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Act. 18-7

<<<<  栗子side  >>>>

 

 

「もう少し落ち着きを持ちなよグリコ」

 

「あんたホントに二十歳? 賽銭箱とケンカってバカじゃない?」

 

「神社で捕まるのってシャレになんねぇって」

 

「次にアホな騒動起こしたら灯篭に括りつけて帰るからな!」

 

 闘争心のなくなったところを引きずって連れて行かれた境内の隅っこで、みんなに呆れ目で散々に叱られ、罵られ、あたしはしょぼんと小さくなった。

 

 頭にできたでっかいたんこぶも惨めさをプラスして、なんつーかいろんな意味で痛いです。人の視線も痛いです。

 

 でも、ちょっぴり嬉しさもあったりして。

 

 だって朽木さんがいつものように、あたしを見て怒ってるのだ。

 

 容赦ない一撃の証はじんじんと痛むけど、これぞまさしく朽木さんってカンジの痛みにうっとり。あたしって心底Mなのね。

 

「まぁ、栗子ちゃんも反省してるみたいだし、もうそのくらいにしていこうよ。あそこにお札とか売ってるけど、見ていく?」

 

 地獄の中に仏。唯一の味方である拝島さんが、人だかりのできてるお札販売所を指差して救ってくれる。

 

 本殿前の開けた場所の一角で、可愛い巫女さんが売っているのだ。男なら迷わず並ぶね!

 

「あ、俺、じいちゃんにお札頼まれてんだ。買わねぇと」

 

 高地さんが思い出したように言ってそっちに体を向ける。それからチラッと祥子を見て、

 

「恋愛成就のお札も買っておこ……」

 

 ポッと頬を染めながら呟くけど。

 

「お金の無駄遣いね」

 

 ズバッと祥子に斬られてへなへなと崩れ落ちる。石の地面にのの字を書きだした。

 

 今年もファイトだ、高地さん。

 

「俺も毎年お札は買ってるんだ。一緒に買いにいこ、な、高地」

 

「あたしも買ってくるわ。グリコは?」

 

 高地さんを慰めてあげる拝島さんと真昼もお札を買うみたいで、みんなけっこう信心深いんだなー、なんて妙なところで感心。

 

 でもって真昼に誘われたけど、あたしは首を横に振った。

 

 ケチってるわけじゃない。あたしだってお札やお守りの類を持つのは好きだ。なんとなくパワーをもらえる気がするしね。

 

 でも今年はこれがあるのだ。

 

 あたしはショルダーバッグのチャックにつけた小さなマスコットを手に取ってみんなに見せた。

 

「クリスマス・イベントでプレゼントにしたお守りの人形だよ。余ったからもらったの。これがあるから、今年はお札はいらないや」

 

 可愛いおめめがついたその赤い人形は、ポクポン人形といって、幸せを呼ぶ外国のお守りらしい。とってもキュート。

 

 複数の神様を祀るのはよくないって言うし、お守りも何種類も持つのはよくないだろう。そんなわけで、もうお札はいらないのだ。

 

「へぇ~。可愛いねこれ」

 

 目をキラキラさせた拝島さんがポクポン人形に引き寄せられる。高地さんや真昼や祥子も興味深そうに寄ってきて、あたしはなんとなく得意げに、この人形の由来を説明した。

 

 賀茂石さんの説明の受け売りだけど。

 

 珍しがられるって気持ちいいよね。フフン。なんて思いながらふと庭園のほうに目を向けると。

 

 

 おおっ! あ、あれはっ!!

 

 

 なんとも美味しそうなイケメンが二人、表参道を外れて庭園の向こうに歩いていくではないですかっ!

 

 初詣に男二人。仲良さそうな男が二人。しかも美形。

 

 ど、どういうことでしょうこれは。いやどういうこともなにも、めちゃくちゃ怪しいんデスガ。

 

 あれは絶対アレですよ。アレな仲ですよ。オイシイことしてますよ、あの二人。

 

 表参道から外れるってところからしてまず怪しい。片方が楽しそうにはにかんでるし。

 

 

 ぐあ~~っっ!! アドレナリン噴出する~~~っっ!!

 

 

 ギンッと一瞬で目を血走らせたあたしは、その男性二人が消えていった道の奥を凝視し、とうとう我慢しきれずに走りだした。

 

「グリコ!? いきなりどこへいくの!?」

 

「ごめん! すぐ戻ってくるから、みんなはお札を買いながら待ってて!」

 

「またイケメン!?」

 

「めちゃくちゃステキな二人組を見つけたんじゃっ! これが撮らずにいられるかぁ~~っ!!」

 

 興奮にぶしゅーっと荒い鼻息を噴き出しながら、猛然とダッシュする。今のあたしは誰にも止められない!

 

 イケメン二人組イケメン二人組イケメン二人組っ!

 

 できれば盗聴器を仕掛けさせてくださいっ!!

 

 低木が奥の景色を隠す庭園を駆け抜け、小さなお堂を横目に散策用っぽい土の小道を足音を忍ばせながらいく。

 

 見つかって警戒されたら美味しい会話が聞けなくなるもんね。

 

 段々人けもなくなり、やがて道の終端に木の塀が見えてくる。どうやらこの道は裏門に続いているようだ。目当ての二人組の後ろ姿が裏門を出ていくのを発見。

 

 うへへへへへ。どんなお話してるのかなぁ~~?

