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Act. 11-11

<<<< 朽木side >>>> 

 

「まったく……片付けくらいしてから寝ろ」

 

 テーブルに散乱するチョコの包み紙や豆の殻を集めながら俺はブツブツと文句を吐いた。

 

 聞いてくれる相手はいないので淋しい独り言だ。高地も拝島も既に酔いつぶれて意識はない。

 

 高地はトイレの帰りに限界に達したのか、リビングのソファーに倒れこみ、そのまま寝てしまった。拝島は書斎のテーブルにうつ伏して安らかな寝息を立てている。

 

 拝島が潰れるほど飲むことは滅多にないのだ。高地の絡み酒に付き合ってやった結果なので、全ての責任は高地にあるだろう。

 

 キッチンにゴミを運ぶ途中、ソファーからだらしなく四肢を垂らす高地を、汚したりしたら絶対弁償させてやる、と恨みのこもった眼差しで睨みつけた。

 

 まったくとんでもない奴だ。恩を仇で返すところまでグリコそっくりとは。

 

 寝室から毛布をニ枚取り出し、一枚を渋々高地にかけてやる。

 

 我が家に風邪菌をばら撒かれるのは迷惑だからな。

 

 そしてもう一枚を手に、書斎へ戻った。

 

「拝島。ここで寝ると風邪ひくぞ」

 

 テーブルに伏せて寝る拝島の肩を揺すり、声をかける。このフローリングの上で寝るのは確実に体に悪い。できればベッドに移動させたいのだが。

 

 拝島の意識は相当深く沈んでいるようで、まったく返事がない。

 

 やはりここに布団でも敷いてその上に寝かせるか。そう考え、とりあえずテーブルをどかすために、拝島の背中を後ろから抱きかかえ、引っ張り出す。

 

 その時。

 

「ん……」

 

 拝島が微かな声をあげ、俺の腕の中で身じろぎした。

 

 横になろうとしたのだろうか。幾筋かの髪が貼りつく頬を上に向け、俺の腕に縋りついてきたのだ。

 

 思わず手を止め、食い入るように深く見入る。

 

 微かに震える長い睫毛。

 

 シャツの裾が少しめくれあがり、腰の艶めかしい肌色が覗いている。

 

 ぞくり、としたものが背筋を駆けのぼった。

 

 これは――――

 

 俺は目を見張った。

 

 今頃気付くとは。

 

 無防備な拝島が、色めかしい姿で俺に身を預けているのだ。

 

 しかもこの部屋には今、俺と拝島の二人きり。高地がいるが、起きてくることはまずない。

 

 つまり、チャンスだった。既成事実を作るまたとないチャンス。

 

 体を繋いだ相手を忘れることはできない。その気がなくても意識するようになるものだ。

 

 ゲーム感覚でやってきた数々の経験により、それは実証済みだった。

 

 拝島を。手に入れる――――

 

 拝島が俺のものになるかもしれないのだ。

 

 ずっと恋焦がれ、抱き締めたかった体温が、今、俺の腕の中にある。

 

 やるしかない。こんなチャンス、もう二度とは来ないかもしれないのだ。ためらうな。

 

 心臓が早鐘を打ち出した。

 

 頬が熱い。燃え上がる血が全身を駆け巡り、視界まで朱に染まるかのようだった。

 

 そうと決まれば、拝島の眠りが深いうちにコトを済ませた方がいいだろう。

 

 俺はごくりと喉を鳴らした。

 

 しかし、いざこうなってみると、錆び付いた金具のように体が動かない。

 

 突然降って湧いた幸運は、俺の動きを確実に鈍らせた。

 

 大丈夫だろうか。俺のもとから去ったりしないだろうか。

 

 いや、優しい拝島のことだ。悩むだろうが、俺の気持ちを真剣に考えてくれるに違いない。

 

 最初は体だけでも、徐々に心も俺に寄せてくれる――――今はそう信じて、とにかく仲を進展させることが大事だ。

 

 なにより、こんな姿の拝島を目の前にして、もう平気でなどいられなかった。

 

 俺は震える手をあげ、首筋を覆う滑らかな栗色の髪をかきあげた。

 

 拝島。優しく抱いてやるから。

 

 俺を見てくれ、拝島。

 

 露になったうなじに軽くくちづける。

 

 そこから耳元、頬と、くちづけを移動させながら、ゆっくりと拝島の背中を倒す。

 

 冷えないよう、広げた毛布の上に細い体を横たえ、俺はその上に覆いかぶさった。

 

 密着する肌の心地良さ。

 

 ずっと欲しかったものだ。ようやく手に入れた。

 

