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第十三話 古里理香の秘密

映画「planetarian~星の人~」を見てきたぞー!

そうして大泣きしてきました。いいSFでした。

やはり、SFはいい。。。

「しっかし、あんたが艦隊司令とはね。びっくりだわねぇ。確か、軍隊なんてクソ以下とか言ってなかったっけ?」

「そこまで口は悪くない」

 第二艦隊の拠点基地(メインベース)にたどり着くや否や、一輝は、ある部屋へと通された。

 第二艦隊筆頭参謀、鳩ノ巣 一華(かずは)の私室である。

 いっしょに来た理香を手前の待合室に残し、奥まったプライベートルーム通された一輝は、入って早々に、からかわれるはめになった。

「三年ぶりだったっけ?」

「そうだね。あんたが士官学校に入学して以来じゃなかった? コーヒーでいいんだっけ?」

「相変わらずのカフェイン中毒でね」

 差し出されたコーヒーカップを受け取りながら、肩をすくめる。

「にしても、相変わらず忙しそうだな、第二艦隊は」

「まーね。今度、小学星のルリス姫殿下のご一家の訪問があってね。その警備計画で、目が回るわよ」

「ああ、第三王女殿下か。なるほど、それは大変だね」

 始まりの惑星、小学星。

 地球が初めて外交を始めた惑星国家にして、現在の宇宙時代の到来の先駆けとなった星。

 外見年齢が十二歳程度までしか変化しない住人たちが住まうという、この惑星との国交が地球に及ぼした恩恵は計り知れない。

 その星の第三王女と、夫たる地球人の男性は、両惑星国家の友好関係に多大なる貢献をしており、今や、地球におけるVIP中のVIPと言えた。

「普段はお忍びで来てくれるから楽なんだけど、今回は公式な行事でね。第二艦隊としても警備に噛まないわけにはいかないわけ」

 実際のところ、かの星の船は、地球が持つ戦闘艦艇より数段性能が上だ。王女の船であれば、それこそ、艦隊を率いたところで捕捉できるとも思えない。

 ゆえに、警備はセレモニー的な側面が強いのだろう。

 そんな事情をすべてひっくるめた上でなのだろう、姉は苦笑いを浮かべていた。

「で、それはそうと、なに、あんたがあたしに会いに来るなんて、どういう風の吹きまわし?」

「ああ、そう。ちょっと、お願いしたいことがあってさ。魔法戦艦のことがわかる技術者を、派遣してもらえないか?」

 驚いた顔をする姉に、一輝はおどけた様子で言った。

「いろいろと事情があってね、うちの小さな魔女たちを出世させてやらなきゃならなくなったんだ」


「なるほど、軍に金出させて、子どもたちの居場所作りねぇ」

 説明を聞いて、一華は、納得したように頷いて、

「あんた、ホントに軍隊嫌いなのねぇ」

 しみじみと言った。

「ほっとけっての。で、協力してくれんのか?」

「んー、ま、あたしとしても子どもたちが困ってるって言うなら力を貸すのはやぶさかでもないんだけどさぁ……」

 歯切れが悪い。姉にしては珍しい反応に、一輝は小さく首をかしげる。

「軽く調べてみた限り、あんたんとこの第七艦隊、なんかきな臭そうなんだよねぇ」

「どういう意味だよ? 確かに、前の司令官とひと悶着(もんちゃく)あったって聞いたけど、それは前の司令官が悪かっただけだろ? みんないい子たちだよ?」

「子どもたちじゃないよ。それに、司令官の問題だけってわけでもない。例えば……」

 そう言って、一華は資料を投げ渡してきた。

 昔ながらの紙媒体のものだ。紙愛好家の姉らしい、と思いつつ、一輝は資料に目を通す。

「これは、また……」

「ね、一目瞭然でしょ? 設立の経緯もそう、関係者もそう、変に隠されてることが多すぎるの」

 艦隊設立の裏事情などは、軍事機密に関わることでもある。秘匿されている情報があっても不思議ではないのだが、それにしても、渡された資料には黒塗りの部分が多すぎた。

「例の事件の後は、幸い、おかしな動きはないみたいだけど、今後どんな扱いになるかはちょっと微妙よ。もし関わるつもりだったら、覚悟を決めときなさい」

 誰に聞かれているわけでもないのだろうに、一華は微かに声をひそめた。


 会合を終え、プライベートルームを出て、待合室に移る。

「リクエストの人材はできるだけ早く探して派遣できるようにしとくわ。それから……」

 姉の話は、そこで止まった。

 待合室には、立派な本棚が置かれていた。そこには、姉の私物である本が並べられていた。電子書籍が流通の基本となった今でも、紙媒体の本は生き残り続けている。そちらの方のコレクターというのも、当然のごとく存在していた。

