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Act. 17-2

 

突然の休載、どうもすみませんでした!

体調はあれから大分よくなりました。

ご心配くださった皆様、どうもありがとうございます。

また頑張っていきますね~。(^ ^)

 

 

<<<<  朽木side  >>>>

 

 

 ベッドで静かに寝息を立てるグリコの額に手を当て、俺はほっと息をついた。

 

 熱はなんとか下がったようだ。37℃台後半といったところだろうか。

 

 昨晩は40℃近い熱を出したのだ。あの状態でよく動けていたものだと感心する。突然倒れた時点で熱は39℃を超えていたのだ。

 

 たかが風邪とはいえ、普通は39℃もあれば体調がおかしいことに気づくだろうに、グリコは頑として大丈夫だと言い張った。

 

『へーきへーき、ちょっと目ぇまわっただけだって』

 

 そう言って無理に立ち上がろうとするのを、俺はデコピンひとつで床に沈めた。

 

『あんまり手を焼かすようなら座薬を突っ込むぞ』

 

 以前グリコにされた嫌がらせをここぞとばかりに使い、大人しくなった体を抱き上げると、グリコは悔しそうに頬を膨らませた。

 

『ぜったい一晩で回復してやる』

 

 こんな状態でも強気なこいつがおかしかった。

 

 それから寝室のベッドに運び、解熱剤を飲ませると、グリコはすぐに深い眠りに落ちた。

 

 傍についていたかったが、グリコが目を覚ました時、地図が仕上がっていなかったら鞭を振り回して暴れるだろうことは明白だったので、後ろ髪をひかれる思いで寝室を後にした。

 

 時刻はもうすぐ朝の7時になる。

 

 俺はベッドから離れ、作業部屋に戻った。

 

 プリントアウトされていた最後の一枚の宝の地図を拾い上げ、テーブルに置かれた他の地図と一緒にまとめて紙袋に入れる。

 

 印刷は全て終了した。結局、今回も徹夜だ。

 

 あいつにつきあわされるといつもこうだと疲れた体をもみほぐす。

 

 そろそろグリコを起こしてやるか。それから眠気覚ましのコーヒーでも一杯飲んで――そんなことを考えながらキッチンに向かった。

 

 そして、棚からコーヒー豆の缶を取り出した時だった。

 

 

 

「みぎゃあああぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 

 

 キッチンにまで響き渡る大絶叫に、危うく缶を取り落としそうになった。

 

 なんだ!? 何があったんだ!?

 

 すぐさま悲鳴のでどころ――言うまでもなくグリコのもとへ駆けつける。

 

「どうしたグリコっ!」

 

 俺の声にベッドの上に座り込んでいたグリコがくるりと振り返る。

 

 ぎょっとした。なんだその半べそ顔は。

 

「7時……7時だよう朽木さん……」

 

 は? 「あ、ああ」と頷く。

 

「遅刻しちゃうよう! 車で送って! 早くっ早くっ、急がなきゃ!」

 

「体調は大丈夫なのか?」

 

「そんなのユンケル一本飲みゃなんとかなる! すぐに出るから準備して!」

 

 言うなりグリコはベッドから飛び降り、俺の目の前でシャツを脱ぎだした。ちょっと待て。

 

 常識とか羞恥心とかは母親の胎内に置いてきたのかこいつは。一応腐っても女だろ。

 

 俺は完全な下着姿になったグリコから回れ右して寝室を出た。

 

 せめて汗を洗い流すくらいのことはさせてもらおうと浴室に向かった。

 

 

 * * * * * *

 

 

「ここで待ってて!」

 

 慌しくドアを開けて外に飛び出したグリコは、本当にあれで病み上がりなのか、車をつけた塀の家に転がり込むように入っていく。

 

 どうやらここがグリコの自宅らしい。

 

 平均的な中流家庭の一軒家といった風情の家を前に、俺は襲ってくる眠気と戦った。

 

 一度家に戻りたいのはわかるが、また大学まで取って返す道のりに俺がつきあわされる理由はあるだろうか。

 

