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第十四話 幼貌(ようぼう)の魔女ルーフィナ・ソフィーヤ

ロリババア系のキャラは、へんてこな口癖のことが多いのはなぜなんだろう……?

と言いつつ、テンプレートを外せないチキンです。王道って大事w

 研究機関パーフェクトドールは、もともとは新興宗教団体を母体とする組織である。

『感情を排することで、より高く、安定した能力を発揮できる人間を生み出す』

 自分たちの掲げる“崇高なる至高の目的”を達成すべく、彼らは複数の孤児院を運営し、身寄りのない子どもたちに独自の教育を施した。

 外部から見れば害のない慈善団体の、凄惨(せいさん)な内状が明らかになったのは数年前のことだった。

「……」

 第七艦隊拠点、補給艦『さつまさん』の司令官室にて。デスクモニターに映し出された資料を見て、鳩ノ巣一輝は顔を歪めた。

 そこに映し出されていたのは、今よりも、少しだけ幼い理香の姿だった。

 飾り気のないショーツのみという、最低限の衣類のみで検査用ベッドの上に横たわる理香、一糸まとわぬ幼い上半身には、肌着の代わりに無数のケーブルが伸びている。

 何かの検査の映像なのだろうか、横たわる彼女を複数の研究員が囲んで、見下ろしていた。

 理香の顔には、今と同じく表情はない。が、それでも、今よりも、暗く沈んでいるように一輝には感じられた。

 完全監視の下、パーフェクトドールの子どもたちは、日々、高度な教育を施されたという。

 そこに自由はない。親の温もりも、愛情も、楽しいことも、嬉しいことも、およそ子どもが与えられてしかるべき、すべての良いものがなかった。

 あるのはただ、数値化された能力の高い作品を造り出すという、狂った熱情。

 人材の育成ではなく、作品の創作、感情に左右されぬ能力の高い人形、ゆえに、完全(パーフェクト)人間(ヒューマン)ではなく、完全(パーフェクト)人形(ドール)と、彼らは名乗った。

「これもあの子たちが見た地獄の一つ、ってことか」

 つぶやいてから、一輝はモニターを消した。長く見ているには、耐えられない映像だったからだ。

 今さらながらに、紗代の訴えを思い出す。

 子どもが兵器開発に関わることに賛成はできないが、それでも第七艦隊はきっと、理香が昔いた施設より遥かにマシなんだろう。

「やっぱり、きちんと責任持って面倒見ないとな……」

 と、そこで、唐突に機械音声が響いた。

『緊急警報、当艦ニ接近スル艦アリ。識別信号:グリーン、味方』

 現在、第七艦隊は孤立中だ。そんなこの艦隊にやってくる味方と言えば……、

「姉さん、もう技術士官を送ってくれたのか……?」

 一輝は首を傾げた。

 エリート部隊たる第二艦隊の参謀を務める姉とはいえ、まだ、面会に訪れてから二日しか経っていない。かなり素早い対応と言えるだろう。

 恐らく、姉も理香の資料映像を見たのだろう。その上で、持前の義侠心をくすぐられたに違いない。

 ――こちらとしては助かるけど、複雑なところだな。

 少女たちが育ってきた環境が悲惨であればあるほど、こちらに有利になるというのは、皮肉以外の何物でもない。

 それでも、利用できるものは、なんでも利用しなければならない。

 いくら嘆いても過去は変えようがない。ならば、それを利用して少女たちの今を、そして未来を明るくすることが、何より大切なのではないかと思った。

「よし、いくか……」

 気分を入れ替えて、一輝は客人を迎えるために、接舷ドックへと向かった。


 ドックについたところで、一輝は思わず、外の景色に目を奪われた。

 移乗用の接続(コネクト)チューブの先、見えたのはガラスで造られたような船だったからだ。

 透明の外装の中には、同じく透明な歯車が、目を凝らすと見えてくる。歯車は複雑に噛み合わされて、忙しなく回り続けている。それはさながら、古い仕掛け時計の中身のように見えた。

「宇宙船に歯車って……、あれ、どうやって動いてるんだ?」

 そんなことをつぶやいた直後、船体がぐにゃりと揺らいだ。それはさながら、夏の日の陽炎のように……、美しい透明の船体が宇宙の闇に揺らぎ、薄れ、溶けて消える。

超微細機械(ナノマシン)群体宇宙船(セルシップ)……か?」

 惑星国家の中には、ナノマシンによって船体を構成する、群体宇宙船と呼ばれる宇宙船を採用している国が多く存在している。

 有名どころでは、小学星の一輪車型戦闘艇があげられる。敵船体にとりつき、その表面部に侵食、潜入して内部から破壊するという、凶悪な白兵戦用の強襲揚陸艇である。

 群体宇宙船の一番の利点は、装甲の破損などに関して、修復が容易だということだ。積載しているナノマシンが尽きない限り、その回復力は尽きることがない。

 それと同程度の利点として、ナノマシンを収納してしまえば、機体をコンパクトにできる、というのがある。前述の一輪車型戦闘艇の場合、操縦シートとなる一輪車に全てのナノマシンを収納可能のため、宇宙戦闘艇を少し大きめの一輪車サイズにまで縮小することができるのだ。

