2話 新たな人生
私は部屋に入った途端、場所を間違えたかと一度廊下に出ました。
屋敷と言っても村を収める男爵家の家です、10年過ごしていて間違えるほど広くはありません。
けれどどうでしょう。
部屋の中に物が何もありません。
まるで空き部屋のようにがらんどうとしています。
「······マーレを探しましょう」
部屋の荷物の行方は気になりますが、ずっと家にいたであろうマーレにならわかるでしょう。
家を出る計画を一緒に立てていたんです、先んじて何かしたのかもしれません。
我が家は2階建てでそこそこの広さを持っています。
ガイルの人望がないのか、長いこと仕えてくれるような執事やメイドはいません。
そのせいで踏み込んだことは何も聞かれないから楽なのですが。
私の気味悪さも手伝っていたら申し訳ないですね。
「そこのメイドさん。マー······母が何処にいるかご存知ですか?」
「ライト様、奥様は旦那様の書斎におります。何やら揉めているようでした」
「そうでしたか。教えてくれてありがとうございます」
マーレの自室は2階にあるので、階段に向かって歩いていた所、通りがかったメイドさんに聞いてみました。
私が帰る前に離婚の話をしに行ってしまったのでしょう。
なんと無謀な事を。
マーレはガイルの事を何も分かっていません。
できれば何かある前に穏便に済ませたいのですが。
「······だ! お······ど······てる!」
階段に足をかけたところで怒鳴り声が微かに聞こえてきます。
単純に声量が足りないのかもしれませんが、ガイルの声しか聞こえません。
癇癪でも起こしているんでしょう。
早くマーレを助けに行かないといけません。
階段上ったら左の突き当たりの部屋へ向けて歩きます。
廊下は走ったら危ないですからね。
部屋の前に来たらガイルの喚き声がはっきり聞こえて不愉快な気持ちになりましたが、ノックをして声をかけることにします。
「父上、ライトです。お話があるのでお邪魔してもよろしいですか?」
「っ! 良くもまぁぬけぬけと! 入れ!」
マーレは何を吹き込んだのでしょう。
怒りの矛先が明らかに私に向いています。
とにかく許可が出たんで入りましょうか。
「ライト君! ごめんね、勝手なことして」
「マーレ、とりあえず落ち着いて下さい。私はまだこの状況が分かっていません」
「ライト! 我が妻を誑し込むとはその歳にしてなんて奴だ! それ相応の覚悟はしているんだろうな?!」
「はい、分かりました。マーレは私について変な誤解を生んだようですね。それとも方便として使ったんですか?」
「いやっ! 私は純粋にライト君の事が好きって事を伝えただけよ! ······だから一緒に出ていくと言っただけなのに」
「それを誑かされたと言うんだ! 息子に家族愛以上の感情を向けるとは何事か!」
マーレの言葉の足りなさが生んだ誤解ですね。
貴族の家に産まれたガイルは、子供の頃から口うるさく言葉遣いを注意されたと聞きます。
だからマーレのように所々言葉を抜く人との会話では誤解に繋がるようです。
それにしても厄介な誤解をしたものですね。
10歳になったばかりの息子に、男としての愛情を抱く母親がいるわけ無いでしょうに。
······いえ、ここは異世界ですね。
確か数年前、家庭教師に結婚関係の授業を受けた覚えがあります。
確か近親婚についてかなり緩かったはずです。
つまりこの誤解はあながち的外れでもないわけですか。
ほんとに厄介ですね。
「マーレ、誤解なら早めに解くことをお勧めしますが」
「······誤解じゃないとは考えないのね」
「何か言いましたか?」
「いいえ、何でもないわ。ガイル、あなたにはもう付き合っていられないからライトと家を出るのよ」
途中聞き逃してしまいましたが、マーレは誤解を解かずに話を進めるようです。
これから赤の他人になる相手です。
誤解なんかどうでもいい問題でしたね。
「なぜだ! 私はお前に何不自由ない生活をさせてきたはずだ! どこに不満がある!」
「ええそうね、私とライトはなんの不自由もしないで過ごしてこれたわ」
