表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/171

Act. 9-5

<<<< 栗子side >>>>

 

 全てのペアの紹介を終え、コートのケープをなびかせながらステージ中央部に戻ってきた司会者さんが、くるりと身を翻す。

 

 そして背後の巨大スクリーンを再び手で示し、高らかにいざなった。

 

「――では、早速参りましょう! 前方のスクリーンにご注目ください!」

 

 言われてあたし達参加者は、邪魔にならないようステージの両端に分かれて寄る。後ろを向いて、斜め前方にそびえ立つスクリーンを見上げた。

 

 雲が太陽を隠してくれたおかげで見やすくなった真っ黒な画面――

  

 ごくっ。何が始まるんだろう。

 

 ドキドキしてきたぞぉ〜〜。

 

「これから始まるは、我が校記念ホールにて起こる謎の殺人事件! 演劇部の舞台の練習中に、一人の部員が殺された! いつ!? 誰が!? どのようにして!? この謎を解くのはぁ〜〜〜〜キミだぁっ!!」

 

 パッとスクリーンが真っ白に光る。

 

 ジャジャーン!

 

 音楽が鳴り渡り、再び画面は暗転した。

 

 そしてまた明るくなったかと思うと、それは、数人の人影を映し出していた。

 

 がやがやと賑やかな声がスピーカーから流れてくる。

 

 

『よし、早速準備始めるぞ』

『じゃあ倉庫からセット出してきます』

『それはみんなでぱぱっとやっちまおう』

『必要な物は全部大道具倉庫にあるか?』

『こないだ全部移したはずです』

『わかった。あ、鈴木。鍵はこれだ』

『あ、はい、どうも。ついでに必要なところの鍵も全部開けときますよ』

『照明はどうします?』

『まぁリハのリハだし、まだ照明いじる場面にもいかないだろ』

『出番がない奴はみんな観客席で観客の役ですね』

 

 場所はどうやらどこかの舞台の上。司会者さんが言ってた記念ホールだろう。彼らは演劇部の部員で、これからリハーサルを始めようとしてるようだ。

 

 カメラは舞台を斜め横、座席側から捉えたアングルで、座席も最前列あたりが画面の端に映ってる。

 

 と、カメラが動いて座席側に視点が移動した。

 

 そこにも数人の男女がいる。

 

 みんな舞台の周りに集まり、がやがやとリハーサルの準備の相談をしている。その中心に立つ男性、腕を組んでさっきから色々指示を出してる人は他の人から『部長』と呼ばれてる。

 

 座席には、部員の物か、バッグや上着がいっぱい置かれていた。荷物をここに置いて練習してるようだ。

 

 画面はゆっくり舞台の方に戻っていった。舞台と座席の間あたりを中央に捉えて止まる。

 

 どやどやと画面には総勢十数人の男女が入り乱れていた。普通にありそうな練習風景。これも演技なのかな。本物の演劇部みたいだ。

 

 そんなざわざわした様子が少し流れた後、突然画面の左上に数字が現れた。

 

 PM 0:30

 

 はっきりと白で分かりやすく、大きく浮かび上がる。と同時に、部員達の頭の上にも文字が浮かび上がった。

 

 『早川』、『鈴木』、『加藤』――って、名前を分かりやすく表示してくれてるんだ。部長だけ何故か『部長』。名前ないんかい。

 

 と、突然人の動きがビデオの早送りのようにスピードアップした。

 

 舞台セットを設置する、忙しく人が入り乱れる様子がさーっと流れる。そして再生ボタンを押したかのようにまたもとの早さに戻った。

 

 PM 1:00

 

 セットの準備はあらかた終わり、人の行き来は落ち着いたようだ。ほとんどの部員はまた舞台の周りに集まって今日やるシーンの相談とかしてる。

 

 以下、スピードアップのために名前と台詞のみでお送りするよん。

 

 

早川:『よし、セットはこんなもんでいいだろ』

 

鈴木:『ふう。こっちもオッケーだぞー』

 

土井:『じゃあ、ちゃちゃっと練習始めちゃおうぜ』

 

金森:『練習、練習……。今日は学祭だぜ? なんでこんな日にまで練習しなきゃなんねぇんだよ』

 

土井:『文句ばっか言ってないで、お前ももっと手伝えよ』

 

金森:『やってらんねーっての。こういう日くらい、みんなでぱぁ〜っと遊びに行こうぜ』

 

部長:『公演までもうあんまり日にちがないんだ。ぶつくさ言う暇があったら、もう少し演技を磨けよ、金森。まだ全然モノになってないぞお前』

 

金森:『へぇへぇ。でもどうせたいした役じゃないっしょ、俺? 適当でも全然オッケーですって!』

 

 どうやら金森って人はひねた性格らしい。口も悪いし、他の部員達の顔色を見るに、あまり好かれてないようだ。

 

野々村:『言い合いしてる時間ももったいないです。さっさと始めましょう』

 

