後編第10章 「我が愛しい人、そなたは和歌浦の君!」
司会進行役を務める天王寺ハルカ上級曹長は、再びハンドマイクを手にすると、見学者の一団に向き直った。
「それでは只今より、皆様お待ちかね!和歌浦マリナ少佐によります、公開射撃演習を開始致します!」
こうして高らかに宣言をした天王寺上級曹長は、未だ敬礼の姿勢を取るマリナちゃんに歩み寄ったんだ。
「それでは、和歌浦マリナ少佐。御来場の皆様に何か一言、御挨拶としてどうぞよろしくお願い致します。」
グレーのハンドマイクは上級曹長の手を離れ、年若い少佐の手に握られた。
「先程紹介に預かりました、人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局所属の特命遊撃士、和歌浦マリナ少佐であります。この度は、公開射撃演習に御越し頂きまして、誠に感謝します!」
そうして天王寺ハルカ上級曹長からマイクを受け取ったマリナちゃんだけど、挨拶がちょっと固すぎないかな?
そんな風に最初は思っていたんだけど…
「今日は、君達を守るために私が日夜鍛えている射撃の腕前を、君達だけにほんの少し見せてあげる…」
おや、口調が急に馴れ馴れしくなったね。しかも、妙にスカしたキザな態度。
来場者の子達がマリナちゃんに求めるイメージに応えたら、どうしてもこうなっちゃうのかな?
それにしても、元々アルトの傾向があるのに加えて、トーンも普段より少し下げているから、今日のマリナちゃんの声は、深みのある低音でセクシーだね。
「素敵よ~っ!和歌浦の君!」
「ああん!マリ様、こっち向いて~!」
ほら、民間人の子達も黄色い歓声を上げて喜んでいるよ。
それにしても、君達はマリナちゃんに、一体どんなイメージを抱いているの?
「ありがとう、君達!射撃の腕前を披露する代わりに、私と1つだけ約束してくれるかな?私の射撃が見たいからって、無闇に危険に近付かない事。」
ここで言葉を切ったマリナちゃんは、マイクを左手に持ちかえて、右手を遊撃服の中に差し入れると、個人兵装に選択した大型拳銃を取り出したんだ。
「この大型拳銃は、確かに君達を守るための物だけど、使わないに越した事はないし、それに何より、君達が危険にさらされるのを見るのは、辛いからね…」
何とも切なげで悩ましげな流し目だね、マリナちゃん。セクシーなアルトボイスも相まって、私も少しだけゾクッと来たよ。
その視線で射すくめられた民間人の子達なんか、思わず息を呑んで顔を紅潮させちゃってるし…
「マ、マリナさん…」
あっ、もしかして英里奈ちゃんも?
全く…大した女誑しの原石だよ、マリナちゃんったら。昨日の京花ちゃんの発言の受け売りじゃないけれどね。
「どう?約束してくれるかな、可愛い来場者のみんな?」
一度軽く目を伏せて、今度は爽やかな笑顔を浮かべるマリナちゃん。官能的なアルトボイスだけはそのままにね。
「ええ…!もちろんです、和歌浦の君!」
「私達、マリ様の言い付けに従います!決してお手を煩わせたり致しません!」
それにしても、「マリ様」とか、「和歌浦の君」とか、物凄く御大層なニックネームだよね。
これで私が「マリナちゃん」なんていう、至ってプレーンな呼び方をしているのを見たら、「和歌浦の君に向かって、何と畏れ多い!」って具合に、この子達に袋叩きにされちゃうのかな?
「ありがとう、来場者のみんな。君達の応援が、私を始めとする防人の乙女の闘志の原動力になる事を、忘れないで欲しいね。それでは天王寺ハルカ上級曹長に、マイクをお返ししましょうか?」
「はっ!ありがとうございます、和歌浦マリナ少佐!」
ハンドマイクを天王寺ハルカ上級曹長に渡したマリナちゃんは、大型拳銃を左手に持ちかえると、軽く右手を掲げ、来場者の少女達に向けて爽やかな笑顔を、再び閃かせたんだ。