 

 ヨダレを拭いながらあたしも裏門を出ると、そこは細い路地で、目の前には古い町並みの住宅街があった。

 

 なんとか二人の傍に行きたい。でもこの細い道じゃ身を隠すところなんてありゃしない。

 

 と、二人が進む道路の先に隣接する一角が、工事現場になっているのに気づく。

 

 白いトタン塀で周囲を囲まれているから、近寄ってもバレないだろうか。

 

 そう考えるとあたしは素早く二人の後ろに近づき、工事現場の一角に辿り着くと移動し、さっと立ち入り禁止のバリケードを飛び越えた。

 

 幸い正月だからか、中に作業員はいない。建物の資材が転がる中を全力でダッシュし、二人の気配の横につく。

 

「……でさ。ケイゴのうちにもピアノを置かせて欲しいんだ」

 

「んー……。どこに置くかが問題だな。今のお前の部屋じゃ狭いしな」

 

 ほうほう。ピアノですか。てゆーか同棲してますね、お二方。

 

 ピアノを置くなんてけっこういい生活してるっぽいし、こりゃ本物だ。多分、攻めのケイゴって人がお金持ちで、受けの人が音大生か何かで、「お前のいい音をきかせてくれ」とかなんとか囁きあいながらピアノの前でいやらしいレッスンを――

 

 あれ? 足が前に進まない。

 

 てゆーか首ねっこ掴まれてます。誰かに後ろから。

 

 あは。あははは。な、なんとなく身に覚えがあるパターンだなぁ~。あはははははは。

 

 恐る恐る後ろを振り返る。するとそこには鬼の形相をしたあたしのお守役が――

 

 

 

「ひっ」

 

 

 

 怒りのオーラが立ち昇ってます。むしろ殺気に近いです。

 

「なにをやってるんだお前は」

 

 朽木さんの低い声が、あたしを押し潰さんばかりの重圧でのしかかってくる。

 

 その迫力に思わず尻餅をついて後ずさった。こ、怖すぎる。

 

「いや、その、あんまりステキな二人組だったからさ。是非会話をきいてみたいな~なんて思って。乙女のちょっとした好奇心?」

 

「お前のどこに乙女があるんだ。いい男を見つけるたびにホイホイついていきやがって。その腐った根性叩きなおしてやろうか?」

 

 迫ってくる両手から逃げようと思ったけど、いかんせん距離が近すぎて、あっさりがっしり頬を掴まれた。

 

 朽木さん、言葉遣いが。言葉遣いが乱暴になってます。

 

 でもって痛いです。思いっきり両頬を引っ張られてます。もしかして引きちぎるおつもりですか?

 

「一人ではぐれるなと何度言われてもわからん奴は、ここに一晩埋まって反省してみるのがいいか?」

 

 

「いだいいだいいだい~~っ! ごめんなひゃいっ、もうひまへんっ」

 

 

 一晩どころか一生埋められそうだよ。助けてどらえも~~ん!

 

 半泣きで謝ると、なんとか朽木さんは頬から手を放してくれた。

 

 怒りは治まったのか、ふっと肩の力を抜き、今度はなにを考えてるのかよくわかんない顔でじっとあたしを見る。

 

 それから、ぼそっと呟いた。

 

 

「……そんなに顔のいい男が好きか」

 

 

「うん。それは当然」

 

 がくっ。

 

 唐突な質問に正直に答えると、脱力した様子でこうべを垂れる朽木さん。

 

「きいた俺が馬鹿だった……。とっとと戻るぞこの腐女子がっ! 今度勝手な真似したらセメントで生き埋めにするからな!」

 

 がっくりしたり怒ったり忙しい人だよ。

 

 あたしはまたもや首ねっこを掴まれ、仔猫よろしく半分吊られながら前を歩かされた。

 

 イケメンを追っかけるのは腐女子の本能なんだよ。そんなに怒んないでよ。

 

 工事現場から出るべく180度向きを変え、入り口の黄色と黒のバリケードを正面にする。と、気になるものが見えて、ふと足が止まった。

 

「おや?」

 

 今の……さっとトタン塀の向こうに隠れた人影は。

 

「ん? どうした?」

 

 朽木さんに突っ込まれるけど、すぐに答えられない。なんて説明すればいいんだろう。

 

 最近、時たま周囲に目をやれば、どこかに見え隠れするミリタリージャケット。黒いサングラス。

 

 今もちらっと覗いていた服は、ミリタリージャケットのカーキ色だった。

 

「ん~……最近あたしってば人気者らしくてさ。たまに視線を感じるんだよね」

 

「ストーカーをストーキングする奴がいるのか。警察にでもマークされてるんじゃないか?」

 

「おお、なるほど」

 

 あたしはポン、と手を打った。そういう方向は考えつかなかったな。

 

「ストーキングの現行犯逮捕するつもりってわけか。それはまずいな」

 

 なんとかマークを外す方法を考えなきゃ……って、ん? あれ? でも。

 

 朽木さんちのベランダに侵入した時なんて絶好の逮捕チャンスだったと思うんだけど。

 

 あれはなんで大丈夫だったんだろ……。

 

「もし、また視線を感じたら俺に言え。正体を確かめてやる」

 

 少し心配そうな顔をする朽木さんに、「あ、まぁ気にするほどじゃないよ」と慌てて手を振る。

 

「視線を感じるだけで怪しいことなんにもないし。気のせいかもしんないし、もしなんかあっても防犯グッズいつも持ち歩いてるから」

 

 バッグの中からスタンガンを取り出してみせると、さっきの騒動を思い出したのか、朽木さんの口の端がひくっとひきつった。

 

 乙女のバッグの中は秘密がいっぱいなの☆

 

「さ、みんなのところに戻ろ」

 

 今は気にしても仕方なさそうなことは忘れることにして、さくさくと歩きだした。

 

 

 

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