 そして、姉は、コレクターとまではいかないものの、昔ながらの本を愛好していた。

 その、分厚い本の一冊を、理香が熱心に読みふけっていた。

 ソファの上、ブーツを脱いだ細い脚をきゅっと曲げて、すべすべとした幼い膝小僧を抱え込んだ体育座りのような格好で。めくれたスカートの中に、ちらり、と紺色の布が見え隠れしていた。

 白い太ももの裏と、小さなお尻と、コントラストを描く紺色の布地に、一瞬、どきりとするが、すぐに水着だったと思い返し……。

 ――いやいやいや、水着だからいいってもんでもないだろ。

 と、再び思い返す。

 これは、生活指導的なものとか、マナー的なものとか教える必要があるなぁ、とりあえず、スカートで体育座りをしない、という事を教えなくては……、などと考えつつ、一輝はかたわらの姉の方を見た。

「姉貴……」

「ん?」

「すまないんだけど、あの本さ……」

 一輝は、理香が呼んでいる本を横目に言った。

「ああ、あれか……。そうだね」

 そう言うと、一華は、理香のそばに歩み寄り、

「本が好きなの? 古里少尉」

「……ぁっ!」

 それでようやく、一輝たちの存在に気づいたらしい。

 理香は慌てた様子で足を下ろし、本を本棚に戻そうとする。

「ああ、いいよ。読み途中でしょう? 特別にあなたにプレゼントしましょう」

「……え、でも」

 困ったような顔でこちらを見つめてくる理香。それを見て、一輝は優しい笑みを浮かべる。

「くれるって言うなら、もらっとくといいよ。ついでに、欲しいの何冊かもらっちゃっていいよ」

「ちょっ!」

「いいんですかっ!?」

 その反応に、思わず、一輝は驚いた。普段、あまり表情を出さない理香が、ほんの少しだけ興奮した様子で、頬を赤く上気させていた。

 そんな理香だったが、すぐに、ハッとした顔をして……、その表情がすぅっと珈琲に入れた砂糖のように、消えていく。

「……申し訳ありません。少し、調子に乗ってしまいました」

 頭を下げて、

「……これも、お返しします」

 うつむいたまま、読んでいた本を一華に渡そうとする。けれど、

「一度、あげたものは返してもらうわけにはいかない。だから、それはあなたが持っていきなさい」

 そう言って、一華は理香の頭をなでてから、

「その代わり、これは報酬の前渡しってことにしましょう。弟をよろしくね。女の子の気持ちとかわかると思えないから、優しくしてあげて。それと、苦情があったら、あたしに言うこと。いいね?」

 にこり、と悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「……ぁ、了解、しました」

 こくこく、と頷く理香。

 それを見て満足そうに頷くと、一華がこちらに寄ってきた。

「本さ、見繕って何冊か送るようにするよ」

 一輝の耳元、小さな声で、囁くように言う。理香は、どうやらもらった本に夢中らしく、こちらには気づいていないらしい。

「ああ、悪い。費用の明細はこっちに送ってくれ」

 同じように、小さめの声で答える。

「……ちょっと、経費で落とすつもり?」

「それでもいいんだけどね。まぁ、俺のポケットマネーからかな」

 軍に金を使わせることは、別段なんとも思わないが、なんとなく彼女には、自分のためにお金を使ってくれる大人が必要な気がした。

「なんか、理香は、プレゼントとかもらったことなさそうなのが気になるからさ。プレゼントってことにしたいんだ」

「……あんた、本気であの子たちの面倒見る気みたいね」

 姉は、呆れるでもなく、からかうでもなく、どこか、尊敬にも似た色を秘めた目で見つめてきた。

 それがなんだか、無性にくすぐったくって、真面目な顔を作るのに苦労する。

「そうだね、途中で投げ出すような真似はしないよ、少なくともね」

 一輝の言葉を聞いて、一華は、なにかを考えこむようにうつむいてから、

「そう……。これは言わないでおこうと思ったんだけどね……」

 一度、言葉を切った。それから、微かに一輝から視線を外す。それは、姉が言いにくいことを言う時の、癖だった。そして……、

「あの子、パーフェクトドールの“作品”だよ」

 その一言に、一輝は、驚愕し、直後に不快さに顔を歪めた。

設定資料No1 小学星

拙作「小学星のプリンセス」に出てくる惑星。惑星国家そのものを小学星と呼んでいる。

住んでいる人たちの外見が小学生高学年までしか成長せず、結果として道具や宇宙船も小学生が使っているようなデザインのものが多い。例:一輪車型ユーザーインターフェイスを備えた宇宙船など。


……あとがきのネタがなくなってくるのですよ。なので、設定資料とかつけてみました。。。

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