後編第5章 「輝け、マホロバの光!枚方京花、明日への変身!」
どうやら英里奈ちゃんも、私と同じような心境だったようだね。
普段にも増して、オロオロとした狼狽えっぷりだよ。
「えっ、京花さん…?」
「私にもよく分かるんだよ、『来場者の前で、無様な醜態なんてさらせない!』っていう気持ちはね…」
英里奈ちゃんに応じる京花ちゃんの微笑には、自嘲めいた色合いが多分に含まれていた。
「柄にもなく、気弱な所を見せちゃったかな…?本番を間近に控えると、つい色々と考えちゃうの。『もしも、来場者の前でしくじっちゃったらどうしよう?』ってね…こんなんじゃ、駄目だよね…」
今の京花ちゃんの気持ちは、確かに私にもよく分かるんだ。
いや、誰にでもある事だよね。どれだけ万全の準備をしていたとしても、いざ課題に直面すると、不安が沸き上がってくるのは。
でも、これで京花ちゃんのコンディションが悪くなっちゃったらマズいよね。何とかしてあげないと…
視線をさ迷わせた私は、衝立に貼り出された模造紙の1枚に注目した。
「おおっ…!」
それは「アルティメマンシリーズの深い言葉」と銘打たれた、名言集だった。
よし、これを使おう!
大好きなアルティメマンシリーズの台詞なら、京花ちゃんの心にも、より一層響くだろうね。
「見て、京花ちゃん…アルティメフォースのナカヤマ隊長が、今の京花ちゃんにエールを送っているよ。この台詞を選定したの、京花ちゃんだよね?」
私が指差した模造紙の箇所を、青くてつぶらな京花ちゃんの瞳が凝視した。
「うん…『考えられるだけの手を探したのなら、後はそいつを無心でやるだけだ。その後の事は、その時に考えればいい。』…あっ!」
それは、「アルティメゼクス」の最終回、「アルティメゼクスよ、永遠に…」における、ナカヤマ隊長の名台詞だった。
ギガニウム光線やアルティメハリケーンといった、これまで数多の強敵怪獣を葬ってきた必殺技をことごとく受け付けず、アルティメゼクスを倒してしまった究極の敵、霊長恐竜ジゴクザウルス。
力を失ったアルティメゼクスが屍のように横たわり、ジゴクザウルスが首都圏に迫る絶望的な状況下でも、地球防衛軍とアルティメフォースは最後まで諦めず、勝利への道を模索したんだ。
発電用人工衛星の全エネルギーをマイクロウェーブに変換して、移動要塞メガフォートレスの主砲に送信し、それをアルティメスパークで増幅する高出力エネルギー砲。これを倒れたアルティメゼクスに照射してエネルギー回復を図る。ナカヤマ隊長発案の「アルティメゼクス復活作戦」が、地球防衛軍最高評議会において、満場一致で採決されたんだ。
そして、この作戦の要となるメガフォートレスと、倒れたアルティメゼクスの護衛のために、地球防衛軍極東支部の全戦力が動員される事になったの。
まさに、地球人類の存亡を賭けた一大作戦。当然だけど失敗は許されない。
そんな中で不安になったフルヤ隊員の、「もし、この作戦が失敗に終わったら、どうするんですか!?」という問い掛けへの答えが、前述した台詞なんだ。
「京花ちゃんは今まで、一生懸命に居合い抜きを練習してきたじゃない。その事は、練習に付き合ってきた私達が、一番よく知っているよ。ここまで来たなら、後はもう、無心でやるだけだよ。それに、京花ちゃんはジゴクザウルスを相手にしている訳でもないし、倒れたアルティメゼクスを蘇生させようとしている訳でもないじゃない!巻き返す機会は幾らでもあるんだよ。何だったら、上手く出来た時の動画を後日アップすればいいじゃない!」
「千里ちゃん…うん、そうだよね!仮に失敗しても、これで地球が滅びる訳じゃないもんね。」
心なしか京花ちゃんの表情の曇りが、前より薄まった気がするね。
「明日の『皐月の演舞』に、私達は必ず参ります。私には見ている事しか出来ませんが…」
そう言えば英里奈ちゃんは、昨日もマリナちゃんに同じような事を言っていたな。もう少し自己評価を高くしても罰は当たらないと思うよ、英里奈ちゃん。
「ううん、充分だよ。英里奈ちゃん達が、私の居合い抜きが成功する事を信じてくれているのは、私がよく分かっている。2人に話して良かったよ。きっと私は、2人に活を入れて貰いたかったんだろうね…」
自分に言い聞かせるように数回頷いた京花ちゃんは、やにわに首を横に振り始めた。さながら、迷いを振り切るかのように。首の動きに少し遅れて、左側頭部で結われたサイドテールが、青い軌跡を描く。
「ふう…」
首振りを止めた京花ちゃんは、軽く溜め息をついて瞼を閉じると、アルティメフォース隊員服の内ポケットに手を差し入れると、お目当ての品を取り出した。
京花ちゃんの右手に握られていたのは、落ち着いたオフホワイトで成形された本体と、LEDライトを仕込んだ半透明のドーム部分が特徴的な、一風変わった懐中電灯を思わせる小道具だった。
特撮ヒーロー番組「アルティメゼクス」において、主人公のマホロバ・ユウがアルティメゼクスに変身する時に掲げるアイテム、アルティメスパーク。その撮影用プロップを忠実に再現した外観と、劇中と同様の音声ギミックと発光ギミックを兼ね備えた、コレクターズアイテムだ。
かっと目を見開いた京花ちゃんは、アルティメスパークを握った右手を高々と掲げたんだ。
そして…
「ゼェェクスッ!!」
雄叫びと共にスイッチに力が加えられ、アルティメスパークのドーム部分に組み込まれたLEDが美しく明滅し、音声ギミックが派手なSEを響かせる。
番組中のマホロバ・ユウ隊員の変身シークエンスを、京花ちゃんは忠実に再現したんだ。
もっとも、幾ら再現度が高いといった所で、あくまでもコレクターズアイテム。京花ちゃんがアルティメゼクスに変身する事はなかったんだ。
「よし!これで私は、真っ正面だけを向いて進めるよ!」
しかし、一連の動作を終えた京花ちゃんの表情は、憑き物が落ちたかのように晴れやかだった。
「この分ですと京花さんは、もう大丈夫なようですね、千里さん?」
上品な微笑を浮かべる英里奈ちゃんは、いつになく落ち着いていた。京花ちゃんが自ら奮い立たせた自信に、絶対の信頼をおけると確信出来たからだね。
「そのようだね、英里奈ちゃん。」
今、確かに京花ちゃんは変身したんだと思う。明日に戸惑っていた自分から、恐れず明日に突き進む自分へとね。
私達も、京花ちゃんの勝利と栄光のビジョンだけを信じて、明日の「皐月の演舞」で行われる居合い抜きを見守ってあげないとね。
京花ちゃんの特撮女子としての側面は、第3話「堺電気館のスクリーンに誓え!」と、外伝編Part1「特撮女子 枚方京花少佐」にも描かれていますので、そちらも参照して頂けたら幸いです。




