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Act. 18-10

<<<<  栗子side  >>>>

 

 

 朽木さんの駆けていく後ろ姿はあっという間に小さくなった。

 

 古い町並みを貫くこの路地は、表参道ほど人がいない。朽木さんの足ならひとっ走りで神社に戻れるだろう。

 

 だけど一人ではぐれるなって言っておいて自分はいいのか?

 

 なんだかずるい、と思いつつ、言われたとおり拝島さんと一緒に行こうと振り返る。

 

 が、あたしの横を疾風が駆け抜けた。拝島さんだ。

 

「ごめん! 栗子ちゃんは高地と一緒に行って!」

 

 なんのこっちゃ。

 

 なんで続けてパスされてるんだあたし。

 

 お荷物なボールの如くの扱いにちょっぴりすねすね。

 

 まあ誰といっても同じだし、早く自分の落とし物を自分で見つけだしたいので、「いくよ、高地さん!」と羽織袴のつんつん頭を促しつつ、あたしもダッシュ。

 

「あたしたちはここで待ってるから!」

 

 真昼の言葉に頷きで返し、あとはもう、走る、走る、走る。

 

「とりあえず境内をひととおり見てまわるか?」

 

「うん。地面に落ちてないかよ~~く見てくださいよ、高地さん!」

 

 小さい人形だけど色は赤だから目立つはずだ。

 

 目を皿のようにして探せばきっと見つかる。踏んだり蹴ったりのうえに泣きっ面にハチなんて納得いくか!

 

 見つからなかったらこの社に火ぃつけちゃるとか物騒な闘志を燃やしながら神社に到着。

 

 階段をつま先でばたばたと駆け昇り、砂利の隙間にまで目を光らせるの如く周囲に目をこらす。

 

 高地さんも灯籠の中まで細かく探してくれた。

 

「ねぇなぁ……」

 

「ぽこぺ~~ん。ぽこぺ~~ん」

 

「呼んでも出てくるわけないっしょ」

 

 うるさいな。気分だよ気分。

 

「ん~、みんなでお札買う前はあったわけだろ? その後の行動を思い出して、足跡を辿っていくのがいいんじゃね? 特に暴れた場所を重点的に見て」

 

「そうですね。んじゃ、とりあえずお札を売ってるところに行ってみますか」

 

 あたしと高地さんは参道を進み、線香を焚いてる場所や門を通りすぎ、拝殿が正面に見える一番広くて人の多い場所にきた。

 

 この人の多さじゃ、道に落ちてた場合、踏まれてぐしゃぐしゃになってるかも。ぐっすん。

 

 せっかく庄司さんと賀茂石さんと山田さんが、お菊ちゃんは頑張ってくれたからって、数個残ってたうちの一個をデフォルトでくれたのに。

 

 そんなに今年のあたしは大凶なのか?

 

 拝殿の賽銭箱には相変わらずお菓子に群がるアリのように人がたかっている。

 

 あそこに落としていた場合は間違いなく跡形もなくなってるだろうけど、幸い、賽銭箱と戦った時にはまだポクポン人形はついていた。

 

 ここら辺でみんなに見せびらかしたんだよなー、と門を入ってすぐ右手にあるお札販売所の前の石畳の床を見回す。

 

 そこから反対側にある庭園に、イケメン二人組の姿を見つけて走っていった。確かそうだった。

 

 庭を突っ切り、裏門を出て工事現場に潜入し、朽木さんに捕まってまたここに戻ってきた。それからおみくじを引きに行って大凶引いて木に登り……あ、そうだ!

 

 あたしはポン、と手を打った。

 

 そうだそうだ! 木から朽木さんに引き摺り下ろされた時、バッグを木でこすったよ、確か! あの時取れちゃったのかも!

 

「高地さん! おみくじ結ぶ場所にある木! あそこ、行ってみましょう!」

 

 このお札販売所を少し行くと右に奥まったところがある。そこを進むとおみくじ売り場とおみくじを結ぶ場所があるのだ。

 

「あ~グリコちゃんが登った木ね。あん時落としたのかもしれねぇな」

 

「イエス! 善は急げです!」

 

 あたしと高地さんは早速おみくじ売り場に向かった。

 

 広いとはいっても所詮同じ境内。あっという間に紙の花が乱れ咲く枯れ木が見えてくる。

 

 その根元によく目をこらしてみると……あったよ! ありましたよ先生!

 

 

「ぽこぺぇぇぇぇぇぇぇんっっ!!」

 

 

 あたしはじわっと涙を滲ませながら、木の下に横たわる小さな赤い体に駆け寄った。

 

 拾い上げると多少土で汚れているものの、破けたりしてるところはなく、ちぎれたチェーンが痛々しくぶらさがってるだけでぽこぺん自身は五体満足だった。

 

「よかった~! よかった~!」

 

 さしもの大凶もそこまで非情じゃなかったか。うんうん。命拾いしたな神社!

 

「見つかってよかったな~。んじゃ、祥子ちゃんとおだんご食べに帰るか♪」

 

 役目を終えた高地さんは、これで心おきなく祥子とラブれるとばかりに晴れ晴れとした顔でもと来た道を戻りだした。

 

 あんさん、そればっかりや。

 

 あたしは来たついでにさっきの大凶と凶のおみくじを木に結びつけ、高地さんの後を追いかけた。

 

 拝殿を後にして、大きな門を抜け、少し人が減ったかな? ってカンジの参道を逆に辿って、石段を降りる。

 

 それからみんなの待ってるだんご屋に続く左手の路地に入ろうとした時。

 

「桑名栗子さまですね」

 

 突然、目の前に知らない男の人が立ちふさがった。

 

「ふえ?」

 

 いきなりなんだ。あたしのファン?

