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Act. 9-21

<<<< 栗子side >>>>

 

 大会は無事終了。

 

 もうひとつの賞品は、こちらはまともな遊園地の招待券だった。

 

 これだけでいいじゃん。なんでコスプレ用意するかなぁ?

 

 とりあえずほっと肩の力を抜いたあたしは、返してもらった着替えを手に、拝島さんと真昼のもとに戻った。

 

「お疲れーっ! みんな凄かったね!」

 

 満面の笑顔であたし達を迎えてくれる拝島さん。ああ和む。癒しのオーラがありがたい。

 

「もう疲れましたぁ〜。みんなでオヤツでも食べに行きましょ〜」

  

 人の波が引き始めた観客席に腰を下ろし、深く息を吐く。

 

「ほんっと、長いレースだったもんなぁ」

 

 高地さんもさすがに疲れたのか伸びをしながら言う。

 

「数日分歩いた気がするわ」

 

 祥子なんてもう体力の限界だろう。でも気丈な祥子は疲れた様子を見せようとしない。

 

「このレースのビデオ、後日発売するそうよ。みんな記念に買ってみたら?」

 

「えっホント!? 欲しい欲しい!」

 

 真昼の言葉に思わず立ち上がって反応した。

 

 参加してた側からすると、どんな風に実況されてたのか凄く気になる!

 

 と、あたしを見る真昼の生温かい視線に気が付いた。

 

「近くで見ると、ホント凄い格好ねグリコ……」

 

 うぎゃっ、忘れてた! まだコスプレ着たままだった!

 

「着替えてくる!」

 

「いいじゃん。せっかくだから着たままみんなで写真撮ろーぜ。結構似合ってるよグリコちゃん」

 

「こんな恥ずかしい格好を後世に残す気はないです!」

 

「確かにちょっと行き過ぎな感じはあるけど、可愛いと思うよ」

 

「拝島さん、もしかして猫耳メイド好き……?」

 

 ジトっと横目で見ると「ち、違うよ!」と全力で否定する拝島さん。

 

 あたしも、あたしが着てさえいなければ可愛いと思った格好かもしれない。メイドさんも好きだし。でも自分が着るのは寒すぎて勘弁なのだ。

 

「朽木さんも一緒に着替えに……」

 

 後ろの朽木さんを振り返り、誘いの言葉をかけた。

 

 その瞬間。 

 

 

 パシャッ

 

 

 …………………パシャ?

 

 イマノオトハナンデスカ? 

 

 ピシッと固まるあたしの視線が捉えた物は、あたしに向けられたカメラ。あたしのデジカメ。

 

 バッグに入ってた筈のデジカメから顔を覗かせたのは、にっこり笑顔の朽木さんだった。

 

「一生の思い出だな、グリコ」

 

 不吉な爽やか腹黒系笑顔を作って言う朽木さんは、既に帽子とコートを脱いでいた。あたしのバッグを肩にかけてる。そういえば荷物持ってきてくれたんだ。

 

 って、それはいいとしてっ!!

 

「いま、朽木さん、何を……」

 

 震える声で問いかけると。

 

 パシャッ

 

 さらにシャッターを切る朽木さん。

 

「いつもの仕返しだ」

  

 悪魔の微笑みで言い切った。

 

 

「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

  

  

 一気に血の気が引く。慌ててカメラに飛びつく。

 

「返してあたしのカメラッ!!」

 

「駄目だ。たまには勝手に撮られる身になってみろ」

 

 あっさりかわされる。無我夢中で伸ばした手がむなしく空を掴んだ。

 

「カメラはあたしのじゃん!!」

 

「データをコピーしたら返してやる」

 

「だめじゃぁぁぁっ!! 今すぐ返せぇぇぇっ!!」

 

 ベンチの周りを軽やかに逃げる朽木さんを追いかけ、必死に跳びはねた。

 

「すぐコピーして返してやるからちょっと待ってろ」

 

 ぎょっとして振り返る。朽木さんは、そんなとんでもない事を言い残して、グラウンドの東に走り出したのだ。

 

「待てぇぇぇぇぇぇっっ!!」

 

 あれはパソコンを探しに行く気だ。どっかのパソコンにデータを移す気だ。

 

 絶対にそんなことはさせんっ!!

