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Act. 16-4

<<<<  朽木side  >>>>

 

 

『ごめん、少し遅れる』

 

 拝島から届いたその短いメールを携帯電話の画面で確認した時、空は燃えるような赤に染まっていた。

 

 拝島が遅刻するなんて初めてのことだ。多少驚いたが、文面から見ても切羽詰っている様子は見てとれたので、『わかった』とだけ書いて返信ボタンを押した。

 

 拝島が遅刻するならちゃんとした理由があるのだろう。その理由まで探ろうとは思わない。

 

 俺は、拝島と一緒にいられればそれでいい。

 

 久しぶりに走る繁華街の道路は予想以上に混雑していた。なかなか前に進まない。

 

 こうなることは予測していたので早めに出てきたのだが、まだ見通しが甘かったかもしれない。俺はナビで周囲の駐車場を検索した。

 

 目的地に近づくにつれ、混雑は一層ひどくなることはわかっている。周囲の車も向かう先は同じだろう。

 

 多少遠くても、空きのある駐車場があれば、早めに停めてしまいたい。

 

 ほどなくして見えてきたコインパークに、俺はハンドルを切って乗り入れた。

 

 

 

 海沿いの夜景が美しい公園がある。

 

 昼は家族連れの憩いの場、夜はカップルのデートスポットとなるそこで、今夜、花火が打ち上げられるという。

 

 公園の木々も一部冬のイルミネーションに飾られ、目を楽しませることを約束してくれるそこは普段から人気のスポットだが、今夜は一段と人の入りが激しい。

 

 一人でなら絶対に来ることのない場所だろう。人の波にもまれてまで夜景を見ようとは思わない。

 

 だが拝島の誘いなら話は別だ。今は少しでも多くの時間を、拝島と共に過ごしたい。

 

 

 自由を奪われる前に――――

 

 

 俺は公園沿いの道を、待ち合わせ場所である時計台を目指して歩いた。

 

 拝島が来るまで、その近くの喫茶店で時間をつぶすつもりだった。早く着くつもりで出てきたので、暇つぶし用の本は持参してある。

 

 それでも読みながらゆっくりと待てばいい。

 

 右手に公園の入り口が現れ、俺ははたと足を止めた。

 

 まただ。微かにこみあげる不快感。公園を見るとたまに感じる不思議な感覚。

 

 以前、グリコと公園に入った時も、同じように不快な気分を味わった。

 

 思わず公園が苦手だなどと子供じみたことを口走ってしまったが、意外と本当のことなのかもしれない。

 

 しかし、苦手といってもいわゆる『人ごみが苦手』と同等なレベルのように思われる。つまり、そこに行くと疲れることがわかっているから、楽しくないことがわかっているから行きたくないのだ。

 

 公園が楽しくないと感じるのは多少変わってるかもしれないが、気にするほどじゃない。

 

 それとも、気にした方がいいんだろうか?

 

 拝島に話した立ちくらみの件と、かかわりがある可能性も否定はできない。

 

 ふとした時に頭をかすめるおぼろげな記憶――本当に記憶かどうかも定かでないのに、拝島はやけに心配していた。

 

 それを嬉しく思わないこともないので、ここのところ少し真剣に考えてみようかという気になっている。

 

 といっても何が思い出せないのかもわからない状態だ。心にひっかかるものがあれば、手当たり次第に見ていくしかない。

 

 この公園はどうだろう――俺は不快感を抑えて公園の入り口に近づいた。

 

 車両の侵入防止用か、ジグザグに並んだハードルのようなものを抜け、中に入ると、舗装された固い地面が奥まで続く。

 

 ご丁寧に道順を示してくれる地面の色分けされた部分に沿いながら、左手に広がる海を眺める。特に何も感じない。

 

 入る時は微かに嫌な感じがあったのだが、入ってみるとたちまちそれは消えてしまった。公園が嫌いというわけじゃないんだろうか?

 

 まぁ、公園と言うには人工的すぎる場所だ。まず地面が土じゃないところからして、自然に囲まれるという目的から外れている。いかにもデートスポットらしい場所だ。

 

 俺は踵を返し、もとの道を戻った。どうせまた拝島と歩くことになるのだから、景色は楽しみにとっておくべきだろう。

 

 何も感じないのなら時間を無駄にすることはない。そう思い、再び入り口の車両止めの間を抜けた。

 

 ところがその瞬間、またもや奇妙な不快感に襲われ、思わず立ち止まった。

 

 なんだ?

 

 首の後ろがちりちりする。今にも誰かが触れてきそうな予感に、緊張して感覚を研ぎ澄ませた時のような。

 

 

 引っ張られる――

 

 

 後ろに引き倒され、誰かが俺の顔を覗き込む。ニッと笑って――

 

 

『坊主』

 

 

 いや、なんの妄想だ。どこかのドラマで見たワンシーンだろうか。

 

 思わず振り返るが、そこには誰もいない。一瞬、誰かに呼ばれたような気もしたんだが。

 

 もう一度公園の中に入ってみるが、それ以上は特に何も感じなかった。

 

 疲れているのかもしれない。首の後ろを引っ張られたように感じるなど、まるで霊体験のようで気味が悪い。

 

 急に寒気を感じた俺は、温かいものでも飲もうと近くの喫茶店に向かうべく公園を後にした。

 

 

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