Act. 14-4
<<<< 栗子side >>>>
朽木さんちのマンションの近くに着いたのはお昼ちょうどだった。
食事は自分で作る主義の朽木さんなので、この時間帯なら確実にいるだろうと踏んだのだ。
目的は、もちろん朽木さん観察。宣言どおり、ストーカーは続けさせてもらうもんねー。
朽木さんちのリビングを覗ける向かいのビルの立体駐車場の四階に忍び込み、車の後ろのスペースで身を小さくしながら双眼鏡を構える。
途端、ぎょっとした。
黒いスーツを着た見るからに怪しい人たちが、朽木さんの両腕を掴み、取り押さえているのが、レンズ越しにくっきりと見えたのだ。
どこのマフィア!?
それとも国の秘密組織とかだろうか。重要な機密情報を朽木さんが握っていて、無理矢理聞き出そうと――
漫画の読みすぎ? いやでも、朽木さんならありうるかも!
あたしは慌てて来たルートを引き返した。
警察に通報――それとも直接扉を叩いた方が効果的か?
などと考えていると、朽木さんちのマンションの駐車場から、黒塗りの車が発進していくのが見えた。
いかにもスパイとか乗っていそうな。怪しすぎる!
こっちは防犯カメラから身を隠しながら忍び足で降りてるため、ようやくニ階に辿り着いたところだ。
まさか朽木さん、連れさらわれたり――そんでもってあぉんな拷問やこぉんな拷問をって、今は妄想してる場合じゃない! 朽木さんの安全確認が先!
ようやく一階の駐輪場に辿り着き、置いてあった自分の自転車にまたがる。
それから急いで走り出したとき、道路をまたいだ向こうにある朽木さんのマンションから、黄色いバイクが飛び出してくるのが見えた。
あれってもしや朽木さんのバイク? 持ってるのは知ってたけど、実際、動いてるのを見たのは初めてだ。
派手な黄色いバイクはうなりをあげながらあたしの目の前を走り抜けていく。
その背中はやはり朽木さんだ。そう感じた瞬間、咄嗟にハンドルを切っていた。
あんな早そうなバイクに自転車で追いつけるわけがない。そんな常識的判断、あたしに求めちゃいけない。
振り切られるまでついてってやろーじゃん!
必死でこいだ。歩道を爆走した。
赤信号もなんのその。朽木さんが信号に捕まっている間になんとか距離を縮めつつ、その背中を追いかけた。
そしていい加減こっちの心臓も限界を訴えだしたころ。
とうとう朽木さんの遠くにかすんでいた背中は見えなくなり、あたしは意気消沈して足を緩めた。
ちくしょー。振り切られちゃったか。
最後に朽木さんが曲がった道を辿り、しばらくゆるゆると自転車を走らせる。
自販機が見えてきたので自転車を止め、道端でジュースを飲んで一息ついた。
気がつけば、そこは公園沿いの並木通りだった。
公園はけっこう広そうで、憩いの空間があたしを誘う。
仕方ない。公園で少し休憩でもして帰るかな。
あたしはなんとか動悸と震えのおさまった体を起こし、再び自転車にまたがった。
ゆるゆるとこぎながら公園の周辺を回ってみる。しばらくすると、駐輪場らしき場所を見つけた。
あそこに自転車を停めて公園に入ろう。と近づいていくと、まばらに停められた自転車の中に、さっきまで必死に追いかけていたバイクとまったく同じバイクがあるのに気づいた。
あれ? 朽木さんの?
まさか。んな奇跡みたいな偶然。あるわけが。
とは思いつつ、やっぱりどう見ても同じだし、気になって近くからじろじろと眺めまわした。
んー。なんとなくナンバーも同じような気がする。
カンペキなストーカーを目指すなら、今度から朽木さんの車やバイクに発信機をつけておくべきかもしれない。
見つかったら半殺し必至だけど。
どうしよう。このバイクをしばらく見張ってみるか?
などともろ犯罪者思考で考えていた時だった。
「グリコ」
突然呼ばれた声にびっくりして肩が跳ね上がった。
まさか。やっべー。この声は。
恐る恐る振り返ると、やはりそこにいたのは――
「朽木さん――」
あっちゃー。