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Act. 9-8

<<<< 栗子side >>>>

 

 ポイントを回った証のシールを台紙に貼り、また謎のカードをもらったあたし達。

 

 次なる聞き込みポイント、正門近くの喫茶店に向かう。

 

 ちなみに、カードに書かれた文字は『教師』。なんのこっちゃ。

 

 地理が頭に入ってる朽木さんはスタスタ先を歩くけど、今歩いてる場所が何処だかもよく分かんないあたしは逐次構内MAPで確認しながら歩くので、どうしても遅れをとる。

 

 って、祥子は何故自分の大学のように迷いなく歩いてるんデスカ。

 

 祥子と高地さんは朽木さんの横に並んで歩いてる。

 

 くそう……地図もろくに覚えられないのはあたしだけってことか。

 

 えーと。大学の真ん中辺りを東に曲がって少しの場所に記念ホールがあって。記念ホールからさらに東に行ってぶち当たる十字路を南に曲がって少しの場所に薬学研究棟があって。

 

 その道をそのままずっと南下すれば正門入ってすぐの東西に伸びる大きな通りと交差するから、その大通りに沿っていけば正門に着き、そこから目的の喫茶店にはちょい北に上れば辿り着く筈なんだけど。

 

 なんか、皆が辿ってる道順はもっとくねくね複雑に曲がってるような……。

 

「近道を行ってるんだ。まともに大通りに沿って行くより早い」

 

 ぐは。やっぱり。

 

 先を行く朽木さんを追いかけて訊いた答えがそれだった。

 

「この大学、広いよ朽木さん」

 

「当たり前だ。工学、理工学、医、薬学部が一箇所に集まってるんだからな」

 

「あうー。このレース、もしかして体力もかなり必要?」

 

「それがお前の得意分野じゃないのか?」

 

「妄想なら得意中の得意なんだけど……」

 

 いやもちろん体力にも自信あるよ?

 

 でも頭を使いながら歩き回されると疲れも倍増なんだよね。

 

「どうせお前が頭を使っても分からないんだから、余計なことは考えずにただ歩いてりゃいいじゃないか」

 

「えーっ。そんなのつまんないじゃん! って今かなり失礼なこと言ったよね?」

 

「気のせいだ」

 

「言外に思いっきり『馬鹿』って含まれてたよ!」

 

 相変わらず遠慮なく小馬鹿にしてくれる男だよ。頭の良い人ってのはこれだからもう。

 

「ほう。分かったのか。思ったほど馬鹿じゃなかったんだな」

 

 てか直球で馬鹿って言ってるよこの人!

 

「ムキーッ! 人のこと馬鹿って言う奴がバーカ!」

 

「小学生かお前は」

 

「あたしの知能だって捨てたもんじゃないもん!」

 

「そーかそーか。じゃあ自分一人で謎を解いてくれ」

 

 取り合うのも面倒くさそうにシッシッと手で払う仕草をする朽木さん。

 

 ふ。

 

 もちろん。このあたしにかかればこんな謎くらい一人で……。

 

 一人で……………………。

 

 

「……申し訳ございませんでした」

 

 

 

 

 ぐうの音も出ないままにひたすら歩き続け、大体研究棟を出て8分くらいだろうか。

 

 正門から真っ直ぐ北に、グランドまで伸びる大通りに出て目的の喫茶店に到着した。

 

 店に入ってすぐの階段を昇り、2階に上がる。2階はソファーとローテーブルのあるラウンジになっていた。

 

 その一角に、磨りガラスで囲まれた小部屋があり、『コピー室』の札が貼ってある。ここに山崎君がいるんだな。

 

 

「やっほー。お嬢さん方いらっしゃーい」

 

 部屋に入ると、VTRで見たキャラのままに軽そうな口調の山崎君が手をあげて迎えてくれた。

 

「うわぁ〜すっごい美人さん! どうぞどうぞもっと近くにおいで〜」

 

「やろう! 俺の祥子ちゃんに色目を使うんじゃねぇ!」

 

「誰がアンタのよ」

 

 軽い夫婦漫才が繰り広げられ、生温かい空気が流れる。

 

 部屋の中は、何台ものコピー機が所狭しと並べられていた。そのコピー機のひとつの上に、さっきと同じ、会話文の書かれたボードが置かれ、磨りガラスに立てかけられている。

 

「可愛い子には俺から直接説明したいとこなんだけどね。ルールだから、面倒だろうけど読んでくれる? あ、俺への個人的な質問なら受け付けるから♪」

 

 山崎君……さっきの、ほとんど地のままだったんだ……。

 

 ははは、と乾いた笑みを浮かべるあたしに山崎君がずいっと身を乗り出してくる。

 

「君、可愛いね。名前は?」

「読むから静かにしてくれないか」

 

 あらら。朽木さんに厳しくたしなめられ、縮こまる山崎君。案外小心者?

 

「んじゃ、とりあえず読みますか」

 

 あたしは気合を入れ直し、ボードに目を向けた。

 

 会話の最初の方は、川田君の所のボードと同じく、事件の概要が刑事によって説明されるセリフが続く。

 

 その後の会話は大体こんな感じ。

 

山崎:「金森が……マジかよ……」

 

刑事:「金森君を恨んでた人物など、心当たりはありませんか?」

 

山崎:「はっきりと恨んでた奴とかは知らないけど、あいつは皆に嫌われてましたよ」

 

刑事:「協調性がない面は確かに見受けられますね」

 

山崎:「それだけじゃなくて、あいつはなんてゆーか……人の欠点をあげつらうのが好きだったり、弱い者いじめが好きだったり……裏でカツアゲとかしてたって話も聞いたことあるな」

 

刑事:「カツアゲですか。その被害者の名前は分かりませんか?」

 