「じゃあ何が!」
「あなたはどこにいたの?」
「っ! ······それに何の関係がある」
「家族なのに子供ができてから話す機会が無くなっていくのは普通かしらね?」
ガイルは浮気が原因だと分かっているから強く言い返せないようですね。
この男はただ貴族であろうとしただけで、悪人になろうとしていたわけではないのです。
単なる浮気なんですよ。
貴族に暗黙の了解として許された浮気です。
当人以外には何の迷惑もない身内の事件です。
これでガイルはマーレを失いますが、金を要求したわけでもありません。
奥方に逃げられた貴族。
そのように影で嘲笑われるだけです。
いい気味でスカッとしますね。
「私は最低限夫としてやってきたはずだ! それを!」
「お金を自由に使わせるだけで夫となれると思っているのね。百年の恋も覚めるというものよ」
「一つだけ最後に息子として申し上げます。マーレはただあなたと家族になりたかっただけですよ。籍を入れただけの形式的なものではなく、正しい意味での家族に」
「10歳になったばかりの子供が何を!」
「その10歳の子供にすらわかることが理解できないあなたのおつむをまず心配することですね。10年間お世話になりました。行きますよ、マーレ」
「ライト君を産ませてくれた事だけは感謝してるわ。さようなら」
「まっ······まってく」
私は部屋の扉を開いてマーレが出てくるのを待ち、ガイルが何かを言う前に扉を閉めました。
当分は放心状態で何も出来なくなるでしょう。
しっかりとマーレを失った意味を考え、悔いるといいでしょう。
「ごめんね、ライト君。私お母さんなのに助けられちゃって」
「いえいえ、私の方が年下ではありますが、マーレは危なっかしくて見てられないのですよ」
転生前の年齢から数えて、マーレより一つ下になります。
ですがいつも妹のように接してしまいます。
そう言えば前世の家族はどうしているでしょうか。
······考えるだけ無駄ですね。
強く生きてくれることを祈りましょう。
「あ、マーレ。私の部屋の荷物どこに行きましたか?」
当初の目的、私の私物について聞くことを思い出しました。
普段から整理整頓していたので大した量ではありませんが、量よりも質が大事な私物達です。
あれが無くなっていたら思わずこの場で泣き出しそうなのですが······。
「······荷物? あぁ! ライト君の部屋の中の物全部木箱に詰めてもらってたの!」
「詰めた? もしかして今日引っ越すつもりですか?」
「そうよ? あんな啖呵切ったんだもん、この家にはいられないわ」
引越し準備をいつの間にか整えていたようですね。
しかし時間はもうそろそろお昼になります。
遠出するなら間に合わないのではないでしょうか。
「ライト君は知らないか。私の実家は紙を主に取り扱ってる商家なのよ。ちなみに王都にあるわ」
「王都ですか。それはいつ出ても変わらないくらいには遠いですね」
セブラス男爵家はガルドラーク王国に属しています。
しかし大きな大陸一つを支配するガルドラークから考えれば、レミントンなど小さな村です。
しかも王都からの道はかなり整備されていますが、馬車を使って片道20日はかかります。
軍馬を用いても15日はかかるでしょう。
幸い魔物の分布からして安全とされるレミントンは、辺境と称されることはありません。
言ってしまえば田舎のようなものです。
無駄に背伸びをした田舎で育った私は、王都に行けば舐められること間違いないでしょう。
マーレの実家でなければ断っているところです。
加えて貴族の家を見限って帰ってきたと言えば聞こえが良く感じますが、ガイルはコネを使って私達を捨てたことにするでしょう。
金銭的援助がなくなり、貴族という特権も無くし、あまつさえ捨てられたと思われる。
転生して10年、なかなかの逆境ではないでしょうか。
マーレは例によって分かってないでしょうが。
「ライト君! 早く行くよ!」
マーレは私の手を引いて家の裏手の勝手口に連れて行きます。
考え事をして自分から動かない私を動かすのは大変でしょう。
