Act. 5-5
<<<< 栗子side >>>>
デパートの1階にあるフードコート。
祥子と高地さんは、ここでそれぞれ好きなものを注文してお昼ご飯にすることにしたようだ。
あたしと拝島さんはやや離れた席を確保し、マクドナルドのハンバーガーを食べることに。注文したものがすぐ食べれるのがここの利点だ。
ちょっと汚れてたテーブルを布巾で一拭きしてから席につく。
席と席の間の狭い通路を通る時、度なしとはいえ慣れない眼鏡をかけたあたし達は、距離感を掴めず何度もテーブルや椅子にぶつかってしまった。その度に座ってる人に「すみません」と謝る拝島さんの姿が可愛くて、写真を撮れないのがむちゃくちゃ悔やまれた。
謝りすぎて真っ赤になった拝島さんをオカズに、購入したハンバーガーにかじりつく。
途端、顔をしかめるあたし。
うへー。なんだこりゃ。
口を動かしながら、歯形のついたバーガーを凝視する。
秋の新作、栗バーガーってのがなんか親近感湧いて手を出してみたのだけど。
「……あまっ」
メープルシロップが練りこんである甘いバンズに栗あんを無理矢理ハンバーグ型にしたようなものが挟んであるキワモノだったようだ。
思わず殺意が湧くほどに甘かった。
「こっちのチキンバーガーと取り替える? 栗子ちゃん」
拝島さんは結局「栗男」と呼ぶのをやめたらしい。まぁあたしもわざとタメ語を使うのが面倒くさくなったので結局元に戻っちゃったけど。
「いいんですか? これ、殺人的に甘いですよ」
「俺、甘いの好きだから」
「へぇ〜そうなんだ」
拝島さんとお互い食べかけのバーガーを交換しながら相槌を打った。あたしもそうだけど、拝島さんも一度他人が口をつけたものとか気にしない人なんだ。
「今度クッキーでも作りましょうか?」
さっき映画代とか奢ってもらっちゃったし、あたしも何かお返しせねばと気負って言ってみた。
「え……いやそれは……ま、まぁそのうち……」
そこで何故目を逸らす。
あたしの物言いたげな視線にいたたまれなくなったのか、拝島さんは「あ、こ、これ結構美味しいよ」とかキョドりながら渡した栗バーガーにぱくついた。
ちくしょー。今に見てろー。
視線を数席向こうの二人に移すと、黙々とパスタを口に運ぶ祥子に、高地さんが一生懸命話しかけてる様子が見てとれた。
ホント、めげない人だ高地さん。
しかし約束では映画を見るだけだったから、ここから先祥子を連れまわすのは難しい。
どうする気だろうなー。
と思ってると二人が席を立ち、あたし達も移動を余儀なくされた。
立ち上がり、さっと後片付けをしてから、さり気なく二人の後ろについて会話を盗み聞き。
「しつこいわね。もう帰るって言ってんでしょ」
「もうちょっとだけ! ネ! ショッピングとかどう? どこにでも付き合うよ〜」
「買い物は一人でする主義だから。ついてこないで! 警察呼ぶわよ!」
「そんなぁ〜〜祥子ちゃぁ〜〜ん」
二人はそんな涙なしでは語れない会話をしながら足早にデパートの外に出て行った。
「とりつく島もないなぁ祥子ちゃん。高地には難しい相手だね」
拝島さんが苦笑ぎみに言った。
「お兄ちゃんも二人の仲がどうなるか気になります?」
「うん、一応友達だからね。応援してあげたいよ」
あれ? 拝島さんは、祥子のことが気になってたわけじゃないのか。
拝島さんと祥子なら二人とも美形だし納得! って感じなんだけどな。
でもそしたら朽木さんと拝島さんのラブラブが見れなくなるから、まぁそっちの方がいいけど。
「祥子ちゃん、待ってぇ〜〜」
まだスタスタと先を行く祥子に追いすがる高地さん。
あ。祥子の腕を掴んだ。
「セクハラ1!」
どかっ!