山崎:「いやそこまでは……とにかくワルだったってことっす。殺したいほど憎んでる奴がいても不思議じゃないかも」

 

刑事:「なるほど分かりました。その怨恨の線も調査してみます。ところでこれは舞台関係者全員に質問してることなのですが、あなたの1時から1時45分までの行動を教えていただけますか」

 

山崎:「えっ。あ、もしかして俺も容疑者!?」

 

刑事:「いえ、大丈夫です。皆さんに質問してることなので一応、参考までに」

 

山崎:「そっすか。俺は今日、昼頃から友達の屋台を手伝ってました。1時くらいまでだったかな。ちょっとオーバー気味で、それからそいつと一緒に抜けて、ホール前の広場んところで別れました。中に入ってちらっと時計見た時が1時20分くらいだった気がするな」

 

刑事:「ではそこまでの行動は、そのお友達が証言できますね」

 

山崎:「そっすね」

 

刑事:「ホールに着いてからは?」

 

山崎:「それからは……えっと、確かすぐ台本失くしたのに気付いて……そうそう、早川に俺の分もコピー頼もうと思ってホールを出たんだ。だけど早川はもうコピー室にはいなくて、それから頼まれたお茶を買いに待合室に寄ってからホールに戻りました」

 

刑事:「他の方の口述によれば、あなたがホールに戻って来たのは1時40分頃だそうです。その後はまた野々村さんから台本を借りて外に出たんですよね?」

 

山崎:「そうそう。そんな感じ。金森に声かけてくれって部長に頼まれたんで、あちこちの喫茶店を覗いたんですけど、見つからなかったんで、諦めてこのコピー室に向かいました」

 

刑事:「1時20分から1時40分までのあなたの行動を証明できるような物は何かありませんか?」

 

山崎:「うーん。証明って言っても……あ、お茶はどうです? 今、ホールにあると思うけど、俺がこのコピー室に早川を追ってきた後、待合室で買ったお茶ですよ。結構珍しい銘柄のお茶で、待合室の売店にしか売ってないんす」

 

刑事:「待合室とは、この喫茶店の大通りを挟んで向かいにある建物のことですか? 売店と自販機のある」

 

山崎:「そうそこ。そこで2Lサイズのペットボトルと、紙コップ買ってホールに戻りました」

 

刑事:「なるほど。了解しました。あと、念のため、持ち物の確認を行ってもよろしいですか?」

 

山崎:「えっ。リュックの中? うわぁ〜……汚いから見られるの恥ずかしいなぁ……」

 

刑事:「一応決まりごとですので。では、拝見させていただきます。……ふむ。確かにあなたは整理整頓が苦手なタイプのようですね(苦笑)」

 

山崎:「俺、何でも適当に詰め込んじまうんで。いっつもリュックの中、ぐちゃぐちゃなんすよ。忘れ物もよくするから、とりあえずリュックに色んな物詰めて持ち歩く癖ができちゃって」

 

刑事:「ああ、それでリュックを持ち歩いてるんですね。ホールに置かずに」

 

山崎:「あははは。そうなんす」

 

刑事:「財布と携帯と筆記用具とお菓子と……漫画の単行本とプリント数枚とティッシュ……了解しました。今、手に持ってるのは野々村さんから借りた台本ですね?」

 

山崎:「はい」

 

刑事:「それも拝見させてください。……なるほど。分かりました。どうもご協力ありがとうございました」

 

 

 ふう。長いなぁ。読むの疲れてきちゃう。

 

「俺のリュックと台本はここに実物あるから、好きに見ていいですよ」

 

 山崎君がコピー機の上に置かれたリュックと台本を指で示して言った。

 

 朽木さんがリュックを手に取り、あたしと祥子と高地さんにも見えるように中を広げてくれる。

 

 中は、刑事さんが言ってた通り、色んな物がごっちゃに詰め込まれていた。山崎君のだらしない性格を物語ってるようだ。

 

「凶器はなかったんだよね?」

 

「みたいだな。このレースがどこまでリアルさを追求してるかは知らんが、刑事はきっと血痕が付着してないかも調べただろうな」

 

 じっくりリュックの中を検分したあたし達は、次に台本を手に取って回し見た。

 

 加藤さんの台本はマーキングとかされてて使い込まれてる感があったけど、この台本は随分キレイだ。書き込みとか折り目とかなんにもない。

 

「別に怪しいところはねぇな」

 

「怪しいところがあったら刑事に見せないでしょ」

 

 そりゃそうだ。最後にパラパラと一通り捲ったあたしは台本を山崎君に返した。

 

「ところで山崎君は、これをコピーするのにこんな時間までコピー室にいたの?」

 

 手渡しながら質問してみる。今はもう3時過ぎてるのだ。どんだけ長い間コピーしてたんだ山崎君は。

 

「そこはレースの特性上、仕方ないと思ってちょうだいな。参加者を歩き回らせないといけないからね」

 

 苦笑しながら答える山崎君。

 

 そっか。無理矢理にでも場所移動させないとレースにならないもんね。

 

「じゃあ、ポイント通過シールとカードを渡すよ」

 

 あたしは渡されたシールを台紙に貼り付け、カードを受け取った。

 

「もう研究室の方も回ったんなら、これでカードが三枚になった筈だよね。三枚に書いてある言葉を組み合わせて、次に行くべきポイントを推理してみて」

 

 朽木さんが先にもらった二枚のカードをあたしに向けた。あたしの手の中のカードとつきあわせる。

 

 カードに書かれた文字は『車』。

 

 三枚合わせると、『西』、『教師』、『車』……これから連想される場所は……。

 

 朽木さんと祥子が目を細めて同時に呟いた。

 

 

「教職員用西駐車場」

 

 

 

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