Act. 15-1 とんでも腐敵な離れる距離
どもども!いつも読んでくださってありがとうございます。卯月海人です。(^ ^)
沢山の拍手、メッセージをいただきました!
どうもありがとうございました!とっても嬉しかったです!これでエネルギー充填できました!!(>∀<)
これからも頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いします!
さて。今年もあとちょっとですね。年末年始休暇のお知らせです。
12月29日の火曜日、Act.15-3をアップしたら、少しお休みをいただきますね。
再開は1月12日の火曜日とさせていただきます。
1月10日がコバルトロマン大賞のシメ切りなんですよ~。うひーっ!まだ仕上がってないーっ!(汗)
コバルトノベル大賞は二次落ちでした。今度は三次までいきたいところですが・・・・。まだまだ未熟で、道のりは遠いです。(汗)
それでも希望は捨てず、頑張っていきたいと思います!
また来年もよろしくお願いしますね~!
ではでは。皆さんも良いお年を。(^ ^)
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「せんさんびゃくえ~~んっ!?」
容赦なく申し渡された金額に、あたしは驚愕のあまり、財布を取り落としそうになった。
修理工か作業員のような青い制服にお揃いの青い帽子を被ったおじさんが、その下の厳しい表情を少しも揺るがさずに頷く。
「規定の額だよ。嫌ならいいんだけどね」
ううっ。反論したい。「嫌に決まってんだろ!」ってちゃぶ台ひっくり返したい。
でもそういうわけにもいかない厳しい現実。
「もちっとまけてくれたり……」
「規定の額だから」
どーんと逞しい胸が『風林火山』の旗の如く張られ、あたしは一歩たじろいだ。
動かざること山の如し。
ああん。そんな仕事に忠実なおじさまってス・テ・キ☆
とか言ってみても恐らく変わらないだろうしょんぼりな金額を、涙をのみつつ財布から取り出した。
ちくしょー。これもあれも全部朽木さんのせいだ~~~っ!
ここは屋外の、一見駐輪場のような、だけどがっしりとしたフェンスに囲まれた不思議な閉鎖的空間。違法放置自転車の集められる場所だ。
制服姿のいかついおじさんは、ここの管理人。自転車を運ぶという力仕事を毎日こなしているためか、丸太のような腕をしている。
朽木さんとなんやかんやあった翌日。
あの野郎に騙されて置きっぱなしにしてしまった自転車を、どうにか辿りついた公園で探し回ったんだけど。
どれだけ探しても見つからず、しょんぼりと帰ったそのまた翌日に、そちらの自転車をお預かりしていますという電話がかかってきた。
それで喜び勇んで、今日、ほんの数分前、いそいそと引き取りにきたわけなんだけど、引取りにはお金がいると言う。
まぁそうだよねー。放置自転車の撤去代って相当かかるって言うもんねー。
わかっちゃいるけど納得いかない。あたしは連れさらわれたんですよー。悪いのはあの鬼畜ゲイのヤツなんですよー。
「次からは気をつけてね」
渡された自転車にしょんぼりとまたがるあたしの横から、更なる追い打ちがかけられる。
えーえー、気をつけますよ。これからは甘いお菓子をもらったって悪い男にゃついていきませんよ。
ついていく時は武器持っていかないとな、武器。刃物とスタンガン。
あたしは銃刀法違反覚悟の決意を胸に、フェンスの扉をくぐって外に走り出した。
まったく、朽木さんもやってくれるわ。
まだ残っている手首の赤い筋をちらりと見て、あたしは苦々しい思いにとらわれた。
あの激しい嵐の夜の残滓。朽木さんの狂気の印だ。
かなり強く縛ってくれたおかげで、あの後、ここに巻きつけられた包帯を取るのに苦労した。
結局一人じゃほどけなくて、近くのコンビニに駆け込んで、「いやぁ~縄抜けの練習してたら取れなくなっちゃってぇ~♪」なんてえへえへ笑いながら、訝しむ店員さんに切ってもらったのだ。
