表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/171

Act. 9-17

<<<< 栗子side >>>>

 

「よく来てくれました、探偵殿」

 

 横一列に並ぶ部員達。山崎君、川田君も戻ってきてる。その端、舞台の左袖から刑事さんが現れて言った。

 

 あたし達は静かに通路を進み、舞台の前へと歩み寄った。

 

 近寄ると、舞台前のセンターゾーン、その左手からカメラがあたし達の姿をじっと捉えてることに気付いた。

 

 ただのゲームなのに不思議な緊張感を感じる。

 

 凄いレース。

 

 大変だったけど、滅茶苦茶面白かったよ、このレース。

 

 リアルなストーリー、凝った芝居、様々な難易度のクイズ、あちこち走り回される演出――

 

 きっとお金も相当かかってるに違いない。主催者に拍手だよ。 

 

 さぁ――逮捕の証は何処にある!?

 

 

「ここに来られたということは、犯人が誰だか分かってるということですね?」

 

 問われて朽木さんと祥子が頷いた。

 

「では率直にお訊きしましょう。この演劇部の練習中に起こった殺人事件。演劇部員金森幸太郎を倉庫で殺害した人物。その犯人の名は一体誰ですか?」

 

 朽木さんと祥子の腕がすっと上がる。

 

 その指は一点の迷いもなく、同じ人物を指し示した。声を揃えて二人は答える。

 

 

『川田』

 

 

 えっ!? 川田君っ!?

 

 ええ〜〜っ? なんで? 川田君は、濡れ衣を着せられた役じゃないの?

 

 あたしはびっくり眼で二人の顔を見回した。

 

 指名された川田君は、顔面蒼白になって一歩前に飛び出した。

 

「お、俺じゃありません! そりゃ俺のナイフが凶器として使われたみたいだけど、俺は1時40分までこの舞台にいて、その後すぐ研究室に戻ったんですよ! 金森を殺す時間なんてなかった筈です!」

 

 必死に反論する川田君。朽木さんがカメラを意識してか、外向けの丁寧語で説明を始める。

 

「犯行時刻が1時半から45分までの間というのは、アリバイを作るためのトリックで偽装されたものです。金森幸太郎はもっと以前に殺されていた。殺害後死体の胸ポケットに呼び出しの手紙を入れ、1時半に金森の携帯からメールを出し、いかにも1時半まで金森が生きていたと思わせた」

 

「なっ……! で、でも、それならいつ俺が金森を殺したって言うんですか!? 俺は1時から1時20分まで実験室で実験してたんですよ!? 測定結果のプリントだってあります!」

 

 確かに。川田君がずっと実験室にいた証拠はそれが示してくれてた筈だ。

 

「そんなものは実験装置の時計をいじれば偽造可能だわ。前もって用意しておくことができるものなんて証拠にならない」

 

 今度は祥子が問いかけに答えた。

 

 実験装置の時計をいじって偽造……なるほど。そういう手もあるのか。パソコンでどうにかして作ったのかな? とか一瞬思ったけど、もっと簡単に作れるんだね。

 

「な、なんで俺がそんなややこしいことした上で、自分のナイフを使わなきゃいけないんですか? 自分が犯人だって、わざわざばらすような真似を……」

 

「それは自作自演です。自分のナイフを使うなんて不自然だと思わせ、自分から疑いの目を逸らすための」

 

 びくっと川田君の体が震えた。怯えるような目で朽木さんを凝視する。

 

「自作……自演……?」

 

「そう。具体的には、容疑を山崎に移すための自作自演。自分のナイフを見つかるようにゴミ箱に捨て、犯行に使った台本をわざわざ証拠として研究棟のトイレと部室に残した。山崎の髪の毛まで添えて。それにより、自分は濡れ衣を着せられようとしてると演じたわけです」

 

 そうだったのかー! まんまと引っ掛かったよあたし!

