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Act. 12-8

<<<<  栗子side  >>>>

 

 

 翌朝は昨日の雨雲はどこに行っちゃったの? ってカンジにスッキリ晴れわたった青空になった。

 

 絶好の行楽日和に俄然、気分が盛り上がってくる。今日はみんなで遊園地の日なのだ。

 

 待ち合わせ場所は遊園地への送迎バスが出ている駅の改札口。

 

 早めに着いたあたしは、同じく早めに着いた高地さんと拝島さんとだべりながら、残りの三人の到着を待っていた。

 

 

「えっ? 朽木さん、不機嫌治ったんですか?」

 

 話題の中心はやっぱり気になる朽木さんのこと。

 

「多分な。もうピリピリしたカンジはなくなったぜ。なぁ拝島?」

 

 高地さんに促され、拝島さんは戸惑いを浮かべながらも「うん」と頷いた。

 

「話し合いで仲直りしたんですか?」

 

 あたしはこの間、喫茶店で拝島さんが言ってたことを思い出していた。

 

 確か、拝島さんは自分のせいで怒ってしまった朽木さんとよく話し合ってみるって……。

 

 その内容と仲違いの理由を聞き出したかったあたしは、何度も朽木さんちに電話をかけたのだ。

 

 だけどあたしの声を聞くと、即行電話を切りやがるのだあの野郎。

 

「うーん……。話し合ってはいないんだけど……」

 

 拝島さんは、よくわからないという顔で首をかしげた。

 

「俺が切り出す前に、朽木から『もう気にしてない』って言われたんだ。それからは本当にいつもどおりの朽木に戻ったし、忘れることにしてくれたのかな……」

 

 最後の方はぶつぶつとひとりごとを呟くように言い、考え込んでしまった拝島さんの肩を高地さんが明るく叩く。

 

「気にしてない、って言ったんならもういいんじゃね? なんでケンカしたんだか知んねーけど、お前ももう気にすんな!」

 

「う、うん……」

 

「今日は明るく、楽しくいこーぜ? せっかくの遊園地だかんな! 俺と祥子ちゃんのラブを盛り上げるためにも」

 

「無理だから。高地さん、それは無理だから」

 

「無理ゆうな――っ!」

 

 幻想を抱く高地さんの雄叫びにより話がアホ話に移ったところで、真昼と祥子が到着した。

 

 あたしは改札口から出てくる二人に「おーい!」と手を振って足を踏み出した。

 

 二人を出迎えようと近づいていく。だけどゆったりと歩くエレガントな二人の遥か向こうを見て、思わず駆け足。

 

 ホームへ降りる階段から、最後の一人が姿を現したのだ。

 

 

「くっちきさぁ〜〜んっ!」

 

 

 あたしの声に気づいたのか、階段を上る朽木さんの顔がこちらを向く。だけどすぐに逸らされる。

 

 いつもどおりの冷たい反応に背中がゾクゾクしちゃうね。もっと無視して!

 

「暖かくなって良かったわね」

 

 朽木さんを一声呼んだだけで改札口から戻ったあたしは真昼と祥子の横に並び、一緒に高地さんたちと合流する。

 

 真昼の挨拶代わりの言葉に「うん!」と頷いた。

 

 それからお楽しみ前のわくわくにテンションアップするあたしたち。

 

「真昼、今日はアップなんだね。その髪型こってるねー!」

 

「だって遊園地でしょ? ジェットコースターとかであたしの髪がぶわって後ろに広がったら、後ろの人、景色が見えなくて可哀想じゃない」

 

「あたしならむしろ喜ぶけど。シャンプーの香りがフローラルな気分、とかって」

 

「そんなのあんただけよ」

 

 柔らかく微笑む真昼は今日もとっても美人。ハイそこ、ただ見はダメだよ金とるよー。

 

 真昼に見惚れるあたしの横では、まとわりつく高地さんを無視して祥子が拝島さんに話しかける。

 

「言っとくけど絶叫系には乗らないから」

 

「祥子ちゃん、絶叫系苦手なの? もしかして乗り物酔いするほう?」

 

