とちさが来てくれて助かるよ。2人の前だと普段の私に戻れるから、ホッと一息着けたっていうか、落ち着いたっていうかさ…」

 まあ確かに、あのノリを続けるのもキツいよね。

 人から求められるイメージやキャラクターを演じていると、どこかのタイミングで、素の自分を出したくなるんだろうな。

 私見だけど、飾らない素の自分を見せられる相手っていうのは、その人にとって、心から信頼出来る相手に限られると思うんだよ。

 マリナちゃんにとってのそういう相手の中に、英里奈ちゃんや京花ちゃん、そして私が含まれているとしたら、私としては、これ程喜ばしい事はないかな。

 だって、マリナちゃんが私達の事を信頼してくれるなら、私達もマリナちゃんには飾らない素の自分を見せられるって事だもの。

 もっとも、今の私には、周囲の人達から期待されるイメージと自己イメージとの間に、そこまでのズレはないんだけどね。

 それが良い事なのか悪い事なのかは、今の私には、まだ判断出来ないんだけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] 空気が堅い現場ってのが嫌ですよねぇ。 そういう時こそ気心が知れる方が居なければね!
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