凄い! キレイに後ろ蹴りが決まりました!
「い、いてててて……」
さすがに応えたのか、お腹を押さえてしゃがみ込む高地さん。
うずくまったまま、なかなか起き上がらない。
う〜んう〜んと唸ってるので、さすがにやりすぎたと思ったっぽい顔の祥子が近寄って声をかける。
「大袈裟ね。そんなに痛かったの?」
高地さんは答えない。
祥子は眉尻を下げて一瞬泣きそうな顔になった。祥子の「しまった」と思ってる顔。あたしは知っている。
誰かを傷つけたと分かった時、自分も傷ついてる。そんな祥子を知っている。
さらに近寄ってしゃがみ込み、高地さんの顔を覗きこむ祥子。その時、
「心配した?」
顔を上げ、ニッと笑って言う悪戯小僧。
次の瞬間、祥子の顔がさっと赤くなった。
「こんの軟派おとこぉぉ〜〜〜〜っっ!!」
どかっ ばきっ どこっ
………………あーあ……。
今度こそずたぼろの残骸と化す高地さん。
その生ゴミを置いて、祥子はドスドスと足を踏み鳴らしながら歩き去ってしまった。
デートは失敗ですな……。
だが驚異的な早さで回復した高地さん。がばっと身を起こし、
「あっ! 祥子ちゃん、ゲーセンがある! ちょっと寄って行こうよ!」
大きな声でそう言うと、前方にあるゲームセンターを指差し、先行く祥子を呼び止めた。
まだデート続ける気だよこのヒト。
「もうアンタとはどこにも寄らんわっ!」
鼻息も荒く振り返って怒鳴る祥子をものともせず、高地さんはさっさとゲーセンの中に入って行ってしまう。
「ちょっと……!」
祥子は一瞬迷った顔をして。
「〜〜〜〜あ〜〜もうっ!」
結局高地さんを追うことに決めたようだ。
踵を返してゲーセンの場所に戻ると、入り口のところでまた僅かな躊躇いを見せた後、意を決したように足高に踏み込んで行った。
「ほほぉ〜……」
なかなか鮮やかな手並みだ。伊達に軟派経験は積んでないってことか。
あたしと拝島さんも祥子の姿が完全に消えた後、追ってゲーセンに足を踏み入れた。
ガーッと開く自動扉。
入った途端、目がチカチカする店内。同時に賑やかな音が鼓膜を塞ぎ、視覚と聴覚が一気に混乱する。
常に何かが光ったり、動いたり、電子音が鳴り響いたり。五感を刺激してうるさいことこの上ない。
嫌いじゃないけど長く居たいとは思わない場所だよなぁ、ゲームセンターって。
「うぅ〜〜祥子達はどこだろぉ〜」
きょろきょろ辺りを見回す。
結構広いゲーセンだ。
と、不意に。
「栗子ちゃん」
いきなり拝島さんの顔が横に現れて、心臓が跳ね上がった。
うはっ! イケメンのどアップ!