「どちらかというとそうね。あんなのに喜んで乗る輩の気がしれないわ」

 

「俺がしっかり支えてあげるから大丈夫! 吐きたい時は俺の胸で吐けばいいよ、祥子ちゃん!」

 

「よるな変態。あんたの横にだけは絶対乗らない。絶叫系でなくても乗らない」

 

「まぁまぁ、できるだけ穏便に頼むよ二人とも。あんまり深く考えず、楽しく遊ぼう、ね?」

 

 拝島さんは早速、保護者役の本領を発揮しだす。放っとくといつまで続くかわからない二人のじゃれ合いをエスカレートする前に止めたりして。

 

 今日一日大変だね、拝島さん。我が強いのが揃ってるもんね。

 

 あたしを筆頭にしてだけど!

 

 そんな風にわいわい盛り上がるあたしたちのところへ、背の高い影がやってくる。

 

 わお! 久しぶりに間近で見るナマ朽木さん!

 

 今日もうっとり。ボタンで袖を上げるお洒落なジャケットをスマートに着こなし、涼やかな笑顔をその上にのっけている。

 

 少し残念なのは、ちょっとアンバランスな大きめのバッグ。なんでそんなの持ってきてんの?

 

「俺が最後か。待たせて悪いな」

 

「おはよう、朽木。大丈夫、そんなに待ってないよ」

 

「なんだよその荷物。またタオルでも入ってんのか?」

 

「気にするな。たいしたものじゃない」

 

「またグリコが何かしでかした時用の突っ込みグッズですよね?」

 

「あたしのために! お笑い界に二人でデビューする日も近いね、朽木さん!」

 

「人類が滅亡する日よりはな」

 

 あいたっ、とおでこを叩く。相変わらずつれないお方。

 

 でもちゃんと話しかければ答えてくれる。あのピリピリはキレイさっぱり消えていた。

 

 みんなと軽口を交わす朽木さんは、いつもどおりの飄々とした俺様。いや、いつもよりやや愛想がいいか?

 

 うーん。どうゆうことだろう。

 

 あの時、電話を通じて感じた余裕のなさは、かなりキてる風だったんだけど。ホントに自己解決できたのかな?

 

 今は嘘のようにいつもどおり。てゆーか嘘くさいほどに。

 

 まぁ朽木さんの笑顔が嘘くさいのはいつものことなので、それは全然気にならないんだけど。

 

 それより、拝島さんと朽木さんの距離だ。あたしはきらりーんと目を光らせた。

 

 こころもちホッとした顔の拝島さんが、遠慮がちに一歩距離をおく。

 

 朽木さんを避けている、というよりは、近寄りたいけど気遣って間を空けている。そんな感じ。

 

 結局、なんでケンカしたのか、二人の態度から察するに。

 

 ………………。

 

 よくわからん。

 

 なんだかなー。拝島さんの様子、ちょっと違うんだよな。押し倒された側のとる態度としては。

 

 なんであんなに遠慮がち? ってくらいに遠慮してる。ふったのを悪かったと思ってるんだとしても、こんなに気後れする理由がわからない。

 

 それに、普通ふったんなら、線を引こうとするもんじゃない? あんなに嬉しそうに朽木さんを見るのって違うだろ。

 

 ということは。やっぱり。

 

 朽木さん、告白したわけじゃない?

 

 二人のケンカは別の原因があってのこと? それも、一方的に朽木さんが怒ったっぽい?

 

 そして今は、もう怒りは収まったのか、それとも無理矢理収めたのか、嘘くさい笑顔の朽木さんが、周囲に安心さをアピールしてまわっている。

 

 あーあ。拝島さん、すっかり騙されちゃって。

 

 まぁ面白そうだから、このまま二人を見物してよっと。

 

 

 * * * * * *

 

 

 賞品でもらった招待券は、到着した遊園地の入り口で、ありがたくもあたし達六人のパスポートに早代わりした。

 

 首から紐で提げたパスポートを見せ、悠々と園内に入る。

 

