プロローグ
スカッとするスぺオペみたいなのが……書きたかったんだ……。
みたいなのなので、SF考証とかはあんまり気にせず、寛容な心で読んでもらえたら嬉しいです。
「ターゲット要警戒圏内に入りました」
落ち付いた少女の声が告げる。
前方のスクリーンに映し出される敵を表す光点。その数は十。対して、味方を表す光点は四。
「速度十三宇宙ノット。射程圏内まで、およそ十秒」
一列に並んだまま、こちらに向かってくる敵を見やり、鳩ノ巣一輝は小さくうなずく。
「予告通りの動きだな。てっきり、なにか突発的なことをやってくるのかと思ってたけど」
「たぶん、突発的な事態への対応力より、純粋にこちらの戦力のテストがしたいんじゃないでしょうか」
「ふむ……」
腕組みし、指揮官席から立ちあがると、一輝は周囲に目をやった。
地球統一軍、第七宇宙艦隊所属 魔法戦艦「マナライダー」
その艦橋は通常の宇宙戦艦と比べて極端に狭い。十数歩も歩けば、端から端まで歩けてしまう。さらに、通常はあるはずの計器や操縦機械類もまた、そこにはなかった。
ある種、滑稽とも思えるほど何もない空間にあるのは、一輝が腰かけていた指揮官席と、艦橋中央部に備え付けられた、円筒形の水槽のようなものだけだった。
水槽の中には、一人の少女が入っていた。
まだ、若い。いや、幼いと言ってしまってもおかしくはない少女だった。
年の頃は十代の前半、可愛らしい顔立ちの少女は、華奢な体を袖なしのレオタードのような服で包んでいた。
凹凸の少ない少女の体に張り付くような、その薄い布地は、ほんのり輝いていた。
否、輝いているのは、その服ではなく、少女自身だった。
むき出しのほっそりとした太もも、その下、傷のないすべすべとした膝小僧も、幼いラインを描くふくらはぎから、小さな裸足に至るまで、白く繊細な肌の上には、淡い光を放つ紋様が刻み込まれていた。
紗代・ラックハート。
齢十一の小さな魔女こそが、魔法戦艦のコア、艦橋魔女を務める、この艦の実質的な支配者だ。
切れ長の美しい瞳が、水槽の表面を滑る。と、彼女の視線に合わせたかのように、そこに戦況を知らせるウィンドウが浮かび上がる。
「敵、さらに接近。速度は事前通告どおりです。どうしますか? 一輝さん」
少女を見上げ、一輝は、腕組みをといてうなずいた。
「ま、悩んでても仕方ないな。予定通りに行こうか。弐番艦、ローザ・キャバリエーレに連絡。予定通り、敵の真ん中を中央突破してくれ」
その言葉を待っていた、とばかりに、前方のモニターに新たな少女の顔が大写しになる。
「一番槍、任されましたわ!」
豪奢な金髪の少女が勝気な笑みを浮かべながら、言った。彼女もまた、紗代と同年代で、同じように水槽の中に浮かんでいた。
ブリジッタ・ベルナドット。
魔法戦艦弐番艦、ローザ・キャバリエーレを操る魔女だ。
「いきなさい! ローザ・キャバリエーレ」
小さな魔女の命令に、喜び嘶くかのように、戦艦は動き出す。
前方のモニターに一瞬だけ映し出されたその姿は、鋭角的なシャープなデザインをしていた。漆黒の外壁に、ところどころ、バラの花を模した赤いマーカーが散っている。
後部ジェネレーターが明滅したと同時に、その姿がかき消える。
人の視覚では追い切れない速度の加速。モニターの光点が前進し、敵の艦列に突っ込んでいく。
「参番艦Jミルトン、ローザ・キャバリエーレが行くから、敵艦列に撹乱魚雷を撃ち込んで。タイミングは任せる」
「……了解」
次にモニターに映ったのは黒髪の少女だった。背中の辺りまで伸ばした黒髪は、サラサラと繊細で、表情の薄い顔と相まって日本人形のように見える。
古里理香。参番艦、Jミルトンの艦橋魔女である。
すでに、敵艦列近くに潜んでいたJミルトンは、保有するありったけの撹乱魚雷を撃ちこんだ後、手はず通り、混乱に乗じて戦線を離脱する。
工作艦であるJミルトンは、乱戦になれば不利だからだ。
その乱れた艦列にローザ・キャバリエーレが突っ込んだ。前方に厚くシールドを張った突撃艦ならではの動きで敵の横腹に体当りを喰らわせ、さらに近接ビームで弾幕を張る。
「四番艦 ラブラドール、遠距離砲撃。弐番艦に当てないように」
「了解、お兄ちゃん。ミシュリ、頑張るね」
モニターに現れたのは、栗色のショートヘアとアーモンド形の大きな瞳が特徴的な少女だった。愛らしい笑みを浮かべた彼女は、ほかの三人よりさらに幼く見える。
「艦列から漏れたやつでいい。たぶん、ローザ・キャバリエーレを包囲しようとするだろうから、狙撃するんだ」
「了解。どんどん行くよー!」
元気のいい声の直後、その戦艦が映し出される。前方につけられた二門と後方尻尾のようにそびえ立つ長大な一門の砲塔が特徴的な艦船、四番艦 ラブラドールは遠距離支援戦艦である。
放たれる高出力魔力砲は、狙いたがわずターゲットを沈めていく。
次々と消えていく光点。モニターに大写しになる敵艦が、爆発の光に包まれて、航行不能になって行くのが見て取れた。
「訓練とはいえ、やっぱりエネルギー使って壊すって言うのは不毛だよな……」
小さくため息。それから首を振って、一輝は言った。
「よし、紗代。旗艦前進、仕上げと行こうか」
「了解。マナライダー、前進します」
聞いているだけでくすぐったくなるような可愛らしい声にうなずいてから、一輝は指揮官席に腰を下ろした。
とりあえず、書きあがったところまでは連投する予定です。
序章ぐらいまでは終わらせたい。