拝島さんの口があたしの耳に触れそうなほど近い。
『敵艦隊接近中!』
そんなどこぞのシュミレーションゲームのアラート画面が頭に浮かぶ。
「な、なななんですかはいじ……お、お兄ちゃんっ」
やばい。むちゃくちゃキョドってるあたし。
「あっちあっち」
そう言いながらUFOキャッチャーの台が並ぶコーナーを指差して教えてくれる拝島さん。
なるほど、そこに高地さんと祥子がいる。
それはいいけど、突然顔を近づけないで欲しい。周囲がうるさいから言葉を伝えるには近くに寄らなきゃいけないとは分かってるけどさ。びっくりするじゃん。
耳元で囁かれるとなんか背中がぞわぞわするし。
「栗子ちゃん、また顔真っ赤だよ」
「拝島さんがイケメンビームを近くで飛ばすからですよ。もぉ〜〜ここで鼻血噴いたらどうしてくれるんですかっ」
「イケメンビーム……? なんだかよく分かんないけどごめんね」
きょとんとした顔で素直に謝る拝島さん。
自覚がない天然って恐ろしい……。
「ま、そこが拝島さんの持ち味なんでいいですけど。……あ、高地さん、結構UFOキャッチャー上手いなぁ〜。もう一個げっとしましたよ!」
あたしは気を取り直して二人の観察に注意を戻した。
可愛いネコのヌイグルミ。
それが取り出し口の穴に落ちると、高地さんが指を鳴らして喜んだ。
取り出して、祥子に渡す。祥子は「いらないわよ」とでも言ってそうな憮然とした態度だけど、結局受け取ったようだ。
指でネコの肉球をつついてまんざらでもない様子。
ううっ、すっかりツンデレキャラになってないか祥子? 可愛いなぁ〜。
ノンデレかつツンドラな祥子が良かったんだけど、ツンデレ祥子も捨てがたい。
デレさせてる相手が高地さんってのがちょっと気に入らないけど。
あたしは視線で射殺すが如く高地さんを睨みつけた。
「あんまりじろじろ見てるとばれるよ栗子ちゃん」
「だって高地さんごときに祥子があんな顔するなんて……」
「まぁまぁ。高地もそんなに悪い奴じゃないよ。女の子に優しいし」
「でも女癖悪そうです」
「うーん、それは否定できないけど……。でも今度は本気だってあいつも言ってたし、もうちょっとだけ、様子を見てあげてくれるかな?」
とっても拝島さんらしい友達想いな意見だ。
でも残念ながら、あたしは高地さんの友達じゃない。そう簡単には信用できない。
「前向きに考えてはみますけど、まだ祥子に触れるのは許しません」
「そうだね。栗子ちゃんだって祥子ちゃんが大事だもんね」
うっ。そうストレートに言われるとちょっと恥ずかしい。
「でも一番大事なのは祥子ちゃんの気持ちだから。もし祥子ちゃんが高地を気に入ったなら……」
「それはないと思いますけど」
これまでの祥子の態度を見るに。
あたしを見る拝島さんの目がくすっと笑った。
むぅ〜……。別に二人の仲を全否定してる訳じゃないもん。祥子はまだ高地さんに、完全に気を許してはいないと思う。
だけど、拝島さんの顔越しに見える二人はなんだかそれなりに楽しそうで。
ネコのヌイグルミを鞄にしまう祥子と高地さんは、結構仲の良いカップルに見えなくも……ない。
「可愛いね、あのネコのヌイグルミ」
唐突に話題を換える拝島さん。
「うん、祥子に似合ってる。あたしはケロ○軍曹とかの方がキュートで好きですけど」
笑って言うと、「ケロ○軍曹って?」と真顔で突っ込まれてしまったので、UFOキャッチャーの中のひとつ、緑の怪しげな生物のヌイグルミが入ってる台を指差して教えてあげた。
カエルにはまったく見えないけどカエルの宇宙人。
かなり面白いアニメだよ、ケロ○軍曹。あたしは大好き!
「キュート……なんだアレ」
納得いかなさげな微妙な顔の拝島さんに、
「あれの可愛さが分かるようになれば通です」
とオタクの教えを説いてあげると、ますます困惑したような顔になった。
まぁ普通の人には分からんか。
それからまた二人の監視に戻る。
UFOキャッチャーで盛り上がった様子を見せた後、二人はゲーセンの中をしばらくブラブラしてた。
あたしは付かず離れず常に二人の姿を視界に入れる位置を確保し、ついでに10円転がすゲームでオヤツをゲットしたりしながら時を過ごした。
プリクラを数台挟んだ向こうでガンアクションゲームに盛り上がってる二人。
と、高地さんの手が怪しい動きを見せる。
祥子の腰あたりに手を置こうか迷ってるような隙を窺ってるような怪しい手つき。
ふ……ホント、油断も隙もあったもんじゃないな高地さん。
あたしは手をわきわきと蠢かせ、足早に二人に近付いた。
「結構難しいわねこれ」
「あ、もう少しこう、腕の構えをね……」
その手は使わせん!