頑張って引っ張っていますが、かなりゆっくりと歩いています。
私はマーレの考えの浅さを危惧していました。
私の私物を荷造りしておいてくれたことには感謝しています。
けれど20日の道程を想定した準備はしているのでしょうか。
「ラーイートーくーん! セイダーさんが待ってるんだからぁぁぁ!」
セイダーさんとはこの家唯一の執事さんの名前です。
セイダーさんに引越し準備を頼んだのなら心配ありませんね。
王都が目的地と聞いているなら抜かりなく準備していてくれるはずです。
あとは私が荷物について理解すれば問題ありません。
「それを先に言ってください。行きますよ、マーレ」
私が急に歩き始めたせいでよろけたマーレを支え、そのまま体の向きを変えさせて勝手口に引っ張っていきます。
さっきと立場が逆転した形です。
「もうっ! ライト君ったら怒りますよ!」
私はマーレの母親らしいセリフを聞き流して歩きました。
──────
セイダーさんが御者として馬を走らせてくれます。
引いている馬車は明らかに高級品に見えますが、ガイルの家から頂いてきたんでしょうかね。
セイダーさんはガイルに暇願いを出していたそうです。
なんでもマーレが心配だから付いていきたいと。
確か今年で63歳になった御老体のはずなんですが、プロの執事の凄みのようなものを感じさせるお方です。
セイダーさんの忠心がマーレに向いていたとは知りませんでした。
私にとってはいい事なのでこのまま一緒に旅をしたいと思います。
旅と言っても村を経由しながら王都まで行くだけなんですがね。
「マーレ、私の荷物はどの木箱ですか」
「ライト様、お荷物は私のすぐ後ろの木箱にございます。一目見てその凄さは理解できましたが、私の手にはあまりますので危険物として近くに置かせていただきました」
「ああ、ありがとうございます。セイダーさんが
荷造りしてくれたんだから、マーレに聞いてもわからないことでしたね」
「失敬な! 私も少し手伝ったよ!」
「えぇ、それはもう大変に手伝ってくれました」
セイダーさんの”たいへん”のアクセントが気になります。
恐らく汚しそうにでもなったんでしょうね。
一般向けなら大事件ですが、私のは特別製なので大丈夫ですよ、セイダーさん。
「ライト君、私がうっか······たまたま汚れてる紙があったんだけど! その紙に書かれてた文字と記号は何を表してるの?」
「これですか?」
セイダーさんの優しさでしょう。
私が紙の使用を許されてから書き溜めてきた刻印魔術の1枚、ベッタリとインクに塗れた紙が一番上に置かれていました。
ヒラヒラさせてマーレの目の前に持っていくと、黒目だけを器用に動かして目をそらします。
私はその紙に描かれていた魔法陣に極小の魔力を流し込みます。
すると紙は小さな爆発を起こして燃え散りました。
マーレはビクッとして、私の手元を見つめて固まっています。
流石にセイダーさんも驚いて振り返っています。
そんなに刻印魔術は珍しいんでしょうか。
「ライト君、い、今のは何?」
「ライト様、もしや今のは刻印魔術ですか?」
マーレはともかく、セイダーさんも自信なさげなのは素直に驚きました。
刻印魔術が廃れてきているとは察していましたが、60代の方にもそんなに認知されていないとは······。
魔法陣とは分かっていたものの、勉強のために書いたと思われていたのでしょうか。
「はい、これは私が描いた刻印魔術です」
「ライト君! お母さんにもわかりやすく!」
「紙にあらかじめ魔法陣を描いておくことで、魔力を通した時にその魔法が発動するようにできるんですよ」
「なんと······かの昔、まだ魔法が発達していなかった頃、魔導書は魔術師の必須装備。チョークで儀式のように魔法を発動するのは大魔法の合図などと歴史書に書かれていましたが······」
······刻印魔術は歴史書レベルだそうです。
それもそうでしょうね。
今や魔法名を述べるだけで杖が魔法発動をサポートしてくれる時代です。
