Act. 20 とんでも腐敵なふたりはきっと
<<<< 栗子・朽木side >>>>
「メットなしでバイクって。信じらんないマヌケ。やっぱ親子だわアンタら」
「お前……っ! お前が飛ばせとか言わなけりゃパトに目をつけられることも」
「車でくりゃいーじゃん。車で」
「バイクのほうが小回りきくんだ! 大体お前は――」
――日もとっぷりと暮れた帰り道。
――月が照らし出す影ふたつ。
ぶつぶつとこぼしながらバイクを押す朽木さんの広い肩を、並んで歩くあたしはちらりと見た。
思わずうっとりしちゃうカッコよさはいつものことなんだけど――
なんとなく、ドキドキがいつもより強いのは、見慣れないワイルドスタイルだから?
さすがは朽木さんだ。なにを着てもさまになってて、ストーカーとしても鼻が高い。
でも。
こんなに近くまで来て、ただのストーカーだとはさすがに言えなくなってきてる今日このごろ。
最初は見てるだけでよかったはずなのに――
いつからなんだろう。傍に行きたいと思うようになったのは。
――ちらりと横目に見る視線はぶつかり。
――慌てて互いに逸らしあう。
文句ばかり言うグリコの体温が、さっきまで背中にあったことをなんとか意識の外に追いやっているのに。
こいつはむかつくほど平気な顔して言ってくる。歩くの疲れた。もう一回乗せろだと?
冗談じゃない。これ以上触れ合うのはごめんだ。
この鼓動の意味を認めないわけにはいかなくなる。
こいつは俺のことを異性として意識していないのに。
苦労させられるのは目に見えている。勘弁してほしい。
あれだけ俺を追いかけておきながら、なんで恋愛感情がないんだこいつ。
――胸の奥をくすぐるのはいつもと違う何か。
――頬の熱は気のせいだと視線を泳がせて。
朽木さんはいつもさりげなくあたしの居場所を作ってくれて。
好きにやってろと背中で語る。お前はお前でやってくれと。
だから思いっきりのびのびできる居心地のよさを、恋なんて痒い感情だとは思えないけど。
でも朽木さんが特別なのは否定できないわけで――確かに、この人はあたしの特別。
一緒にいるのが楽しいから。傍にいたいから。
このドキドキのことは気にせず、今はやりたいことだけやっていよう。
朽木さんを追いかける。それだけでいい。今のあたしのやりたいことは。
――何とはなしに見上げる空の澄んだ黒。
――星々の輝きに目を奪われ、息をつく。
仮に、この気持ちを認めるとしても。
幸いまだ、こいつとはそれほど深い仲になりたいわけでもない。しばらくはこのままでいいだろう。
なんであれ、傍にいればいいのだから、結論を急ぐ必要はない。
それより今は、やっと見つけた夢に向かって走ることに専念したい。
まだ時間はたっぷりとある。どうせ放っておいても俺を追いかけてくるのだ。
俺が俺である限り。こいつは俺を無視できない。
必ず俺を追いかけて、自然と傍にやってくる。
いつかその手をしっかりと掴むまで、今はこいつの好きにさせておく。それでいい。
――火照る体を心地よく冷ましてくれる微かな夜風。
――なのにどんどん生まれる熱は、どうしようもなく心を沸き立たせ――
「……やっぱり、走ってかえろ朽木さん」
「……そうだな。後ろに乗れ」
――囁くようにきらめく星の下。
――ふたつの影はひとつに重なる。
――もともとひとつであったかのように――――
今はまだ見えない壁が、立ちふさがる時があるのかもしれない。でも。
この人となら、どこまでも走っていける。
「朽木さん」
深い闇に包まれる日も、いつかまたくるのかもしれない。だけど。
こいつとなら、立ち向かっていける。
「なんだ?」
遠い先の未来はわからない。でも。
自分らしく走り続けるその隣には。
多分。ずっと。
「明日も晴れるといいね!」
この人がいる。
こいつがいる。
――そんな。
「にひ♪」
「フン」
気がしている――――――
(Fin)