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Act. 5-1 とんでも腐敵なキューピッド!

長らくお待たせしました。連載再開です。

まだまだ文章の荒さ、拙さの残る作品ですが、半分開き直ってきてます。

どうかご容赦くださいませ。m(_ _)m

 

 

<<<< 栗子side >>>>

 

 長いようで短かった夏休みが終わった。

 

 思い返すとステキな思い出ばかりが脳裏に蘇える。

 

 

 朽木さんと言い合いしたり。

 怒鳴られたり、つきまとったり。

 下着盗もうとして頭に肘鉄食らったり。 

 

 ベッドに盗聴器仕掛けようとしてベランダから突き落とされそうになったり。

 

 ストーキング中に通報されて、危うく捕まりそうになったりもした。

 

 

 ついこないだのことなのになんだかとても懐かしい――

 

 

 盗撮中に石を投げてきた、あのガキんちょ共は元気にしてるだろうか。

 

 彼らの犬に追い回されたちょっぴり痛切ない経験。思い返すとホロリと泣けてくる。

 

 お尻の歯型は今でも残る乙女の勲章――

 

 

「いい加減にしろ!」

 

 そんなわけで、ついにキレた朽木さんに「グリコ禁止令」を発令されちゃって。

 

 拝島さんが誘ってくれなくなったから、宅配便装って朽木さんちに侵入しようとしたんだけど。

 

 あっさりバレて、ハエ叩きで叩き出され、トドメに殺虫剤を撒かれちゃって。

 

 ふふ、さすがに目に痛かったゾ☆

 

 だいたい今時ハエ叩きってレトロすぎね? 

 なんでそんなん持ってんの朽木さん?

 

 なんて疑問は、妙にきまってたハエ叩きを構える姿と共に、心の奥にそっとしまいこんだ。

 

 

 一生忘れられない、夏の思い出。

 

 

 きっと割烹着姿も似合うんだろうなぁ。

 

 とつい口に出てしまった言葉は顔面足裏蹴りで返されたりもしたけれど。

 

 そんな痛みさえ、楽しくて、

 

 楽しくて。

 楽しくて。

 

 思い返すとホロ苦い、だけどちょっぴり甘くてせつないひと夏の体験。きらきら輝く宝石のような思い出たち。

 

 

 大事な、大事な宝物――

 

  

 

 

「どこが宝物だ! そんな思い出はリセットボタンで抹消しとけ!」

 

 ちょっ。人の回想に割り込まないでよ朽木さん!

 

「全部口から漏れてんだお前はっ!」

 

 あれ? そうでした? てへっ。

 

 まぁ、ともかく、そんなステキな夏休みの中でも特に印象深かったのは、やっぱり八月の頭にみんなと行った海での出来事だ。

 

 あれは、忘れようにも忘れられない程にトラブルの連続だった。

 

 高地さんが真昼と祥子に熱烈アタックかけて見事玉砕するわ。

 

 祥子が熱中症で倒れててんやわんやになるわ。

 

 そしてなんといっても、朽木さんのバイオレンスシーン!

 

 チンピラキャラの模範みたいなのに絡まれて、最終的に一戦交えることになったのだ。

 

 結局、駆けつけた警察によりお縄となったチンピラ連中、なんとなく予想はしてたけど、車から盗品がざっくざっく発掘されて、ここ最近多発してた車上荒らしの犯人と断定された。

 

 朽木さんにこてんぱんにされた上に手がアロンアルファまみれになった雑魚チンピラ達は、なんとも惨めそうな泣きっ面で連行されていって。

 

 ざまぁみろ! って感じで鼻を鳴らしたのも束の間。

 

 今度はあたし達が事情聴取とやらで警察署に連行されるはめになってしまった。

 

 で、結局、その日はもう海水浴もへったくれもなくなって解散。

 

 祥子と真昼は拝島さんと高地さんが家まで送ってくれたらしい。

 