背後を通り過ぎるフリをしながら、さりげなくドンっと高地さんの肩にぶつかる。
「わっ!」
バランスを崩した高地さんは、横に倒れそうになって思わず祥子の肩を掴んだようだ。
「セクハラ2!」
祥子の怒声と共に繰り出された蹴りを横腹に浴び、「げふうっ!」とか呻き声をあげて床に沈むエロ男。
さらに頭に祥子の靴底を食らい、しゃくとり虫のような格好で床に突っ伏した。
ふ……天誅でござる。
また二人から離れた場所に戻って足を止め、にやりとほくそ笑む。
と、そんなあたしの頭にぽふっと何かが乗っかった。
ん?
見上げれば、拝島さんの微かな笑顔。
頭に手をやると、ぽふぽふしてて軽い物体に手が触れる。
ケ○ロ軍曹のヌイグルミだった。
「これ――」
「あげる」
甘いマスクがにこっと目を細める。
「わっ、いいんですか! 取れたんだこれ〜〜! 凄いっ!」
「結構簡単だったよ」
はにかんだ顔がまた可愛らしい。
あーもうなんだかなぁ〜。密かに女殺しじゃないか? このヒト。
あたしは軽くため息をついた。
「あんまりそのマスクで優しくすると、女の子はすぐ参っちゃいますよ〜。気をつけた方がいいですよ、拝島さん」
「えっ……そう?」
「はい。多分思いっきり誤解されます」
きっぱりと。
「そっか……栗子ちゃんはどうなの?」
「あたしはこういうのではときめかないので大丈夫ですけど。普通の女の子はダメですよー」
笑いながら言う。
その一瞬、拝島さんの顔から笑みが消えた気がした。
ん?
あ、失礼なこと言っちゃったかな今。
「あ、で、でもすごく嬉しいですよ! 欲しかったんですこのヌイグルミ! お兄ちゃん、ありがとっ♪」
それは本当のことだったので、あたしはむぎゅーっとヌイグルミを抱きしめた。
頬ずりすると、また柔らかくて気持ちいいよコレ。ケロ○可愛いーっ!
「そっか、喜んでもらえて良かったよ」
拝島さんの顔に笑顔が戻ってくれた。ほんのり頬を染めていつものようにはにかむ。
朽木さんはこれにやられてるワケですな……。
この小悪魔さん☆
それからまた二人が移動を開始したようなので、慌てて尾行を再開した。ヌイグルミをスタジャンの内ポケットにしまって。
いつも投票してくださってる皆様、ありがとうございます。m(_ _)m
皆様の応援のおかげで毎日頑張れてる卯月です♪
さて、この小説、携帯から読んでる読者様も結構いらっしゃいます。
今まで、ランキングはPCも携帯もNNR(ネット小説ランキング)のタグ設置したまま放置状態だったんですが、携帯からだとNNRは投票できないんだすよね〜。
そこで、色々なランキングサイト試してみまして、どうやらNEWVELだと携帯からでも投票できそうだと分かりました。
今まで投票したろうと思ったのに投票できねーよ!と思ってたかもしれない(そんな人いるか?笑)携帯読者様。タグを設置しましたので、よければNEWVELに投票してくださると、飛び上がって喜びます。私が。(笑)
PCの方にもNEWVELタグ設置しましたが、まぁこちらは基本今までどおりNNRへの投票でお願いします。
「仕方ねぇなぁ〜NEWVELの方にも投票しといてやるか」という心優しいPC読者様がいらしゃったら、投票してくださると大喜びしますが。(笑)
HONなびは、登録してみたんですけど、うまくポイント加算されてるかがよく分からなかったのでタグ設置してません。(^ ^;)
HONなびから来られた読者様(これまたいるのか?)、よければNNRかNEWVELに投票してください。m(_ _)m
ではでは。本当にいつもどうもありがとうございます、皆さん。
たまに感想評価も書いてくださると更に嬉しいので、よければ一言でもいいので書いてみてください♪
卯月海人でした。(^ ^)ノ