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後編第2章 「拝命、巡回パトロール」

「お疲れ様ですっ!生駒英里奈少佐っ、吹田千里准佐っ!」

 2人組の特命遊撃士は私達の前で足を止めると、踵を鳴らして美しい敬礼の姿勢を取ったの。

 エネルギーランサーを個人兵装にしている金髪セミロングにヘアバンドの子は、人類防衛機構式の敬礼だけど、銃剣付きアサルトライフルを構えた銀髪の子は、捧げ銃の姿勢を取っているね。

「はっ、お疲れ様ですっ!」

「お疲れ様です!」

 敬礼を受けた私達は、すぐさま答礼の姿勢で2人組に応じたんだ。私が捧げ銃で英里奈ちゃんが敬礼だから、2人組と綺麗に対応しているね。

「お疲れ様です!自分は堺県立御子柴高等学校1年A組、フレイア・ブリュンヒルデ准佐であります!」

 エネルギーランサーを手にした金髪セミロングに白いヘアバンドの子が、よく通る声で自己紹介を始める。

 フレイアちゃんの御実家は、フィンランドの公爵家。

 そのため、戦国武将の末裔である英里奈ちゃんと合わせて、「A組のノーブルペア」と呼ばれているんだ。

 もっとも、内気で気弱な英里奈ちゃんとは対照的に、フレイアちゃんは自信満々でプライドの高い性格の持ち主だけどね。

「お疲れ様です!自分は御幸通中学校3年1組、太秦(うずまさ)栄華(えいか)准佐であります!交代の時間となりました!以上2名、本日ヒトサンマルマルより、1階エントランス北扉の監視任務の配置に着かせて頂きます!」

 どうやらアサルトライフルを個人兵装に選んだ金髪ロングヘアーの子は、かおるちゃんの後輩みたいだね。

 その銃、特命機動隊標準装備の23式アサルトライフルを、自身の趣味や癖に合わせて改造したカスタム品みたいだね。

「承知致しました!それでは生駒英里奈少佐、並びに吹田千里准佐は、本日ヒトサンマルマルより支局内の巡回パトロール任務に着かせて頂きます!それでは御供致します、生駒英里奈少佐!」

 あーあ…私ったら、フレイアちゃんと天乃ちゃんに敬礼を返した時のノリを、そのまんま引きずって英里奈ちゃんに話かけちゃったよ…

 これがB組のサイドテールコンビだったら、これ幸いとばかりに、上官風を露骨に吹かせちゃうんだろうな…

「はい!行きましょうか、千里さん。」

 そこを行くと英里奈ちゃんは、私がプライベート的な場面でうっかり軍人言葉を出しちゃっても、何事もなかったように接してくれるから、本当に助かるよ。


 私と英里奈ちゃんがエントランスを後にしようとした、まさにその時だったよ。

「御待ち下さいませ、千里さん、英里奈さん。お時間がございましたら、『特撮談話サロン』に御御足を御運び頂けたら幸いです。少しでも来場者を増やせた方が、葵さんへの義理立てになりますので。」

 こう言って私達を呼び止めたのは、フィンランドの貴族令嬢である所のフレイアちゃんだった。

 友達が携わっている催しの口コミ拡散とは、本当に頭が下がるね。

 今、フレイアちゃんがチラッと言及した「葵さん」っていう子は、フレイアちゃんの一番の親友である、堺県立御子柴高校1年A組在籍の神楽岡(かぐらおか)(あおい)准佐の事なの。

フレイアちゃん同様に、私や英里奈ちゃんのクラスメイトにあたるよ。

 ピンク色のロングヘアーが印象的な子で、個人兵装であるガンブレードには、フレイアちゃんのエネルギーランサーとの合体機構が搭載されているんだ。

 そんな葵ちゃんは京花ちゃんに負けず劣らずの特撮ファンだから、25回つつじ祭では、一緒に「日本の特撮ヒーローの歴史」の研究展示と特撮談話サロンを出展しているんだって。

「うん…ちょうど私達も行こうと思っていたんだよね、そこ。私達、友達の京花ちゃんに誘われているんだ。B組の枚方京花ちゃんって知ってるよね、フレイアちゃん?」

 私の問い掛けにフレイアちゃんは、自信満々でエレガントな笑顔を崩さずに頷いたの。これぞ、欧州貴族令嬢の風格だね。

「よく存じ上げておりますわ、千里さん。『アルティメゼクス』のマホロバ隊員を意識されてか、アルティメフォースの隊員服を御召しになって、来場者の方と記念撮影に興じていらっしゃいましたよ。」