 

 いや、山崎君が犯人ってのも引っ掛けくさいなーとは思ってたけど。川田君が犯人のセンはなしだろ、とか思い込んじゃってたよ。

 

「そんなの……そんなのでたらめだっ! 大体山崎が疑わしいなら、山崎がやった可能性もあるんでしょ!? なんで山崎が犯人じゃないって言い切れるんですかっ!?」

 

 とうとうキレ始めた川田君。声を荒げて叫んだ。

 

「山崎を犯人とするには行動に意味がなさすぎるのよ。買ったお茶がアリバイなんて弱すぎだわ。メールと手紙を使って犯行時刻をずらすのも彼に限って言えば意味がない。自分がその場にいない時間にメールを送っても仕方がないからね」

 

 うんうん。確かに山崎君はかなりあやふやなアリバイだった。はっきり言えるのは、1時20分までのアリバイは確かなことと、その時まで凶器を持っていなかったってことだけ。

 

「貴方に罪を被せようと貴方のナイフまで使ったわりには自分の保身に無頓着すぎなのよ。友人にリュックの中身を見せた行為も、隠した凶器を取りに行く手間を増やすだけで、自分から容疑を逸らす決め手にはならない。行き当たりばったりの犯行でした、というオチだったとしても、部室に血のついた台本を残す意味がない。そんなのそこら辺に捨てればいいことだわ」

 

 きっぱりと言い切る祥子の鋭い瞳は徐々に川田君から気勢を奪っていった。

 

「山崎が……犯人なのはおかしい? そんな……そんな馬鹿な……」

 

 力を無くしていく声。

 

 だけど川田君はまだ折れない。必死に考えを巡らすかのように視線を宙に彷徨わせる。

 

 無駄な抵抗と知りつつも、なんとか足掻こうとする犯人の様相が見事に表現されていた。

 

「だけど……そ、そうだ。犯行時刻が1時半以前なら、早川だって怪しいんじゃないですか?」

 

 そう、それだ。あたしも犯人は早川君じゃないかと思ってた。祥子がメールによるアリバイ工作のヒントをくれた時、真っ先に頭に浮かんだ犯人像は早川君だったのだ。

 

 この疑問に答えてくれたのは朽木さんだった。

 

「メールと手紙で犯行時刻を偽装したとすれば、早川にも犯行を行う時間があったのは確かです。川田と山崎、両方に嫌疑をかけるよう細工したのも頷ける。凶器も台本に隠して持ち運べるし、普通に考えれば最も疑わしいのは早川でしょう」

 

「ほら、だったら早川が……」

 

「――だけど早川には、被害者の携帯を死体に戻すタイミングがない。1時半以降、ずっと会場にいたからです」

 

 な、なるほどーっ!

 

 早川君は犯行を行うことができても、トリックを完成させることができないんだ!

 

「俺なら携帯を死体に戻すタイミングがあったと?」

 

「1時40分に会場を出た時がそうです」

 

 納得。だから川田君なんだね。

 

 川田君の顔は、いまや完全に色を失っていた。焦りと恐怖を露にしてぶるぶると小刻みに震えている。

 

 もう、逃げ道はない。

 

 と思われたけど、なおも食い下がろうとする川田君。

 

「そんな……そんな消去法で、俺が犯人だなんて決めつけないでください!」

 

 最後の抵抗とばかりに声を荒げて叫んだ。

 

「それに、そんなの全部想像じゃないですか! なにか証拠でもあるんですか!?」

 

 キッとあたし達四人を睨みつけ、お決まりのセリフを吐いたのだ。

 

 出た――――っ!

 

 お見事、川田君!

