Act. 1-1 とんでも腐敵な運命の出会い?
このお話は携帯向けに書かれてます。
天気は快晴。
真夏日一歩手前のある日。
そこは、駅前マクドナルドの二階席だった。
初夏の強い日差しを真正面から浴びる気力はないけれど、日陰ならって感じの絶好の窓際席を陣取ったあたしは。
駅構内に出入りする人の流れに小さな双眼鏡を向け、いつもの趣味に興じていた。
「受け」
商店街から、駅に向かってやってくる男子高生をひと目見るなりあたしは呟いた。
部活なのか、休日なのに学生服着て肩にはボストンバッグ。頭がスポーツ刈りじゃないところがポイント高しのややイケメン。
若さに溢れたしなやかな体に思わず涎が垂れそうになる。
悪くない。うん、悪くない。けど。
惜しみつつレンズをずらし、今度は駅から出てくるこれまたイケメンの男性を目に捉える。
一瞬判断に迷ったけど。
「ん〜〜〜〜〜受け」
導き出される答えは同じ。
レンズの中で微笑む彼は、タンクトップ一枚で張りのいい上半身を半分露わにしたワイルド系。
残念ながらカノジョ持ちらしく、待ち合わせしてたっぽい女性に手を振りながら駆け寄っていく。
ちょいカノジョ不細工じゃない? 減点。
ケッ、と小さく吐き捨てる。
それからさらにレンズをずらし、またまた駅から出てくる男性、これまたイケメンなリーマンを見つけて――――
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜」
じーっと目を凝らす。
悪くない。うん、悪くないんだけどね。
その男性はとってもセクシーで、悪いところなんかどこにもない。
大人の魅力十分な、半袖Yシャツスーツ姿のイケメンリーマン。
さらに彼は、額の汗を腕で拭ういい感じのポーズもきめてくれる――のだが。
「どう見ても受け!」
あたしはそこで双眼鏡を下ろし、手にしたマックシェイクのバニラ味をずずず〜〜〜っと一気に吸い上げた。
吸い上げつつも、視線はしっかり窓の外に固定されている。
肺活量の限界まで挑み、シェイクを半分ほど飲み干した後、あたしはぷはぁ〜〜っとストローから口を離して思いっきり空気を吸い込んだ。
それからばたっとテーブルに突っ伏し、ため息混じりに呟く。
「はあぁ〜〜〜〜〜〜受けばっかり」
つまりはそういうことなのだ。
ん? さっきから何を言ってるんだって?
分からない人は分からないままに。
分かる人はこんにちは同志!
あたしは桑名栗子。19歳。
何をしてるのかというと、まぁ簡単に言うとイケメンウオッチング。
駅に出入りする人の中から、カッコイイ男性を見つけて目の保養にするのだ。
それだけ? 随分暇だなぁ。と思われるかもしれないが、もちろんはそれだけでは終わらない。
色々と妄想して楽しむわけだこれが。
あぁ、妄想ね、なるほど〜、と頷くのはちょっと早い。あたしの妄想はひと味違う。
どう違うのかというと長くもない話になるのだが。
普通、カッコイイ男の人を見ると、自分がその人に甘い言葉を囁かれたり、優しく抱きしめられたりするのを想像することだろう。
だけどあたしはそんなシーンには興味ない。
何故ならあたしにとって男とは、あくまで鑑賞物でしかないからだ。
だから自分とどうこうしたいとは思わない。妄想の対象はキレイ同士。そのためにイケメンをこうして「攻め」と「受け」に分類してるのだ。
え? だから「攻め」と「受け」ってなんだって?
えっと……そういう方は、今すぐこのページを閉じて、二度とこのお話を読もうと思わない方がいい。
今聞いた言葉は忘れてください。
ピュアなままでいてください。
それでも読み進めようと思う貴方は――
しっかり覚悟を決めること。
なんだか新しい世界をが開けちゃったりしても、当方は一切責任を負いません。
嵌って抜け出せなくならないよう、十分ご注意ください。
――って、なんか妙に語っちゃってるけど、賢迷な皆さんはとっくにお気づきだろう。
もっだいぶっちゃってスミマセン。
そう。
あたしの妄想する甘い世界とは、男×男の世界なのだ。
まぁとりあえず最初から状況を説明すると。
あたしはこの蒸し暑い夏の休日、クーラーの効いたところで趣味の読書とイケメンウオッチングを楽しむために、こうして駅のマクドナルドまでわざわざ足を運んで目一杯趣味に興じているというわけで。
駅に出入りする人ごみの中から、イケメンを探し出しては「攻め」と「受け」に分類し、頭の中でカップリングを妄想しようとしているのだが――。
ありがたくもどんどん若者の発育がよくなっている現代日本。
こうしてひとつの駅で眺めてるだけでも、そこそこのイケメンがちらほら見受けられるほど、世にイケメンは増殖してきている。
だけど哀しいかな、さっきから見かけるイケメンのほとんどは「受け属性」。
妄想しようにも、「攻め属性」なイケメンがいないのである!
たまに見かける「攻め」は、妄想するのも憚られるほど、いやむしろ萎えるほど美形度低し。
日本にゲイカップルが少ないのは、圧倒的に「受け」が多いからなのではないだろうかとさえ思えてくる。
優しい男性がもてはやされる時代――その余波がこんな形になって現れるとは、誰が予想し得ただろうか。
誰もそんな予想、しようとは思わないだろうけど。
そんなわけで、あたし、桑名栗子は今現在、テーブルに突っ伏して「うぅ〜〜攻めはどこだぁ〜〜」なんて通りすがる人がぎょっとするような怪しいセリフをぼやいているのだ。
やぁ〜〜〜〜〜っぱ、三次元はダメだわ。無理がある。
あたしは気を取り直すことにしてがばっと身を起こした。
バッグの中に手を突っ込み、一冊の本を取り出す。もちろんカバー付き。
やっぱBLは二次元でしょう!
そしてパラパラとページをめくり、しおりを挟んだページに行き着いて、趣味の時間を観賞から読書へと転じようとしたその時。
最後に、未練がましくちらっと窓の外に目を向けたあたしは。
そこに、とんでもないものを発見したのだ!
あ、あ、あれは――――――!!
あたしの目は再び窓の外に釘付けになる。
べたっと窓に貼り付き、再び双眼鏡を目に押し当てる。
すぐさま焦点を合わせた先にいるのは、今まさに駅構内から出てきた男性二人。見た目は大学生くらい。
どちらもかなりランクの高いイケメン!
一人はどこか「ほややん」とした感じの優しい笑みを浮かべる男性。一発でわかる。彼は「受け」だ。
そして。
もう一人――
この茶髪が横行するなか、さらりと流れる黒髪。短髪だけど前髪と襟足が結構長い。
知性を感じさせる切れ長で涼しげな目元。すっと通った鼻筋に薄っすらと笑みを形作る薄い唇。
その笑顔は一見爽やかだが、あたしには分かる。
彼は――――――――彼こそはっ!!
衝撃があたしの中を走りぬけた。
知らず震えていた身体にカツを入れ、次の瞬間、飲みかけの紙カップもそのままに、全速力で外に向かって駆け出したのだった。