 

 全力疾走で追いかけた。

 

 夕日が濃くなり、真っ赤に染まるグラウンドを駆け抜ける。

 

 さっきまで散々走ったのに、まだ走るはめになるとは。

 

 殺す。あの攻め男、生かしちゃおけねぇっ!!

 

「まだそんなに元気があるのかお前!」

 

「あたりまえだぁぁぁっ!! カメラ返さないと怖いよ朽木さんっ!」

 

「妙なことしたらこの写真をネットに流すぞ!」

 

「このあたしを脅迫たぁいい度胸だっ! 殺すっ!!」

 

 しかしあたしがどう頑張っても、朽木さんに追いつく筈がない。筈がないのだけど、朽木さんはからかってるのか、わざとあたしを引き付けてはササッと速度を上げて逃げるのだ。

 

 やっぱり根性曲がってるよこの男!

 

 とうとうグラウンドの端まで来て道を曲がる朽木さん。近くの建物に逃げ込んだ。

 

「逃がさんっ!!」

 

 階段を駆け昇り、あたしを引き離していくスレンダーな体。息が苦しいけど置いていかれるわけにはいかない。

 

 ニ階から三階に昇ろうとしたところで、今度は廊下を走る音が聞こえる。反対側の階段から逃げる気だ!

 

 あたしは瞬時に階段を昇る足を返し、ニ階に戻った。ニ階の廊下を全力で走り抜ける。

 

 そして廊下の端に辿り着く直前、踊り場を曲がる朽木さんの姿を見つけた。

 

 あと少し!

 

 手を伸ばしたが惜しくもかわされる。先に階段を降りられ、咄嗟にあたしは空を飛んだ。

 

 

「なっ!?」

 

 

 慌てふためく朽木さんの声。

 

 頭に血が昇ったあたしは階段を思いっきり蹴って、朽木さんに落下しながら飛び掛ったのだ。

 

「うにゃっ!!」

 

 ぶつかり合う体。視界が暗転し、何も見えなくなる。

 

 襲ってくる衝撃を予想し、咄嗟に目を瞑る。

 

 カシャーンと硬い金属音が聞こえた。

 

 

 

 ズダ――――ンッ!

 

 

 激しく何かがぶつかる音が響いた。だけど予測した痛みはどこにもなかった。

 

 鈍い衝撃は感じたものの、温かい何かに包まれ、激しい打撲には至らなかったのだ。

 

「――――っつぅっ」 

 

 何が起こったのか理解するまでに時間がかかった。

 

 耳元で聞こえる朽木さんの呻き声。それを聞いた瞬間、朽木さんがかばってくれたんだと気付いた。

 

 あたしの下にクッションとなってくれてるこの温かいものは朽木さんの体だ。背中と肩を包んでるのは朽木さんの腕だ。

 

 朽木さん、あたしの下敷きになってくれたんだ。

 

 ど、どうしよう。やばいやばいやばい。朽木さん、動かない。

  

 怖くて顔が上げられない。もし朽木さんが大怪我してたら? 血を流してたら?

 

 バ、バカだあたし。やりすぎた。ついムキになっちゃって。

 

 えっと、えっと。はは早く立ち上がらなきゃ。救急車呼ばなきゃ。あたしのせいで朽木さんが――

 

 

「馬鹿かお前はっ!」

 

 あたしの心配は一瞬で吹き飛んだ。

 

 朽木さんが怒鳴ってる。いつもの声で怒鳴ってる!

 

 しかも、あたしを抱えたまま元気に肩を起こしてるのだ!

 

「朽木さんっ!」

 

 思わず嬉しくて目の前の首に抱きついた。

 

「うっ! こらっ! 苦しいだろっ!」

 

 勢い余ってまた床に倒れるあたし達。朽木さんはあたしの肩を抱え、胸中にかばいながら受身を取った。

 

「ごめんっ! どっか怪我はないっ!?」

 

「お前こそ怪我はないのか?」

 

「あたしは大丈……」

 

 言いながら顔を上げ、朽木さんと目を合わせて。

 

 

 瞬間、頭が真っ白になった。

 

 

 長い睫毛。すっと通った鼻筋。

 

 綺麗な顔が目の前にあったのだ。

 

 

 どくん――

 

 

 違う。駄目。跳ねるな心臓!

