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第六話 子どもだけの部隊

 ――にしても、人の気配がないな。

 案内された部屋に荷物を置いたところで、一輝は首を傾げた。

 先ほど出迎え(?)に出てきたブリジッタの他に、誰ともすれ違うことはなかった。

 補給艦といえば、スケール的に言えば戦艦よりも大きいものだ。当然、それ相応の乗務員がいてしかるべきだと思うのだが。

 しんと静まり返った通路は静けさを帯びて、人の姿はおろか、話声さえ聞こえなかった。

 ――なんか、幽霊船みたいだよな……。

 いくら移動機構が故障し、すでに船としての機能は失われていると言っても、ここまで人の姿が見えないのは異様だった。

「あの、一輝さん、この後なのですが、お疲れのところ申し訳ないんですけど、隊員の紹介も兼ねて歓迎会の用意をしています。参加してもらえますか?」

「歓迎会?」

「はい、その……、新司令に喜んでもらおうと思いまして」

 遠慮がちな口調で言って、上目づかいに見つめてくる。

「なるほど、そうなのか……」

 もしかするとその準備をしてるから、人を見かけないのかもしれない。

「それで、あの……」

 不安そうにこちらを見つめてくる紗代。一瞬、どうしたのか、と思ったが、そう言えば、参加の可否を聞かれていたのだと思いだす。

「ああ、わかった。喜んで参加させてもらうよ」

 別に断る理由もない。飲み会とかは正直得意ではないが、さすがに歓迎会を開いてくれるのに出ないなどという空気を読まないことはしない。

「あっ、ありがとうございます」

 なぜだろう、一輝の返事を聞いた紗代はものすごく嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ、みんなを呼んできますね」

 食堂の前まで来たところで、紗代が言った。

「えっと……」

「あっ、一輝さんは中で待っていてください」

 そう言い置いて、小走りに行ってしまう紗代。取り残された一輝は仕方なく食堂へと足を踏み入れた。

 室内は、結構な広さがあった。恐らく百人程度であれば入っても問題ないぐらいは広さがある。

 その入口には垂れ幕が掲げてあった。

『歓迎! 第七艦隊へようこそ!』

 いささか幼い字で書かれたそれを見て、一輝は思わず苦笑いを浮かべる。

 ――なんだか、子どもの誕生日会みたいだな。

 部屋の一角には料理が並んでいた。

 山盛りに盛られた唐揚げ、フライドチキン、ハンバーグ……、肉が多いか?

 さらに、そのど真ん中には、なぜか、ローソクの付いたショートケーキが鎮座ましましていた。本当に、誰かの誕生日会みたいだ。

「それにしても、てっきり準備に人手を割いてると思ったんだけど、いないな……」

 調理を司るのは給仕部隊というれっきとした部署だ。この規模の船ならば、最低でも十名以上はいると思うのだが……。

「あーっ!」

 突如、元気のいい声が上がった。

 見ると、山盛りのサンドイッチを持って、調理場の入口に立ち尽くしている少女が、こちらを見ていた。

 年の頃は、紗代と同じぐらいだろうか。お皿を近くのテーブルに置き、ちょこちょこと走って来て、一輝の前の前で急停止。それに合わせて、子どもっぽいエプロンがひらり、と揺れた。胸のところに大きく犬のマスコットが書かれた可愛らしいデザインのものだ。

 エプロンの裾から覗くすべすべとした幼い太もも、同じく上半身は幼い鎖骨から首筋にかけて、きめ細やかな子どもの肌が晒されていた。紗代と同じく袖なしの水着のような服を着ているのかもしれないが、ほとんどがエプロンの影に隠れてしまっているために、まるで肌の上から直接エプロンを着ているみたいに見えて、少し目のやり場に困る。