部長:『じゃあ、今から十分間、各自台本の見直しを行って』

 

 部長が言うと、部員達が鞄から台本を取り出し始めた。緑の表紙できちんと製本された台本だ。結構厚みもある。

 

 しかし、金森君だけは台本を取り出そうとせず、

 

金森:『俺は外でタバコでも吸ってくるわ』

 

部長:『おい金森! 和を乱すなよ!』

 

金森:『だって俺の出番しばらくないっしょ? いいじゃないっすか。ちょっとブラついてくるだけですって』

 

 怒鳴る部長にひらひらと手を振って舞台の袖に消える金森君。ムッとした部員の舌打ちとかが聞こえてくる。嫌なムードだ。

 

 左上の時刻はいつのまにか PM 1:05 になっていた。

 

部長:『ったく。どいつもこいつもやる気あるのか? 川田と山崎は練習に来もしないし』

 

加藤:『川田君は、しばらく実験の手が離せないってさっきメールがありましたよ』

 

鈴木:『あー……あいつの研究、大変そうだからな……』

 

部長:『山崎はどうなんだ?』

 

土井:『いつもの遅刻じゃないですかね。あいつ、時間にルーズだから』

 

部長:『くそっ。来たらこってり絞ってやる!』

 

早川:『あれ。……あれ? おかしいなぁ』

 

部長:『どうした早川』

 

早川:『すみません。台本がどっか行っちゃって。……おっかしいなぁ。昼飯食った時に忘れてきちまったのかな』

 

部長:『予備が一冊部室にあっただろ?』

 

土井:『あ、それ、持ってこようと思ったんですけど、見つからなかったんですよ。どっかいっちゃったんですかね?』

 

加藤:『じゃあ誰かから借りたら?』

 

早川:『でもみんな必要だろ? ごめん、野々村。ちょっと台本貸して。コピーさせてもらってもいいかな?』

 

野々村:『え〜なんであたし?』

 

早川:『だって一番キレイに使ってるだろ?』

 

野々村:『どうせちょい役ですからねー。ハイ、どうぞ』

 

 早川君は野々村さんから台本を受け取り、鞄から財布を取り出して画面右端に消えて行った。会場の正面口から出て行ったのだろう。

 

 どうでもいいけど登場人物多いなぁ。

 

部長:『じゃあ、十分後に開始するぞ!』

 

 部長の合図と共に台本を読み出す部員達。それからまた画面が早送りで流れ始める。少しして普通の早さに戻った。

 

 PM 1:20

 

『ちわーす! どーもどーも!』

 

 突然の乱入者に部員全員の視線が注がれる。

 

 その人は画面の右から、座席の間を走って舞台に近付いてきた。

 

 ロン毛の茶髪でGジャン着た男性。頭の上に現れた文字は『山崎』。時間にルーズな、噂の山崎君だ。

 

 山崎君は、肩にかけたリュックを座席のひとつに下ろして舞台を見上げた。

 

部長:『山崎! どんだけ遅刻してんだ!』

 

山崎:『すんませんすんません。ちょっと友達の手伝いしてて。なかなか抜けられなかったんですよ』

 

部長:『もういいから早く準備しろっ』

 

山崎:『分かってますよ。そうカリカリしないでくださいよ〜。えーと、俺の出番はまだ?』

 

野々村:『うん、今始まったところだから』

 

山崎:『じゃあしばらく台本読みながら見てるわ』

 

 そう言ってリュックを探りだす山崎君。しかしすぐに『あれ?』と首を傾げる。

 

山崎:『やべっ! 台本、どっかやっちまった!』

 

鈴木:『お前もかよ!』

 

山崎:『ん? 鈴木もなくしたの?』

 

鈴木:『いや、俺じゃなくて早川。さっき野々村から台本借りてコピーに行ったぞ』

 

山崎:『マジ? 俺の分も頼んでこよ! ちょっと行ってくる! あ、ついでに飲み物とか買って来ようか? お茶いる?』

 

加藤:『そうね。お願い』

 

 リュックを掴み、今来たところだというのに慌しくまたホールを出て行く山崎君。部長がため息を落とした。

 

 それからまた早送り。

 

 PM 1:25

 

早川:『ただいま。野々村サンキューな』

 

 早川君が戻ってきた。鞄に財布を戻し、野々村さんに台本を渡してコピーの束を持って席に座る。野々村さんも台本を持って読み始めた。

 

 他の人達はもう舞台に上がって練習を始めようとしてるところだった。

 

 と、舞台上の人の視線が画面右側に注がれた。

 

土井:『川田!』

 

早川:『えっ。川田?』

 

部長:『おっ、川田! 来たのか!』

 

 名前を呼ばれ、『よう』と答える男の声。座席の間をゆっくり歩いて現れる。薄手のパーカーを羽織ったその男性の頭に現れたのは『川田』の文字だ。

 

加藤:『練習に参加できるの?』

 

川田:『ああ、それなんだけど……悪い。しばらく参加できなさそうなんだ』

 