 あたしは朽木さんと二人、応接室とやらで厳つい顔した警察官に「ちょっとやりすぎじゃないかね?」なんてお小言をくらったりして、結局家に帰り着いたのは真夜中過ぎだった。

 

 とんだドライブになったものだ。

 

 でも、帰り、家まで送ってくれる途中、朽木さんがファミレスで夕食を奢ってくれて。

 

「ま、お前にしては上出来だった」なんて少し優しく言ってくれたりなんかして。

 

 それはそれで、結構楽しい一日だったんだけど。

 

 ……だけど。

 

 かえすがえすも口惜しいのは、朽木さんと拝島さんのヌード写真をろくに撮れなかったことだ。 

 

 ファインダー越しにでも、二人のヌードを直視することができなくて。

 

 あたしとしたことが、結局お宝写真をげっとすることができなかったのだ!

 

 アップじゃないのなら何枚か撮ったんだけど……。

 

 憎い……。

 

 すぐに鼻血を噴くこの軟弱な鼻の粘膜が憎いっ!

 

 こうなったらグリコ、鼻を鍛える修行の旅に出ようと思います!

 

 パンダと山に籠もるとか、天界で神様に鍛えてもらうとか、なんかそんな感じで!

 

「そのまま一生帰ってくるな」

 

「ああん。また人の回想に割り込んでそんな萌えゼリフ吐きかけるなんて朽木さんたらド・エ・ス♪」

 

 ぶしゅっっ

 

 頭に辞書が落とされました……。本筋に戻ります……。

 

 

 

「最近朽木さんのツッコミが過激化してるんですけど、なんとか言ってくださいよ拝島さん」

 

 あたしは向かいに座って里芋を口に運ぶ拝島さんに半分涙目で訴えた。

 

「う〜ん……でもグリコちゃん、やってること犯罪すれすれだし……」

 

 曖昧な笑みを浮かべて返す拝島さん。

 

「すれすれじゃなくて犯罪そのものだ」

 

 ぶすっとした顔でハンバーグを突付くのは拝島さんの隣に座る朽木さんだ。

 

 今日もお二人とも、見目麗しゅうございますなぁ。

 

 あたしは痛む脳天を撫で撫でしつつ、にへっと頬を緩ませた。

 

 ここは朽木さんの大学の学食。

 

 夏休みが終わったので、また大学まで足を運ばないと、二人の姿を拝めなくなったのだ。

 

 おいおいお前の単位は大丈夫かって?

 

 もちろん、午後一の講義がない日を選んでる。

 

 とはいえ、完全に大丈夫とはいえないのは単位ではなく淋しい懐具合だ。

 

 段々写真のプリント代などのかさみ具合がやばくなってきて実はプチ崖っぷちのあたし。

 

 にへらっとしてる場合でもない。

 

 窓の外に視線を投げれば、あたしの心を映し出したかのような灰色の曇天が広がっていた。

 

 ああ……雨の代わりにお金降ってこないかな……。

 

 学校が始まったばかりの秋は、まだまだ浅く、アンニュイな気分には浸りきれない蒸し暑さがすぐにあたしを現実に引き戻す。

 

「バイト……しようかな」

 

 結構本気な独り言をぼそりと呟いてみた。

 

 

「そんなグリコちゃんに朗報!!」

 

 

「うひゃっ!」

 

 ばこんっ!

 

 なんだなんだ!?

 

 予想もしなかったところから声が上がったので、思わずお椀を声の主に叩きつけてしまった。

 

「ふ……今のは効いたよグリコちゃん……」

 

 あたしの顔の真横、すぐ耳元から聞こえる声に振り向いたら、そこにいたのは高地さんだった。

 

 額には丸い痕が薄っすら赤く色づいている。

 

 いきなり顔を突き出すからビックリしちゃったよ。

 

「ま、いいか、高地さんだし」

 

「グリコちゃん、声に出てる……」

 

 高地さんは若干淋しそうな顔でうなだれた。

 

 そんなのはどうでもいいけど。

 

「で、朗報って何ですか高地さん」

 

