第十二話 参番艦Jミルトン
すまねぇ、カープ優勝が気になって先週は投稿できなかったぜ……(言い訳
とりあえず、優勝おめでとうー!
「それじゃあ、いただきます」
「「「「いただきます!」」」」
食堂に、元気のいい子どもたちの声が響いた。
朝、昼、夜の食事は一緒にする。
それは、鳩ノ巣一輝が来る前から、紗代たちが守っていた大切なルールだった。
同じ釜の飯を~というような考え方は、いかにも軍隊といった感じがして、一輝は好きではないのだが、彼女たちのルールは悪くないと思った。
子どもが一人で食事をしているのを見るのは、あまり気持ちのいいことではない。
「ああ、そうだった。紗代、すまないけど、今日の午後は出かけることになってるんだ。留守番を頼めるかい?」
おおかた食事を終え、コーヒーに口を付けたところで、一輝は、紗代に言った。
彼女は小さな魔女たちの実質的なリーダーとして、学級委員的な役割を果たしている。なので、大体のことは彼女に話を通しておくようにしていた。
「お出かけ、ですか?」
小さく首を傾げる紗代。ちょっこりとした可愛らしい鼻の頭には、ソースがついていた。
他の子よりも大人びていて、しっかり者の紗代だが、食べる物はミートボールや、甘い卵焼きなど、子どもっぽいものが多い。今日の彼女のランチメニューは大きなハンバーガーだった。
ちなみに、彼女たちの食事メニューは基本的には自由だ。もちろん、健康管理のために栄養素などはしっかりモニターしているが、その範囲内でメニューが選べるようになっているのだ。
机の上にあった紙ナプキンを手に取り、拭いてあげると、紗代はびっくりしたような顔をして、それから頬を真っ赤に染めた。
「あっ、あの、ありがとう、ございます」
可愛らしいお礼に笑顔で答えてから、一輝は先ほどの質問に答える。
「ちょっと野暮用でね。第二艦隊の参謀どのに会ってこようと思ってるんだ」
――正直、あまり気乗りはしないんだけどね……。
向かう先で待っている相手……、苦手としている姉の顔を思い浮かべて、一輝は内心、ため息を吐く。
「それで理香、すまないんだけど、Jミルトンを出してもらえるかい?」
突然、話を振られた理香は、きょとん、と首を傾げた。しばし、なにか考えこんでいたが、やがて、
「……はい、わかりました」
無表情に頷く。
「あっ、あの、船でしたら、私が……」
ぴょこん、と手をあげて、紗代が立候補してくれる。
「あ、ああ、うん、ありがとう紗代。でも、ごめんね、今回は理香にお願いしたいんだ」
言うと、紗代は微かに傷ついたような顔をした。
「それは、もしかして、私の操艦がヘタだからでしょうか?」
上目づかいに見つめてくる紗代。一輝は安心させるように笑顔で首を振って、答える。
「いいや、違うよ。ただ、今回はちょっとお忍びでね、隠密性を考えるとJミルトンの方が都合がいいんだ」
実のところ、紗代の言った理由もなくはない。というか、そちらが真の理由だったりもする。
紗代の操艦は、ブリジッタやミシュリほど不安定ではないものの、理香には及ばなかった。
一輝の個人的感覚では、およそ酔い率3割増しと言ったところだった。
――会談には万全の態勢で臨みたいからな。
「……そうですか、わかりました。すみません、余計な口を出してしまって……」
しょんぼり、と肩を落とす紗代。
「ごめんね、紗代。また今度お願いするよ」
そう言ってから、一輝は、わずかな峻純の後、紗代の頭に手を置いて、優しく撫でた。
「……ふぁっ、あ、あの、ありがとうございます」
……なぜか、お礼を言われてしまい、当惑する一輝だった。
魔法戦艦参番艦、Jミルトン。
その設計コンセプトは“潜航工作戦艦”である。
漆黒の船体は、丸みを帯びていて、一昔前の潜水艦を太らせたようなシルエットをしている。
形状自体が変わっているが、それ以上に目を引くのは、船体前方につけられた四本の作業用アームだった。そのアームを使い、機雷の敷設や基地の修繕など、さまざまな作業ができるようになっているのだ。