「はじめまして、新司令のお兄ちゃん!」

 少女は、すぐ目の前で、ちょこん、と頭を下げた。それに合わせて、栗色のショートヘアがふわり、と揺れた。

「私、ミシュリです。四番艦 ラブラドールの艦橋魔女なんだ」

 アーモンド形のくりくりした瞳で一輝を見ると、ちょっこり、一輝の袖口を指先でつまんで、

「えへへ、よろしくお願いします! お兄ちゃん」

 にこーっと笑みを浮かべる。

「あ……、ああ、えっと、よろしく。鳩ノ巣一輝です」

 なんとか挨拶を返しつつ、一輝は疑問を抱いた。

 この子、初対面にしては、警戒心がないっていうか、やけに距離感が近いな……。

 人見知りをしないのは、ありがたいが、その壁のなさは、なんとなく違和感があった。

 ――それにしても、また子どもか……。

 この施設に来てから、子どもしか見ていないような気がする。

「じゃあ、私は準備があるので」

「ああ、何か手伝うこととかあるかな?」

「えっ……でも」

「料理を運べばいいのかい?」

「うん! じゃあ、お願いします!」

 ミシュリは、再び、にこーっと笑みを浮かべた。その無邪気な笑みに、一輝はやっぱり違和感を覚えるのだった。


「ん?」

 料理皿を運んで何回目かというところで、食堂に新たな少女が現れた。

 腰の辺りまで伸ばした長い黒髪が、なんとも特徴的な少女だった。

 年の頃はまたしても、紗代たちと同じく十代の前半。抜けるような白い肌は、おとぎ話に出てくる月に住まうお姫さまのように美しく、そして、儚げだった。

「えっと、君は?」

 少女は、長いまつ毛に彩られた美しい瞳を一輝に向けて、

「……古里理香(こりりか)です。よろしくお願いします」

 す、っと頭を下げた。それに合わせて、まるで絹糸のような髪がさらり、と揺れた。

「……参番艦 Jミルトンの艦橋魔女です」

 表情に乏しい顔でこちらを見つめてくる。その幼くも浮世離れした愛らしさに、一輝は思わず吸い込まれそうになる。

「…………?」

 かくん、と首を傾げる理香。

 ――っと、いかん。見つめすぎだ。

 慌てて視線をそらそうとした時、

「あっ、理香ちゃん来た。ほら、早く手伝って!」

 調理場の方からミシュリの声が聞こえる。

 理香は小さく会釈すると行ってしまった。

「……四人目も子ども、か」

 子どもが部隊に属していること自体、一輝としては一言言ってやりたい気分があったが、それ以上に、大人の姿が未だに見えないというのはどういうことだろう。

「お待たせいたしました、一輝さん」

 食堂の入口を見ると、紗代がやって来ていた。

 先ほどとは違い、パーカーにホットパンツというラフな格好になっていた。惜しげもなく晒された華奢な太ももが、子どもらしいきめ細やかな肌が輝いているようで、まぶしかった。

「着替えて来たのか?」

「あっ、はい。魔法戦艦を操縦するとどうしても濡れてしまうので」

 そう言えば、円筒形の水槽みたいなところに入ってたっけ。

 紗代は、なぜか、もじもじと恥ずかしそうに体をよじっていた。もしかすると、一人だけ私服なのが気になっているのだろうか。

 その少し後ろには先ほどのブリジッタが、どこかふてくされたような顔で立っている。

「紗代ちゃん、ブリジッタちゃん、遅いよ。もう!」

 調理場からミシュリが顔を出す。

「ごめんね、ミシュリちゃん。理香ちゃんも、こっちに来て。正式に、鳩ノ巣司令に挨拶しましょう」

 紗代の呼びかけに、こくりとうなずき、理香とミシュリが、紗代たちの隣に並んだ。

「鳩ノ巣司令に敬礼」

 ぴしり、とした態度で、敬礼を見せる四人の少女たち。

 あまりのことに面食らいつつも、一輝は恐る恐る、といった様子で尋ねる。

「それで、えっと……、他にはいないのかな?」

「他、とはどういう意味ですの?」

 ブリジッタが、勝気な瞳を不満げに歪める。けれど、ここで引くわけにはいかない。

「言葉通りの意味だよ。この第七艦隊の他の隊員は? あるいは、君たちを監督する立場の大人は……」

「いません」

 妙にきっぱりとした口調で、紗代が言った。

「いないって……」

「第七艦隊は、私たち四人の艦橋魔女ブリッジウィッチによって構成された部隊です」


土日は休みます。

あと三話分で、とりあえず、連投は終了します。

この後は週間ペースを目指してみようかな、と思いつつ。

それでは、また月曜日にお会いできれば嬉しいです。

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