Act. 14-7
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<<<< 栗子side >>>>
テーブルについて大人しく待ってると、朽木さんがお盆を手にやってきた。
アーモンドとピスタチオの入った皿と、麦茶の入ったコップふたつ。テーブルに置いて早々に朽木さんはコップのひとつを手に取り、麦茶をごくごくと飲み干す。
あたしはアーモンドをつまんでさっきの続きを促した。
「で、お父さんはなんて言ってきたわけ? やっぱ、神薙家を継げって話?」
ポリポリと噛み砕いた後にきくと、朽木さんはじろっと横目にあたしを睨んだ。
うおっ! こわっ! あまりの鋭さにわずかにたじろぐ。
「誰からきいた?」
「えっと……拝島さん。実のお父さんが引き取りたがってるって話をこないだきいた」
喉の通りが悪くなって、豆がひっかかる。食欲減退だよ、その顔。
しかもどんどん険しくなってるし。とか思ってる矢先から。
「……二度と拝島に近づくなと俺は言わなかったか?」
なんつー低くておっとろしー声! 気分はサ○エさんだよ。んがぐぐっ!
だけど。
「あたしだって、ストーカーやめないって言った」
負けじとあたしも目に力をこめる。
朽木さんの膨らんでいく殺気に対抗しようと身構えた。
お父さんの話と、拝島さんに近づくなって話の接点がまだ見えない。それがわかるまで、帰るわけにはいかないから。
「グリコ――」
くるか!? 雷くるか!? ちょっとドキドキ。
だけど、ひとつ深く息をつき、ウルトラマンのなんとか光線のポーズで威嚇するあたしを振り向いた朽木さんの顔は、拍子抜けすることに穏やかなものに変わっていた。
「とりあえず、一息つけ。今日はケンカをするつもりはない」
へ? そうなの?
あたしは全力で戦う気満々だったんだけど。多分、絞め殺そうとしてくるだろう朽木さんと。
気が抜けて構えを解き、コップを手に取る。
でもまだ完全には警戒を解かず、口元に持っていきながら敵の様子をじろじろと観察。
無表情のようで何故かうっすらと微笑んでいるような気もする朽木さんの顔。なんだ、このなにやら企んでる感抜群の表情は。背中が寒いんですけど。
あたしは口元のコップに目線を落とした。
納涼感たっぷりの水滴を浮かべたガラスのコップの中には、透明度の高い茶色の液体が揺れている。
一見、なんともなさそうなんだけど。朽木さんは薬のエキスパートだ。毒物やら混入されてても不思議じゃない。
これをそのまま飲むのは危険かも。先にコップを取ったところなんかも怪しいし。そう思い、無言でコップをテーブルに戻す。
その瞬間、朽木さんの視線がつまらなさそうに逸れるのを見た。
いま、チッて顔したよ、チッて顔! ヲイ、ナニ入れた!?
危ない危ない。油断も隙もないったらありゃしない。あたしはコップを持って立ち上がった。
キッチンに行って中身を流し台に捨てる。背後に立つ気配に警戒して振り返った。
ぬけぬけと「どうした?」なんて聞いてくる朽木さんをキッと睨みつける。
「ちゃんと話し合う気ある!? お父さんのことでイライラしてるのはわかるけど、あたしに八つ当たりしてもしょうがないじゃん!」
「八つ当たり? なんのことだ?」
「とぼけんな! 最近の嫌がらせのことに決まってんじゃん! 今日もさっきからずっとギスギスして、あたしに当たって! 朽木さんがお父さんから逃げれないのはあたしのせいじゃないよ!」
言った途端、朽木さんの顔が険しく歪む。
やばい。地雷踏んだかな? 刃物刃物! なんか武器!
ガスレンジの上に置かれてるフラインパンを手に取り、咄嗟に構える。さぁ来い、受けてたつ!
「あたしに怒ってる理由はそれだけ!? お父さんがしつこいから!? さっぱりワケわかんない!」
「違う」
「じゃあなんで!?」
「落ち着け。神薙は関係ない」
言いながら朽木さんは手を伸ばしてくる。その手にのるか! 思わずフライパンをふるって払いのけた。
「つっ!」
それは手の甲に当たったみたいで、痛そうに顔をしかめる朽木さんにハッとなる。
そういえばケガしてたんだっけ。いやでもそんな情けかけてる場合じゃないし。
でも手首を押さえる朽木さんは本当に痛そうで。
よく見れば、手の甲のめくれた皮、そのまんまじゃん! ちょっと血が滲んでるし!
「まだ手当てしてなかったの!? さっさと包帯でもなんでも巻いてきなよ!」
慌ててフライパンを放り出す。朽木さんの胸をぐいぐい押してキッチンの外に向かわせた。
「ああ。忘れてたな」
なんてとぼけたことを言って足を返す朽木さんは微妙に可愛い。意外と天然?
