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Act.18-1 とんでも腐敵な迫りくる魔の手

<<<<  栗子side  >>>>

 

 

「栗子! お茶くらい兄ちゃんが淹れてあげるから寝てなさい!」 

 

 やかんに火をつけようとしてたあたしは、なんとも鬱陶しい市兄ちゃんの慌て声に、深々とため息をついた。

 

「このくらい大丈夫だって。もう熱も下がったし、平気だよ」

 

 かまわずスイッチを回し、食べ物を漁ろうと冷蔵庫を開ける。

 

「クリスマスケーキ、残ってないかな~」

 

「傷みが早いものはもう捨てたよ。何か食べたいんなら兄ちゃんがおかゆ作ってあげるから寝てなさい」

 

「ええ~~またおかゆ~~!? いい加減精のつくもん食べさせてよ」

 

「まだ少し熱があるだろう? 消化のいいものを食べないと」

 

 どんだけ病人扱いすりゃ気がすむんだ兄ちゃんは。

 

 あたしはがくっと頭を落とした。

 

 心配してくれる気持ちは嬉しいんだけど、市兄ちゃんはすることなすこといささか度が過ぎてる。

 

 兄弟を守らなきゃって責任感がそうさせてるんだろうけど、正直うざい。鬱陶しい。

 

 いつものモスグリーンのエプロンを着け始めた市兄ちゃんを振り返り、「お昼はお肉かお魚入れてくれなきゃ食べないよ!」と指を突きつけてから食堂を出る。

 

 と、その時、リビングの電話が鳴った。

 

 出ると電話の主は真昼だった。

 

『グリコ? 元気してる?』

 

「元気だよ~。超元気!」

 

『体の調子はもういいの?』

 

「うん。熱も下がったし、体力も回復したから、ギンギンにパワーあり余ってる。どっか遊びにいきたい~~!」

 

 心の底から願望を吐き出すと、真昼は呆れ気味に『ほどほどにしときなよ』と笑った。それから、

 

『その様子じゃもう必要なさそうだけど。祥子と、これからお見舞いに行こうかなって言ってたのよね』

 

「マジ!? 来て来て! もう暇で暇で!」

 

 あたしは一も二もなく大歓迎。ゲームも漫画も飽きちゃってたのだ。

 

「てゆーかあたしが行く! 久々に外の空気が吸いたいのマジで! 近くでお茶しよ~」

 

『え? それってお見舞いにならないんじゃ……』

 

「ちょっとした気晴らし程度だから! お茶飲んでだべって少し散歩でもしたら帰るから! とりあえず駅で待ち合わせしよ?」

 

『いいのグリコ? 市柿さんにまた怒られたり』

 

「だいっじょーぶ! もう充分反省した態度は見せた! これ以上はあたしの我慢の限界なの。んじゃ後でね~」

 

 るんるん♪っと電話を切り、くるりと体を反転させる。

 

 市兄ちゃんがいた。

 

「……栗子。外出するって……」

 

 怒りのオーラが滲み出ている。うげげっ。

 

「だってこれ以上うちにこもってると腐るよ。もう三日も安静にしたじゃん。ちょっとくらい外に出たっていいでしょ?」

 

「…………だれかと会うの?」

 

「うん、友達と」

 

「あの朽木って人じゃないだろうね?」

 

 市兄ちゃんの目に険しさが増す。あたしは慌てて首を横に振った。

 

 市兄ちゃんは普段温厚なんだけど、怒ると陰湿で怖い。

 

 あたしが誕生日の夜、風邪をひいた状態で朽木さんのうちに泊まったこと、まだ根にもってるのだ。

 

 四六時中どたばたしていたあの二日間のことが頭をよぎる。

 

 あんまり張り切りまくってたので、ちっとも体を顧みなかったあたしは、24日の夜、糸の切れた人形のようにぶっ倒れた。

 

