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花曇り  作者: 伊藤むねお
3/16

悪戯

「このあたりはすっかり変わった」

「私が物心ついてからさえ、ずいぶん家が増えたもの」

 ドクはそういい左右を見回した。首の動きに連れて長い髪が揺れる。

「ぼくの高校時代はずっと雑木林でね。リスがいたし兎もいた。いろんな小鳥の鳴き声も楽しめた。コゲラも来た。カッカッカッと」

「ふんふん」

「カッコウも来た。あの初夏のカッコウの鳴き声ときたらたまらんね」

「カッコウ!」

 ドクがいきなり大きな声で鳴いた。沙織さんによく似た澄んだ声である。前を歩く学生らしいふたりが驚いたように振り返った。

「おじ様。ウグイスの巣はみつかった?」

 ドクはそういってにいっと笑うと、私の腕に自分の腕を差しこんできだ。二の腕に胸の膨らみが強く押しつけられ、私は慌てて体を離した。

「あら、どうしたのかしら」

「お行儀が悪いよ、ドク」

「はははは。お行儀、というのがいいわねえ」

 この種の悪戯(本人は遊びというのだが)はドクの昔からの半ば(へき)である。家族も悩まされたようだが、私はとりわけ格好の標的だったらしい。しかし今日の遊びにはかなりハイなものを感じる。無理もない。最愛の、そして唯一の肉親だった母親が亡くなったのだ。

「この感触をおじ様に思い出させてあげようと思って」

「・・・沙織さんの? まさか。そういうことするわけがないじゃないか」

「ホントカシラー」

 すれちがう人の多くが、腕を組んで歩く私たちに驚いたような視線をよこす。

「みんな見るわね。恥ずかしい?」

「いや、全然。みんな、きれいな娘と歩く幸せな父親だとみてるよ。そういう目だ」

「おじ様と私、似ているものね」

「そうかな。でも、お父さんとぼくはよく似ていたからな」

「だから似ている・・・でも、そうでないのかもしれない」

「なんだい、それ」

「あとで」

 今日は逆らわないでおこう。さりげない話を続けながらゆっくりと歩き、ほどなく動物園に着いた。


「おお、これは凄いな。満開だ」

 見頃だというのに週日のせいか人出は思ったほどではない。小学校や保育園のこどもたちとその付き添いの人たちが多かった。売店の横に丸いテーブルが並べてある。

「コーヒー飲もうか」

「アグリー」

 私とドクは熱いコーヒーが入った紙コップを手にしてそこに掛けた。


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