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Act. 15-10

<<<<  栗子side  >>>>

 

 

 毎日が、矢のように流れていった。

 

 さすがのあたしも、忙しさに目がまわりそう。

 

 朝はジョギング。学校が終わったら朽木さんの大学に飛んで行き、すぐにバイトに行く日もあれば、夜遅くまでイベントの手伝いをする日もある。

 

 どちらにしろ帰ったらくたくたで、だけど腹筋とサンタの練習は欠かさない。まるで部活小僧みたい。

 

 ま、楽しいからいいんだけど。

 

 イベントの準備は着々と進み、配ったビラの反響もまずまずのようだ。

 

 イルミネーションや宝探しの地図、決めるべきことはどんどん決まっていき、それぞれ電飾屋さんと印刷所に発注された。

 

 サンタの家は緻密な設計図をもとに、沢山の資材が集められ、下準備がなされていった。

 

 毎日のように響き渡るのこぎりの音は話題を呼び。激励の言葉をかけてくれる人も出始めるほどで。

 

 一層、気合が入った。

 

 もちろん、あたしのサンタ服も忘れてない。毎晩、疲れている市兄ちゃんのお尻を叩き、細かい注文をつけながら少しずつ仕上げていった。

 

 そんな忙しさのおかげで、朽木さんのことはあまり考えこまずにすんでいる。

 

 メールを送ったり、暇を見つけては写真を撮りに行くのは、もうルーチンワークみたいなもんで。

 

 無視されてもとにかく続ける。頭を使ったら負けだ、みたいな闘志を燃やしながらやっている。

 

 とりあえず、今はクリスマスイベントが優先だからね。

 

 そして気づけば数週間があっという間に流れ。

 

 とうとう一週間後にクリスマスイベントを控えたその日。

 

「ほんじゃ、いってくる」

 

 今日も張り切って手伝うべく、講義終了後、帰り支度を素早く終えたあたしは、真昼と祥子にさよならの手を振った。

 

 すると。

 

「グリコ」

 

 真昼があたしを呼び止めた。「ん?」と振り返る。

 

 何故だか真昼は心配そうにあたしの顔を覗き込んでくる。なに? あたしの顔になんかついてる?

 

「体調とか大丈夫?」

 

「へ? 大丈夫だけど?」

 

 唐突な質問に目をぱちくりとさせながら答えると、真昼は「そう……。ならいいけど……」とまだ浮かない顔で離れる。

 

「顔色が悪い気がしたから」

 

「顔が悪い、じゃなくて? あははっ。気のせいだよ気のせい」

 

 あたしは元気の証拠にガッツポーズしてみせた。

 

 真昼ってば、最近心配性。そりゃハードスケジュールこなしてるから、疲れてないとは言わないけど。

 

 でもあたしって、昔からかなり丈夫なんだよね。風邪も滅多にひかないし。

 

 このくらいでつぶれるようなあたしじゃないのだ。

 

「でも毎日忙しすぎるんじゃない? 少しは休まないと」

 

「大丈夫だって。今日はこれもみんなに見せなきゃだし」

 

 あたしは肩にかけた桃太から借用のボストンバッグを示して言った。

 

 中には、ここ数週間の血と汗と涙の結晶が入っている。流したのはあたしじゃないけど。

 

「放っときな。こういう手合いは一度ぶっ倒れないとわかんないのよ、真昼」

 

 と、真昼の向こうから、クールな声。祥子だ。

 

 真昼はくすりと笑った。

 

「ふふっ。祥子みたいにね」

 

「ちょっ……! あ、あれは慣れないことをしたからで、普段はちゃんと体調管理してるわよ、私は」

 

 はは。海に行った日のことだな。

 

 あれをきっかけに高地さんと親密な仲になれたとはいえ、まだ失態としてひきずってるんだな、祥子。

 

 まぁ、確かに無理しすぎて倒れちゃ元も子もない。今日は早めに寝るかな。

 

「朽木さんはどう? 相変わらずなの?」

 

 と、またもや真昼の唐突な質問に、胸の奥が微かにうずく。

 

 あんまり朽木さんのこと口にしたくないんだけど、一瞬沈んだ顔をすぐに戻してあたしは答えた。

 

「うん。まーだいじけ小僧みたい。まったくいい大人がナニしてんだろうね」

 

「そう……」

 

「ま、こっちは持久戦だから。とりあえず今はクリスマスイベントに集中して、朽木さんにはそのうち殴りこみかけるよ。刃物持って」

 

「……グリコが言うと冗談にきこえないんだけど……」

 

「冗談じゃないし」

 

「…………」

 

 なんですか、そのヤバイものを見る目は。

 

「ふーん。まだケンカしてんだ、あんたと朽木さん」

 

 と、祥子に突っ込まれ、あたしはぶうと頬を膨らませた。

 

「ケンカなんてしてるつもりないよ、あたしは。なんとか謝らせようとしてるだけで。あたしが動かなきゃ、朽木さんは動かないんだもん。まぁ……そりゃあんなことした後じゃ何も言えないだろうけど……」

 

「あんなこと?」

 

「あ。えっと、投げ飛ばしたり、もうここまでするかってくらい暴力的なんだよねー、朽木さん。うん」

 

「前からそうだった気もするけど……」

 

「あは、あははは! ま、まぁともかく、ヒトのおでこに傷つけといて、謝りもせずに無視はいかんよね! あたしは人の道ってやつを教えてあげてんだよ、うん」

 

 ナニ言ってんだか自分でもよくわかんなくなりつつ、だけど強姦未遂事件のことはなんとなく話したくないので、あたしは無理矢理話をねじ曲げた。

 

「そんな面倒な人、やめればいいのに。あんたもたいがい物好きね」

 

 うっ。

 

 それは……確かにそうなんだけど……。

 

 なんとなく、今の朽木さんを放っておいちゃいけないような気がして……。

 

 拝島さんにまかせればいいことなのかもしれないけど、でも、なんとなく。

 

 あたしがなんとかしなきゃいけないような……。

 

 って、どんな自信過剰だよ! ぶるんぶるんっ!

 

「いいじゃないの。それでもストーカーしたいって思えるほどの人、なかなかいるもんじゃないし」

 

 バネ人形のように首を横に振るあたしの横で真昼がにっこりと笑って言う。最近、ストーカー容認派?

 

「でも、たまには朽木さんのことも忘れて、ゆっくり休んだほうがいいわよ。人間関係がこじれてるのが一番疲れるんだから」

 

「ほーい。今日はゆっくり風呂入って寝るよ」

 

 確かに、ここんとこ息つく暇もないくらい忙しいし。

 

 人の気遣いを無下にしちゃいけないしね。

 

 あたしは明るく笑顔でそう言うと、真昼と祥子に手を振って講義室を出た。

 

 

 

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