 酒気を帯びて桜色に染まった拝島の肌はゾッとするほどに綺麗だった。

 

 シャツの裾から片手を差し入れ、撫で上げるように這いのぼり、辿り着いた胸の突起を優しくつまむ。

 

 感度がいいのか、反応を示すようにピクッと震える睫毛。無防備で、愛らしくて、たまらなくなる。

 

 しかし、あまり愛撫に時間をかけると起こしてしまうかもしれない。

 

 胸への刺激はやめ、もういちど頬にくちづける。

 

 そして長い間触れたかったそこ――――拝島の唇に、ゆっくりと自分の唇を重ねていった。

 

 すると。

 

 

「……ん」

 

 

 なんと、拝島が甘い声を出し、俺の首に腕を巻きつけてきたのだ。

 

 一気に体温が上昇した。

 

「拝島」

 

 柔らかな髪のかかる耳元に小さく囁くと、それに応えるかのように桜色の肌が煽情的に震える。

 

 心なしか、頬も更に赤みを増したようだ。

 

 駄目だ。もう抑えられない。

 

 たまらず強く抱き締めた。

 

「……く……ん……」

 

 寝言のような虚ろな言葉を呟き、俺を抱き締めかえす拝島。

 

 寝ぼけているのだろうが、これなら合意の上での行為だったと言えなくもない。そう考えると、罪悪感は薄らぎ、愛おしさのみが込みあげてくる。

 

「拝島――――好きだ、拝島」

 

 どうしようもなく火照る体を押し付け、貪るかのようにもう一度熱いキスをした。

 

 しかし、次の瞬間、拝島の口から漏れた言葉は――――

 

 

「くり……こ、ちゃん……」

 

 

 一瞬、視界が暗転した。

 

 何――今、なんと言った? 拝島は。

 

 誰かの名を……くりこ……栗子?

 

 はは。まさかな……。偶然だろう。

 

 どこかで聞いたような名だが。そんな筈は――

 

 と、またもや俺を抱き締め、頬に唇を寄せてくる拝島。

 

 

「栗子ちゃん。俺――」

 

 

 その先を聞くわけにはいかなかった。

 

 反射的に拝島を引き剥がし、俺は一瞬で水を浴びせられたかのように鎮火した体を起こした。

 

 再び安らかな寝息をたてだす拝島を、冷めた目で見下ろす。

 

 

 栗子。

 

 まさか。

 

「グリコ……?」

 

 そんな。あり得ない。

 

 あり得るはずがない。

 

 

 脱力した人形のように膝をつき、爪が食い込むほどに強く、拳を握り締める。

 

 何度も頭の中に反響するその名を呆然と呟いた。浮かび上がる、あの憎たらしい笑みを振り払うこともできず。ただ呆然と。

 

 

 グリコ。

 

 グリコ。

 

 グリコ……。

 

 

『にひ♪』 



 グリコだとぉぉぉぉぉっ!?

 

 

 

 

今回で Act.11 は終了。次回からは Act.12 となりますが。

ここで残念なお知らせです。

卯月はこれから公募の応募作に取り掛かるため、その間、腐敵をまた一時休載とさせていただきます。

同時進行させる時間がないのです。(>_<)

いつ連載再開するかは、残念ながら不明です。少なくとも三ヶ月・・・もしかすると半年くらい休載するかもしれません。

でも次に再開したときは、第一部終了まで一気に連載する予定です。

また盛り上がってきたところで切ってしまって誠に申し訳ありませんが、ご了承願います。m(_ _)m

次回、Act.12 からは、ご想像の通り、グリコと朽木の仲が微妙になってきます。二人の友情は壊れてしまうのか!?楽しみにお待ちいただけると幸いです。 

 

また、チェリーの続編となる中編を、2月くらいからHP5万HIT記念として連載する予定ですので、よければこちらも読んでみてください。

4万文字くらいの中編です。

それを掲載し終えたら、しばらく卯月の小説の更新はなくなってしまいますが、公募の応募作を読ませて欲しい!という方は、WEB拍手なり、私のHPの私書箱なりにメルアドを添えてそのことをご連絡くだされば、iらんどに掲載する予定の私の公募応募作品(鍵つき公開)のパスワードをお教えします。

公募への応募作なので、おおっぴらに公開はできないんですよ。ご了承ください。m(_ _)m

 

というわけで、今年も残りあとわずかとなりました。

新年が明けましたら、また挨拶文の投稿します。小説本文はないのでご注意を〜。

できればまた来年、皆様とお会いできるのをお祈りして。

今年も一年、お疲れ様でした。ではでは、よいお年を!

 

卯月海人 2008.12.30

 

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