手の甲に口をつけ、悠々と血を舌先で舐め取りながら、寝室に歩いていく。足音は相変わらずしない。
この人、気配を消すのがうまいんだよね。いつのまにか後ろに立ってたりしてびっくりする。
「包帯を巻くのは久しぶりだな」
寝室に入った朽木さんは、ベッド脇の机の上に置かれた救急箱を開けて、中から包帯やピンセット、消毒液らしきものを次々と取り出していく。
さすが薬学生。いやそれは関係ないか?
消毒して、ガーゼを当てて、ちゃちゃっと処置をしていく様子は随分手際がいい。包帯を巻くのも手馴れてる感じ。
「やんちゃだった頃もこんな風に自分で傷の手当てしてたの?」
「まぁな」
そっか。それで手馴れてるんだ。
中学時代、相当暴れてたって言ってたもんな。
こういうところ、薬剤師っていうより医者ってイメージなんだよな、朽木さん。
見た目としても医者のほうが絶対合ってる。「天才外科医!」とか呼ばれちゃったりしてさ。
だけど、朽木さんが薬を愛してるのは知ってるから。
薬学の道を選んだのは納得できる。それは、よくよく見てみれば、とても朽木さんらしい選択なのだ。
よくよく見ないとわかんないんだけどさ。
「もっとお父さんと話し合えば分かってもらえると思うんだけどなぁ……」
ぽそりと呟いた言葉は、気づいたら声に出てて、しまったと慌てて口を塞いだ。
「……神薙と?」
案の定、ムッと眉をしかめた朽木さんの手が止まる。
まだ話を蒸し返す場面じゃなかった。あたしに怒ってる理由を聞き出せてない。
あたしはとりあえず平穏にストーカーを続けさせてもらえればそれでいいのだ。朽木さんちの家庭の事情に首を突っ込むつもりはない。
慰めたり、元気づけたりは拝島さんの仕事。
それで深まる二人の仲を、おいしくネタとしていただくのがあたしの目的なのだ。
「無駄だ。人の話に耳を貸すような男じゃない。だからこそ俺は何度も脱走したんだ」
「うーん。そうだよねぇ……」
あたしは適当な相槌を打って言葉を濁した。
あたしが何か言っても事態が変わるわけでもないし。これは朽木さんが自力でどうにかする問題だ。
また怒らせる前に話題を換えなきゃ。拝島さんの話でもして、機嫌を治してもらうかな。
「ま、悩みがあるなら拝島さんに相談して、二人でデートでもしてきなよ。朽木さんのこと心配してたよ? 拝島さん」
そう考え、からかうようなニヤニヤ笑いを浮かべながら言うと。
チャキンッ
包帯を切るハサミの音が、やけに大きく響いた。
ん?
「拝島とデートか……それもいいな」
朽木さんの手が再び動きだす。
巻き終わった包帯をテープでとめ、一、二回、グッと拳を握ったり開いたりして具合を確かめる。それを見つめる横顔は普通の顔だ。
気のせいかな? 一瞬、空気が重くなったような気がしたんだけど。
とりあえず、あたしは話を続けた。
「そうそう。イヤなことは拝島さんに忘れさせてもらうのが一番! ついでにガバッ! とか押し倒してきちゃいなよ。ムードに乗じてさー」
「……うまくいくと思うか?」
「大丈夫だよ、拝島さん、きっと押しには弱いから! 彼女もいないんだし、朽木さんのテクニックでコロッといっちゃうよ♪」
「拝島に彼女か……確かにいないな」
フッと笑う口元。ん? なんだ? その自嘲的な笑み。
「女の目から見て拝島はどうだ? あまり魅力的に映らないか?」
「え? そんなことはないよ。優しいし、真面目だし、カッコいいし。実際モテるんじゃない? 拝島さん」
あたしはキョトンと目を瞬かせて言った。
そういえば、あんだけモテる要素がそろってるのに、なんで拝島さんて彼女いないんだろう?
きっと朽木さんが邪魔してるんだな。インケンだからなー、このヒト。
「そうだな……。拝島がその気になりさえすれば、群がる女は多いだろうな」
うんうん。拝島さんって、その辺わりとストイックっていうか、色恋に対してガツガツしてないんだよね。そこがまたBL向きなんだ。
意外と拝島さんも男の方が好きだったりして。
「グリコ――」
「ん?」
あたしは妄想の世界に飛びかけた頭を現実に戻して顔を上げた。
呼びかけてきた当の朽木さんは、どこか遠いところに視線をさまよわせている。
パタン、と重々しく閉じられる救急箱のふた。木箱なので重量感がある。
「もし――」
未踏の地を踏むかのようにゆっくりと紡がれる言葉。
不意に、奇妙な静けさが落ちた部屋の中で流水音が大きく響きだす。真剣な横顔の向こうにあるカーテン越しの景色は鬱蒼としてて。
いつのまにか、外は土砂降りだ。
微かな雷鳴も聞こえたりして、あたしは一瞬、帰りの心配をした。自転車どうしよう。早くしてくれないかな、朽木さん。
「拝島が――――」
うんうん、拝島さんが?
思わず身を乗り出し、朽木さんの顔を覗きこむ。
いっ。これって――
その目の昏さにぎくっと固まった瞬間、あたしの手首は強く掴まれていた。