 

 推理漫画なんかでよくあるよね、こういうセリフ。これが出るってことは、いよいよ最後の山場ってことだ。

 

 それを祥子も察したのか、詰め寄るように一歩前に進み出た。

 

 そして、とうとう事件の全貌が語られ始めたのだ。

 

「貴方は1時に、あらかじめ盗んでおいた予備の台本にナイフを挟んでホールに向かった。ホールで待ち合わせてた金森に声をかけ、倉庫に連れて行き殺害。恐らく脅迫か何かされてたんでしょうね。台本からナイフが飛び出してくるとは思わなかった金森は、大した抵抗もできずに死亡した。それから貴方は返り血を台本で防ぎ、携帯を抜き出し、ナイフをまた台本に挟んで外に出た」

 

 朽木さんも一歩進み、祥子の横に並ぶ。

 

「それから薬学研究棟の二階男子トイレのゴミ箱に軽く洗ったナイフを捨て、血の付着した台本のページを破ってトイレに流した。その際、切れ端をわざと床に落とし、部室に台本を置きに行った。他の部員が犯人だという証拠にするために。わざわざ自分の指紋のついたナイフを手袋をして使ったのも、濡れ衣を着せられてる感を強めるためです」

 

 交互に全てを解き明かしていく二人。

 

 なんだか本物の探偵みたいでかっこいい。

 

「携帯のメール文は途中で打っておき、再びホールに向かう。どの部員に容疑を移すか選ぶためにね。すると折りよく山崎が外に出てることが分かり、ターゲットを山崎に決める。呼び出しの手紙は何種類か用意してたんでしょうね。計画当時はまだ明確に時間を決めることはできなかった筈だから。そして1時半、こっそり送信ボタンを押し、1時40分に戻ってきた山崎に声をかけ、髪の毛を手に入れた」

 

「あとは研究室に帰りがてら死体に携帯を戻し、手紙を胸ポケットに忍ばせ、同輩に顔を見せることで自分のアリバイを確立。髪の毛はその後適当なタイミングを見計らって部室の台本に挟みに行った。証拠は――」

 

 そこで言葉を切り、隣の祥子に視線を送る朽木さん。

 

 祥子も朽木さんと目を合わせ、互いの意志を確認し合う。

 

 朽木さんの目が「譲る」とでも語っていたのか、祥子は軽く頷くと、川田君に視線を戻した。

 

「証拠は偽装に使われた台本。それと、測定結果のプリント。多分、プリントを偽造したとき、少し準備を焦りすぎたってところかしら。台本にプリントアウトされた物をすぐ挟んだのね。乾ききってないインクが台本に付着してしまった。後ろのページに薄っすらと付いてた黒い線がそれよ」

 

「そして、そのインクと測定結果のプリントのインクを鑑識で調べれば、同じ成分であることが分かり――それを付着させることのできる人物は唯一人に絞られる」

 

「つまり貴方――川田君、貴方しかいないってわけ」

 

 

 凛とした祥子と朽木さんの声。

 

 高地さんが、ぼ〜っと祥子の横顔に見惚れている。いや、その場にいる全員が二人の姿に見惚れている。

 

 二人が一気に解説を終えた後、一瞬シンとした空気が流れた。

 

 静まり返った場内。

 

 ひとつ息を落とし。朽木さんは上目遣いに川田君を見て言った。

 

 

「これでもう言い逃れはできませんね?」

 

 

 トドメの言葉。

 

 勝敗を決する最後通牒が放たれた。

 

 へなへなとその場にくずおれる川田君。がっくりと首を落とし、全てを諦めたように静かな声音で答えたのだった。

 

 

「俺の……負けです」

 

 

 

 

ははは。なんだこりゃ〜!な解答ですみません。(汗)

一生懸命考えたんですけど、推理モノって難しいですね〜。

返り血の話は後から付け足したんですが、よく考えたら服着てる上から刺したんだから、飛ばないですよね。

 

本物の事件にするには、あまりにお粗末な殺人計画だと我ながら思います。

普通は殺人現場に戻ってこないですよね。死体が既に見つかってる可能性を考えれば、金森の携帯や呼び出しの手紙を持っていくはずないですもんね。(汗)

 

とゆーことに後から気づいたんですが、時既に遅し、だったんで、大目に見てください〜〜。(>_<)

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