 さっすが有名な虎間園とらまえん。広さも人の入りもものすごい。

 

 ゲートを入ってすぐの広場には、肉食獣とは思えない爽やかな顔をした虎キャラの着ぐるみが、子供たちに囲まれて、愛想のいいポーズを見せている。

 

「ここのイメージキャラクターかな? 可愛いね、あのトラ」

 

 可愛いもの好きな拝島さんが早速目にとめ、顔を綻ばせて言う。

 

 あたしもニコッと笑って同意した。

 

「はい。あんな虫も殺さない顔で子供たちに近づき、今日の夕食はどいつにしようかなーとか値踏みしてんだと思うと微笑ましいですねー」

 

「そ……そう?」

 

 高地さんはマップとひたすら睨めっこ。あっちにするかこっちにするかブツブツ独り言を呟いている。

 

「最初はやっぱ絶叫系から……」

 

「最初から激しいのは嫌よね? あそこにミラーハウスがあるわよ。あれから行かない?」

 

 祥子を気遣ってか、真昼がいつもより強い調子で前方に見えてくる建物を指差す。

 

 なるほど。大きくて白いその建物は、『Mirror House』と書かれた看板を、屋根の上にのっけている。

 

「へぇ〜。中は迷路になっているみたいね」

 

 マップの説明をみんなに解説してくれる真昼。うわっ! 迷路楽しそう!

 

「鏡張りの迷路? なんだか疲れそうね」

 

「でも面白そうだよ。俺、迷路とか好きだな」

 

 気乗りしなさげな祥子を拝島さんが誘う。あたしはみんなから後ろに下がって、無言でついてくる朽木さんに話しかけた。

 

「どっちが先にゴールするか競争しようよ、朽木さん」

 

「……」

 

 おや? 聞こえなかったのかな?

 

 返事をしない朽木さんの袖を引っ張り、もう一回言ってみる。

 

「ねぇ朽木さん……」

 

「引っ張るな」

 

 手を払われた。うるさげに。

 

 あたしの呼びかけに答えることもなく、視線は前方に向けたままチラとも動かない。

 

 ありゃりゃ。やっぱりまだ機嫌は治ってないのかな?

 

 それならそれで無理に誘うこともない。

 

「どうせなら、二人一組に分かれて、ゴールを競わねぇか?」

 

 みんなのところに戻ると、高地さんがコンタンみえみえの提案を熱く語っているところだった。

 

「あんたとペアじゃないならね」

 

「ぐっ! や、やっぱみんなで行くほうが楽しいよな!」

 

「いえ、いいと思いますよ。六人でぞろぞろ歩くより、競争した方がずっと楽しくて。ね? 祥子。あたしと組みましょ」

 

 そう言って真昼が祥子の肘を引く。

 

「いいわよ。これであんたとは敵同士ね、バカ地。せいぜい頑張りな」

 

「ぐあーっ! そ、そんなぁ〜」

 

「俺と一緒に頑張ろうよ高地。足は引っ張らないようにするからさ」

 

 ちょうどあたしが輪に加わった時、そんな感じでいつのまにか自然と組み分けができていた。祥子と真昼。高地さんと拝島さん。

 

 あたしが残る一人と組むことは、みんな当然のように納得している。

 

 どちらかっていうと、朽木さんとは競い合いたいんだけど。ま、いっか。

 

 でも朽木さんが合意してくれるかどうか……。

 

「俺はグリコとだな。わかった」

 

 と、横に並んだ朽木さんの言葉にびっくりして振り返る。

 

 なんだその素直な態度!? さっきの不機嫌はどこにいった!?

 

「迷路なんて初めてだから、ゴールは遅くなるかもしれないな」

 

「とかなんとか言って一番にゴールするのがお前なんだよな。もう俺は騙されねーぞ。全力で逃げ切ってやる!」

 

 息巻く高地さんと談笑する朽木さんは、雰囲気にきちんと溶け込んでいる。

 

 さっきの不機嫌はたまたまだったのかな?

 

 あたしは首をかしげて、ミラーハウスに入っていくみんなの後ろについて行った。

 

 

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