 

 なんて冗談を言いたくなっちゃうのは、その人が黒いサングラスに黒いスーツを着た、「プロです!」と全身で叫んでるような隙のないおっさんだったからだ。

 

「えっと。違います」

 

 あたしは即座に否定した。肯定したら捕まりそうなやばい雰囲気につい反抗したくなったのだ。

 

「嘘をついてもあなたが桑名栗子さまであることは承知しています」

 

 なら訊くなよおっさん。

  

「我々は、さる御方からあなたを連れて参るよう仰せつかりました。突然で申し訳ありませんが、ご同行願えますでしょうか」

 

 きらりとサングラスの奥が鋭く光った。ような気がした。

 

 寒いものが背中を走り抜ける。

 

 ちょっ、これって誘拐? うちにはたいしたお金ないのに。

 

 いや待て。例えばあたしを見初めたどこぞのお坊ちゃまがあたしを屋敷に招待しようと……って、どう見てもそんな友好的な雰囲気には見えないんですけどー!

 

「おい、ちょっと待てよ。グリコちゃんをどこに連れて行く気だよ」

 

 と、高地さんがあたしを庇うように前に立つ。その勇気はなかなかのもんだけど、少し声が震えてるのが残念。祥子の時はもっとしっかりね。

 

「ご心配なく。危害を加えるようなことはしません。その御方からお話があるだけです」

 

 黒い男の人は、できるだけ穏便に事を進めようとしているのが窺える丁寧な口調で高地さんをなだめた。

 

 だけど全身から漂う威圧感が拒否ることは許さないと語っている。

 

 断ったら何をされるかわかったもんじゃない。

 

「さる御方……ってのが誰だかは教えてもらえないんですか?」

 

 実はなんとなく見当はついてるんだけど一応訊いてみる。

 

 神社の横に沿う道の奥に控える、多分、この人の仲間であろうもう一人の姿に気づいた瞬間、すべての糸は繋がったのだ。

 

 同じ黒いサングラスをしたミリタリージャケットの男性。

 

 そして、この黒いスーツ姿には見覚えがある。朽木さんちのリビングを覗いてた時に見た、朽木さんを取り押さえていた男の人と同じ恰好。もしかしたら、同じ人かもしれない。

 

「残念ながら、ここでお名前を申しあげることはできません。ですが、どなたも一度は耳にしたことのある御方、とだけ言っておきましょう」

 

 ビンゴ。それで充分だ。

 

「そんな人がなんでグリコちゃんに用があんだよ! 本人がグリコちゃんのうちに会いにくればいいだろ!?」

 

 高地さんの必死の抵抗も、黒いスーツの人――朽木さんに『黒服』と呼ばれた人のひと睨みにあっさりと跳ね返される。

 

「君に話しかけているのではない」

 

 プロの威圧こわっ! 高地さん、腰抜かしそう。

 

 それにしても……あたしを呼んでる人の正体はわかったものの、確かに、呼ばれる理由がわからない。

 

 あたしになんの用事があるんだろう? 

 

「いきなり監禁とか拷問とかはされないんですよね?」

 

 わからないなら答えはひとつ。

 

「それは保証します」

 

 あたしはニッと笑って言った。

 

「そんじゃ、行ってみよっかな♪」

 

 うん。わからないなら、本人に訊けばいい。

 

「グリコちゃん!」

 

 慌てふためく高地さんがあたしを振り向いた。

 

「やめとけ、危ねーって! なにされるかわかったもんじゃねーぞ! グリコちゃんに何かあったら俺が朽木と拝島に殺される!」

 

 なんで朽木さんと拝島さん?

 

 ま、それはともかく。

 

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。だって面白そうですし。財界の大物に会えるチャンスなんて滅多にないし。せっかくだから、記念写真撮らせてもらお♪」

 

 でもって将来自分の子供に、「ママも昔はね……」なんて言いつつお宝写真を見せるのだ。その前に結婚できんのかよ! ってツッコミはおいといて。

 

「なにノンキなこと言ってんだよ! こんなめちゃくちゃ怪しいカッコした奴らと行くなんて正気の沙汰じゃねーよ!」

 

「あ、黒服のステキなお兄さん、お兄さんもここで一枚写真撮らせてもらっていいですか? できれば腕を組んで体は斜め前に構えて♪」

 

「おいおいグリコちゃん……」

 

「そんな時間はありません。既に人目につきすぎていますので、すぐに出発します」

 

「ちぇー。けちんぼ。んじゃさくさくと行ってくっかな」

 

 あたしは唇を尖らせて黒服さんの促す方向に歩きだした。

 

「マジかよ……俺、朽木たちになんて言えば……」

 

 おろおろする高地さんには、黒服さんから一枚の封筒が差し出される。

 

「これを冬也さまにお渡しください」

 

「へ?」と目を点にする高地さんの手にその封筒を握らせ、黒服さんは逃がさないようにか、あたしの横にぴったりとはりついた。

 

「心配ないですよ、高地さん。朽木さんに先に行っとくねーって言っといてください」

 

 あたしは高地さんにひらひらと手を振りながらにひっと笑ってみせた。

 

 そして、前に向きなおり、正面に立つミリタリージャケットの男性を見据える。

 

 何を考えてるんだかしんないけど、監視をつけるほど朽木さんに近づくあたしに関心があるなんて、かわいいとこあんじゃん。

 

 あたしに話があるなら好都合。

 

 ちょうどあたしも会いたかったところさ。

 

 朽木さんをがんじらめにした腕前、とくと見せてもらおーじゃないの。

 

 

 ね? 神薙グループの会長さん。

 

 

 

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