部長:『え。参加できないのか?』

 

川田:『ええ、部長。研究が忙しくて。少なくともあと一週間くらいは無理そうなんです。本当にすみません』

 

部長:『そうなのか……』

 

川田:『まぁ自宅でも、実験の合間にも、台本読んで練習してますから』

 

早川:『今日だけでも少し練習見て行けば?』

 

川田:『そうだな……少しだけ見学させてもらおうかな』

 

鈴木:『あ! そうだ早川。そういえば、山崎に会わなかったか?』

 

早川:『え? 会わなかったけど?』

 

鈴木:『あいつも台本なくしてさ。さっき早川に自分の分もコピー頼んでくるって、出て行ったんだけど』

 

早川:『じゃ、入れ違いになったな。ま、いっか。待ってりゃ戻ってくるだろどうせ』

 

 そこでまたちょっと早送り。

 

 PM 1:30

 

部長:『お、メールだ』

 

土井:『誰からですか?』

 

部長:『……金森だ。今、喫茶店でお茶してるだとさ。もうしばらくしたら戻るって。ちっ。あの野郎ふざけやがって』

 

土井:『しょうがない奴だな、金森も』

 

 またすぐ早送り。

 

 PM 1:40

 

山崎:『ただいまっと。お茶買ってきたぞー』

 

 山崎君が戻ってきた。お茶の入った袋をバサッと床に置く。川田君が歩み寄ってポン、と肩を叩いた。

 

川田:『よう、山崎』

 

山崎:『川田! 久しぶりだな。研究で忙しいんじゃなかったのか?』

 

川田:『ああ、今日も練習できない。ちょっと見学に来ただけだよ』

 

山崎:『そっか〜。まぁ学祭の日くらいゆっくり茶でも飲んでいけよ』

 

 お茶の袋を示す山崎君。それから視線を周囲に向け、席に座る早川君に気付いて『あ、早川!』と駆け寄った。

 

山崎:『早川、俺さ、お前に台本のコピー頼もうと思って探したんだよ!』

 

早川:『聞いたよ。入れ違いになったんだな』

 

山崎:『あぁ〜やっぱ入れ違いかぁ〜。わりぃ野々村。俺にも台本貸して〜』

 

野々村:『だからなんであたし!? まぁいいけどさ。ハイ』

 

山崎:『さんきゅー!』

 

 山崎君は野々村さんから台本を受け取り、リュックを背負ったまま画面から消えていった。

 

部長:『あ、山崎! ついでに喫茶店覗いてきてくれないか? 金森がいたら引っ張って連れてきて欲しいんだけど』

 

山崎:『ええ〜〜? あいつが素直に言うこと聞くと思えないですけど……まぁ、一応いたら声かけときますよ』

 

 画面の外から部長の言葉に返事を返す山崎君。それからバタンと扉の閉まる音がした。

 

川田:『俺ももう研究室に戻ります。邪魔してすみません。来週からはまた練習に出ますんで』

 

部長:『頼むぞ。公演までもう日にちがないからな』

 

 川田君も画面の端に消えていく。

 

 と、川田君が出て行った少し後、今度は舞台の上から声があがった。

 

土井:『あっ! 悪いっ!』

 

 土井君がセットに触ってしまったようだ。煉瓦の壁を模してるベニヤ板っぽいのが前に倒れた。

 

土井:『やばっ……足がちょっとぐらついてる』

 

 セットを点検して支えてた木の足の部分をいじりながら言う土井君。

 

早川:『人形立て、壊れたか?』

 

 早川君が立ち上がる。あ、あの支えの部分、人形立てって言うんだ。ちょっと豆知識?

 

土井:『ちょっとぐらついてるだけだけど……ホントにごめん!』

 

鈴木:『いいよ。もっかい補強しとこう。道具取ってくる』

 

 鈴木君と早川君は道具係兼務なのかな? 袖から出て行く鈴木君。

 

 セットはそのままにして、練習を続けようとする部員達。

 

 これまでのところ、画面への人の出入りは頻繁にあった。だけど練習が始まってからはみんな舞台に集中してほとんど席を立たなかった。

 

 1時に出て行ったきりの金森君、コピーに行った早川君、遅刻してきた山崎君、挨拶に来た川田君。練習が始まってから場内を出入りしたのはその四人だけだ。

 

 

 情報を頭の中で整理してると。

 

鈴木:『た、大変だっ!!』

 

 鈴木君が、ひどく慌てた様子で戻ってきた。

 

部長:『どうした鈴木?』

 

 部員達が一斉に振り返る。鈴木君のただならぬ様子に、緊迫した空気が流れた。

 

 鈴木君は、腰を抜かしそうなほど震えながら、なんとかといった風に言葉を紡ぎだす。

 

 

鈴木:『か、金森が……金森がっ! 倉庫で倒れて……し、死んでるみたいなんだっ!!』

 

 

 画面はそこで真っ暗になった。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