噂では凄腕の冒険者には杖を用いず、無詠唱で魔法を使う者がいると聞きますが、わざわざ紙や地面に直接魔法陣を書き込む刻印魔術が流行るわけがありません。
「ちなみに、魔力の操作がイマイチな方が刻印魔術を使おうとすると、描いてる途中で漏れ出る魔力に反応して暴発するらしいですよ」
つまりセイダーさんやマーレが、間違えて木箱の近くで魔力を放てば大惨事になるのです。
マーレは俺から距離を取り、セイダーさんは静かに2人乗りの御者台の反対に移動しました。
危険物として意識してくれて何よりです。
「ま、私はそんな中途半端な刻印魔術は施しませんがね」
それを聞くとあからさまにほっとした様子を見せるマーレ。
心なしかセイダーさんからも緊張が取れたように思います。
「ライト君、なんでそんなに刻印魔術を作ってたの?」
セイダーさんには聞こえないように、マーレを抱き寄せて耳元で理由を話します。
「転生させてくれた神からの依頼ですよ。私は刻印魔術を使って魔王を倒さねばなりません」
抱き寄せられ赤面し、耳元で話され擽ったそうにし、魔王を倒すと聞いて震え出しました。
感情豊かで何よりです。
「まっ! ······魔王って! 本気なの!?」
驚いて大声で魔王と言いそうになったものの、セイダーさんのことを思い出し小声になるマーレ。
しかし神の言ったことは覆らず、スキルの鑑定でなぜかわかる職業の欄には、日本語で勇者とはっきり書かれていました。
「本気です。今日のスキルの鑑定書に勇者とも書かれていました。刻印魔術を抜きにしてもいずれは魔王と戦うことになります」
マーレは絶句してしまいました。
そしてすぐに涙目になります。
泣き虫ですね、マーレは。
「大丈夫です。私は恐らくかなり強いですよ」
そう言ってマーレの頭を優しく撫でる。
私に抱きついて胸元でひっそりと泣くマーレ。
セイダーさんは気付かないふりをしてくれているのでしょう。
ある一点を見て固まっています。
······おや?
セイダーさんのあの表情、怯えですよね?
「マーレ様! ライト様! 遠方より盗賊が馬で接近中です!」
私は神が、「刻印魔術なんて調べても見つからないでしょうし、現存していた全部を記憶に入れておきます」としてくれていたおかげで、かなり強力な刻印魔術までマスターしています。
4歳あたりから地道に作り始めていた刻印魔術、そのほんの一部を使う時が来ましたね。
「セイダーさん、馬車を止めて中へ。マーレ、少し耳を塞いでいてください。外に出てもダメですからね」
私は私物の入った木箱から、紐を通して纏めただけの本を持ち出し、馬車から外に出ました。
セイダーさんがかなり遠くから盗賊を見つけてくれたおかげで、私が出た時はまだ距離がありました。
鑑定して分かったスキルをぶっつけ本番では使いこなすことができないでしょう。
刻印魔術がどれ程の強さか、私自身お手並み拝見といきましょうか。
──────
私は自作の本の風のページを開きます。
本には端に書いた線の本数でページを属性分けしていました。
付箋のようなものが作れればよかったのですが、無い物ねだりはしても意味がありません。
盗賊が迫る状況ですが落ち着いて目的のページを探します。
やっとの思いで見つけたページ、そこに描かれた魔法陣をしっかりと見ます。
そして昔から使ってきた、神より与えられた『念写』を発動させました。
今回念写したのは自分と馬車をカバーするほど大きな魔法陣。
このスキルは対象は問わず、思い描いたものを、サイズは自由にそっくりそのまま描き写します。
その際インクを設定できるらしく、私は自身の魔力をインクとして地面に魔法陣を描きました。
すると完成系として写される念写のスキルにより、刻印魔術が即時発動します。
今回選んだのはウィンドウォール。
刻印魔術は大きさにより範囲と威力を増します。
今回の規模では大砲くらいは余裕で防げると思います。
これで身の安全は確保されました。
また別のページから音と臭いを通さなくする風の魔法を馬車を囲うように発動させました。
これで外の惨劇を2人に感じさせることはありませんね。