さらに、通常空間と超空間の狭間にある、いわゆる亜空間への潜航が可能であり、あらゆるセンサー類をかいくぐって敵に接近することもできる優れものだ。
いわゆる、宇宙空間における潜水艦のような船、といえるかも知れない。
一輝は狭い通路を歩きながら、戦艦のカタログスペックを反芻する。
――けど、俺が酔わない理由、は特に見当たらないんだよなぁ。
つまりは、乗り手の技術、あるいは才能によるものなのだろう。
前を行く理香の背中を見ながら思う。すっと伸びた背中は、強く抱きしめたら壊れてしまいそうなほどに幼く、儚く見えた。
艦橋につくと、理香が立ちどまった。
そのまま体を前屈の姿勢にする。微かに上がったスカートの裾、その下に華奢な太ももの裏側が見える。軍支給のブーツの、横につけられたチャックを下ろす、と、現れたのは、すべすべとした膝裏だった。ブーツから引き抜くために、上げた右脚、白くもっちりとしたふくらはぎは、微かに硬さを残した幼い丸みを描いていた。
きめ細やかで、天使のような滑らかさを宿した踵、すべすべとした裸足の裏に、ほんのわずかに描かれたシワが、妙に艶めかしかった。
ブーツを脱いで裸足になると、スカートのホックに手をかける。すとんと落ちたスカートの下から現れたのは、飾り気のない紺色の水着だった。
そのままシャツも脱ぎ、水着姿になる理香。
脂肪が薄く、凹凸のあまり見られない子どもの体、紗代よりもさらに華奢で、ともすれば病弱にさえ見えてしまいそうな、細い肢体だった。
――栄養的にはきちんと食べてるはずだけど、それにしては細いな。子どもなんだし、もう少しふっくらしててもいいと思うんだけど。
「……? あの、なにか?」
視線に気づいたのか、理香が不思議そうに聞いてくる。
「いや、ちょっと細いな、と思って」
「……栄養は管理システムの通り取っていますが……」
お腹をぺたぺた触りながら、理香は小首を傾げた。さらり、と、絹糸のような黒髪が、頬を滑り落ちた。
「そうか。それならいいんだけど、ちゃんと食べるようにね」
「……了解です」
そう言ってから、理香は落ちたスカートとシャツを畳んで、ブーツの隣に置いた。
ちなみに、紗代は艦橋の壁につけられたハンガーにかけているが、残りの二人は脱ぎ散らかしたままにすることが多い。
生活態度の教育も必要かな、と思わないでもない一輝である。
「……それでは、魔力接続を開始します」
操縦槽のふちに立った彼女は、そのまま躊躇なく中に飛びこんだ。
長い黒髪が、彼女の白く美しい肌に絡みついて、どこか背徳的な色を帯びる。
すっと頭上近くまで上がった両腕、その指先に魔力の光がほとばしる。
小さな手のひらから、手首、すべすべの二の腕まで……、じりじりと紫の光の刺青が描かれていく。
それは、どこか幾何学的で、無機物的で、機能的な美しさを感じさせるものだった。
「…………っぁ」
つるつるとした幼い脇の下、敏感なそこに光が走った時、微かに理香の口から息が漏れた。
魔力接続には痛みが伴う。その痛みがどれほどのものかはわからないけれど、普段、表情があまりない理香が痛そうな顔をするのだから、それなりの痛みなのだろう。
数秒かけて装飾が施された脇の下から、胸元へ、同時にほっそりとした首筋を通って、背中に向かう。
すっとまっすぐに通った背骨沿いに、むき出しの幼い背中から腰に向かって落ちて行く。
やがて、ツンと伸びた裸足のつま先まで装飾を施された理香は、静かに口を開いた。
「……接続終了。Jミルトン発進します。司令席へどうぞ」
ヒロインのどこをどう描写すると魅力的に映るかこだわりを持って書くわけですが(今回はこのパーツを、とテーマを決めたりもしているわけですが)、書けば書くほど表現が使い古されていくというか、昔書いたような描写になっちゃったなぁ、なんて思うと、文章に熱量がこもらなくなっていくジレンマ。
表現を磨いていかなきゃなぁ、なんて思う今日この頃です。