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Act. 13-6

<<<<  栗子side  >>>>

 

 

「そうなんだよ。12月24日にやる予定なんだけど。毎年ツリー飾って、聖歌隊のコンサートするだけで、人の集まりが悪いんだ」

 

 ずれたメガネを二本指でなおしつつ、庄司さんが説明してくれる。

 

「どこだって似たりよったりだろ? クリスマスっつーのはそういうもんだし」

 

 すかさず横槍を入れる山田さん。確かに、それは正しい。

 

「キリストの生誕を祝うのは、降誕祭の始まる夜からだろ? 昼間は子供たちに楽しんでもらいたいじゃないか」

 

「だからサンタの格好でも何でもして、ツリーの下でお菓子でも配ってりゃいいだろ?」

 

「そんなんで盛り上がるか! 俺はもっとこう、夢のあることがしたいんだよ。『うわぁ~! サンタさんてホントにいたんだ~!』的な」

 

「どんなてきだ! びっくりサンタはお父さんにまかせとけよ!」

 

「オマエな。『なんだお父さんか』って言われてしょんぼりする親父が全国にどれだけいると思ってんだ? 少しはお父さんの気持ちも考えろ!」

 

「子供のためのイベントじゃなかったんかい!」

 

 なんだなんだ。なんの漫才だこりゃ。

 

 思わずぽかーんと見入ってると、賀茂石さんがあたしに苦笑を向けて言った。

 

「変な奴らだろ? こいつら、いつもこうなんだよ」

 

 納得。ケンカするほど仲がいい、ってやつなんだな。

 

 それなら山田さんも本気で反対してるわけじゃないだろう。なんとなく突っかかってるだけで。

 

 庄司さんの案が、賛同しかねるものなのかもしれない。

 

 

 ふーむ……。

 

 

「例えば、どんなことがしたいんですか? 庄司さんは」

 

 あたしは軽く手をあげて突っ込んだ。

 

 途端、自分でもまだ納得のいかない部分があるのか、難しい顔をする庄司さん。

 

「サンタを探せ! みたいなイベントにしようかと最初は思ったんだけど。構内を走って逃げるサンタを捕まえてプレゼントをもらうとか」

 

「そりゃ、サンタさんが大変そうですねー」

 

「そうなんだ。それに結局、サンタを捕まえたら終了じゃ、たいして面白くないでしょ?」

 

 庄司さんの代わりに賀茂石さんが補足してくれる。

 

「確かに。足の速いコが活躍するだけで終わるかも」

 

 それじゃあ不公平なゲームになっちゃう。

 

「そうそう。小さい子が楽しくねーじゃん」

 

「お前は黙ってろ山田! だから今度は宝探しゲームっぽくしたらどうかな、と思ったんだ」

 

「宝探し?」

 

 山田さんの耳を引っぱる庄司さんにオウム返しで尋ねる。

 

「そう。宝の地図を渡して、構内に隠した宝物を探してもらうんだ。なんとなく、それだけでワクワクするだろう? ちびっこなら喜ぶんじゃないかと思ってな」

 

 ああ、確かに。子供が喜びそう。っつーかあたしも喜ぶ。

 

 だけど山田さんは不服そう。

 

「んなの、クリスマスもサンタも関係ねーじゃん」

 

 なるほど。庄司さんがため息で答える。

 

「そこが問題なんだよな……」

 

 ふーむ。クリスマスに絡ませるのが難しいのか。

 

 ん? でもそのくらいなら。

 

「サンタに宝の地図をプレゼントさせればいいんじゃないですか?」

 

 ひとつ、単純な提案をしてみると。

 

「んー。まぁ、そういう案も出るには出たんだけど……」

 

 賀茂石さんが庄司さんに目を向ける。

 

「こいつが、ただ地図やるだけじゃ面白くねぇ、とか言うの」

 

 思いっきり不満げな顔で庄司さんを顎で示す山田さん。

 

「だってそれじゃあ、サンタがお菓子を配るのとたいして変わらないじゃないか。もっとなんか捻りたいんだよ」

 

 そっか。庄司さん的には盛り上がりが足りないんだな。

 

 うん。あたしももう少し凝った方が面白いと思う。

 

 例えば……。

 

「サンタに何かあげて、代わりに地図をもらう、ってのはどうですか? サンタの家で」

 

『サンタの家?』

 

 三人の顔が揃ってあたしを向いた。

 

 おわ。なんかデジャビュ。学祭の時もこんなことなかったっけ?