 座席に深くもたれながら少し考え、仕方ないかとため息をつく。あいつはまだ38℃近い熱がある。

 

 そんな状態でこれから一日クリスマスイベントのために働くなど正気の沙汰じゃない。まぁあいつのすることはいつでも正気の沙汰じゃないんだが。

 

「栗子! 待ちなさい!」

 

 などとぼんやり考えていると用事は終わったらしく、玄関の扉が開く音が聞こえた。

 

 と同時に響く男の声は父親というには若い声だった。もしかするとグリコが以前言っていた『市兄ちゃん』だろうか。

 

「ごめん市兄ちゃん! ご馳走は帰ってからチンして食べるから!」

 

 どうやら当たりらしい。騒々しいグリコの声が後に続く。

 

 兄としては妹が誕生日に無断外泊したのだ。心中穏やかじゃないだろう。

 

 しかも泊まったのは男の部屋で、その部屋の主は今ここでのうのうと車を寄せて妹を待っている。見つかれば面倒なことになりそうだと、俺も穏やかならぬ気分になってきた。

 

「そんなことより栗子、熱があるだろう! 兄ちゃん外出は許さないよ!」

 

「ちっ、仕方ない……うりゃあああ! 必殺・兄ちゃんのヌード写真手裏剣!」

 

「えっ!? うわっ、なんだこれ! いつのまにこんな写真ーっ!」

 

「わははは! さらばでござるー!」

 

 どこから突っ込んでいいやらわからない非常に気になる会話に冷や汗を流す。

 

 とりあえず聞かなかったことにしておこう。

 

 猛烈に早く帰って寝たい。

 

 

「朽木さん!」

 

 

 グリコが家から飛び出してくると同時に俺はエンジンをかけた。

 

 再び車の中に滑り込んだグリコが「出して!」と叫ぶより早く、逃げるように車を急発進させる。

 

 

「栗子――――っ!!」

 

 

 こんな奴の兄に生まれついたことは深く同情するが、恨まれるのは御免だ。

 

「まったく市兄ちゃんはうるさいなー」

 

「心配かけたんだ。帰ったらよく謝っておけよ」

 

「うん、まぁ、適当に」

 

 おや、と思った。珍しい。こいつが照れるなんて。

 

 面倒くさげに返すが、そっぽを向いた頬がむずがゆそうにひくつくのを俺は見逃さなかった。

 

 こいつでも家族の愛情は照れくさいのか。

 

 なんとなく微笑ましく思いながら前方に注意を戻す。ややあって「朽木さん」と声をかけられた。

 

「なんだ?」

 

「コーヒー。飲む?」

 

 隣でなにやらごそごそやってるなと思ったら、水筒を取り出していたらしい。

 

 湯気をあげるコップが横から差し出された。

 

「ちょうど市兄ちゃんがコーヒー淹れてるところだったから強奪してきた。ゆっとくけど豆は安物だよ」

 

 どこまでも気の毒な兄だ。

 

 しかしコーヒーが飲めるのは正直嬉しい。今朝飲み損ねた一杯がずっとひっかかっていた。

 

 ありがたく受け取り、片手で慎重にハンドルを操作しながらコップを口元に運ぶ。

 

 美味い。

 

 疲れた体に心地よい熱が沁みわたる。

 

 少し元気を取り戻した俺はその後快調に飛ばし、グリコを大学に送り届ける使命を全うした。

 

 空っぽになる助手席に、これでやっとこいつから解放されると安堵の息を吐き出す。

 

 だが焦りにそわつく体は車を降りて真っ直ぐ校門に向かうかと思いきや、不意に俺を振り返った。

 

「朽木さん! 後で遊びにきて! 絶対だよ!」

 

 なんだ? まだつきあわなきゃいけないのか俺は?

 

 ここまで頑張ったんだ。いい加減休ませてくれ。

 

 そう思ったが、まだ体調が回復してないはずのグリコの様子が気になるのは確かなので、結局またここに戻ってくることを心に決めて車を発進させた。

 

 ほんの少しだけ、イベントの出来を楽しみにしながら。

 

 

 

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