 ちょっと気になる言葉にお茶を一口飲んでから先を促してみる。驚いたから喉が渇いちゃったのだ。

 

「俺から依頼。引き受けてくれたら、報酬を払うよ」

 

 むむっ! ピクン、と耳が反応する。

 

「合コンですか?」

 

 高地さんと言えば合コンだ。

 

 可愛い子を連れてきて、ってところだろうか。

 

「違うよ! 合コンマスターの名はきっぱりと返上した」

 

 そんな名があったのか。いかにも高地さんらしい異名だ。

 

「返上って……あんなに合コン好きだった高地が? どうしたんだよ」

 

 拝島さんが心底驚いた顔で箸を止めて突っ込んだ。すると高地さんは「ふ……」となにやら二ヒルな笑みを口元に浮かべ、目を閉じて言ったのだ。

 

 

「俺は……ひとつの恋に生きることにしたんだ」

 

 

 ぶ――――っっ

 

 思わず飲みかけたお茶を噴いてしまった。

 

「汚いリアクション取るな!」

 

 ツッコミマスター朽木さんの言葉は無視して高地さんの顔をまじまじと見る。

 

 いかにも遊び好きらしいパッキン混じりのツンツン頭の高地さんは、どこかうっとりとした焦点の定まらない目でお寒い言葉を続ける。

 

「目が覚めたんだ俺……。今までの恋は本物じゃなかった。本当の恋の前座だったんだ。今度のこれが、恋ってやつなんだって…………やっと気付いたんだ」

 

 ひっっ

 

「寒いっ! いやぁ〜〜っっ!! ここに変な人がいるぅぅぅっ!! 朽木さんっ! 警察呼んでっ!」

 

「安心しろグリコ。お前の変人ぶりは負けてない」

 

 どういう意味だソレは。

 

「お、落ち着いて栗子ちゃん……と、高地。とりあえず、熱は測った?」

 

「拝島……お前って優しい顔で時々言うことが酷いよな……」

 

 るるる〜と哀愁を漂わせる高地さん。

 

「誰も突っ込んで訊いてくれねぇのかよ。恋の相手は誰だ、とか!」

 

「悪い高地。全然興味ない」

 

 一番酷いのはやっぱり朽木さんだと思う。

 

 高地さんはゴンッ、と頭を落としてテーブルに突っ伏した。

 

 しばらく待ってると、そのままのツンツン頭の下からポソリと声が漏れ聞こえてくる。

 

「祥子ちゃん……」

 

 は?

 

 祥子がどうかしたのかな。

 

 

「祥子ちゃんを好きになったの!」

 

 

 今度は大きな声ではっきりと。

 

 って。

 

 

「えええええっ!?」

 

 

 あたしは思わず席を立ち上がった。

 

「ええいっ、何をぬかすかこの脇役顔っ! 祥子に懸想するなんざ百万年早いってのよっ!」

 

 湧き上がる闘志に突き動かされるまま、高地さんの胸倉を勢いよく掴み上げてぐらぐら揺する。

 

「く、栗子ちゃん、落ち着いて。あと脇役顔ってのはさすがにどうかと……」

 

「こんな軟派男代表は脇役顔で十分です! 祥子に指一本触れさせるわけにはいきません! ゴーホーム! 顔を洗って出直してこいってんですよ高地さん! だいたい祥子に相手にされるわけがっ……」

 

 ん?

 

 相手にされるわけがないなら、問題ないか。

 

 あたしは手を離し、すとん、と席に戻った。

 

「まぁ頑張ってくださいな、高地さん」

 

 にこっと微笑む。

 

「うげほっ。はぁ、はぁ。な、なにそのスイッチング? てゆーかグリコちゃんって正直すぎない? 朽木の趣味って変わってるよな……」

 

 喉元を押さえながら呟く高地さんに、朽木さんの箸が飛んできて、

 

「いい加減その誤解はやめてくれないかな高地」

 

 にっこり笑顔と裏腹の殺気すら籠もった言葉に、高地さんは一瞬頬をひくつかせて黙った。

 

 あたしも「変わった趣味」って言葉に引っ掛かりを感じたが、まぁそれはともかく。

 

「でも高地さんって、真昼狙いかと思ってましたよぉ。なんで祥子なんですか?」

 

 高地さんと唯一行動を共にした海の日のことを思い返しながら、ふと浮かんだ疑問を口にしてみる。

 

 あの日、確か最初は「真昼ちゃぁ〜ん」なんて、真昼を追っかけてたんじゃなかったっけ?