「でも、収納するコア部分が見当たらないな。ってことは、まったく他の技術のものなのか?」

 などと考えごとをしていると、唐突にドックの扉が開いた。

 瞬間、びょう、と強烈な風が吹きつけてくる。気圧差が生んだ風は、思いのほか強く、思わず一輝は目を閉じた。

 しばし顔を背けたまま、風が収まるのを待って……、ゆっくりと目を開けた一輝は……、

「はっ?」

 思わず、声を上げていた。

「ソナタが、第七艦隊の司令官かえ?」

 そこに立っていたのが、紗代たちと同年代ぐらいに見える、幼い少女だったからだ。

 小さな足が、一歩踏み出す。可愛らしい裸足を彩るのは、驚いたことに、赤い鼻緒の下駄だった。

 細く頼りない足首、傷一つない真珠のような脛の上、可愛らしい膝小僧と幼い太ももがあらわになっている。膝上、およそ十五センチぐらいのところから上に、水色の浴衣の裾が揺れている。

 薄い浴衣の生地には、艶やかな蝶が描かれていて、少女が歩くたび、その蝶がヒラヒラ、と羽ばたいているかのような錯覚を覚える。

 わずかに開いた胸元、浮かび上がる鎖骨の上に、か細い首筋に絡みつくようにして、深翠(エメラルド)色の透き通った髪が揺れていた。腰のあたりまで伸びた髪は、鮮やかなカールを描き、少女の歩みに合わせて、ふわふわ、と揺れる。

 くりくりとした大きな瞳に、妖しげな赤い光を湛えて、上目づかいに一輝を見つめながら、

「お初にお目にかかりょうす、わらわは、ルーフィナ・ソフィーヤ。魔法星国アーリストンが四賢者筆頭にして、統一宇宙軍の技術士官として任官したものにありょうす」

 少女、ルーフィナは、にやり、と妖艶な笑みを浮かべて言った。

「もう一度問う。ソナタが第七艦隊の司令官かえ?」

「あ、ああ、はじめまして。第七艦隊の司令をしている鳩ノ巣一輝です」

 聞いているだけで、頭がぼんやりしてしまいそうな蠱惑的な声、それに耐えてなんとか答える。

 と、次の瞬間、ルーフィナが音もなく近づいてきた。一輝の胸に顔を埋めんばかりに近づけて、小さな鼻をひくひく動かす。

「なっ、なっ……」

「ふむ、ソナタ、少し若いようでありょうすな。確か、他の艦隊ではもう少し、年かさ行った者が頭を張っていたように思いんすが……」

「……そう言うあなたは、もしかすると、俺より年上なんですか?」

 先ほどから、一輝の中に、強烈な違和感が生まれつつあった。

 確かに見た目は、年端もいかない少女のものだ。

 けれど彼女がまとった空気は、どこか老練で……、なんだか、おとぎ話の老獪な魔女と、話をしているような気分になってくるのだ。

「ふふん、なかなかに鋭い。いかにも。仮にも賢者を名乗る者、名に恥じぬ経験は積んでいんす。この姿は、魔法で維持していんすもの」

 そう言って、ルーフィナは、くるりと、その場で一回転する。照明を受けたか細い太ももが、その白く繊細な肌が艶やかに(きら)めいて見えた。溢れる子ども特有の生気は、とても偽物とは思えない。

「なるほど、魔法、ですか。ちなみに子どもの姿をしてる理由は何かあるんですか?」

「司令官殿、考えてもみるがよい。幼子の回復力は知られているところでありょうすが、幼形成熟が至高の進化だ、などという研究者もおるであろ? ならば、我ら魔女が魔法によりて、若さを維持しようというのは、道理というものでありょうすえ?」

 そう言って、幼貌(ようぼう)の魔女は、妖しげな笑みを浮かべた。

「さて、一華の頼みゆえ、しばし、こなたの艦隊に技術顧問として、連れ添うことにしんすえ」

設定資料1 パーフェクトドール教団

個性の排除による完全平和を唱える新興宗教団体。徹底した思想教育により、感情という個人差さえ排除しようともくろむ。

他の惑星国家との交流が始まって後は、目的を、個性の排除による能力向上へとシフト。子どもたちに非人道的な教育を施して行く。

もし、他の惑星国家との交流が始まらなければ、もし、世界大戦により人々の戦争への忌避感が高まっていたら、そして、もし、彼らが教育ではなく技術によって強制的に感情を排除する手法を手に入れたとしたら……。

暗黒の未来が形成されていた可能性もある。


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