服は乱れてるし傘もなくてずぶ濡れ状態だったから、相当異様だったに違いない。店員さんの顔がやや怯えていたのをよく覚えている。
にっくきバカもん朽木さんには、あれからまだ会ってない。
朽木さんの大学にいくための自転車がなかったし、さすがにしばらくは顔を見たくなかったからだ。
顔を合わせばきっと一発殴りかからずにはいられない。そしたらまた血みどろの取っ組み合いだ。
そんな不毛なことするより、ちょっと冷静になって考えたいことがある。
何が朽木さんをあそこまでヤケにさせたのか、だ。
だって、どう考えてもおかしいのだ。あたしを襲うなんて。
女嫌いの朽木さんが女であるあたしを、しかも相当嫌ってるはずのあたしを、追い払いたいとはいえ本気で抱こうとするなんて、あり得ない。
章くんと別れたのだって、拝島さんという想い人がありながら、他の人を抱くことに耐えられなくなったからだったはず。
なのに、あたしを襲おうとした。
あの時の朽木さんこそ、理性のたがが外れていたに違いない。普通の精神状態じゃなかったのだ。
血のついたグローブ。異様に殺気だった瞳。
今思えば、公園の前で声をかけてきた朽木さんは、モロにやさぐれている風だった。
一戦交えた後だったんじゃないだろうか。どこかのチンピラたちと。
その後あたしを見つけて、怒りの矛先を変えた。普段からうとましく思っているストーカー。うさを晴らすには丁度いい相手だろう。
つまり、そこまで追い込まれていたのだ、あの時の朽木さんは。
そして、あの朽木さんをそこまで追い込んだのはやっぱり――――
黒い車。朽木さんを取り押さえていた、黒いスーツ姿の男たち。
神薙グループ現会長。
朽木さんの自由を奪おうとする、実のお父さん。
その人に、どう足掻いても勝てないと思った朽木さんは――――
「…………」
……なんで。
こんなにイライラするんだろう――。
それがどうしたってやつじゃん。ハンドルを切りながらあたしはひとりごちる。
気に入らない? でもしょうがない。
朽木さんのトラウマを取り除けるわけもないし。神薙家に連れて行かれるのを阻止するなんてのは更に無理だ。
部外者のあたしがそこまでする権利はない。正義に燃えるただの通りすがりが争いの場に首を突っ込んでただの勘違い野郎になってしまうようなもんだ。
朽木さんが連れて行かれ、自由を奪われたとしても、それは仕方のないことで、あたしにはどうしようもない。
朽木さんがあんな調子じゃどうしようもないのだ。
その時はさすがのあたしも諦める。朽木さんに代わるいいイケメンを探しにいくだけのこと。
できればその前に、朽木さんと拝島さんのエッチビデオを入手したいところだけど。
でもいくらお尻を叩いても、あのヘタレ男はなかなか重い腰をあげないのだ。あげくにどうでもいい相手を押し倒してるようじゃ望みは薄い。
だから、もういいのだ。
あたしはせめて、あの人が連れて行かれる直前まで写真を撮り続けるだけだ。
ストーカーを続けるだけ。
それであたしの欲望は充分に満たされるのだ。朽木さんが勝手にキレようが、絶望しようが関係ない。
あたしには関係ない。
全然。まったく。関係ない――――――
……ちょぴっとだけ。
白衣姿で働く朽木さんを見てみたかったけど。
「…………」
キュッとハンドルを切る。
カラカラカラカラ……
ひとつ、息を深くはきだす。
ふぅぅぅ~~~~。
うーん。
どうしよう。
見たい。やっぱり見たいなぁ。
誰よりも頑張ってる、誰にも負けない朽木さんの姿を。
自信満々で自分にも他人にも容赦のない朽木さんの姿を。
お父さんの思い通りになんかならない、強気な朽木さんの姿を。
見てみたい。
どうしたら見れるんだろう。
あたしが一目見て惚れこんだ理想の人。クールで熱い俺様王子。
どうしたら見れるんだろう――――
カラカラカラカラ……
整備された歩道はすっかり冬の装いへと衣替えしている。
枯れ木色の街の景色をぼんやりと後ろに流しながら。
思考の海に深く漂うあたしは、ただひたすらに車輪を回し続けていた。