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Act. 9-19

 

アルファポリスの青春小説大賞に投票してくださった方々、どうもありがとうございます!(>∀<)

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<<<< 朽木side >>>>

 

 高地の足が速いのは最早疑いようもない。

 

 スポーツ万能とは言い過ぎかと思ってたが、案外本当のことかもしれない。

 

 少しでも気を抜けば負けそうな、俺にとってはかなりギリギリの勝負だった。

 

 こんなに全力疾走したのは何年振りだろうか。

 

「負けねーぞ朽木!」

 

 横に並んで走る高地が楽しそうな顔をこちらに向けて叫ぶ。

 

 その時点で、こいつの方が勝ってるのを感じずにはいられない。俺には喋る余裕すらない。

 

 横目で一瞥し、なんとか声を絞り出した。

 

「それはこっちのセリフだ」

 

 息が苦しい。濡れた服が体に纏わりつく。

 

 何故、俺がここまで必死になる必要がある?

 

 グリコの挑発など無視しておけばよかった。後悔しても、もう遅い。

 

 あいつがいきなり神薙のことを持ち出すから、つい、俺らしくない行動を。 

 

 いやそれだけではない。あいつの目を見てると、心がざわついて――

 

 熱くならずにはいられなかったのだ。

 

 何故だろう。あいつに真正面から見られると、ひどく落ち着かなくなる。全てを見透かされてるようで、感情の抑えが効かなくなる。

 

 こんな気持ちは昔にも感じたことがある。奇妙な既視感。それが俺の心を揺さぶり、気付けばグリコの挑発に乗せられていた。

 

 こんなレースに勝ったところで、何の得にもなりはしないというのに。

 

 こんなレースに勝ったところで――

 

「うわっ! なんだありゃ!?」

 

 突然、高地の悲鳴があがった。

 

 正門からグラウンドに伸びる大通りに出てすぐのことだった。同時に俺も驚きに目を見開く。

 

 前方、両端を観衆に挟まれた道の進路を塞ぐように、信じられない物が置かれていたのだ。

 

「ハードル!?」

 

 そう、それはハードルだった。陸上競技用のあのハードルが、ご丁寧にも避けにくいよう数列ジグザグに並べられていた。

 

 さっきここを横切った時にはなかった筈だ。俺達がホールにいる間に準備したのだろう。

 

「今年の学祭はやりすぎじゃないのかっ!?」

 

 目前に迫るハードル。

 

 思わず叫びながら飛び越えた。

 

「よっ! ほっ!」

 

 横の高地も迷わずジャンプする。

 

「はっ! っとと。最後の盛り上げは盛大にってか!」

 

「狙いすぎだ!」

 

 最後のハードルを飛び越えると、今度は巨大な跳び箱が聳え立っていた。

 

 いつから障害物競走になった? 何段あるんだあれは。

 

「うぉぉぉっ! 俺の愛の力を見せてやる――っ!」

 

 なんとも恥ずかしい掛け声と共に、高地が踏み台へと一直線に突進する。

 

「俺の勝ちだ朽木!」

 

「寝言は寝て言え!」

 

 つい売り言葉に買い言葉で答えてしまった。

 

 踏み台を力の限り蹴りつけ、経験したことのない高みにまで跳躍する。

 

 風を切る心地良さが、不思議な高揚感と共に俺を包んだ。

 

 

 そうだ。負けられない。

 

 高地にも。グリコにも。

 

 くだらないレースだろうと、なんだろうと。

 

 負けるわけにはいかない。

 

 

 きちんと敷いてあったマットに着地し、素早く体勢を整える。

 

 もうグラウンドは目の前だ。

 

 走り出した先に、恐らく最後であろう障害物が現れた。

 

 いや、障害……人間!?

 

 思わず目をこすりたくなる。人間だ。ごつい上半身の男達が、肉の壁となって立ち塞がっていたのだ。

 

 メットにショルダーパッド入りユニフォームと、見るからにフル装備の男達は、八人横一列に並び、全員でスクラムを組んでいた。

 

「アメフト部っ!? おいおいそんなのありかよ!」

 

「今年の実行委員はなに考えてるんだ!?」

 

「こっから先に行くには俺達を倒して行け――っ!」

 

 筋肉集団の中央に立つ男が、野太い声を張り上げた。肉弾戦を得意とする男らしい粗野な響きだ。背中に夕陽でもしょってそうな雰囲気がある。

 

 推理レースじゃなかったのかこれは、という疑念は最早どうでもよくなってはいたが、スポ根ものに変えられるのは勘弁願いたい。

 

「無茶苦茶だな。あれを突っ切るのはいくらなんでも無理だろ」

 

 男達の手前十数メートルで足を止め、俺は苦々しげに言った。高地の足も僅かな躊躇いを見せつつ止まる。

 

「おい千駄ヶ谷! ライン揃えてくるなんて汚ねぇだろ! 素人相手にそこまでするか!?」

 

「お前は素人じゃないだろ高地! 安心しろ! 本気でタックルするのはお前だけだ! そっちの男前は軽く阻むだけで許してやる!」

 

 どうやら精神的な脅しのための壁らしい。最後に試される探偵の器は勇気だとでも言いたいのだろうか。

 