 お姫様だっこであたしを運んでくれた朽木さんは(くつじょく!)、そのままあたしを家まで送ってくれた。

 

 でもって約束どおり、ぐったりとするあたしを見て角を生やした市兄ちゃんに、一緒に謝ってくれたのだ。

 

 

『昨日は俺のうちで栗子さんを介抱させていただきました』

 

『君のうちでですか? 失礼ですが、栗子とはどういった関係で?』

 

『サークルで知り合って、普段、親しくさせていただいてます。今日、うちの大学でクリスマス・イベントが行われて、それを栗子さんに手伝ってもらってたんです』

 

 朽木さんはスラスラと淀みなく、嘘とほんとを交えた話を市兄ちゃんに語って聞かせた。

 

『昨日はその追い上げのため、俺のうちで準備の最終仕上げをしてまして。栗子さんも泊まり込みで手伝ってくれたんです。でもその途中で熱を出してしまって……連絡が遅れてしまい、申し訳ありませんでした』

 

 あたしが一人で泊まったことはぼかして、いかにもその他大勢がいたんだよー風に話してた。

 

 あたしとしては、なんらやましいことなんかしてないんだし(ソフト鞭は使ったけど)、本当のコト話したってちっともかまわないんだけど。

 

「それはやめてくれ」と朽木さんが頼むので、仕方なく口裏をあわせてあげることにした。

 

 まぁ、やましいことしてたって、市兄ちゃんに干渉される筋合いはないんだけどね。朽木さん曰く、「初めての顔合わせで刺激の強すぎる話題は避けたい」とのこと。

 

 彼氏でもあるまいし。朽木さんの心象が悪かろうが、あたしの素行が悪かろうがかまわないと思うんだけど。

 

 ま、ともかくそんなわけで、市兄ちゃんは今、『朽木さん』って言葉に敏感なのだ。

 

「本当に、あの人とはなんでもないんだろうね?」

 

 ピリピリした様子の市兄ちゃんに、あたしはこくこくと頷いた。

 

「んな色気のある話があたしにあるわけないじゃん。BL妄想のネタにはさせてもらってるけど、それだけだよ」

 

「ならいいけど……」

 

「なに、市兄ちゃん? あたしに彼氏とかできるの警戒してんの? 実はシスコン?」

 

「そういう問題じゃなくて、つきあってる間柄なら、恋人に無理をさせないくらいの配慮が欲しいってこと! 妹の恋路を邪魔するつもりはないけど、高熱出してる恋人を働かせるような男とつきあうのは感心しないよ、ってことなの!」

 

 どんだけ母親してるんだこのお兄さまは。

 

「勝手に無理したのはあたしだし、朽木さんは悪くないよ。むしろあたしの仕事分を引き受けてくれたんだから、恋人云々はともかくとして、点数の高い男じゃない?」

 

 でもって、なんのフォローをしてるんだあたしは。

 

「そりゃ……まぁ……」

 

「つきあうなんてことはあり得ないし、あんまり朽木さんにピリピリしないで。いい人でもないけど悪い人じゃないよ」

 

 むしろ迷惑かけてるのはあたしの方だしね。

 

 犯罪すれすれの行為でストーカーしてるっつーたらひっくり返るだろうか、兄ちゃん。

 

 わりと常識にうるさい人だからな……。

 

「ま、そゆわけで朽木さんとは関係なく友達とお茶してくるから。すぐ帰ってくるからあんまり心配しないで桃太とちちくりあってて」

 

「ちちくり……! 栗子、まさか桃太と兄ちゃんをカップリングしてるんじゃっ」

 

「受けはどっちかな~なんつって♪ んじゃおでかけの用意してきま~す!」

 

 市兄ちゃんがうろたえてる隙にリビングを抜けだし、部屋に戻る。

 

 うぷぷぷ。市兄ちゃんと桃太じゃ、どっちも受けでカップル成立しないっての。

 

 

 

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