「おや? 弓ですか。やはり着色なんて無駄な事をしないと風の魔法は強いですね」
弓の届く範囲に入ったのか、盗賊の数人から矢が飛んできてウィンドウォールに呆気なく弾かれました。
私の発動した魔法は全て不可視ですから気付かなかったんでしょう。
神の知識に刻印魔術の成り立ちがあって助かりました。
おかげで魔法作成のスキルを知る前から改良ができました。
それにしてもウィンドウォールのすぐ手前で止まるとは、運がいい人たちですね。
触れた途端に切り刻まれて、スプラッター確実の予定だったのですが。
「おい、そこのガキ! その馬車から降りてきたよな? 荷物全部貰ってやるから、全裸になるなら逃げてもいいぜ?」
「ボスー、全裸は可愛そうですよぉー。まだまだ小さな子供じゃないですかぁー」
「大人しく言うこと聞け! さもないと痛い思いをしてもらうぜ?」
ふむ。
どうやらボスと取り巻き2人はバカのようです。
矢を防がれた後衛らしき2人は明らかに警戒しているのに、前の3人は下卑た笑みを浮かべて勝った気でいますね。
全部で5人······いえ、油断はいけませんね。
平和な世界から転生してくると戦いの勘が働かなくて大変です。
冷静に考えないとすぐ死んでしまうかもしれない世界ですね。
「一つ質問させてください。皆さんで盗賊団全員でしょうか?」
視線が集まる中、一々本のページをめくって刻印魔術を探すわけにはいきません。
持ってきた当初の目的通り、ミスディレクションの用途で使わせてもらいましょう。
私は記憶から光属性の探知魔法を検索し、本を持った手の爪に念写して発動させます。
これはとても小さな光で発動できるので、かなりの隠密性があると信じています。
事実、目の前の5人は気付きませんでした。
光を用いた探知だけあって、有効範囲は広く結果が出るまで速いです。
「なんでこれから売られるてめぇに教えなきゃなんねぇんだ? えぇ?」
凄んでくれたところ申し訳ないですが、もう探知結果は出ています。
背後に13人も居ましたよ。
少数相手にも全力で挑む姿勢は感心しますが、やられる方はたまったもんじゃありませんね。
「奴隷になった時、捕まった相手を自慢するくらいしかすること無さそうじゃないですか」
「はっ! 潔いいじゃねぇか! てめぇの言うことも一理あるな!」
「ボスっ!?」
「聞いて驚けぇ? 俺らは牙猿盗賊団ってぇんだぁ。構成人数はぁ」
「やめろ!」
「20人もいる大勢力だ! お前ごときじゃどうしようもねぇってことが分かったか?」
後ろの2人が哀れに思えてきました。
必死に止めているのにボス含め前3人がペラペラ喋ってくれます。
さて、背後の13人には闇属性のシャドウバインドを使わせてもらいましょう。
探知魔法は便利でしてね、地形まで探知すれば目視せずに念写が使えるんですよ。
あ、マーレ、顔出さないでくださいって言ったじゃないですか。
「ほぉ? なかなか整った顔立ちの女連れてんじゃねぇか」
「あれならぁ、俺達で楽しんでからぁ、性奴隷として売れるねぇ」
「ガキ、馬車の中身ごと全部貰ってくぜ」
「お楽しみのところ申し訳ございません。後衛2人をご覧ください」
流石に余裕すぎますよね。
マーレが顔を出したのは計算外でしたが、おかげで盗賊さん達の隙ができたのも事実です。
地属性の魔法にロックシールと言う封印系の魔法がありましてね。
馬ごと後衛のお2人を閉じ込めさせてもらいました。
「ガキィ! こいつらに何しやがったぁ!」
「さっさと解放しろごらぁ! 下手に出てれば調子に乗ってんじゃねぇぞぉ!」
「てめぇはもう許さねぇ、絶対殺す!」
「血の気の多い方達ですねぇ。だから足元がお留守になるんですよ」
私は水属性魔法のアメーババインド、簡単に言えばとり餅を発動していました。
馬と彼等の足はもう既に取り込まれています。
いつまでも馬の上から喋るだけとは、ほんとに盗賊としてやってきているんでしょうか。
こんな雑魚はどうでもいいですね、マーレ達と相談しましょう。
馬車の扉を開き問いかけます。
「行きがけの駄賃に盗賊を捕縛しました。彼等はいくらになりますかね?」