「んなの不公平だろ!? なんで俺だけ本気のタックルなんだよ!」

 

「やかましい! こないだはよくも試合をすっぽかしてくれたな! しかも寝坊だとうっ!? おかげでこちとら一回戦敗退だ! あの時の恨み、今晴らしてくれるわっ!!」

 

 千駄ヶ谷と高地が呼んだごつい男は鼻息を荒くして低く身構えた。

 

 確かにあれは本気の構えだ。あれが突進してきたら並の男は恐怖で逃げ出すしかない。

 

「俺のせいなの!? 自分達の実力で勝てよ! 補欠のレシーバー一人いないくてもなんとかなるだろっ!」

 

「ワイルドレシーバーがおらんで勝てるかぁぁ――っ!! ものどもかかれぇぇ――っ!」

 

 中心の男の号令一下、男達がスクラムを解き、一斉になだれこんできた。

 

 ちょっと待て。本当に軽く阻むだけか?

 

 俺へと向かってくる男達の半分は、それどころじゃない闘争心が剥き出しに見える。ぎらつく目が殺気すら帯びているように見えるのは気のせいか?

 

「このチャンスを待っていたぞ朽木冬也! ユミちゃんを奪われた恨み今こそ――っ!」

 

「サユリちゃんを返せ――っ!」

 

「なんの話だっ!?」

 

「お前のファンクラブに入る、ってふられたんだよちくしょぉぉぉっ!!」

 

「知るかっ!」

 

 やっぱりこいつら本気で俺を倒すつもりだ。捕まったら何をされるか分かったもんじゃない。

 

 俺は意を決して前に駆け出した。

 

 正面から突っ込み、取っ組み合うと見せかけて直前でバックステップ。素早く方向転換で斜め後方に下がり、勢い余って体勢を崩した一人の襟を掴んで引き摺り倒す。

 

「なっ……! カット・バックだとぉっ!?」

 

 高地を追いかけていた筋肉ボスがよく分からん叫びをあげた。

 

 一人が倒れたことで陣形は崩れたようだ。咄嗟に突進をやめた男達がばらばらになって俺を追いかけてくる。

 

 掴もうとする手をこちらも手刀で払い落としながらかわし、体を半回転しながら背後に回りこむ。その一人の脛を蹴りつけて前方に転がしてやった。

 

「すげぇな朽木!」

 

 同じく男達をひょいひょいかわしながら高地が声をかけてくる。しかし、気が逸れた瞬間、筋肉ボスに腕を捕られてしまい、慌てて取っ組み合う。

 

「不注意だったな高地!」

 

 こちらも掴みかかってくる一人の腕をかわしながら返事をする。逆に腕を捕って引き摺り落とす。

 

「こういう奴らは引きに弱いんだろっ?」

 

 重そうな防具を着けて重心を前方に傾けていたら尚更だ。

 

「欲しいっ! 欲しいぞ朽木冬也! アメフト部に入らないかぁぁっ!?」

 

 ぎょっとなった。高地の肩を掴んでいた筈の筋肉ボスが、いつのまにかこっちに向かってきていたのだ。

 

「全力で断る!」

 

 抱き締めんとばかりに飛び掛ってくる巨体から、なんとか後方に逃げた。しかし、横からは更に一人の男が迫ってきていた。再び体勢をこちらに向けた筋肉ボスと同時に攻め込んでくる。

 

 しまった! 挟み撃ちになったか!?

 

 と思った瞬間。後方から何かが飛んできた。

 

 なに?

 

 低く滑空するそれは、俺の左側から迫ってくる男の足元に落ち、それを踏んだ男の足を滑らせた。

 

「どうだぁーっ! 必殺皿手裏剣!」

 

 堪らず派手にすっ転ぶ男を避けながら背後の姿に目を向ける。

 

 男を転倒させた物――数枚の小皿を投げたのは、紛れもない腐女子、グリコだったのだ。

 

「逃げるよ朽木さん!」

 

 先に倒されていた男達の背中を躊躇なく踏み台にし、呆然とする俺の元に飛んでくるグリコ。

 

 今日はジーンズで良かったな。

 

 などと我ながらずれた感想を抱きつつ、俺も前方に向き直る。

 

「あっ! ちくしょー負けるかっ!」

 

 慌てふためく高地の叫びが後方で微かに聞こえるが、その時にはもう遅い。俺は走り出していた。

 

 全開の全速力で、ようやく障害物のなくなったグラウンドを一気に駆け抜ける。

 

「いけいけ――っ! 朽木さぁ――んっ!」

 

 グリコの声援がもう遠い。

 

 代わりに追いかけてくる高地の気配がぐんぐんと迫ってくるのを感じる。

 

 観客席の横を回り、ステージへの階段を一足飛びに飛び昇る。

 

 ステージの中央には、これも予定された事だったのか、台座に置かれたパイプが光っていた。

 

「来ました来ましたぁ――っ! 僅かに朽木君がリード! 朽木君がりぃどぉぉぉっ!!」

 

 最後には飛びかかる高地につられて、俺も力一杯腕を伸ばした。そしてパイプを先に握り締めたのは――――

 

 

「くっ――はぁっ、はぁっ――これで、終わり――――だよな?」

 

 

 俺の手だった。

 

 

 

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