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透明人間の手記  作者: 宝積 佐知
舞台裏の小話
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あとがき

 このお話を書き始めたのは、序章の神木葵の独白が発端でした。加えて前編で回収出来なかったお話を纏めています。しかし、一応前編にてお話は終わっていますので、此方は蛇足に近い内容となっています。

 回収出来なかった主な話としては、葵の断罪、霖雨の見た並行世界、和輝の今後、翡翠の正体です。


 ①葵の断罪

 葵は凄惨な過去のトラウマから罪を犯しています。

 同情の余地があったとしても、その事実が変わることはありません。ですが、法律は葵を裁かないし、関係者は既にこの世にいない。


 彼が本当の意味で救われるとしたなら、それは過去を受け入れ、罪を償った後でしょう。



 ②霖雨の見た並行世界

 霖雨は並行世界の体験から疑心暗鬼に囚われ、双子の兄とも疎遠になっています。彼の見た並行世界とは何だったのか。如何してそれが起こったのか。

 確証は無いけれど、本人が納得し、過去から前進出来るように、辻褄合わせが必要でした。また、疎遠となった双子の兄との和解を果たして欲しかったのです。



 ③和輝の今後

 和輝は刹那的な生き方を求める計画性の無い人間ですので、その将来が全く見えませんでした。ヒーローになりたいという夢を叶える為ならば、どんな道も選び、そして、その万能性から大成するのでしょう。

 無軌道な和輝の将来が少しだけ見えたように思います。



 ④翡翠の正体

 翡翠は或る意味異端なキャラクターでした。舞台の横からひょっこりと顔を覗かせて、引っ掻き回して、退場する。彼が何者であったのか、何を目的としていたのか。その根底を滲ませました。





【登場人物】



 ◼︎常盤霖雨(ときわ りんう)


「この国は一見すると平和に見える。でも、そんなものは仮初めで、実際は大勢の犠牲の上に立つ砂上の楼閣だ」


 世界に諦念を抱き、並行世界の妄想に取り憑かれていた。だが、葵が世界の構造を理解、解釈する事で救われる。

 物語の紡ぎ手であり、霖雨視点で物語は展開して行く。


 基本的には、受動的で事勿れ主義者であり、無害。他者からの否定を恐れ、否定的な意見や忠告をすることに苦手意識があり、リア王に於けるコーディリアになることもある。だが、物語が展開して行く内に抵抗することを覚え、意気消沈した友達を温かく受け入れ、励ますことが出来るようになる。


 また、霖雨が成り行きで交換した連絡先は、後になって葵を救う架け橋のように繋がって行く。



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 ◼︎蜂谷和輝(はちや かずき)


「ただ、俺は、ヒーローになりたかった。助けを求める誰かを救う、正義の味方に」


 自身の生まれや嘘を見抜けるという特殊技能から、自己肯定感が希薄で、常に誰かの為でなければ生きられない。自己の肯定を他人に依存し、強迫観念に囚われ、刹那的な生き方を求める。しかし、物語が展開していく中で人間の限界を知り、取捨選択をするようになる。切り捨てたものには情けを掛けない。


 容姿や身体能力に恵まれた集中力の天才で、どんな環境にも適応し、活躍する。嫉妬や羨望、憎悪等のネガティブな感情に共感出来ない。正解を知っているヒーローは怠慢を許さず、正論を吐き捨てる。


 自分の信念に従った結果が、周囲からは超理論であり、とんでもない事態を引き起こすことも多い。



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 ◼︎神木葵(かみき あおい)


「俺には、理由が必要なんだよ」


 肉親と友人の死とサイコパスの診断から世界に絶望し、海外逃亡し、虚無に生きていた。だが、和輝の自己犠牲的な行動により、世界には希望があると知る。


 根本的には冷静で思慮深く、分別を弁えている。困難に対処し得るだけの頭脳や身体能力も持ち合わせていたが、降り掛かる悲劇が常識から逸脱していたので、天涯孤独の葵には対処し切れなかった。


 葵と和輝は共依存関係である。実は会話が噛み合っていないことも多いが、葵の好意的な解釈や和輝の超理論によって成り立っている。

 和輝の勤務先が欧州ということで、葵は再び母国を離れることになる。

 住居が見付かるまで和輝の家で生活することになり、葵は記憶を失った彼との距離感に戸惑いながら、それを思い出さぬよう細心の注意を払いつつも、皮肉を込めて「ご主人様」と呼んでいる。



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 ◼︎翡翠(ひすい)


「コンティニューするかい?」


 霖雨達にとっては最大の敵に当たるキャラクター。

 神出鬼没で、掴み所の無い強烈なカリスマ性を持った人間。知能は著しく高いが、反比例して共感能力は低く、他人の心を操る術を持つ。知的好奇心を満たす為ならば、他人の命を奪うことに躊躇いが無い。


 物語が葵を主体に展開したので敵となったが、視点が異なれば解釈は異なる。

 葵の兄を殺した殺人鬼に、翡翠は想いを寄せていた。

 翡翠の視点では、彼女が葵へ想いを遂げようとした時に、その兄が横槍を入れた結果、彼女は死刑を執行されることになった。

 この結末に異議を唱え、翡翠は現実を変える為に事件を巻き起こす。

 動機は人間的に見えるが、翡翠が彼女に向けていたのは慕情ではなく、崇拝である。翡翠は彼女に同情したのではない。

 翡翠の目には、葵もその兄も、彼女すらも人間として映っていなかったのである。


 葵は自分の相似形と思っていたが、本質的には和輝に近く、その差はベクトルの違いでしかない。

 和輝は他者を優先するが、翡翠は自己を優先する。


 最後は葵から和輝へターゲットを替えて姿を消したが、和輝が困難に出遭った時には再び現れて「コンティニューするかい?」と嬉しそうに尋ねるのだろう。



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 ◼︎白崎匠(しろさき たくみ)