 

「ハイ。構内のどこかにサンタの家を作るんです。暖炉があってトナカイがいて、なんかサンタクロースっぽい家を」

 

 あたしは昔、絵本で見たサンタクロースの家を思い出しながら言った。

 

 あったかそうな暖炉のある山小屋で、仕事に行く前のサンタさんがくつろぐ姿。なんだかほんわりする絵だった。

 

 いいな。あたしも暖炉の前で寝そべりたいな。

 

 子供のあたしはそう思いながら、ずーっと絵本を眺めていた。サンタさんのおうちに行ってみたいって、半ば本気で思っていた気がする。

 

「子供たちはサンタへのプレゼントを用意して、サンタの家を訪ねるんです。代わりにサンタは子供たちに宝の地図をあげる。プレゼント交換、って感じでどうでしょう?」

 

「なんか複雑だな……」

 

 山田さんが眉をしかめる。けど。

 

「面白い! それ、面白くて夢があるよ!」

 

 庄司さんは前のめりになって大興奮。

 

「サンタの家か~。うん。盲点だったな!」

 

 顎に指を当てて、ひとり頷きだした。

 

「でも今からじゃあ、大掛かりなセットを用意するのは難しいんじゃないか?」

 

 今は十一月下旬。クリスマスまで一ヶ月しかない。

 

 賀茂石さんのごもっともな懸念に、だけど庄司さんは目をキラリと光らせる。

 

「どっかの教室を改装すりゃいいんだろ? お化け屋敷作るよりは楽勝だ」

 

「庄司ぃー! あれどんだけ大変だったか知ってっだろ! また突貫工事させる気か!?」

 

「山田。お前ならできる。セット作りの神降臨。伝説に残る偉業を成し遂げろ!」

 

「アホかぁぁぁっ!!」

 

 肩を叩く庄司さんの手を払いのけ、吼えまくる山田さん。

 

 あのお化け屋敷のセット、山田さんが作ったんだ。すごいな。

 

「ああなると、大抵庄司が山田を丸め込むんだよ」

 

 くすくす笑いながら、賀茂石さんが二人の言い争いを見守る。

 

 その予言どおり、しばらくすると、口のうまい庄司さんの言葉に、段々山田さんが言い負かされてくる。

 

 前のめりだった姿勢が徐々に後ろに下がり始め。

 

 やがて気勢を削がれた山田さんの耳元に、庄司さんがヒソヒソと囁きかけた。

 

「あのお化け屋敷作った人すごいね、ってうちの科の女子も言ってたぞ。いい口説きネタになるだろ?」

 

「そっ、そうか? ちなみにその子の名前は?」

 

「そいつは残念だが彼氏がいる。でも同じこと思った女子が他にもいるはずだ。合コンでさりげなくネタにすれば注目浴びること間違いなしだぞ」

 

「お前、んーな調子のいいコト言って、俺がのるとでも」

 

「のらないなら他の奴に……」

 

「わあった。俺がやる。手伝いを二、三人よこせ」

 

「よし。それでこそ山田。手配しよう」

 

 さすが高地さんのオトモダチ。

 

 みょーな感心しつつ、あたしも段々わくわくしてくるのを感じていた。

 

「あたしにも何かできることがあれば手伝いますよー」

 

「お菊ちゃんが?」

 

 賀茂石さんの問い返しに、「はい!」と元気よくガッツポーズで答える。

 

 庄司さんが山田さんから離れ、あたしの顔をまじまじと覗きこんだ。

 

「いいの?」

 

「いいですともー! てゆーかお祭りごとならあたしもまぜろこんちくしょーです!」

 

「おっ。さすがお菊ちゃん! 助かるな~」

 

 イェイ、とVサイン。

 

 背後の山田さんの言葉に振り返り、庄司さんは不思議そうな顔で交互にあたしたちを見た。

 

 それからふと気づいたかのようにポツリと言う。

 

「そういえば…………”お菊ちゃん”って何?」

 

 あたしと山田さんと賀茂石さんの顔が、同時に苦笑いになった。

 

 

 

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