 こう言ったフレイアちゃんが差し出したスマホには、記念撮影と思わしき画像が表示されていた。

 アルティメマンシリーズの歴史を記した模造紙を貼り付けた衝立をバックに、フレイアちゃんと、笑顔で肩を組む京花ちゃん。

 ただし、京花ちゃんが身に纏っているのは、普段の遊撃服ではない。

 青と黒を基調にした特徴的なスーツは、アルティメマンシリーズの第2作である「アルティメゼクス」に登場した防衛チーム、「アルティメフォース」の隊員服だった。

 首に巻かれた白いスカーフは、アルティメゼクスに変身するマホロバ・ユウ隊員のトレードマークだね。

 そして右手で掲げているのは、変身アイテムのアルティメスパークだね。

 玩具の音声ギミックと電飾機能はそのままに、撮影プロップの外見を忠実に再現した大人向けのコレクターズアイテムだから、存在感と迫力はかなりの物だよ。

 どうやら、昨日のマリナちゃんの話は本当だったようだね。

 フィンランド出身のフレイアちゃんが、どうして日本の特撮ヒーロー番組の「アルティメゼクス」を知っているのか、疑問に思う人がいるかも知れないよね。

 どうやら、フィンランドでも「アルティメゼクス」は放送されていたらしくて、下手したら日本の本放送時より高視聴率を記録したらしいの。

 フレイアちゃんのお父さんであるシグムント氏も、子供の頃は熱心に見ていたようで、フィンランド仕様のグッズはもちろん、日本で発売されていたグッズを御両親に個人輸入して貰って集めたんだって。

 美品なら数十万円は下らない、欧米仕様のソフビ人形を幾つも持っているとか。

 貴族のお坊ちゃまって羨ましいよね。

 だからフレイアちゃんにも、京花ちゃんのコスプレはピンと来たみたいだね。

「京花さんは(ワタクシ)に、『英里奈ちゃんと千里ちゃんに、よろしく伝えてくれたら助かるな!』とおっしゃっていましたわ。」

 京花ちゃんの物真似とは言え、フレイアちゃんの砕けた口調は、なかなかに新鮮だな。普段はエレガントな御嬢様口調だからね。

「ふーん、『よろしく伝えてくれ』か…」

 砕けたフレイアちゃんの口調が、あまりにも意外だったから、思わず鸚鵡返しになっちゃったよ、私。

「こうなりますと、お邪魔しないという選択肢はとれませんね…」

 私の唸り声に英里奈ちゃんが続く。

「おやおや、これは異な事を…こうして(ワタクシ)が申さずとも、御2人は見学される御予定だったのではありませんか?英里奈さん、千里さん?」

 おっしゃる通りだよ、ブリュンヒルデ嬢…

「それでは英里奈さん、千里さん。巡回パトロールに行ってらっしゃいませ。次の交代まで、この北扉の監視は(ワタクシ)と太秦栄華准佐にお任せを!フィンランドが誇る公爵家、我がブリュンヒルデの家名に懸けても、御役目は全うする所存ですわ!」

「は…はあ…よろしく御願い致しますね、栄華さん、フレイアさん…」

 殊更に「ブリュンヒルデ」の発音を強調するフレイアちゃんにタジタジとなりながらも、英里奈ちゃんは交代要員2人に軽く会釈してその場を辞した。

 名家の令嬢に相応しい自信と責任感を持ち合わせているフレイアちゃんに、英里奈ちゃんが少し気後れ心を抱いているのは、何となく分かるんだ。

 幼少時の自分が精神的に萎縮する原因となった、「家名を背負う」という事を、フレイアちゃんは心理的負担も気後れもなしに、自然と出来ている。

 そんなフレイアちゃんの自信満々な素振りを見ると、自分の至らなさが面目無く思えてきちゃうんだろうね。

 例え、フレイアちゃんに悪意が一切無いと分かっていてもね。

 でも、変に焦ったり、負い目に感じたりする必要はないからね、英里奈ちゃん。

 性格や家庭環境には個人差があるんだから、英里奈ちゃんは英里奈ちゃんのペースで進めばいいんだよ。

 さて、これから私は、そんな英里奈ちゃんと一緒に第25回つつじ祭を巡る事になるんだよね。

 厳密に言えば、巡回パトロールという職務の一環だから、あんまり遊び呆ける訳にはいかないんだけどね。

 万一の有事の際にも速やかに処理出来るように、「心の銃の引き金」に、常に指をかけておかないと…

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― 新着の感想 ―
[良い点] 千里たちの給仕だけでなく射撃訓練も拝める文化祭、近くにあったら絶対観に行きます。 国境を越えて好きなアニメや特撮の話で盛り上がれるなんて素敵です キュ(о゜д゜о)ン♡
[一言] 君には君しかなれないんだよ、英里奈ちゃん。 マイペースで進めばいいんだよ。
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