後編第3章 「突入せよ、『日本の特撮ヒーローの歴史』展」
内部関係者用のパンフレットによると、地下射撃場でマリナちゃんが公開射撃演習を行うのが、直近だと14時。
まだ1時間近く余裕があるから、私と英里奈ちゃんは「日本の特撮ヒーローの歴史」の研究展示と、「特撮談話サロン」に顔を出す事にしたんだ。
私と英里奈ちゃんのクラスメイトである神楽岡葵ちゃんと、私達2人の共通の親友である枚方京花ちゃんが共同主催しているから、私達としても行かない選択肢は取れないんだよね。
「うんっ!結構イケるじゃない、タピオカミルクティーも!まあ、民間人の子達は焼酎じゃ割ってないけどね…」
太いストローで焼酎のタピオカドリンク割りを勢い良く吸い込んだ私は、弾力あるタピオカを奥歯で噛み潰しながら微笑んだの。
出店で売り子をしていた西来天乃中尉は、確か東淀川瑞光三曹のクラスメイトだったっけ。
後で瑞光ちゃんに会ったら勧めてあげようかな。
「面白かったですね、千里さん。B組の美鷺さんには、バルーンアートまで作って頂きましたし…」
額に鉢巻きを結んだ真っ赤なタコに、左の二の腕を絡め取られた英里奈ちゃんが、感慨深そうに呟いた。
もちろん、本物のタコじゃないよ。
複数の風船を捻って組み合わせて作られた、いわゆるバルーンアートだね。
こんな剽軽な代物なんて付けていたら、防人の乙女の威厳なんて雲散霧消だよ。
「かおるちゃんや京花ちゃんと肩を並べる御子柴1B三剣聖の一角に、まさかバルーンアートの才能があるなんてね。ホント、人は見かけによらないよね。」
そんな私も、バルーンアートのプードルを左肩にお座りさせているんだから、説得力は皆無だけどね。
英里奈ちゃんの左の二の腕に抱きついているタコも、私の左肩でお座りしているプードルも、私や英里奈ちゃんの同期である、サーベル使いの手苅丘美鷺准佐によるバルーンアート作品だよ。
手苅丘美鷺ちゃんは御子柴高等学校1年B組在籍だから、レーザーブレードを個人兵装にした枚方京花少佐や、日本刀を自在に振るう淡路かおる少佐のクラスメイトでもあるんだ。
この3人の実力は伯仲しているので、支局内では「御子柴1B三剣聖」ってニックネームで呼ばれているの。
だけど、三剣聖全員が自発的に集まる事は、ほとんどないんだよ。
まあ、決して「御子柴1B三剣聖」同士でいがみ合っている訳ではなくて、それぞれ別々の友達グループに所属しているってだけの話なんだよね。
それでも、同席していれば会話は続くんだよ、それなりに。
ちょうど、昨日のかおるちゃんと京花ちゃんみたいにね。
「本当は、落語同好会の『つつじ寄席』にも行きたかったんだけど、こっちは時間的に難しいかな?」
「明日は『打ち上げ寄席』が行われるそうですから、こちらの方で間に合わせましょうか、千里さん。」
つつじ祭開催中の支局内では、私と英里奈ちゃんが携わっていた「メイドカフェ ビクトリア」以外にも、様々な催しが行われているんだよ。
パントマイムに似顔絵コーナー、そして占いの館。
どれもこれも、味わい深くて面白かったな。
巡回パトロールに託つけて、英里奈ちゃんと一緒に色々と冷やかしたけど、見てない催しや展示はまだまだ沢山あるんだよね。
明日の「皐月の演舞」が終わってからは、私達4人は全員自由時間だから、今日行けなかった所を4人で見て回るのもいいだろうね。
パンフレットの記述に従い、私と英里奈ちゃんが辿り着いた研修用教室。
その扉の傍らには、折り畳み式テーブルとパイプ椅子が一式、受付として出されていたの。
「あっ、葵ちゃん!」
そのパイプ椅子に腰掛けている少女に向かって、私は親しげに呼び掛けたんだ。
「あっ、ありがとう!来てくれたんだね、千里ちゃん!英里奈ちゃん!」
いささか釣り目の傾向がある青い瞳でこちらを一瞥すると、少女は腰まで伸ばしたピンク色のロングヘアーを揺らしながら、跳び跳ねるような勢いで快活に立ち上がった。
この子は神楽岡葵ちゃん。
私や英里奈ちゃんと同じく、堺県立御子柴高等学校1年A組に在籍していて、階級は私と同じ准佐。壁に立て掛けているガンケースには、個人兵装である可変式ガンブレードが収納されているんだ。
葵ちゃんは、在学している御子柴高の制服である赤いブレザーとダークブラウンのミニスカを、遊撃服と同じ素材で特注して貰って、遊撃服としての着用許可を支局に申請する程の、強い拘りの持ち主なの。
だけど今は、御子柴高等学校の制服ではないものの、それに負けず劣らず、拘りの強い個性的な服を着ていたね。
真っ赤なブラウスの立てた衿には白いスカーフを巻き、その上に羽織るのは、房飾りを付けたカウボーイ風の黒いレザーベスト。
ベストと揃いの黒いレザー製のショートパンツの下にはグレーのタイツを履き込み、足元を固めるのは黒いレザーブーツ。
極めつけは、両手を固める白のオープンフィンガーグローブと、腰に巻かれた銀色の太いベルトだ。
「それって、マスカー騎士ブラスト人間体、神無月希望のコスプレだね?『マスカー騎士フラッシュ』に出てきた。」
私の指摘に、葵ちゃんは「我が意を得たり」とばかりに頷いた。
「大正解!さすがは千里ちゃんだよね!」
腰に巻いている変身ベルトの「ブラストドライバー」は、「マスカー騎士フラッシュ」の放送当時に発売されていた物より一回り大きく、より精密な塗装が施されていた。京花ちゃんのアルティメスパークと同様に、撮影プロップを忠実再現した大人向けコレクターズアイテムだね。
「バッチリ気合い入っちゃってるよね、葵ちゃんは。ブラストドライバーまで腰に巻いちゃって…」
「ありがとう、千里ちゃん。でも、京花ちゃんだって負けず劣らずに凄いんだよ!京花ちゃんのは『アルティメゼクス』のマホロバ・ユウ隊員のコスプレなんだけど、これが本っ当に凄くて!」
京花ちゃんのコスプレに関しては、フレイアちゃんに写真で見せて貰っているんだけどなあ…
まあ、せっかく葵ちゃんが盛り上げようとしているんだからね。それなりに期待させて貰っちゃおうかな。