 

 でも意識しだすとそれは止まらなくて。

  

 背中に回された朽木さんの腕だとか。胸にも、手にも、感じる体温だとか。

 

 伝わってくる鼓動。息遣い。

 

 今更ながら、朽木さんに抱き締められてることを、はっきりと自覚する。 

 

 まずい。

 

 頬が熱くなる。自分が赤くなっていくのが分かる。

 

 朽木さんの目が驚いたように見開かれた。

 

 じっと見られてる気がして、ますます落ち着かない気分になる。

 

 駄目だ。離れなきゃ――

 

 

「――ったく。どこまで走ってったんだよあいつら」

 

 その時、外を通り過ぎる高地さんの声が聞こえた。

 

 ハッと呪縛から解け、あたしは素早く体を起こした。

 

「あっ! デジカメ!」

 

 朽木さんの上からどき、どう見てもおしゃかになったデジカメを拾いに立ち上がる。

 

 なんとか胸の動悸を鎮め、しゃがみ込んでデジカメの残骸を拾い、背後の朽木さんを振り返った時にはいつもの笑みを浮かべることができた。

 

「ふっふっふっ。残念でしたー朽木さん!」

 

「……お前の執念には呆れた」

 

 こちらもいつもの呆れ顔に戻って吐息する朽木さん。ゆっくりと身を起こし、立ち上がったと思った体が、直後、ふらっと前方に傾いだ。

 

「ちょっ! ホントに大丈夫朽木さんっ!?」

 

 慌ててその上背を支えにいく。あたしの背中に腕を回して寄りかかってくる朽木さん。ずしっと肩に重みがかかる。

 

「おっ。重いーっ」

 

「お前のせいだろ。……どうやら足を挫いたみたいだ」

 

「うっ。……そっか、ごめん」

 

 やっぱり怪我ひとつしてないなんてことはあるわけがなかった。

 

「しばらく看病してあげるから」

 

 朽木さんの体を支え、残りの階段へ進みながら言った。

 

 やーっぱここは、愛情たっぷりの料理を作ってあげるしかないでしょう!

 

 それは誠心誠意を込めた償いのつもりで言ったのだけど。

 

 しかし、一瞬押し黙った朽木さんは足を止め、

 

 

「いや……それは丁重にお断りする」

 

 

 神妙な顔で言ったのだった。

 

 

 

 

これにて、長らく続いた Act.9 は終わりです〜〜!!

 

いやもう、すみません、長々と。凄い文字数になっちゃいました。(汗)

作者の「こんなイベントあったら楽しいなー」なんて妄想から作られた長ったらしいレースにお付き合いただき、本当に、本当に、どうもありがとうございます。m(_ _)m

そして、毎日応援どうもありがとうございます!

青春小説大賞、おかげさまで、上位に入ることができました!

NNRやNEWVEL、HONなび、長編小説ランキングなど、どんだけ押させるんだこの作者!みたいな登録ランキングの嵐に、根気よく投票してくださってる方々・・・ホントにホントにありがたいです!超ラブ☆

この応援を糧に、これからも頑張っていきますね〜〜♪

 

あ、そうそう。今まで一回の文字数、5000-7000とかめちゃくちゃ長かったんですが、やっぱりちょっとした時間にさらっと読むには多い気がするので、これからなるべく 2000-4000 に収まるようにしますね。

切れる場所がなくて、たまにすんごい文字数になっちゃうかもしれませんが。(汗)

でもって、時間に余裕がある時は、なるべく週3アップするようにしますね。

多忙なため、なかなか筆が進まず申し訳ないっす!

 

ではでは。最近、寒さが厳しくなってきましたが、皆さま風邪をめされませんよう。健康にはご注意を。

 

では、Act.10 で!

 

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