 

「うん、まぁ俺って美人好きだしさ。真昼ちゃんも凄くステキだったんだけどさ」

 

 指でぽりぽりと頬を掻く、ちょっと照れたような仕草で答える高地さん。

 

「祥子ちゃんは……その、俺の頼みをきいてボートに乗ってくれてさ。そのせいで熱中症で倒れたってのに、自分が悪い、ってきっぱり言ったじゃん。……なんてゆうか…………カッコよかったんだよな」

 

 頬を赤く染めながら俯き、視線を彷徨わせる。

 

 むむ。高地さんのくせにちょっと可愛い。

 

「ああ、分かるよソレ。祥子ちゃんってクールで格好いいよね」

 

 拝島さんが同意して頷いた。

 

 ぴくっと一瞬朽木さんの眉が動いたのは気のせいじゃないだろう。

 

 ぷぷっ。ジェラシってる。ジェラシってる。

 

「そうそう! それでいて、どこか放っとけない感じが可愛いんだよ!」

 

 と、顔を輝かせて力説する高地さん。

 

 しょ、祥子を可愛いって……。

 

 実はあたしもそう思ってるけど、それを本人の前で言うと半殺しにされるぞ、高地さん。

 

 しかし、秘かに感心する。

 

 意外と見るとこ見てるらしい、このヒト。

 

 あたしはちょっぴし気分良くなって残りのお茶をずずっと啜りあげた。

 

 祥子のいいトコ分かってくれる人がいるって、なんか嬉しい。

 

「まぁ祥子に惚れた気持ちは分かりました」

 

「グリコちゃん……俺の本気、分かってくれたかい?」

 

 妙なきらきらを振り撒く上気した顔であたしの肩に手を置く高地さん。

 

 うへぇ〜……なんかキモイ。

 

 背筋に寒いものを感じつつも、とりあえず手は振り払わないであげた。

 

 だがしかし。

 

「で、もしかして依頼って、祥子との仲を取り持てとかですか? だったらお断りですよ」

 

 冷ややかな目で睨みながら言う。

 

 あたしだって、祥子が大事なのだ。こんなちゃらちゃらした脇役顔を祥子に近づけるわけにはいかない。

 

 高地さんは慌てて顔の前で左右に手を振った。

 

「そ、そこまでは言わないよ!」

 

 だが、完全には否定できないのか、その次はあたしの目線より低くしゃがむと、あたしを拝むようなポーズで、

 

「あ、いや、でも、その……い、一度だけでいいんだ。祥子ちゃんとのデートを、セッティングして欲しい!」

 

 泣き落とすかのように目をうるうるさせて言ったのだ。

 

 

 でっ。

 

 

 でぇとぉ!?

 

 あたしはあんぐり口を開ける。

 

 デートのセッティングって……それだって冗談じゃない!

 

「お断りします」

 

 きっぱりと言い切るあたしの前に、すっと伸び上がる一本の指。

 

「一万円」

 

 ぴくっ

 

 い、いちまんえん……。

 

「あ、あのですね。あたしに友達を売れって」

 

「二万円」

 

 指が二本に増えた。

 

 じゅる。

 

「お金で釣られる程安い友情じゃ」

 

 まだも抵抗するあたしの前で、更に指は増え。

 

「三万円」

 

 

 さんまんえ――――ん!!

 

 

「協力しましょう」

 

 気付けば高地さんの手を取り、言っていた。

 

「安い友情だな……」

 

 うるさいよ、朽木さん。

 

 

 

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