「俺は、諦めることも必要だと思う。逃げることもまた強さだ。だが、そんな強さを求めるには、まだ早いんじゃないか?」


 和輝の幼馴染で、親友。

 和輝が常識的な倫理を持ち合わせたのは、彼の影響が大きい。几帳面で世話焼きなので、霖雨や葵からは飼い主、保護者などと呼ばれている。


 頑固で融通が利かないが、極めて一般的な常識人である。

 情には厚く、責任感も強い。和輝がどれだけ突拍子の無い行動をしても、大体は予想の範疇で、奔放な彼の身の安全を守る為に秘密裏に発信機を仕掛けていた。

 意外と御人好しで、葵の為に凡ゆるコネを総動員して、母国への強制送還を差し止めようとしたこともある。


 優先順位の中に、和輝という別のカテゴリーがある。

 未来、家庭を持つことになっても、それは最早揺るぎない、彼にとってのアイデンティティとなっている。



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 ◼︎黒薙灯(くろなぎ あかし)


「現実から目を背けて、何か変わるか?」


 母国の厚生局麻薬取締官から、FBIの犯罪行動分析科へ引き抜かれた優秀な刑事。

 冷静で頭の回転が速く、実直な人柄は周囲からも信頼を寄せられている。違法薬物の知識に長けているが、それは自身の過去に起因する。

 違法薬物依存者の親を持つ、生まれながらの薬物中毒者。幸いにして五体満足であったが、喜怒哀楽といった表情の類を喪失しており、常に凍り付いたような無表情である。

 違法薬物GLAYの危険性に逸早く気付き、警鐘を鳴らす。


 本編では違法薬物を巡る事件で同僚を失い、和輝と知り合う。これをきっかけに、ヒーロー性を求める和輝の生き方や或る意味盲信的な葵との共依存の危険性を警戒する。



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 ◼︎香坂晋助(こうさか しんすけ)


「俺は、決めたんだよ。あいつがサイコパスの診断を下されて消えた時、何があっても葵の味方でいると」


 葵の兄の元同僚で、名義上の保護者。

 行方を眩ませていた葵を追い掛けて母国の警視庁からFBIの組織犯罪対策部へ異動した。


 葵のサイコパスの診断や同僚の死により、罪悪感に囚われ、絶対的な味方となることを決意する。

 善悪や法よりも情を優先し、正誤を求める葵からは敬遠されている。


 葵が隔離施設に収監された時には、彼を助けようとする霖雨へ積極的に協力した。



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 ◼︎常盤春馬(ときわ はるま)


「入れ替わった未来は、もう不変だ。エラーの起きた世界は葬り去られている」


 霖雨の双子の兄。

 時の扉と呼ばれる並行世界へ介入する超次元的な力を持つ世界の特異点。

 物事を俯瞰的に捉えることの出来る現実主義者である。霖雨を思うが故に和輝や葵を警戒し、関わりを持つことに抵抗を示す。

 特に和輝は、春馬にとって行動が理解不能であり、悪い人間とは思っていないが、性格上相容れない為に一方的に苦手意識を持っている。和輝に対してつっけんどんな物言いになるのはその為である。



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【各話】



 お前が望んだものではなくても、お前が選んだものなんだよ。

【1.透明人間の手記 序章 神木葵】


「お前、春みたいだ」

【2.小春 ⑵彼岸西風 神木葵】


「溺れる者が、間違ったものを掴んだからと言って、誰にそれを責められる?」

【3.迷宮の怪物 ⑸アリアドネの糸 蜂谷和輝」


「でも、葵が悪になってしまうような一般論なら、俺は全力で抵抗するけどね」

【4.虚実の種 ⑶熱 蜂谷和輝】


「他人に値踏みされるような人生しか送れていないガキが、社会人語るんじゃねーよ!」

【5.名前殺し ⑷全能者の理 蜂谷和輝】


「絶望しながら生きるには、人生は長過ぎる」

【6.世紀末の夢 ⑷夢魔 蜂谷和輝】


「失われた命はもう、戻らない。でも、罪は赦される日が来るし、傷痕は残ってもやがて癒える。全部独りで背負い込む覚悟なんてしないで。貴方は生きているんだから」

【7.Xの悲劇 ⑹悲劇の裏側 蜂谷和輝】


「過去は、過去だ。振り返りはしても、囚われるものじゃない」

【8.電気羊の夢 ⑵たしかなこと 神木葵】


「その夢の為に、何を犠牲に出来るか」

【9.奇跡の真価 ⑹1セントの希望 蜂谷和輝】


「世界は生理的欲求に支配されている。欲求を満たす為には手段を選ばない。これを押し留めるものがあるとするなら、それは何だと思う?」

【10.開かない扉 ⑸錨、或いは繋ぎ留めるもの 翡翠】


「何が正しかったと思う?」

【11.羅針盤 ⑷君が信じた 翡翠】


「俺の兄貴は、ヒーローだった!」

【12.ボーナスタイム ⑹もう一つの真実 神木葵】


「そんなに死にたきゃ、死んじまえ。それで、次の朝に生き返れば良い」

【13.平等の神様 ⑶掌の希望 白崎匠】


「じゃあ、俺達がヒーローにしてやるよ」

【14.Hello,world‼︎ ⑷獅子身中の虫 常盤霖雨】


「朝が来たよ」

【14.Hello,world‼︎ ⑻夜明け 蜂谷和輝】



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